スラッシュキャリアとは?
スラッシュキャリアとは、複数の肩書や仕事を通じてキャリアを形成する働き方を指します。1つの職業にこだわらず、多彩な分野でスキルや経歴を積み重ねていくことが特徴です。
たとえば「デザイナー/料理研究家」や「モデル/PR」といった形式で、複数の肩書を「/(スラッシュ)」で区切って表現することからこの名前がつけられました。この働き方は、会社での仕事だけでなく、社外活動や複業を通じて幅広いキャリアを築くことが可能です。
スラッシュキャリアという概念は、アメリカのジャーナリストMarci Alboher氏が2007年に出版した著書『One person/multiple careers: a new model for work/life success』で提唱されました。SNSのプロフィールなどで複数の職業をスラッシュで区切る人が増えたことも、この働き方が関心を向けられるきっかけとなっています。
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スラッシャー(スラッシュワーカー)とは?
スラッシュキャリアを実践する人々を「スラッシャー(slasher)」や「スラッシュワーカー(slash worker)」と呼びます。複数の肩書や職業を「/(スラッシュ)」でつなぎながら、異なる分野での経験やスキルを生かし、組み合わせてキャリアを形成する人々を表す言葉です。
一方、スラッシュキャリアはこうした複数の仕事を組み合わせてキャリアを積んでいく働き方全般を指す概念で、スラッシャーやスラッシュワーカーはその概念を具体的に体現する人々を指します。
スラッシュキャリアの特徴とは?
スラッシュキャリアの特徴は、単にお金を稼ぐための副業(ライスワーク)ではなく、自己実現やキャリア形成を目指すライフワークとして複数の職業に取り組む点にあります。この働き方では、社外で多彩なスキルを身につけ、自分自身のキャリアを広げていくことが重要視されます。
さらに、スラッシュキャリアは1つの仕事に偏ることなく、複数のキャリアを同等に重視することが特徴です。また、複数の仕事内容が必ずしも関連しているわけではなく、異なる分野で活躍することも珍しくありません。
スラッシュキャリアが注目される背景と理由
ここからは、昨今スラッシュキャリアが注目を集める理由や背景に、社会的、政策的な変化があることを述べます。
労働力不足と多様な働き方の促進
スラッシュキャリアが注目される背景には、少子高齢化による労働力不足と多様な働き方の促進の影響があります。政府も「多様な働き方を自由に選択できること」を方針として掲げ、働き方改革を推進してきました。
長時間労働の是正や残業規制、リモートワークの導入が進み、働く人々の柔軟な働き方が促されています。また、フリーランスとして働く人が増加したことも関係しているでしょう。人材不足に悩む企業や業界にとって、スラッシュキャリアを実践する人々を採用することが、専門スキルを持つ人材の確保につながるケースも増えています。
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副業・兼業の解禁と容認する会社の増加
厚生労働省は2018年1月にモデル就業規則を改定し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という文言を削除しました。以降は、法的に副業や兼業が容認されるようになりました。
さらに、2020年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定され、企業も働く方も安心して副業や兼業に取り組める環境が整備されつつあります。このような政策の変化で、企業に勤めながら別の仕事に従事することが可能になってきました。
生涯学習の重要性
従来の終身雇用制が見直され、転職や副業を通じてキャリアを築く働き方が一般的になりつつあります。これに伴い、政府はリスキリング(新たなスキルの習得)やリカレント教育に投資することを表明し、生涯学習の必要性が高まっています。
さらに、「一億総活躍社会の実現」を目指す政策のもと、女性やシニア層の活用が進められており、多様な世代がスキルを磨きながら働き続ける環境が整えられつつあります。
ミレニアル世代の働き方への意識の変化
