ウェルビーイングの概念と日本の現状
ウェルビーイングの概念について、世界と日本のウェルビーイングを比較しつつ解説します。
ウェルビーイングとは何か
ウェルビーイングとは、心身が健康で幸福な状態を指します。瞬間的な喜びや楽しみを味わうことは、ウェルビーイングではありません。継続的に健康で幸福を感じられる状態こそが、ウェルビーイングです。世界保健機関(WHO)憲章は、ウェルビーイングについて以下のように定義しています。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。」
※引用:世界保健機関(WHO)憲章とは | 公益社団法人 日本WHO協会
世界的と比較した日本のウェルビーイング
2022年の世界幸福度ランキング(World Happiness Report)の調査によると、日本のウェルビーイングは先進国のなかで最下位の54位でした。社員のウェルビーイングの実現に向け、日本企業には改善の余地があります。世界幸福度ランキング調査については、のちほど詳しく解説します。
※参考:World Happiness Report 2022 | The World Happiness Report
ウェルビーイングの状態を示す指標
ウェルビーイングは、複数の指標で表現できます。企業がウェルビーイングを推進する際は、以下の指標を理解しておきましょう。
・指標1.PERMAが示すウェルビーイング5つの要素
・指標2.SPIREが示すウェルビーイング5つの要素
・指標3.ギャラップ社が示すウェルビーイング5つの要素
・指標4.世界幸福度ランキング
・指標5.より良い暮らし指標
以降では、これらの指標について解説します。
指標1.PERMAが示すウェルビーイング5つの要素
ウェルビーイング5つの要素として、PREMAについて解説します。PERMAとは、ポジティブ心理学の権威であるマーティン・セリングマンが提唱した指標です。
1.Positive Emotion(ポジティブな気持ち)
ポジティブな気持ちには、周囲への感謝・仕事へのプライド・仕事に関する興味関心などが挙げられます。頑張りを認められた、協力して仕事をやり遂げた、おもしろいプロジェクトを任されたなど、喜ばしい体験はポジティブな気持ちをもたらします。
2.Engagement(何かに没頭すること)
何かに没頭できれば、ネガティブな内容を考えにくくなります。何かに没頭できる環境を整えるには、社員の適正に合わせて仕事を割り振る、割り振る業務の数を減らして社員が集中しやすい状況を作る、などの方法が挙げられます。
3.Relationship(好ましい人間関係)
仕事仲間を始め、家族や友人、パートナーなどとの人間関係も、ウェルビーイングに影響します。チームビルディングの研修を実施する、イベントや懇親会を開催するなどの方法を通じて、好ましい人間関係を構築しましょう。
4.Meaning and Purpose(人生で重視すること)
人生で重視することが分かっていると、幸せな気持ちを感じつつ前向きに行動できます。ウェルビーイングの実現に向け、経営理念や仕事の意義を社員に伝えましょう。仕事を通じて企業や社会に貢献できると分かれば、社員は精力的に働けます。
5.AchievementまたはAccomplish(達成感)
達成感もウェルビーイングを実現させます。社員に達成感を味わってもらうには、目標設定と振り返りが重要です。また、目標を達成した経験が積み重なると自信がつき、「ポジティブな気持ち」も湧き上がります。
指標2.SPIREが示すウェルビーイング5つの要素
SPIREも、ポジティブ心理学に基づく指標です。SPIREが示すウェルビーイング5つの要素について解説します。
1.Spiritual Well-Being(精神的なウェルビーイング)
精神的なウェルビーイングとは、気持ちが穏やかな状態です。仕事をしていると、さまざまな業務で思考が混乱する場合があります。瞑想など何も考えずに過ごす時間を意識的に作ると、精神的なウェルビーイングを実現可能です。
2.Physical Well-Being(肉体的なウェルビーイング)
肉体的なウェルビーイングとは、適切な運動や睡眠の結果得られる健康な状態です。寝る直前までスマートフォンを使わない、散歩やストレッチのような簡単な運動を習慣にするなど、健康維持・促進に関する情報を社員に指導しましょう。
3.Intellectual Well-Being(知性のウェルビーイング)
知性のウェルビーイングとは、知的好奇心が満たされた状態です。絵画や音楽などの芸術にふれたり、仕事上の疑問を解消したりすると、知性のウェルビーイングを実現できます。
4.Relational Well-Being(人間関係のウェルビーイング)
人間関係のウェルビーイングとは、人とのかかわりを通じた幸福感です。人の仕事をサポートしたり、腹を割って意見を言い合ったりすると、人間関係のウェルビーイングを実現できます。
5.Emotional Well-Being(気持ちのウェルビーイング)
気持ちのウェルビーイングとは、ネガティブな物事をポジティブに捉えられる状態です。例えば、得意先からのクレームを成長のチャンスと捉えると、前向きに努力することでウェルビーイングにつながります。また、ポジティブに考えられると、悲しい感情を増幅させずに済むでしょう。
