もともとデータの一元管理で顧客を育成するマーケティングオートメーションツールなどを
手掛けていた(株)プラスアルファ・コンサルティング。
同社が開発したタレントパレットが科学的人事の分野で注目を集めている。
マーケティング思考で取り組む人事戦略とはどういったものか。
あらゆる企業の科学的人事を推進してきた鈴村が語る、テクノロジーの活用方法に注目が集まる。
顧客データや購買データを徹底的に分析し、ITを使って顧客を知るのがマーケティング。「優良顧客はどういう人物なのか」を回答できないマーケターはいないだろう。では「顧客」を「社員」に置き換えたときにどうか。
「働き方改革などもあり、人事戦略の中でデータ活用をしなければいけない時代となった。人事データを管理するのではなく活用する、活用するデータは人事データではなく人材データなのです」
日本ではまだ定義がはっきりしていない「タレントマネジメント」。それは人事システムのことではなく、「ITを使ったデータ活用で人事戦略を科学的に行うこと」であると鈴村は定義する。
なぜ今、多くの企業が科学的人事を積極的に進めているのか。それは経営層に、定性的ではなく定量的なデータで意思決定をしたいという要望があるからだ。
「企業によってタレントマネジメントで実現したいことは、最適配置や離職防止と目的は異なります。しかし共通しているのは、科学的なデータに基づいて組織作り、人材育成、抜擢をしたいという強い意識があるということです」
同社が科学的人事を推進している企業の業界業種は多岐にわたり、数千人・数万人という大規模企業からの要望も多い。最適配置と育成、採用に関するニーズが多く、企業規模が大きくなるほど属人的な運用に限界を感じているようだ。
「人材領域ではデータ活用の仕組みが不足している。離職分析や人材育成を行おうとしても、今までの管理システムでは使えません。さらに科学的人事を進める上では、人事ではなく経営やマネジメント層がいかに情報を使い、考えるかが非常に重要なポイントになります」
社員の適性やスキル、エンゲージメントと組み合わせて分析し、活用することも科学的人事では重要になってくる。これは「顧客管理」と「CRM」と呼ばれるマーケティングでは当たり前の考え方だ。
では今までの情報をどう活用できるのか。鈴村は実際にタレントパレットのデモ画面を用いて解説をする。
「あらゆる社員情報が1つのダッシュボードで表示され、社歴や研修の受講履歴、営業能力チャート、勤怠データなど、社内にあるさまざまなデータを人という軸で集約しています。モチベーションのデータ、営業実績、今どういう課題に取り組み達成しているのか。そういった、社内のあらゆるところに点在している情報を集約して手元で見られるようになっています」
それらすべてを顔・名前が一致した状態で見られるようにすることで、人を抜擢するときの情報として使えるのだ。頭の中で考えるような人事異動を科学的に行うことができる。
「ドラッグアンドドロップで人事異動のシミュレーションができます。組織図と配属されている社員が表示され、各組織の売上の合計や人件費の合計、スキルのデータも出てくる。条件を満たす人を表示させれば、滞留期間によるローテーション、スキルによる新規事業への抜擢がシミュレーションできる。その人が異動すると現組織にどう影響するか、というのも一目でわかります」
データで理論武装すれば、部門をまたいだ人材の抜擢も容易になる。自分の部門から優秀な人材を出したがらない部門長にも、「今この人にこういう経験をさせておくべき」と説明できるわけだ。
データの活用を考えた時に、手元にある人事データのことを思い浮かべるかもしれない。しかしそれだけでは足りないと鈴村は指摘する。
「経歴や評価、勤怠は人事データ。しかし社員は生きているので、人により得意不得意もある。適性や得意分野、エンゲージメントも組み合わせたものをエモーショナルデータと呼び、科学的人事では重要だと考えています」
従来の静的な人事データだけをデータベース化しても、単なる検索システムにしかならない。離職防止や働き方改革をしようとするなら、動的なエモーショナルデータを取り入れていく必要がある。将来的にはIoTなどでメンタルヘルスの状態なども取り入れビッグデータ化していくというのだ。
「例えば適性検査は、多くの会社で採用の際に限定的に使われています。しかしマーケティングの視点でいくと、チームビルディングや育成を考える場合に全社員が持っているべき情報。これは貴重なデータと考え、タレントパレットでは独自の適性検査が無料で使えるようになっています」
適性検査に回答した全員のチャートがあると何ができるか。例えば自社のハイパフォーマーに共通する特性はなにかという分析ができる。裏を返せば、離職社員に共通する傾向も分析することが可能だ。
「管理の発想では、辞めた社員のデータは消していく。しかしマーケティングの発想では、データが溜まっていくことが重要です。それにより分析の精度が上がっていく。離職社員に共通する傾向として回避性が高い、自尊心が高いなど、会社に合わない性質が見えてきます」 マーケティング部門において優良顧客や解約顧客に対して科学的に行う分析を、顧客を社員に置き換えて行うのだ。 そして、自社で活躍できる人材・合わない人材のデータが溜まると、採用にデータを活用できるようになる。応募者に同じ無料適性検査を受けさせれば良いのだ。 「応募者のチャートができたら、社内の誰と似ているか自社の社員データと見比べるのです。営業は自分をアピールするのがうまいが、技術職は寡黙な人が多い。ですが、チャートを見ると内に秘めたものがあったりする。そうなると、面接で質問する内容が変わってくるんです。ITの活用は、答えを出すのではなく、気づきから考えるのがポイントです」
社員が持つスキルや経験も、属人的に把握している企業は多いだろう。
それを一目でわかるよう点数で見える化すると、人に合わせた育成計画を具体的に立て、最適配置ができるようになると鈴村は話す。
「科学的人事では、ひとつのシステムの中でデータが蓄積されていることが非常に重要。タレントパレットにはEラーニングの機能も組み込まれていて、スキルに合わせた育成をしていくことが可能です」
さらに社員アンケートなどでヒアリングした「将来やってみたいこと」などのコメントが活用できていなかった場合でも、科学的人事では見える化させることが可能だ。
「読み込む必要がある定性情報を活用できている企業は非常に少ない。でもせっかく集めた社員の声が生かされていないのは問題です。採用のエントリーシートに書かれている自己PRや志望動機、面談記録など、人材データの中には膨大なテキストデータがある。タレントパレットは、それをテキストマイニング技術で自動的に分析し、見える化しています」
これを人材配置や育成につなげていくだけでなく、離職社員の分析を組み合わせると「離職予兆」がわかるというのだ。
「辞めた社員が過去にどんな発言をしていたか。それをアンケートや業務日報から導き出し、『予兆スコア』として今の社員の中で似たような発言をしている人を見つけ、現場と一緒になってフォローできる。属人的では検知できなかったことをできるのが科学的人事の先進的なところです」
組織、人材の状態、モチベーションがどうなっているのかをリアルタイムにモニタリングできる。そうなると、経営のダッシュボードとして意思決定に利用できるようになるのだ。
「人材データこそあらゆる視点でビジュアライズし、そこからアイデアを広げクリエイティブになっていくことが求められています。マーケティングでは、十数年前に『お客様相談室」が『CS推進部』となりました。苦情の山をテキストマイニングで分析したら、商品企画のヒントになる宝の山となったのです。名前が変わり、ミッションが変わったのです。これから同じことが人事部にも起こり、タレントマネジメント推進部などが増えていくでしょう」
情報を活用するマーケティング思考へ転換すること。そしてAIを活用し、PDCAをまわしてノウハウをためていくこと。よりクリエイティブな人事への進化が、これから求められてくるのだ。