こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
「法定休日をいつか特定する必要はあるのか」「決めなくても法的に問題はないだろうか」「どのように特定すればいいか」悩んでいる方も多いのではないでしょうか。法定休日は、いつ付与しても法的には問題ありません。しかし、労務間のトラブルを未然に防ぐには、法定休日に関わる法律を理解した上で、慎重に設定する必要があります。
そこで本記事では、法定休日の特定が問われた裁判例や運用するときの規定を紹介します。法定休日を設定するメリットやデメリットが理解できる内容になっているので、ぜひ最後までお読みください。
法定休日とは労働基準法第35条で定められた休日
法定休日(英語でlegal holiday)は、労働基準法第35条で付与することが義務づけられている休日です。特別な理由がない限り、労働が免除されます。企業は事業規模や業種、雇用形態にかかわらず「毎週1日か、4週間を通じ4日以上の休日」を与える必要があります。
企業は、法定休日のほかに法定外休日も付与するケースが多いです。なぜなら、労働基準法32条の「1日8時間、1週間に40時間」の法定労働時間を遵守するためです。1日8時間労働の場合、1週間に法定休日を1日与えるだけだと、48時間勤務させることになります。
多くの企業は、法定労働時間を守るために週休2日制を取り入れています。法定外休日について詳しく知りたい方は、別記事「法定外休日とは」をあわせてご確認ください。
社員に法定休日を与えない場合、6ヶ月以下の懲役あるいは30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。また、法定休日に社員に出勤を命じる場合は36協定の締結が必須です。他の休日との大きな違いは、法定休日労働に対して基礎賃金の35%以上の休日割増手当の支払いが発生することです。
祝日と法定休日が重なった場合も割増賃金を支払う必要があります。祝日を法定休日にすべきか詳しく知りたい方は、別記事「法定休日祝日」をあわせてご確認ください。
参照元:e-Gov法令検索 | 労働基準法
法定休日はいつか決めることが推奨されている
行政は固定の休日を与え、労働条件や割増賃金計算を明確にすることが望ましいと通達しています。
”労働基準法では休日の特定までは求めていないが、休日を特定することが法の趣旨に沿うため、就業 規則において単に1週間に1日というようなものではなく、具体的に一定の日を休日と定めることとされている(昭23.5.5 基発682 号、昭63.3.14 基発150 号)。
参照元:大阪府 | 28 法定休日、所定休日(代休・振替休日含む)と労働休日”
”労働条件を明示する観点及び割増賃金の計算を簡便にする観点から、就業規則その他これに準ずるものにより、事業場の休日について法定休日と所定休日の別を明確にしておくことが望ましいものであること。
参照元:厚生労働省|労働基準法の一部を改正する法律の施行について”
法定休日が特定されていないと割増賃金の算定が煩雑になるため、計算を誤る恐れがあります。さらに、休日労働が多いと社員の健康やワークライフバランスが崩れる可能性もあります。労働者保護に重きを置く労働基準法の趣旨を考慮すると、法定休日は就業規則に明記するのが望ましいです。
法定休日がいつか特定するメリット・デメリット
行政から推奨されているものの、法定休日を特定するかしないかは実務において見解が分かれます。勤務時間が短く、休日が週1回でも問題ない場合は、特定しなくても問題ないでしょう。
休日出勤を命じることが多い企業は、特定する方が割増賃金の計算ミスや労使間のトラブルを防ぎやすいです。ここでは、法定休日を特定するメリットとデメリットを解説するので、理解した上で判断してみてください。
メリット
勤怠管理や割増賃金の計算のミスが起こりにくく、労使間のトラブルを未然に防げます。企業は、適切に賃金を支払う必要があります。給与の計算を誤ることが多いと、社員は安心して働けないでしょう。社員にとって、給与と休日は重要な労働条件です。就業規則で休日労働の割増賃金も明確にすることで、信頼関係を維持できるでしょう。
デメリット
法定休日を特定すると、人件費の負担が大きくなる可能性があります。特定により柔軟に設定できなくなると、法定休日労働が増えることがあるでしょう。
