「タレントマネジメント」の項目設定は、企業の人材能力を最大限活かすために重要です。しかし、適切な項目の設定には、どのようなポイントがあるのでしょうか。この記事では、タレントマネジメントに必須の項目について、導入の注意点を交えて解説します。タレントマネジメント導入を検討する企業の人事担当者は、ぜひ役立ててください。
タレントマネジメントの基本情報を解説
タレントマネジメントとは、自社のタレント(社員)それぞれが持っている能力を最大化させ、企業成長に向けた取り組みをする経営戦略です。アメリカをはじめとした海外では、一般的な考え方で、近年は日本の企業でも注目を集めています。
人事管理に特化した人事管理システムとは違い、タレントマネジメントは、資質・才能・スキルといった社員のデータをひとつにまとめて、把握しやすい形で管理するのが特徴です。
タレントマネジメントの意味
タレントマネジメントとは、日本語に訳すと「人材のスキル・情報を管理する」という意味です。タレントマネジメントを実施する際は、スキルやノウハウなど社員の情報を集め、いくつかの指標によって管理・評価します。社員が、それぞれのスキルや能力を十分に発揮できるような人員配置や公平な評価などのための項目を作成して、実施することが重要です。
タレントマネジメントの目的
タレントマネジメントの目的は、企業の成長です。社員の能力やスキルを把握して最大限に活用することで、経営目標の達成を目指します。
組織の力を引き出すには、適切な人材育成と効率的な人事採用がポイントです。目的をもとに企業状況を分析し、事例と見比べながら、自社に合った施策の検討を行いましょう。企業成長にとってどのようなタレントマネジメントが必要か明確になると、社内への働きかけもスムーズになります。
タレントマネジメントにおいて項目設定が重要な理由
タレントマネジメントの項目設定は、本当に企業の課題解決の結果につながったのか、公平な判断・評価をするために重要です。項目設定が不十分だと、たとえタレントマネジメントの運用がうまくいっても、課題の根本的な解決にならない可能性があります。
適切な結果を得るには、社員の考え方や行動の特徴を要素ごとに分解し、分析することが重要です。社員の情報を適切に管理し、可視化できると、人事課題の解決につながります。
タレントマネジメントに必要な5つの評価項目
タレントマネジメントの設定項目は、企業によって異なります。しかし、この章で解説する5つの評価項目は、業態や業種にかかわらず必要な項目です。
基本属性に関する情報
基本属性に関する情報とは、社員の性別・年齢・所属部署・役職・入社日・家族構成などの項目です。特に所属部署や役職は変更が多い傾向にあります。社員の適切な状況を把握するためには、常に最新情報へのアップデートが重要です。
社員検索は企業内でも使用頻度が高く、必要不可欠なツールです。タレントマネジメントで基本属性を設定すれば、どのような社員がどのような部署で仕事をしているのか、簡単に管理・把握できます。
キャリアに関する情報
キャリアに関する情報とは、社員が今までどのようなキャリアパスを歩んできたかについての項目です。職歴・学歴・所属履歴など、採用試験の履歴書に書いてある項目が評価対象に含まれます。
その他、所属した部署でどのような仕事をしたのか、社内表彰経験、研修内容などの多角的な判断が可能です。社員が目指すキャリア像と、企業が社員に期待するキャリアが合致すれば、社員のモチベーション維持につながります。
能力やスキルに関する情報
能力やスキルに関する情報には、業務で必要な専門知識や技術だけでなく、コミュニケーション能力やリーダーシップといった、ヒューマンスキルも含まれます。能力の証明には、資格による測定が近道です。
しかし、資格を保有していなくても、スキルが高い社員はたくさんいます。特にヒューマンスキルは、資格だけでは本当の能力を測るには不十分です。
そこで役立つのが、各部署やチームに合わせた能力評価基準表です。作成した基準表に即して社員の能力をランク付けすれば、可視化しにくい能力やスキルも管理しやすくなります。
行動に関する情報
行動に関する情報とは、業務成果による生産性や勤務態度に関する項目です。普段の仕事でどのような行動をしているのかが登録されています。たとえば、営業職のような外勤の場合は、新規アポイントメントをいくつ取れたかや、電話や接待の頻度などが挙げられます。事務職のような内勤の場合は、資料作成時間や部署内での発言回数などに関してです。
また、月の残業時間や遅刻・早退・欠勤などの勤怠データも、内勤か外勤かを問わず重要な情報です。
価値観や考え方に関する情報
価値観や考え方に関する情報とは、社員の価値観や考え方についての項目で、日々の仕事のモチベーションに大きく影響します。たとえば、ひとつの物事を極めて向上し続けることに喜びを感じる人は、さまざまな人と広く接する機会の多い営業職のような職種よりも、技術職に適している可能性があります。
社員のマインドの理解不足は、職場への不満や離職の原因になります。定期的に人事考課をし、最新情報をもとにした適切なモチベーション管理が大切です。
タレントマネジメントの項目から分かること
タレントマネジメントの項目から、「社員の性格(先天的・後天的)」「社員の行動特性」「社員のスキル・経験」がわかります。それぞれについて解説します。
社員の性格(先天的・後天的)