1981年から1996年に生まれたミレニアル世代は、ワークライフバランスを重視する傾向が強く、1つの仕事に固執するよりも、より自由で多様なキャリアを求める特徴があります。この世代は、非日常的な体験を重視する「コト消費」に魅力を感じることが多く、自己成長や新たな経験を積むことを大切にしています。
また、転職活動をマイナスではなく、キャリアアップのためのポジティブな手段と捉えることが一般的になっています。こうした価値観の変化が、スラッシュキャリアの広がりを後押ししています。
収入源の分散によるリスク回避
世界情勢が激変する中、失業や収入の減少に直面する人が増えており、同じ会社にとどまることが逆にリスクとなる場合もあります。このような不安定な状況において、スラッシュキャリアは1つの収入源に依存せず、複数の仕事から収入を得られるため、万が一に備えた保険としても機能するでしょう。
スラッシュキャリアと副業や兼業との違い
ここからは、スラッシュキャリアとパラレルキャリア、副業や兼業、複業など近しい他の働き方との違いを解説します。
副業・兼業・複業の違い
副業とは、会社員としての本業による給与収入を主な収入源とし、その勤務時間外に別の仕事を担うことです。例えば、平日は会社員として働き、土日にアルバイトをするケースが該当します。一方、兼業は2つ以上の仕事を同時に行うことで、ダブルワークとも呼ばれ、スラッシュキャリアと似た意味を持ちます。また、複業は複数の職業を持つことを指し、スラッシュキャリアとほぼ同じ概念です。
他にも、サイドビジネスや内職などの呼び方があります。仕事の内容や税法上の取り扱いによって区別されることがありますが、いずれも収入源を多様化させる点で共通しています。
パラレルキャリアとの違い
スラッシュキャリアとパラレルキャリアは似た概念で、明確に区別するのは難しいものの、いくつかの違いがあります。パラレルキャリアは、経済学者ピーター・ドラッカー氏が提唱した概念で、本業を持ちながらもう1つのキャリアを築く働き方を指します。一方、スラッシュキャリアは必ずしも本業を特定せず、複数のキャリアを同時に進めることが多いです。
また、スラッシュキャリアでは、複数の仕事が関連性を持たないことも多く、多彩な分野で同時にキャリアを築く場合が多くなっています。一方、パラレルキャリアでは、複数のキャリアに関連性があるケースが多く、仕事同士が補完し合う形で進められることが一般的です。
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その他の働き方との違い
他にも似たような働き方があります。例えば、ハイブリッドワークはオフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方を指しますが、ハイブリッドワーカーは本業と副業を組み合わせて働く人を意味し、スラッシュワーカーやパラレルワーカーと似た働き方です。
ポートフォリオワーカーは、ベストセラー『LIFE SHIFT』で話題になった働き方で、複数の仕事を並行して行うだけでなく、組み合わせて新たな独自の仕事を生み出すことも含まれます。この点で、スラッシュワーカーやパラレルワーカー、ハイブリッドワーカーとの共通点が多く、ポートフォリオワーカーは特に仕事を組み合わせる点で独自性が強いです。
スラッシュキャリアのメリット
スラッシュワーカーとして働く側から、スラッシュキャリアを築くうえで生じるメリットをまとめて紹介します。
収入源増・リスク分散ができる
スラッシュキャリアの大きなメリットの1つは、複数の仕事に並行して取り組むことで収入源を増やせる点です。収入が1つの仕事に依存することなく、多様な仕事から収入を増額することが可能になります。さらに、収入源を分散することで、失業や倒産などの予期しない事態で本業を失った場合でも、他の仕事で収入を補って、リスクに備えられます。
複数のキャリアが相乗効果を生む
スラッシュキャリアのもう1つの大きなメリットは、複数の仕事を組み合わせることで、自分独自のキャリアや価値を生み出せる点です。異なる分野での経験やスキルが相互に作用し合い、それぞれのキャリア成長を加速させる相乗効果を生む可能性があります。