企業は、社員を法定休日に労働させたら、通常の賃金に35%以上割り増しして支払う必要があります。法定労働時間を超える時間外勤務に対する割増率は、25%以上です。週の労働時間が40時間を超えたら、超過分は時間外労働とみなされます。つまり、法定休日に出勤させたら時間外労働よりも10%多い割増率が適用されるということです。
たとえ、1週間の労働時間が40時間未満であっても、法定休日に勤務させたら35%以上割り増しした賃金を支払う必要があります。法定休日割増について詳しく知りたい方は、別記事「法定休日割増」をあわせてご確認ください。
法定休日がいつか問われた2つの裁判例
ここでは、未払い賃金を算定する際に、法定休日の曜日が明らかになった2つの判例を紹介します。
- 法定休日を土曜日とした判例
- 法定休日を日曜日とした判例
法定休日出勤の回数は、社員の賃金に影響します。また、原告が管理監督者に該当するかによっても、法定休日労働の賃金が異なります。企業の管理監督者には法定休日を与える必要がなく、出勤させても割増賃金を支払う必要がないからです。法定休日はいつなのかだけでなく、原告が管理監督者かも裁判で明らかになっています。自社の社会的信用を守るために、法定休日を特定しないリスクを把握しておきましょう。
法定休日を土曜日とした判例
日本マクドナルド事件(東京地判平20・1・28)は、日本マクドナルド株式会社の直営店店長が、過去2年分の未払い賃金の支払いを求めた訴訟です。裁判の結果、時間外労働や休日労働に対する2年分の賃金である約750万円、訴訟後の残業代約250万円をあわせた約1,000万円の支払いが命じられました。
店長の職務権限は店舗内に限られ、賃金面での待遇も管理監督者として扱うには不十分と判断されたためです。管理監督者には、休日労働や時間外勤務に対する割増賃金が発生しません。店長が管理監督者という日本マクドナルド株式会社の主張が覆ったため、賃金を支払うことに。
当時は、就業規則に店長の休日が規定されていませんでした。裁判で週に1回も休みがない場合、暦週(日曜日が起点)の最終日の土曜日が法定休日と判断されました。
法定休日を日曜日とした判例
HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド賃金等請求事件(東京地判平23・12・27)は、外資系銀行に年俸1,250万円で中途採用された原告が未払い残業代を求めた訴訟です。裁判では、管理監督者に該当するかや割増賃金を年俸に含めるかが争点でした。原告は管理監督者に当たらないとして、約325万円の支払いが命じられました。原告の業務上の裁量権は限定されており、部下もいなかったためです。
法内残業以外の割増賃金は、年俸に含めないと判決されました。契約書には「年間の俸給は、残業や休日出勤に対するあらゆる賃金を含みます。」と記載されていました。しかし、裁判によって法定休日や法定時間外の労働に対する割増賃金を支払うことが命じられたのです。なぜなら、年俸に含まれる割増賃金の範囲が明確になっておらず、契約書の有効性が認められなかったからです。
また、外資系銀行は土日休みの週休2日制で、法定休日を定めていませんでした。裁判では、暦週の最終日の土曜日を法定休日と外資系銀行が主張しました。しかし、日本の旧来からの社会通念上、週の起点を月曜日とし、最終日の日曜日を法定休日にすべきであると判断されたのです。裁判の結果、法定休日労働に対する賃金は日曜日の出勤回数から算出されました。
企業は、法定休日の規約を就業規則に記載するなどして社員へ周知し、理解を得ることが重要です。
法定休日をいつにするか決める2つの方法
法定休日がいつか判断する方法として、以下の2つが挙げられます。
- 1週間のうち最も後順の曜日にする
- 休日出勤の少ない曜日にする
企業の利益だけでなく、社員のワークライフバランスも考慮し、最適な休日設定を検討してみてください。
1週間のうち最も後順の曜日にする
週休2日制で土日休みの場合、一般的には土曜日が法定休日で、日曜日が法定外休日です。改正労働基準法では、日曜日から1週間が始まると規定されています。就業規則などで定めていない限り、暦週の後順に位置する曜日が法定休日となるので、土日休みなら土曜日が該当します。日曜日を法定休日にしたいなら、就業規則に明記しておきましょう。