タレントマネジメントの項目に記載された内容から、社員の性格を把握できます。先天的な性格は生まれ持ったものです。そのため、入社後の指導や教育で容易に変わるものではありません。社員の性格に適した人員配置であることが求められています。
一方、後天的な性格や価値観は、家庭環境や接してきた人の影響を受け、長い時間をかけて形成されるものです。後天的性格と同じく、容易には変えられません。ただし、先天的な性格と比べると変わる余地があるため、徐々に企業が求める方向へと修正できる可能性があります。
社員の行動特性
タレントマネジメントの勤務態度や業績を評価する項目から、社員の行動特性を把握できます。行動特性とは、目的達成に向けてどのような行動を取る傾向があるのかを示したものです。たとえば、理解できない事柄が発生した際に、周囲に確認する人や自力で調べる人など、さまざまな特性の人がいます。
情報収集の際も、インターネットで検索する人や周囲の人から聞く人がいるでしょう。業績が優れた社員の行動特性を分析すると、他の社員にはない行動特性によって業績につながっている可能性があります。そのような行動を社内で推奨すると、企業全体の業績が改善されるかもしれません。
社員のスキル・経験
タレントマネジメントでは、スキルや経験を把握することも可能です。スキルは一般的に、ヒューマンスキルとテクニカルスキル、コンセプチュアルスキルの3つに分類されます。ヒューマンスキルとは、対人関係で発揮される能力です。テクニカルスキルとは、特定の分野で発揮される高い知識や技術のことを指します。
また、コンセプチュアルスキルとは、物事を構造的・概念的に認識することによって本質を把握し、適切に対処する能力です。社員が持つスキルと部署が求めるスキルが乖離している場合は、人事異動によって適した部署への配置を検討しましょう。
タレントマネジメントを導入するにあたってチェックしておきたいポイント
タレントマネジメントを導入する際に、気を付けるべき5つのチェックポイントを解説します。
目的を明確にする
タレントマネジメントによって何を解決したいのか、導入の目的を明確にしましょう。情報を収集しても適切に利用できなければ、導入コストが無駄になります。組織の課題を明確にし、何の情報をどのように管理・活用するかを検討しましょう。
たとえば、新規事業への人材のアサインの迅速化を図りたいけれど、ヒアリングや推薦、スキルマッチに時間を要しているとします。しかし、タレントマネジメントを活用すれば、社員の能力や傾向・実績データ・本人が希望するキャリアパスなどの情報を、一元管理することが可能です。社員の能力やスキルだけでなく、志向性を加味した人事もできます。
自社に合った項目設定を行う
自社が抱える人事上の問題点を明確にし、解決するための項目設定をします。最適な人材を適材適所に配置するには、社員の異なる内面を尊重することが重要です。社員のモチベーションが、企業の経営理念や経営戦略と合致していないと、潤沢な情報が揃ってもうまく活用できません。
タレントマネジメントの導入の前に、目指す経営戦略は何なのか、組織の能力の状況把握が必要です。情報は一度集めたら終わりではありません。可能な限り情報を最新のものにし、把握しやすい状態にすることが、よりよいデータ活用の第一歩です。
経営者や後継者候補には異なる項目設定を行う
経営者や後継者候補は、通常の人材とは判断指標が異なるため、タレントマネジメントでも新たな項目設定が必要です。経営課題を洗い出し、キーポジションとなる人材に、どのようなスキルや経験を求めるのかを検討してください。
社長候補者に関しては、リーダーシップの有無・最終決定権者の経験・長期的な課題に取り組んだ経験などが、設定項目として考えられます。経営者や経営者候補の育成方法は、自社の社長や経営幹部による直接教育・外部研修として、経営学の受講・現場の抱える問題解決に向けた、グループワークなどがあります。
初めから全ての情報を集めようとしない
どのような情報をどこまで収集するか、収集対象となる情報の種類や範囲を設定します。社員に関する情報収集は、負担が大きく大変な作業です。したがって、最初から全ての情報を人事部門だけで集めようとするのは避けましょう。
まずは、すでに管理している社員の基本情報や属性などの情報収集から始めます。人事考課のたびに、属性に関する情報は更新していくことが大切です。また、データの収集を各部署の責任者に依頼すると、業務の負担が軽減できるだけでなく、時間短縮にもなります。他部署とも協力し合いながら、データを完成させる点がポイントです。
タレントマネジメントの目的を広報する
データを常に最新のものにし続けるには、社員の協力が必須です。情報収集の目的が周知されていないと、スムーズに進まない可能性があります。
なかには、個人情報を聞かれることに不信感のある人や、重要性の認識が乏しくタレントマネジメントに関する作業を後回しにする人もいます。よって、協力体制があると時間や手間がかかりません。
タレントマネジメントの目的を可能な限り開示し、社員に理解してもらうことが重要です。必要に応じて、評価者となる役員に、データ入力や情報活用方法のレクチャーの機会を設けるのも、効果があります。その際は、運用マニュアルを準備すると、理解度の向上に有益です。
タレントマネジメントシステムの導入を検討する
アナログな方法で社員の情報を管理している場合は、タレントマネジメントシステムの導入を検討してはいかがでしょうか。タレントマネジメントシステムであれば情報の一元管理が可能で、更新や検索も容易です。アナログな方法と比べて担当者の負担を大幅に減らせ、業務の効率化に役立ちます。