新卒者がすぐ離職するケースは珍しくありません。本記事では、新卒者の平均離職率とともに、新卒者が離職する理由について解説します。離職率が高いことによるデメリット、新卒者の離職を防ぐ方法などもまとめているため、ぜひ参考にしてください。
離職率とは
離職率とは、就職してから一定期間のうちに離職した人の割合です。一般的には、期初から期末までの1年間を対象にします。ただし、目的に合わせ、入社後1年間や入社後3年間のように、期間を定めて離職率を算出するケースも少なくありません。基本的に、退職する社員が増えるほど離職率も高くなります。
離職率の計算方法
厚生労働省は、離職率の計算方法を「(一定期間内の離職者数) ÷ (期初または前期末の常用従業員数) × 100」という式で表しています。ただし、計算結果は、設定する期間の長さによって変化する点に注意しましょう。
たとえば、前期末の常用雇用者が3,000人で、過去5年間に合計300人離職した場合、離職率は「300人 ÷ 3,000人 × 100=10%」です。つまり、この企業の5年以内の離職率は10%であると分かります。
※参考:調査の結果|厚生労働省
新卒者の平均離職率
新卒者の平均離職率は、どの程度なのでしょうか。以下で具体的に解説します。
高卒・大卒共に3割を超える
厚生労働省は、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率について調査し、結果をまとめています。それによると、就職後3年以内の離職率は高卒で 37.0%、大卒で32.3%でした。いずれも、就職後3年以内の離職率は3割を超えています。
企業の規模が離職率に影響する
新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は、企業規模によっても違いがあります。厚生労働省の調査結果によると、学歴に関係なく、企業の規模が小さいほど離職率は高い状況です。反対に、企業の規模が大きいほど離職率が低くなっていることが分かりました。事業所規模ごとの高卒と大卒の離職率をまとめると、以下のとおりです。
事業所規模 | 高校 | 大学 |
---|---|---|
5人未満 | 61.9% | 56.3% |
5~29人 | 52.8% | 49.4% |
30~99人 | 44.1% | 39.1% |
100~499人 | 35.9% | 31.8% |
500~999人 | 30.0% | 28.9% |
1,000人以上 | 25.6% | 24.7% |
離職率は業界によって変わる
離職率は業界によってもさまざまです。ここでは、離職率が高い産業と低い産業についてそれぞれ解説します。
離職率が高い産業
厚生労働省の調査によると、高卒と大卒で離職率が高い上位5つの産業は以下のとおりです。具体的な離職率とともにまとめました。
高卒 | 離職率 | 大卒 | 離職率 |
---|---|---|---|
宿泊業・飲食サービス業 | 61.1% | 宿泊業・飲食サービス業 | 51.5% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 56.9% | 生活関連サービス業・娯楽業 | 46.5% |
教育・学習支援業 | 50.1% | 教育・学習支援業 | 45.6% |
小売業 | 47.8% | 医療・福祉 | 38.6% |
医療・福祉 | 46.2% | 小売業 | 37.4% |
離職率が高い上位5つの産業は、高卒と大卒のいずれについても宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業、教育・学習支援業、小売業、医療・福祉です。ただし、高卒と大卒では、小売業と医療・福祉の順位が逆になっています。
離職率が低い産業
厚生労働省の調査によると、高卒と大卒で離職率が低い上位5つの産業は以下のとおりです。
高卒 | 離職率 | 大卒 | 離職率 |
---|---|---|---|
電気・ガス・熱供給・水道業 | 9.2% | 電気・ガス・熱供給・水道業 | 11.1% |
鉱業・採石業・砂利採取業 | 24.4% | 鉱業・採石業・砂利採取業 | 11.5% |
複合サービス事業 | 26.3% | 製造業 | 19.0% |
製造業 | 27.2% | 金融業・保険業 | 24.2% |
金融業・保険業 | 28.1% | 運輸業・郵便業 | 25.0% |
高卒と大卒のいずれにおいても、電気・ガス・熱供給・水道業、鉱業・採石業・砂利採取業、製造業、金融業・保険業の4つの産業は共通して離職率が低くなっています。高卒では複合サービス事業、大卒では運輸業・郵便業もランクインしており、離職率が低い傾向があるようです。
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新卒者が離職する理由と企業側の対策
