持株会とは
持株会とは、社員が自社株を共同購入する仕組みです。「従業員持株会」とよばれる場合もあります。企業の呼びかけによって自社株の購入を希望する社員を集め、毎月の給与や賞与などから拠出金を天引きします。会員になった社員は、拠出額に応じた配当金を受け取ることが可能です。
持株会への加入は義務ではないため、持株会がある企業に入社しても必ず自社株を購入する必要はありません。ただし、持株会へ加入できる対象は、その企業に勤務する社員のみです。取締役や執行役員も対象外となっています。
なお、自社株の購入を促すため、持株会による自社株の共同購入に対して奨励金を支給している企業もあります。持株会の導入には企業と社員の双方にとってメリットがあり、導入している企業が多いです。
持株会の仕組みや運用方法
持株会はどのように運営されているのでしょうか。ここでは、持株会の仕組みや運用方法について詳しく解説します。
持株会の組織形態
一般的に、持株会は組合として設立するため、法人格はありません。持株会の設立については、官公庁に対する届出も特に必要ないとされています。持株会で購入する株式の名義は、持株会の理事長です。株式の管理は理事長に信託され、会員となった社員は持株会の持分を所有します。
また、配当金が出た場合、理事長に支払われます。ただし、実際の受益者は各会員です。個人の配当所得として配当金が割り振られます。
拠出金の募集・分配
持株会として自社株を購入するには、原資が必要です。拠出金を会員から募り、各会員の拠出金を集約して株式を共同購入しています。拠出金は、会員である社員の給与や賞与から毎月天引きします。持株会が購入した自社株は、それぞれの拠出額をもとに各会員へ分配される仕組みです。これにより、持株会の会員は拠出額に応じた株式を積み立てられます。
毎月の拠出額
通常、株式の購入に関しては最低単元が決められています。最低単元は、数万円から数十万円となっており、株式を購入するにはまとまった資金が必要です。しかし、持株会なら少額でも自社株を購入できます。持株会の毎月の最低拠出額は1,000円からとなっており、高くても数千円である場合が多いです。1,000円単位で買い付けできるため、気軽に拠出額を増やせます。
また、企業によっては持株会に対する拠出額に応じた奨励金を上乗せしているケースもあります。一般的に、奨励金は拠出額の5~10%程度です。
売却のタイミング
持株会で運用している資金は、必要に応じて換金できます。ただし、単元株になるまで積み立てる必要があります。たとえ株価が上がったタイミングで換金したいと考えていても、単元株未満なら換金できません。また、保有している自社株を売却するには、証券会社の口座への振替も必要です。自社株の売却には条件や準備も必要なため、早めに意識しておいたほうが良いでしょう。
持株会を退会した場合の取り扱い
会社を退職する際は、持株会から退会しなければなりません。退会後、持株会の事務を委託している証券会社を通じ、単元株相当額が個人名義に書き換えられます。単元株未満については、退職する本人の希望に応じて精算します。
たとえば、時価で売却すれば現金化できます。また、単元株にするために必要な金額を退職者が拠出し、退職する人の名義の単元株として証券会社の口座へ振り替える方法もあります。さらに、持株会の事務を委託している証券会社が一般の顧客向けに提供する積立購入制度の対象であれば、移管も可能です。
持株会はやめたほうがいいといわれる理由
「持株会はやめたほうがいい」といわれる場合もありますが、それはなぜでしょうか。具体的な理由について解説します。
自由に売買できない
持株会は月に1回などのタイミングを決めて自社株を購入しています。そのため、各会員が自分の好きなタイミングで購入できるわけではありません。
自社株の売却については、各会員の判断で自由に行えます。ただし、すでに触れたとおり、持株会を通じて購入した自社株を売却するには、証券口座の開設や移管の手続きなども必要です。それらを完了させる必要があるため、場合によっては売却のタイミングが希望より遅れる可能性もあります。
業績の悪化により株価が下がるリスクがある
株式全般にいえますが、企業の業績が悪化すれば保有している株式の株価も下がる恐れがあります。株価が下がったタイミングで換金すると、拠出額よりも目減りするリスクがあるため、要注意です。
また、自社の業績が悪化している状況では、社員として受け取る賞与も減額になる可能性があります。収入源と株価の下落が同時に発生すれば、家計に大きなダメージが生じる場合も想定できます。
株主優待が受けられない
株主優待とは、企業が株主に自社製品やサービスなどの優待品を贈ることです。株式を購入しても必ず株主優待を受けられるわけではないものの、株主優待がある場合は株主にとって利益になります。
持株会で自社株を購入すると配当金は受け取れますが、株主優待は受けられません。持株会では、個人名義ではなく持株会の理事長の名義で株式を購入するためです。会員個人は株主優待を受けられません。