指標3.ギャラップ社が示すウェルビーイング5つの要素
ギャラップ社はアメリカの世論調査研究所です。以下では、ギャラップ社が示すウェルビーイング5つの要素について解説します。
1.Career Wellbeing(キャリアに関する納得感)
キャリアに関する納得感とは、自分がかかわってきた仕事や家事・育児・ボランティアに対する充実感を指します。豊かな人生を歩むように意識すると、キャリアに関する納得感を高められます。
2.Social Wellbeing(人間関係の円満さ)
人間関係の円満さとは、家族や友人仕事仲間などとの良好な関係性を指します。仕事仲間とのミーティングや雑談、チャットを通じたやり取りなどを通じて、円満な人間関係が築かれます。
3.Financial Wellbeing(経済的な充足感)
経済的な充足感とは、仕事に対して十分な報酬を得られている、資産形成できているといった状況を指します。また、好きなようにお金を使えているかどうかも、経済的な充足感に影響します。
4.Physical Wellbeing(心身の健康)
心身の健康とは、文字どおりストレスや病気、ケガなどに悩まされていない状態です。適度な睡眠と運動は、社員の健康をサポートします。加えて、仕事に対する前向きな気持ちも、心身の健康にとって重要です。
5.Community Wellbeing(地域とのつながり)
地域とのつながりとは、何らかのコミュニティに所属することで得られる安心感です。コミュニティには、企業や地域社会などが挙げられます。仕事で成果を出す、地域の行事に参加するなどすると、コミュニティとのつながりを深められ幸福感を味わえるでしょう。
指標4.世界幸福度ランキング
ギャラップ社の収集したデータをもとに、各国の幸福度をランク付けしたものが世界幸福度ランキングになります。世界幸福度ランキングを構成する要素は以下のとおりです。
・国民1人あたりのGDPはどの程度か
・社会保障制度など公的なサポートは充実しているか
・他者に寛容な心で接しているか、慈善活動をしているか
・健康寿命はどの程度か
・クリーンな政治環境であるか
・自由に生きられるか
これらの要素を数値化し、過去3年分を積算した平均値を算出して世界幸福度ランキングが作られます。
指標5.より良い暮らし指標
より良い暮らし指標とは、OECD(OECD Better Life Initiative)が2011年に提唱した指標です。OECDとは、ウェルビーイングの分析を目的に設立された研究プロジェクトです。より良い暮らし指標の11の要素は以下のとおりです。
・住宅
・所得と富
・雇用と仕事の質
・社会とのつながり
・知識と技能
・環境の質
・市民参画
・健康状態
・主観的幸福
・安全
・仕事と生活のバランス
ウェルビーイングに企業が注目する理由
企業がウェルビーイングに注目する理由を社会背景や企業のメリットに触れつつ解説します。
ウェルビーイングが重視される社会背景
ウェルビーイングが重視される背景には、SDGsがあります。近年、SDGsの目標にウェルビーイングが追加されました。SDGsは世界的に注目される取り組みであり、おのずとウェルビーイングにも注目が集まっています。
リモートワークの普及も、ウェルビーイングが重視される理由の1つです。リモートワークでは、オフィスで働くときよりも人との直接的なかかわりが減ってしまいます。リモートワークでメンタル面に不調を抱える人が増えたため、ウェルビーイングが注目されるようになりました。
ウェルビーイングへの取り組みにより企業が得られるメリット
社員のウェルビーイングを実現するための取り組みは、企業力の向上につながります。労働条件や人間関係を含む職場環境を見直すと、働きやすい環境を構築可能です。働きやすい環境が整うと、社員は十分なパフォーマンスを発揮できます。
また、居心地のよい環境は、社員が離職するリスクを減らします。さらに、世間に企業の評判が広まると、優秀な人材を採用しやすくなるでしょう。
ウェルビーイングに取り組む方法と注意点
ウェルビーイングに取り組む方法と注意点を解説します。社員のウェルビーイングを実現するためには、状況の可視化が望まれます。
ウェルビーイングの取り組み方
ウェルビーイングの実現に取り組む際は、社員の心身の健康状態を把握する必要があります。労働時間などのデータを取得する、定期的なアンケートを実施するなどの方法により、ウェルビーイングの状況を可視化できます。状況を把握したうえで、リモートワークの採用などといった就労条件の見直しや、福利厚生の充実に取り組みましょう。
ウェルビーイングに取り組む際の注意点
社員の価値観は人それぞれであるため、決めつけは避けるべきです。社員の仕事内容や時間などを調整する際は、個人の考えを確認したうえで実施しましょう。
ウェルビーイングには、長期的な視点も重要です。ウェルビーイングを意識した取り組みを行うと、一時的に企業の利益が落ち込むかもしれません。しかし、社員のウェルビーイングが実現すると、しだいに利益が向上すると期待できます。
まとめ
ウェルビーイングの実現に向けた取り組みは、企業や社員にメリットをもたらします。今回紹介したウェルビーイング5つの要素を含む指標を意識して、労働条件や職場環境の改善に取り組みましょう。
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