新卒者は、なぜ離職するのでしょうか。ここでは、離職の理由と必要な対策について解説します。
労働条件に不満がある
労働条件に対する不満は、新卒者が離職する理由になります。不満が生じやすい労働条件をまとめると、以下のとおりです。
・労働時間が長い
・休日が少ない
・祝日にも出勤する必要がある
・福利厚生が十分ではない
昨今はワークライフバランスを重視する人が増えているため、離職を防ぐには働きやすい環境づくりが重要です。
給与に不満がある
人事評価や昇給のタイミングで想定よりも給与が少ないと感じれば、新卒者でも離職を検討します。給与は、仕事に対するモチベーションを維持するうえで重要な要素だからです。給与に対する不満をなくすには、評価を見直し、能力や業務に見合う給与を与える必要があります。
また、新卒者の場合、給与に対する各種保険料や税金の割合を理解しておらず、額面と手取りの差に驚くケースも少なくありません。給与計算や控除の仕組みなどを事前に説明しておくと、不満を小さくできます。
企業に対する期待と現実にギャップがあった
懇親会やインターンシップなどの雰囲気を参考にして入社を決めた新卒者は、実際の仕事の様子にギャップを感じる場合もあります。なかには企業に対する疑問を解消せずに入社し、働きながら悩んでいる新卒者もいるかもしれません。
ギャップの発生を抑えるには採用の段階から自社のリアルな様子を伝え、働くイメージを具体的にもってもらう必要があります。その後も段階に応じたフォローが大切です。たとえば、入社したら研修を行い、働く意識の醸成を促しましょう。
人間関係が上手くいかない
職場の人間関係が上手くいかないとストレスを感じ、早期の離職を引き起こす原因になります。たとえば、先輩や上司の態度が厳しかったり、同僚と円滑にコミュニケーションを取れなかったりする場合です。人間関係のトラブルは、新卒者に限らず全社員の離職の原因になる可能性があります。全社的に風通しをよくし、人間関係のトラブルが発生しないようにすべきです。
悩みや不安の相談相手がいない
新卒者は新しい環境や慣れない業務に戸惑い、悩みや不安を感じる恐れがあります。悩みや不安を相談できる上司や先輩などがいないと、仕事に対するモチベーションを維持しにくいでしょう。リモートワークが中心で相談しにくい場合も同様です。結果として、離職に至るリスクがあります。新卒者に対するフォローや教育の体制を強化し、悩みや不安をいつでも相談できる環境をつくることが大切です。
ノルマにプレッシャーを感じる
入社早々に厳しいノルマが設定されると、プレッシャーを感じて離職する可能性が高くなります。新卒者にとっては自身の成長や具体的なビジョンが見えにくいため、厳しいノルマに対するマイナスなイメージが先行する恐れがあるでしょう。
段階を踏んで目標を設定したり、今後のイメージを示したうえで適度なノルマを定めたりすることが大切です。ノルマの設定が成長につながるよう、うまく調整してください。
社風に馴染めない
社風との相性により、新卒者が離職するパターンも少なくありません。社風は、自社の方向性や経営者の考えなどから影響を受けて決まります。ただし、新卒者の性格と配属先の雰囲気が合わないために、社風に馴染めないと感じる場合もあるでしょう。
社風はキャリアにも影響を与える可能性があり、重視する人が多いです。社員が自社で長く働きたいと思えるよう、エンゲージメントを高める施策を取り入れる必要があります。
キャリアアップを目指している
キャリアアップを強く意識している新卒者は、企業の成長性に限界を感じると離職する可能性が高くなります。たとえば、長く勤めてもキャリアアップできない環境であったり、やりがいや成長を感じられなかったりする場合です。キャリアアップに対する希望をもたせるには、労働条件の見直しや柔軟に働ける仕組みつくりが欠かせません。
離職率が高いことによるデメリット
離職率が高いとさまざまなデメリットがあるため、注意が必要です。ここでは、離職率が高いことによるデメリットを解説します。
自社の印象に悪影響を及ぼす
若者雇用促進法の施行により、新卒採用をしている企業は、採用者数や離職者数などの情報を開示する必要があります。離職率が高いと、労働環境に問題があるのではないかと懸念される可能性が高いです。いわゆるブラック企業という印象になると、就職活動中の人から敬遠されかねません。離職率を改善しつつ、退職の手続きも円満に進められる環境も整備することが大切です。
※参考:若者雇用促進法
採用や教育のコストが無駄になる
新卒者が離職すると、採用にかけたコストが無駄になります。新卒者を教育するための研修や、指導した上司・先輩社員の労力も無駄になるでしょう。
人材の確保が求められる
離職者が発生すれば、新しい人材を確保しなければなりません。しかし、近年は売り手市場となっており、人材の確保は難航する可能性が高いです。採用活動が長引けば、その分コストが高くなるうえに、人手不足の状態もなかなか改善できません。