企業が持株会を導入するメリット
企業が持株会を導入すると、さまざまなメリットを期待できます。具体的にどのようなメリットがあるか解説します。
社員のモチベーション向上につながる
社員が自社株を保有すれば、企業の業績アップが自分の利益に直結します。そのため、業績アップに対する意識も高められます。経営者と社員が業績アップという共通の目標をもてるようになるため、組織の一体感が強まるでしょう。
また、株価の上昇も社員にとっての利益になります。株価には社員の自社に対する貢献も少なからず反映される可能性があるため、社員の業務に対するモチベーション向上も期待できます。
経営が安定する
持株会が株式を購入する際の資金は、会員となった社員から集めた拠出金です。持株会では会員が継続して自社株を購入するため、株価の安定につながります。社員が自社株の多くを保有している状態では、自社株が外部へ流出しにくくなります。そのため、企業の経営も安定しやすいです。
また、持株会の会員として自社株を購入する社員は、基本的に自社の方針に賛同していると考えられます。そのため、持株会の会員の増加は、自社にとって安定感のある株主の増加と捉えられます。
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相続税対策になる
持株会は、事業承継における相続税対策としても効果的です。自社株の株価が高ければ、事業承継や相続のために株式を取得する際、承継人や相続人が支払う対価が高額になります。自社株を持株会が保有するようになると、経営層が保有する株式の比率を下げられます。その結果、相続の対象になる株式も減らせるため、承継人や相続人の金銭的な負担の軽減が可能です。
持株会を導入した場合の社員側のメリット
勤務先に持株会が導入された場合、社員にもメリットがあります。以下で詳しく解説します。
奨励金が上乗せされる
持株会の会員として社員が自社株を購入する最大の魅力は、自分の拠出額に対して上乗せされる奨励金です。一定の割合で企業が奨励金を上乗せするため、自分の拠出額と奨励金を合わせた金額を株式の購入に当てられます。
持株会を設けているすべての企業が会員に奨励金を支給しているわけではないものの、多くの企業が奨励金制度を導入しています。奨励金は、拠出額の5~10%程度としている企業が多いです。
少額から自社株を購入できる
持株会に加入すると、自社株を少額から購入できます。企業によっては株価が高額であり、最小の単位で株式を購入するためにまとまった資金が必要なケースもあります。
しかし、持株会なら、拠出できる金額が少額でも自社株を購入可能です。毎月一定の金額を積み立てられ、着実に資産形成できます。拠出額は給与や賞与から天引きされるため、手間もかかりません。株式投資の初心者でも、スムーズに取り組めます。
インサイダー取引が適用されない
持株会で自社株を購入すれば、インサイダー取引に該当する心配はありません。インサイダー取引とは、一般には公開されていない重要な内部情報を悪用し、株式をはじめとする有価証券を売買することです。インサイダー取引は不正な利益を得る手段であり、市場の公正性を損なう行為です。そのため、法律により禁止されています。
ただし、持株会を利用する場合も、非公開の重要な内部情報を参考にして新規入会や拠出額の増加などをすれば、インサイダー取引が適用される可能性はあります。株式を購入するなら、業務を通して知った内部情報の活用はいずれにしても避けなければなりません。
持株会を導入した場合の企業側のデメリット
持株会の導入は、企業にとってデメリットもあります。どのようなデメリットが生じるか解説します。
業績が悪化すると社員のモチベーションを下げる
自社の業績アップは社員のモチベーションを向上させる要因になりますが、反対に業績が悪化すると社員のモチベーションも下がる恐れがあります。企業の業績が悪化すれば、配当金を出せなくなる可能性があるからです。
また、業績の悪化に伴い、株価が下落する場合もあります。株価の下落は、株式の保有や新規購入を躊躇する原因になります。持株会に加入している社員のやる気が下がり、企業全体の生産性にも悪影響をもたらす恐れもあります。
議決権行使により影響を受ける可能性がある
持株会で社員が自社株を購入して1株以上になると、株主としての権利が発生します。そのため、社員が株主総会に参加し、企業の重要事項を決める際に議決権を行使される可能性も出てきます。
持株会で株主になった社員が議決権を行使しても、経営に大きな影響を及ぼす可能性は高くありません。しかし、社員に議決権があれば少なからず意見を述べられる立場となるため、その影響については慎重に考えておくべきです。
持株会に加入する社員側のデメリット
社員が持株会に加入すると、デメリットが発生する場合もあります。社員にとってのデメリットを解説します。
