タレントアクイジションは、一般的な採用活動と比較して中長期的な採用や育成を目指す手法です。経営戦略にマッチする人材の定義、ターゲッティング、採用対象者に対するナーチャリング、採用担当者へのアプローチ、採用後のサポートなどを行います。
タレントアクイジションを実施するには、詳しい特徴を押さえることが大切です。本記事では、タレントアクイジションの概要に触れたうえで、メリット・デメリット、主な手法、手順などを解説します。
タレントアクイジションとは?
タレントアクイジションとは「Talent(才能)」と「Acquisition(人材獲得)」を組み合わせた造語です。短期的な欠員補充や急な採用とは異なり、中長期的な企業の成長に向けて貢献する人材を採用する目的があります。
タレントアクイジションの特徴は、応募を待たず企業が自ら積極的に動く点です。ターゲットとなる採用対象者の候補を事前に絞り込み、時間をかけてアプローチします。
タレントアクイジションとリクルーティングの違い
タレントアクイジションとリクルーティングにはさまざまな違いがあるため、以下で詳しく解説します。
採用目的
タレントアクイジションは、経営戦略や事業戦略の達成を意識した中長期的な人材戦略の1つです。そのため、特定のポジションの募集ではなく、自社の成長に必要な幅広い能力やスキルを持つ人材の獲得を目指しています。
一方、リクルーティングの目的として多いのは欠員補充です。たとえば、経理担当者に欠員が出た場合、経理全般の経験やパソコンの基礎知識など、特定のスキルを持つ人材の採用を目的とします。
活動プロセス
タレントアクイジションは、求人を出して募集を待つだけでなく、転職を潜在的に考えている人材に対するアプローチも含めた採用戦略です。
具体的には、将来的な人材ニーズや採用ブランドの定義を明確にしたうえで、転職を本格的に考えていないものの、キャリアチェンジを意識している層に対してアプローチします。採用後は人材の定着や活躍もサポートしつつ、新たな人材獲得に向けてブランディングや広報などを継続します。
それに対してリクルーティングは、現在または近い将来に必要な人材を採用する方法です。特定のポジションの採用が決まれば、その時点で採用活動は終了します。
実施期間
タレントアクイジションでは、募集から採用までの期間だけではなく、その前後のプロセスにおいても活動します。リクルーティングの実施期間は、基本的に募集から採用までです。また、必要な人材の採用が決まれば、設定した期間がまだ残っていても採用活動を終了します。
アプローチする対象
タレントアクイジションは、具体的に転職やキャリアチェンジを考えていない人も対象です。自社を知らない層からの認知の獲得も目指しており、興味を持たせて自社への関心を高める狙いがあります。つまり「攻めの姿勢」による採用活動です。それに対してリクルーティングは、自ら転職の意思を固めた人からの応募を待ちます。
採用対象者との関係性
タレントアクイジションでは、一般的な採用活動よりも採用対象者との関係構築を重視しています。そのため、オンラインによる面談、キャリア相談会、SNSを活用した交流など、さまざま方法でコミュニケーションを取るケースが多い手法です。入社後はオンボーディングでさらに良好な関係を目指します。
リクルーティングにおいても採用対象者との適切な関係を意識しますが、タレントアクイジションの取り組みの方が手厚い対応となる点が特徴です。
タレントアクイジションが注目されている背景
タレントアクイジションはなぜ注目されているのでしょうか。ここでは、その背景について解説します。
労働人口減少や採用手法増加による人材獲得競争が激化している
少子高齢化によって労働人口が減少しており、人材の母数そのものが減少しています。また、インターネットやSNSなどを利用した採用手法が登場し、採用候補者に対する能動的なアプローチも可能になりました。その結果、人材獲得競争が激しくなっています。今後ますます人材が不足すると考えられるため、中長期的な人材戦略や採用方法の確立が不可欠です。
タレント人材の重要性が増している
製造業におけるIoTの活用やAIの台頭などにより、IT人材の重要性が増しています。また、将来の予測が難しいVUCA時代においては、臨機応変に対応できる優秀な人材が特に重要です。さらに、海外へのビジネス展開を意識し、グローバルなスキルを持つ人材を求める企業も増えてきました。