既存社員のモチベーションが下がる
離職者が発生すると仕事の引き継ぎが必要であり、1人あたりの業務量が増加します。既存社員の業務の負担が増えると、仕事のモチベーションが低下しかねません。適切な業務分担や既存社員に対するフォローに力を入れる必要があります。
新卒者の離職を防ぐ方法
新卒者の離職を防止するには、どうすればよいのでしょうか。ここでは、離職を防ぐ方法について解説します。
社内コミュニケーションを活性化させる
社内コミュニケーションを活性化させると、新卒者の離職を防止できます。質問しやすい雰囲気をつくり、不満や悩みを解決しやすい環境を整えましょう。定期的に面談やミーティングを実施することも大切です。社員の自主性に任せるだけでなく、企業も積極的に仕組みを整える必要があります。
労働条件や待遇を改善する
労働条件や待遇に対する不満も離職の原因になりやすいため、定期的に見直して必要があれば改善しましょう。たとえば、業務の負担が過剰ではないかチェックしたり、業界の水準に照らして適切な給与を支払っているか確認したりすべきです。長時間労働や休日出勤の多さも不満につながるため、人員配置の見直しや業務の効率化などに取り組む必要があります。
評価制度を見直す
評価に対して納得できれば、離職が発生しにくくなります。具体的には評価制度そのものを見直し、評価の仕組みや根拠などを明確に示すことが大切です。分かりやすい評価制度を構築すれば、社員は自分のキャリアプランをイメージしやすくなります。自社で長く働けるという印象が強くなると、新卒者の定着率の向上を期待できるでしょう。
柔軟な働き方を取り入れる
柔軟な働き方ができる職場は社員にとって働きやすいため、離職を防いで定着率の向上を促せます。柔軟な働き方としては、在宅勤務、フレックス勤務、時短勤務などが代表的です。自社に合う働き方を取り入れ、社員がスムーズに業務を進められる環境を整えましょう。
上司のマネジメントスキルを育てる
新卒者を適切にサポートするには、上司のマネジメントスキルが重要です。上司の言葉遣いや指導方法に問題があると、新卒者にストレスを与える恐れがあります。新卒者と既存社員がスムーズにコミュニケーションを取り、適切な指示を受けられるように企業も積極的に支援しなければなりません。
キャリア支援も含めて育成する
企業が主体となって社員のキャリア支援を意識した育成を行うと、離職率を低下させられます。長期的な視点によるキャリアプランを描けるよう、キャリアデザイン研修や1on1による面談なども実施しましょう。キャリアについて考えるときは、スキルマップや評価シートなどを活用すると効果的です。
さらに、将来を見据えてスキルアップを図るなど、短期的な目標も設定しましょう。社員が自分のキャリアをイメージできるようにサポートすると、仕事に対するモチベーションが高まり、離職の防止になります。
ストレスケアに取り組む
人間関係、新しい環境に対する漠然とした不安、ノルマ達成の負担など、新卒者はさまざまなストレスを抱えがちです。離職を防ぐためにも、新卒者のストレスケアに力を入れましょう。たとえば、新卒者の様子に気を配り、必要に応じて声をかけるなども有効です。
周囲もサポートしてくれるという印象を与えられれば、新卒者の心理的な負担を軽減しやすくなります。なお、50人以上の社員がいる企業は、労働安全衛生法に基づく年1回のストレスチェックが必須です。
コンプライアンス通報・相談窓口を設置する
社員の人間関係に対する不安を解消するには、相談窓口の設置も効果的です。相談窓口があると、ハラスメントや業務内容に関する悩みについて気軽に相談できます。また、健全な職場環境の構築を目指しているというアピールにもなるでしょう。社内で相談窓口の運営が難しいなら、法律事務所をはじめとする専門の外部機関に相談する方法もあります。
メンター制度を取り入れる
メンター制度を取り入れると、新卒者の離職防止に効果的です。メンター制度とは、入社年が近い先輩社員を新入社員の相談相手として指定する制度です。入社年が近い先輩社員は上司よりも悩みを相談しやすいため、1人で悩みを抱えずに済みます。
メンター制度成功のポイント|導入におけるメリットやデメリット、注意点を解説
採用段階におけるミスマッチを防ぐ
期待と現実にギャップがあれば、新卒者は離職する恐れがあります。ミスマッチを防ぐには、採用の段階から自社のネガティブな側面も隠さずに伝えましょう。具体的には、以下の情報を正確に伝える必要があります。
・給与
・労働時間
・業務内容
・就業条件
適正検査を導入して、ストレス耐性や対応力をチェックすることも大切です。
まとめ
新卒者の就職後3年以内の離職率は、高卒と大卒ともに3割を超えています。新卒者の離職率が高いとコストの無駄が多く発生したり、既存社員のモチベーションを下げたりするため、注意が必要です。
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