TALENT MANAGEMENT FORUM 2019「科学的」人事戦略企業戦略TALENT MANAGEMENT FORUM 2019「科学的」人事戦略企業戦略

「AI時代」の働き方改革・デジタルトランスフォーメーション「AI時代」の働き方改革・デジタルトランスフォーメーション

いよいよ4月から関連法が施行される「働き方改革」。

経済産業省の産業人材政策室参事官としてそれを推進してきた伊藤氏は、昨年7月から現在のポジションへと異動し、
AIデータ政策の責任者となっている。

人材政策に携わった経験、そして経済産業省のAI・IT政策を統括する立場から、
これからの働き方と人事のあり方を語る。

2つの構造的変化に直面する日本

いよいよ日本の働き方が変わる。
この改革に正面から取り組んでいる伊藤氏がまず取り上げたのは、日本が直面する2つの構造的変化だ。

「ひとつは人口動態の変化。日本はこれから人口が減少し、『人生100年時代』と呼ばれる世界最速の超高齢化社会を迎えます。そしてもうひとつは、第4次産業革命と呼ばれる技術産業構造の変化。この2つの構造的変化により、日本の働き方が変わろうとしています」

本フォーラムにも登壇した早稲田大学政治経済学術院教授の大湾先生はじめ、多くの先生と議論してきたという伊藤氏。多くの経営学者は、日本型雇用システムの最大の特徴として『年功序列』や『新卒一括採用』『終身雇用』ではなく、『職務の無限定性』を挙げるという
それは、上司に『これやっておいて』と言われるがまま、フレキシブルに仕事の範囲が決まってくる日本ならではの働き方のことだ。

「本質的には、職務に必要な人員が配置されるという仕事のあり方と、人に業務がはりついてくる仕事のあり方がある。日本は間違いなく後者で、典型的には、できる人間にほど仕事が集まる。それが、もうひとつの日本型雇用システムの特徴である『チームで仕事をする』という事と相まって、どうしても労働時間が長くなる傾向があるのです

しかし、昨今、やがて社員は介護や出産育児といった時間的制約に直面する。これを「1億総活躍」ではなく「1億総制約」と表現する伊藤氏。従来通りの『残業・休日出勤・転勤当たり前』という仕事のスタイルは、もはや維持できなくなっているのだ。

長時間労働以外にも問題は山積みだ。
新卒一括採用・終身雇用の就業形態では非正規と正規の格差が拡大。さらに、縦割りたこつぼ型の労働市場構造はイノベーションが起きにくく、第4次産業革命では裏目に出ていると伊藤氏は指摘する。
しかも日本の人材教育はほとんどがOJT。伝承する技能の無い新しい技術分野ではどう教育していくのか。OJTを補完する人材育成のシステムを、国全体としてどう考えるか。
大学改革も含めた教育改革もまた、働き方改革の射程にある。

AIが人間の仕事を奪うのか?
「AI時代」の働き方・学び方

IoTですべてのデータが集約されビッグデータになり、人工知能が処理して省人化されていき、あらゆる産業・企業・労働においてAI・データが導入される時代となった。

AIが人間の仕事を奪うのかという疑問に対して、経産省で2年にわたり詳細に分析しました。明確にわかったことは、AI対人間ではなく、『AIを活用して付加価値を上げることができる人間』と『そうではない人間』、人間対人間という構図にならざるを得ないということです」

この格差は全世界で注目され、ダボス会議においてもAI革命により取り残される中間層について議論しているほど。伊藤氏はここでもまた、教育の重要性を説く。今後はリトレーニングが大きな鍵になるというのだ。

「リカレント教育(社会人教育)について、政策課題として検討してきました。これまでの『教育を受けるステージ』『労働するステージ』『リタイアするステージ』という3ステージライフが、これからの人生100年時代にはそれらが渾然一体となると言われています。働きながら学ぶ、学びながら老後を過ごす。そして、同時に複数の組織で働く人も増える中、経験や人的ネットワークが大事になります

ロールモデルは大きく変わった。昭和時代の『人生すごろく』のごとく順番に駒を進めるのではなく、それぞれが専門性を磨き、スキルや経験、人脈を増やす必要性があるのだ。

「働く人のニーズや価値観は多様化し、テレワークやリモートワーク、兼業・副業、限定正社員やフリーランスなど、働き方も多様化しています。働き方の選択肢は増えるが、その分責任も増える。その責任はプロフェッショナルであること。それぞれの働き方と、働くことで得ようとすることに対して、プロでなければなりません」

働き方改革から
人事部改革へ

労働時間や勤続年数ではなく、決められた時間に達成した成果とスキルで評価する。それがこれからの企業と働く人の関係となる。

「これまで日本では36協定で労使が合意すれば、残業時間を無制限に設定できました。しかし大企業では今年の4月から、中小企業では2020年4月から罰則付きの上限規制が設けられる。大事なのは労働時間を短くする事だけではなく、生産性をどう高めるか。そして働く個人のモチベーション、エンゲージメントをどう高めるか。その2つを両立させることがこれからの働き方改革第2章です

これまでは画一的な労務管理、勘と経験による人事が行われていたかもしれない。しかしこれからの人事は、多様化する価値観や働き方に対応したメニューを用意しなければならない。

企業にとって、働く個人は競争力の源泉そのものです。人財という最大の資産のリターン・オン・アセットをどう高めていくか。極めて短期間に適切に投資し回収しなければならないという新しい現実に、会社も個人も直面しています」

一方で、大量のデータを処理してアウトプットにつなげるAIは人事と親和性が高い。成果と生産性で評価する際に、テクノロジーは大きな威力を発揮するのだ。
だからこそ、科学やテクノロジーを導入して人事を変えるという動きが今起きている。それにより働く一人ひとりのパーソナライズを実現していくのが、これからの人事のあり方となるのだ。

「採用、配置、育成、評価。すべての人事上のアジェンダに、テクノロジーをどう活用していくかが問われています。経産省が開催した、働き方改革を実現する『HRテクノロジー』のコンテストがひとつの起爆剤となって、今さまざまな企業がHRに対するソリューションを提案しています。活用するためには、『自社はどういう課題を解決したいのか』を徹底的に突き詰めることが大事になります」

人事・経営の融合と
HRテクノロジーが企業を成長させる

それでは、HRテクノロジーの導入で人事部の仕事はAIに奪われるのか?
その疑問を伊藤氏は否定する。AIが進化を遂げ、それを人間が活用することで、お互いがまた進化していく。相反するのではなく融合すること。業務のどの部分をAIに任せ、どこをプロパーの社員が担い、どこをアウトソースするかがポイントになるのだ。

人事はかつてないほど経営に近いポジションになっています。人事と経営が融合していき、プロフェッショナルとしての経営リーダーと人事がデジタルテクノロジーとデータを活用することで、社員一人ひとりの能力と働く喜びを引き出す。それが企業の成長を支えるのです

人生100年時代。70歳・80歳になっても働くことが当たり前になり、企業が雇用を保障するのは難しくなった。それに代わって求められている企業の社会的責任は『成長機会の提供』であると伊藤氏は断言する。

「社員はスキルをアップデートし、自らキャリアを設計して切り拓いていかなければならない。社員一人ひとりが働き方を変えようとしているのに対応して、企業も人事も今年こそ人事部改革に着手していただきたい。そして科学的人事が日本に広がり、日本経済がさらに成長していくことを願っています」

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