すでに触れたとおり労働人口が減少しているため、1人あたりの生産性の高さも必要です。このようにタレント人材の重要性が増しており、タレントアクイジションによる積極的な採用活動に注目が集まっています。
採用コストが増大している
採用活動にかかるコストは増加しています。理由は、労働人口の減少に伴う採用活動の長期化、人材の流動化による転職の増加、多様な働き方の浸透などさまざまです。人材獲得競争が激しくなっているため、採用に関する広告費や人件費も増加傾向にあります。
このような状況では、事前に狙いを絞って採用活動を進めるタレントアクイジションが有効です。費用対効果が高い採用を実現しやすく、採用コストの削減を狙えます。
採用管理をエクセルで行う2つの方法!メリット・デメリットと効率化させる方法を紹介
タレントアクイジションで採用するメリット
タレントアクイジションによる採用はメリットが豊富です。具体的なメリットについて解説します。
転職潜在層にまで幅広くアプローチできる
タレントアクイジションなら転職潜在層にもアプローチできるため、まだ転職市場に出ていない優秀な人材にもアプローチ可能です。タレントアクイジションで認知を獲得したうえで、継続的にコミュニケーションを取りながら転職の意思を醸成していきます。優秀な人材を他の企業より早く囲い込めるため、採用できる可能性が高いでしょう。
優秀な人材を確保しやすい
タレントアクイジションは、経営戦略や事業戦略に沿って対象者を絞り込んだうえでアプローチするため、優秀な人材の採用が可能です。採用ブランディングや広告戦略などにより、自社の基準に満たない人材はセルフスクリーニングできます。
新規事業の創出、事業拡大、DX推進などのコアな業務に対応できる人材の獲得なども、タレントアクイジションなら可能です。優秀な人材を獲得し、定着できれば組織力の向上が狙えます。
自社と人材のマッチング率が高くなる
採用ブランディングや広告戦略に力を入れるため、対象となる人材はすでに自社に高い興味関心を抱いている場合が多くあります。採用対象者は社風や業務内容などを深く理解しており、その状態で採用を決定できる可能性が高いでしょう。加えて、定着率も高くなり人材流出も防止できます。自社に合う人材を採用しやすいため、能力を十分に発揮してもらえる可能性が高いといえます。
採用活動についてのノウハウが貯まる
タレントアクイジションでは中長期的な計画を立てて採用活動に取り組むため、応募者の情報や実施した施策などの記録が残ります。採用活動に関するナレッジやノウハウが貯まり、将来の採用活動にも活用可能です。
また、過去のデータと比較すれば、メッセージやスカウティングの開封率や、斬新な施策に対する反応なども効果検証できます。PDCAを回しやすく、より成功率が高い採用活動を目指すことが可能です。
採用コストを軽減できる
通常の採用活動では、求人広告の費用や転職エージェントに対する成果報酬など、多額のコストが発生する可能性があります。早期離職が発生し、思うような費用対効果を得られない場合も少なくありません。タレントアクイジションは特定の人材に集中的に投資できるため、高い定着率に期待できます。よって、費用対効果も高めです。
タレントアクイジションで採用するデメリット
タレントアクイジションによる採用にはデメリットもあるため、以下で詳しく解説します。
実施の難易度が高い
タレントアクイジションでは採用する人材の定義、ナーチャリング、人材教育など幅広い内容に対応する必要があり、実施の難易度が高めです。通常の採用活動と比較して工数が多く、人事担当者の負担も増えます。また、優秀な人材を見抜くスキルやマーケティングの知識などの専門性も必要です。
短期的・緊急の採用には向かない
タレントアクイジションでは中長期的な取り組みが前提であり、欠員補充のために早く人材を採用したい場合には向いていません。タレントアクイジションは、経営戦略や事業戦略に合う人材を検討することから始める必要があり、時間がかかります。
また、転職潜在層にアプローチしてから入社に対する意欲が育つまでにも、ある程度の期間が必要です。無理に短期間で採用しようとすると、費用対効果が下がる可能性があります。
事例が少ない