企業の業績が家計に大きく影響する
すでに触れたとおり、企業の業績が悪化すれば、持株会の会員として購入した自社株の価値も下がる恐れがあります。仮に保有している自社株を売却しても、想定していたほどの利益が出ないリスクがあります。
また、勤務先の経営状態が悪くなると、給与や賞与なども減額される可能性が高いです。資産と収入の両方が減少する可能性があり、二重のリスクが生じます。持株会による自社株の購入以外に投資をしていない場合、収入源と資産を増やすための運用の両方を同じ企業に依存している状態になります。企業の業績が家計に直結するため、注意が必要です。
投資のリスク管理が不十分になる可能性がある
投資のリスクを軽減するには、分散投資が効果的です。しかし、持株会で購入できる株式は自社株のみであり、分散投資はできません。持株会のみで資産形成しようとすると資産が1つの株式に集中するため、リスク管理が不十分になる恐れがあります。
本来、1つの企業のみに資産を集中させている状況は望ましくないため、持株会で自社株を購入するなら他の資産運用にも取り組むべきです。投資のリスクを十分に理解したうえで持株会へ加入しましょう。
持株会から資金を引き出す際の流れ
持株会から資金を引き出すには、複数の手順を踏む必要があります。以下で詳しい流れについて解説します。
証券口座を開設する
持株会から資金を引き出すには、持株会が指定する証券会社の口座を作る必要があります。証券口座を開設するには10日前後かかるケースもあるため、早めに手続きを進めましょう。
証券口座には特定口座と一般口座があります。特定口座を選ぶと、証券会社が年間取引報告書を作成してくれます。一般口座では証券会社による年間取引報告書が行われないため、自分で対応しなければなりません。また、特定口座を選択する場合、源泉徴収の有無も選べます。株式の売却で利益が出ると20.315%の税金がかかるため、その点も踏まえて源泉徴収の有無を決めましょう。
持株会から証券口座へ振り替える
証券口座を開設できたら、持株会から証券口座へ株式を振り替えましょう。ただし、持株会では少額でも拠出できるため、単元株未満の場合もあります。単元株未満では証券口座へ振り替えられないため、単元株になるまで積み立てなければなりません。そもそも単元株未満では株式として引き出せない点に注意が必要です。
また、企業によっては、持株会で購入した株式を売却する際に報告書の提出が求められる可能性もあります。
売却して現金を引き出す
証券口座へ株式を振り替えたら、株式を売却すると現金化できます。ただし、インサイダー取引を防ぐため、企業によっては決算直後の売却を認めていないところもあります。
また、株式の売却は市場環境や企業の業績なども考慮し、慎重に判断しましょう。売却にふさわしいタイミングは、たとえば企業の業績が好調で株価が上昇しており、十分な利益を得られそうな場合です。また、企業の業績の悪化による株価下落のリスクを避けたい場合も、保有する株式の売却を検討するといいでしょう。
持株会を導入する際のポイント
企業として持株会を導入する際は、意識したいことがあります。以下で詳しいポイントを解説します。
配当金の支払い基準を明確にする
持株会を導入する際は、配当金を支払う基準を事前に明らかにしておきましょう。持株会の会員は配当によるリターンを期待しています。そのため、配当金の支払い基準が不明確だと、不信感が生じる原因になります。配当金の支払い基準の明確化は、社員の持株会への加入を促して安定した運営を維持するための重要な対策です。
脱退時の買い取り価格を明確にする
社員が退職により持株会を脱退する場合、持株会が株式を買い取るパターンもあります。特に未上場企業は株式が市場で売買できないため、持株会が買い取ることになります。株式が市場で取引されていない状態では、株価の基準がありません。持株会を脱退する社員の納得を得てスムーズに買い取りを進めるためにも、買い取り価格の基準は事前に決めておきましょう。株式の評価方法は複数あるため、自社の状況に合わせて検討しておく必要があります。
M&Aが実施された場合、持株会はどうなる?
M&Aが実施されると、持株会が保有していた株式は買い手へ売却されます。その場合、持株会の会員である社員は、保有している株式の対価を受け取れます。ただし、株式の売却については会員全員の同意または持株会の解散による清算手続きが必要です。持株会の導入を検討するときは将来M&Aが実施される事態を想定し、具体的な対応についてイメージしておいたほうがいいでしょう。
まとめ
持株会を導入すれば、企業と社員の両方にさまざまなメリットがあります。ただし、デメリットや注意点もあるため、慎重な検討が必要です。持株会の導入を前向きに考えるなら、仕組みや特徴を理解したうえで適切な運用を目指しましょう。
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