参照元:厚生労働省 |改正労働基準法に係る質疑応答
休日出勤の少ない曜日にする
実際の勤務状況に応じて、定休日や休日労働の少ない曜日を法定休日にする方法もあります。他にも社員の希望や競合他社の休日、顧客の利便性を考慮して調整するなど、さまざまな要因を加味して休日を設定可能です。
法定休日を固定しないと、人件費の増加を抑えられる可能性があります。しかし、労働基準法の趣旨をふまえ、社員が不利にならない配慮が大切です。
法定休日に関する3つの規定
法定休日を設定する際に注意すべき3つの規定を紹介します。
- 法定休日は1日単位で与える必要がある
- 変形休日制なら1週間に1日の法定休日を与えなくて良い
- 法定休日に労働させるなら36協定を締結する必要がある
法律の遵守はもちろん、社員の健康や安全を守るためにも正しく運用しましょう。
法定休日は1日単位で与える必要がある
労働基準法により、法定休日は原則として1日単位(午前0時から午後12時の24時間)で与える必要があります。前日の労働が延長されて午前0時を超えた場合、退勤時間から24時間休ませても、法定休日を付与したことにはなりません。ただし、8時間3交替制などを採用している場合は、24時間で1日の休日と認められる例外もあります。
ちなみに、振替休日も半日や時間単位で付与できません。労働基準法では、休日は1日単位で付与することが義務付けられているためです。法定休日に出勤させる代わりに、振替休日を付与する方法について詳しく知りたい方は、別記事「法定休日振替」をあわせてご確認ください。
変形休日制なら1週間に1日の法定休日を与えなくて良い
労働基準法第35条第2項により、4週間に4日以上の休日を設定する変形休日制が認められています。週休制の原則は、毎週1日以上の休日を与えることです。しかし、変形休日制を採用すれば、法定休日を1週間に1日付与しなくても問題ありません。週休制を取りにくい業種は、4週間単位で4日の休日が確保できれば良いとされています。
変形休日制を採用するなら、4週間の起算日を就業規則に明記する必要があります。しっかりルールを決めておけば、繁忙期などに特定の期間だけ変形休日制を採用することも可能です。
ただし変形休日制を採用すると、連続勤務による社員の健康被害や安全管理の義務違反が問われるリスクがあります。また、1週間に1日も休みがないと、法定労働時間の上限である40時間を超える可能性があります。1週間に40時間以上勤務させると、超過分に対して25%以上割り増しして賃金を支払う必要があることに留意しておきましょう。
法定休日に労働させるなら36協定を締結する必要がある
法定休日に社員に出勤してもらうには、企業と社員の代表者と事前に休日労働に関する協定「通称36(サブロク)協定」の締結が必須です。労働基準法第36条第1項にて規定されているため、36協定と呼ばれています。
企業は、社員の代表者と36協定を締結します。代表者は、労働組合がある場合とない場合で異なります。
- 労働組合がある場合:労働組合の代表者
- 労働組合がない場合:労働者の過半数を代表する者
36協定を結ばずに法定休日出勤させると、法律違反となり6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処されます。ただし、災害などの緊急時は例外的に法定休日に労働させることが可能です。労働基準法第33条第1項により、労働基準監督署長の許可が必要と規定されています。
36協定を結んでいない状態で法定休日に労働させたら、届出を行いましょう。緊急性が高い場合は、事後の届出でも問題ありません。法定休日労働について詳しく知りたい方は、別記事「法定休日労働」をあわせてご確認ください。
法定休日いつのまとめ
法定休日は、特定しなくても法律違反にはなりません。しかし、特定しないと他の休日と区別しにくい分、勤怠管理が煩雑になります。特に賃金は、法定休日と他の休日で出勤させた場合の金額が異なるので要注意です。労務管理システムを導入すると、勤怠管理の効率化や給与計算などの実務負担を軽減できます。
人材データ分析もできるシステムを活用すると、社員のスキルや経験に基づいた配置ができます。勤怠管理のミスをなくすだけでなく、休日出勤のコスト削減や生産性の向上などが実現します。タレントパレットなら、労務や人材に関するさまざまなお悩みを解決できます。ぜひ、お気軽にご相談ください。