タレントアクイジションは新しい採用手法であり、事例があまりありません。手探りで進める必要があるため、自社にとって最適な方針の決定に時間がかかります。ただし、他社も同じ状況であるため、早い段階で自社独自の手法を確立できれば、優秀な人材をより獲得しやすくなるでしょう。
タレントアクイジションの主な手法
タレントアクイジションにはさまざまな手法があります。そのため、自社の戦略に応じて適切な手法を選択することが大切です。ここでは、タレントアクイジションの主な手法について解説します。
モデル人材を再定義し採用を強化する4ステップ〜タレントパレットで実現する新卒・中途採用の一元管理と最適化〜
タレントプールリクルーティング
タレントプールリクルーティングとは、将来の採用に備えて優秀な候補者をデータベースでリスト化し、必要なときに採用する手法です。このデータベースをタレントプールと表現しています。たとえば、過去に採用を見送った人材、内定辞退された人材、リファラル採用で獲得できなかった人材などのデータを蓄積しておけば、適切なタイミングで改めてアプローチが可能です。
ソーシャルリクルーティング
ソーシャルリクルーティングとは、SNSを使って優秀な人材へアプローチする手法です。まずは自社が積極的にSNSで情報発信し、SNS上で認知や信用性を高める必要があります。ただし、採用情報そのものではなくエンタメや日常の様子などを発信し、まずは親しみを感じてもらうことが大切です。それにより、企業の風土や業務内容などを効果的に伝えられます。
ソーシャルリクルーティングは、20代を中心とする若手の採用につながりやすい手法です。また、SNSでのコミュニケーションを通じ、採用対象者のリアルな意見も把握できます。
ダイレクトソーシング
ダイレクトソーシングとは、優秀な人材に対して経営者やマネージャーなどが直接声をかける手法です。経営者やマネージャーなどは経営方針や事業戦略をよく理解しているため、マッチング率も高くなります。また、スカウトされた人材は経営層からの期待を感じやすく、入社意欲の高まりも期待できるでしょう。ダイレクトソーシングは、転職潜在層にも直接的なアプローチを行えるため、優秀な人材の掘り起こしにも有効です。
リファラル採用
リファラル採用とは、自社の社員や関係者などから自社に合う人材を紹介してもらう手法です。社員や関係者などは自社について深く理解しているため、高いマッチング率や定着率を期待できます。また、SNSの運用や求人広告の作成などが必要なく、人的リソースや労力もかかりません。優秀な人材を効率よく採用できる可能性があります。
リファラル採用とは?注目されている理由や成功させるためのポイントを解説
ブランドマーケティング
ブランドマーケティングとは、自社で働きたいという動機付けになるブランディングに力を入れる手法です。たとえば、オウンドメディア、SNS、広告など複数のチャネルを活用してプロモーションを行います。スムーズに採用につながるわけではないものの、自社にマッチする人材をナーチャリングする手法として有効です。
インターナルモビリティ
インターナルモビリティとは、社内の人材の可動性や流動性などです。外部人材の採用ではなく、内部人材の適材適所への配置転換もタレントアクイジションといえます。社員の希望を考慮しながら最適な配置を検討することが大切です。
なお、インターナルモビリティとは少し異なりますが、フリーランス、アルバイト、契約社員などから優秀な人材を見つけ、正規の社員として採用する方法もあります。
アルムナイ採用
アルムナイ採用とは、自社を退職した人材を再び採用する手法です。カムバック採用やカムバック制度などと呼ぶ企業もあります。すでに自社について深く理解しており、即戦力となる人材を採用可能です。自社の業務に慣れているだけでなく、他社で別の経験も積んでいるため、より大きな活躍を期待できます。また、アルムナイ採用では、採用を実現するまでに必要なリソースも少なめです。
タレントアクイジション導入の基本的な進め方
タレントアクイジションの導入は、どのように進めるのでしょうか。基本的な進め方を解説します。
タレントアクイジションを実施する体制を整える
タレントアクイジションは長期的に取り組む必要があるため、社内体制の整備が欠かせません。人的リソースを確保し、必要に応じて外部の専門家にも相談しましょう。特に長い時間をかけて本格的に取り組む場合は、タレントアクイジションに特化した人材育成も検討する必要があります。
現状・将来を分析し労働状況・必要な人材を洗い出す
タレントアクイジションでは、自社の労働環境や社員などの現状を分析したうえで、経営戦略との擦り合わせが必要です。それにより、必要な人材の能力やスキルなどを明らかにします。現状だけでなく将来の経営や事業についても予測し、必要となる人材のスキルやポジションなどをイメージすることも大切です。そのためには、ワークフォース分析(労働力分析)、PEST分析、SWOT分析などを活用しましょう。また、必要に応じて経営戦略や事業戦略の改善も必要です。
採用する人材や人材戦略について要件定義を行う
採用する人材の職責、資格、スキルセットなどについても要件定義をする必要があります。たとえば、事業戦略に応じて複数のペルソナを設計するのもおすすめです。設定した定義はデータベースに落とし込み、いつでも確認できるようにしてください。なお、現場のリーダーにも声をかけ、必要な人材や採用の方向性などに対する意見を集めることが大切です。
採用のためのブランディングを進める
ブランディングを行い、自社に対する認知度や興味・関心を高めます。具体的には、SNS、広告、オウンドメディアなどを利用し、採用に向けたブランディングに取り組みましょう。自社向けのタレントアクイジションであれば、社員のエンゲージメントを高める効果も期待できます。また、あわせてタレントプールも構築してください。
ブランディングにおいては、多角的な施策の推進が必要です。たとえば、ハラスメントや不正行為といった問題の解決もブランディングにつながります。
採用候補者へのアプローチを進める
採用候補者が見つかったら、メールやSNSのメッセージなどを通じてコミュニケーションを取りましょう。直接的な交流を通してアプローチを行います。
ただし、具体的な採用手法によってもアプローチの方法はさまざまです。任せたいポジションや業務などによっても適切な方法は異なるため、状況に応じてアプローチする必要があります。
採用後の定着支援を進める
タレントアクイジションでは、採用後のサポートも重要です。具体的には、事前研修、オンボーディング、キャリアサポートなどを行います。定期的な面談や適切なフィードバックなども行うと、採用した人材がスムーズに自社に溶け込めるでしょう。採用して終わりにせず、引き続き見守る姿勢が大切です。
採用後の効果検証を行う
タレントアクイジションを開始したら、成功や失敗にかかわらず定期的に分析を行いましょう。取り組みについてPDCAを回せば、少しずつナレッジやノウハウを蓄積できます。検証の結果をもとに採用プロセスや採用後のフォロー体制などを見直せば、より効果的なタレントアクイジションの実現を目指すことが可能です。
タレントアクイジションの将来性についての考察
タレントアクイジションは新しい手法であり、取り組んでいる企業はまだ多くありません。しかし、現状を考慮すれば、タレントアクイジションが浸透する環境がつくられつつある状況です。新型コロナウイルス流行の影響もあり、採用の手法や価値観について根本的な変化が始まっています。今後タレントアクイジションに着手する企業は、増えていく可能性が高いといえます。
また、IT技術やインターネットの発達などにより、タレントアクイジションの手法はさらに多様化すると考えられます。早いうちから着手し、自社の基本的な方針や手法などを確立しておきましょう。
まとめ
労働人口の減少や採用手法の増加といった背景により、タレントアクイジションに対する注目度が高まっています。タレントアクイジションは、自社にとって優秀な人材を着実に確保する方法として有効です。具体的にはさまざまな手法があるため、自社の採用戦略をもとに最適な手法を選択しましょう。タレントアクイジションに取り組む企業はまだ少ないものの、今後導入する企業は増えていくと考えられます。
タレントパレットは、タレントアクイジションに必要な人材データの一元管理から、候補者のタレントプール構築、採用後の効果測定まで一貫してサポートするシステムです。大手企業をはじめとする豊富な導入実績があり、タレントアクイジション戦略の策定から実践までをナレッジとシステムの両面で支援します。人材獲得の課題解決に向けて、ぜひタレントパレットの活用をご検討ください。