また、これらのスキルや経験を組み合わせることで、新しいアイデアや市場を開拓できる場合もあります。単一の職業では得られない新たなチャンスが生まれる点が、スラッシュキャリアの大きな魅力です。
好きなことに挑戦しやすい
スラッシュキャリアは、好きなことにチャレンジしやすい働き方という魅力があります。複数の仕事を並行することで、収入の安定性を得ながらリスク分散できるため、新しい分野や自分が本当にやりたい仕事にも挑戦しやすくなります。
多様な専門性で多面的に活躍できる
スラッシュキャリアの大きなメリットは、複数分野のスキルや知見を生かして多面的に活躍できることにもあります。複数の専門性を持つことで、企業貢献や社会貢献の幅が広がり、異なる視点から課題を解決できます。そのため、企業内で替えの効かない貴重な人材になることも可能です。さらに、さまざまなスキルや実績を積み重ねることで、自分の名前や個人の力で稼ぐ力も養われます。
スラッシュキャリアのデメリットや注意点
スラッシュワーカーとして働く際に知っておきたいデメリットや注意点を3つに分けて記載します。
体調や時間管理が難しい
スラッシュキャリアには多くのメリットがある一方で、体調や時間管理が難しいというデメリットも覚悟しておきましょう。複数の仕事を並行して続けるため、過密スケジュールに追われることが多く、タスクや納期管理が複雑化し、休みを返上して働き続ければ心身に負荷がかかりやすくなります。そのため、自分のキャパシティを考慮し、仕事量やペース配分を適切に調整することが重要です。
また、長時間労働になりがちで、体調や家族との時間といったプライベートの管理が難しく、ワークライフバランスの調整が必要になります。過労が原因で人間関係の悪化を招く可能性もあるため、自己管理能力が問われる働き方です。
専門性が低い印象を持たれる
スラッシュキャリアの注意点として、専門性が低い印象を持たれるリスクもあります。複数の分野に取り組むため、専門分野に特化している専門家と比べると、どうしても専門性が低く見られがちです。しかし、スラッシュキャリアでは、単に専門性を追求するだけでなく、異なる分野を組み合わせて独自性を発揮することが重要です。
そのため、専門性の高低だけで判断されないよう、各分野で得た経験やスキルを生かし、どのように独自の価値を生み出せるかを主張することが大切です。
複数分野のスキルや知見が必要となる
スラッシュキャリアでは、複数の分野に携わるため、それぞれの分野においてスキルや知見が必要です。限られた時間のなかで複数の分野の知識を習得するには、学習コストがかかり、効率的な自己研鑽が求められます。
また、すべての分野で高い専門性を身につけることは難しいため、どの分野でどの程度のスキルが必要かを見極め、戦略的に学び続けることが重要です。
スラッシュワーカーを雇用・業務委託するメリット
副業を許可し、スラッシュワーカーを直接雇用する場合、もしくはスラッシュワーカーに業務委託することによって得られる企業側のメリットを解説します。
幅広い知識を持つ優秀な人材の獲得ができる
スラッシュワーカーを雇用・業務委託することで、幅広い知識と高スキルを持つ人材を採用できるメリットがあります。多彩な分野で培った知見を生かし、自社に新しい視点を提供してくれるでしょう。また、副業先として自社の活動に興味を持つ人材を採用できるケースもあり、会社との相性がよい人材を得られる可能性もあります。
さらに、多分野での経験を持つスラッシュワーカーの視点は、従来の枠を超えた発想を生み出し、イノベーション創発にもつながることが期待されます。
会社のPR効果と採用競争力が高まる
スラッシュキャリアを推奨することで、企業は柔軟な働き方を提供していることをアピールでき、求職者に対して魅力的な職場として映るでしょう。また、このような働き方を認めることで社員の待遇改善にもつながり、モチベーションの向上や離職防止など、優秀な人材の流出を防ぐ効果も期待されます。
社員の待遇改善とスキルアップができる
スラッシュワーカーを雇用することは、社員の待遇改善やスキルアップにもつながります。複数の仕事を認めることで、社員が時間を有効活用し、経済的な余裕を持てるようになるでしょう。その結果、社員満足度の向上も見込めます。
さらに、本業と相乗効果のあるスラッシュキャリアを許可すれば、社員は異なる分野でスキルを磨き、それが本業にも役立つ可能性があります。社員がより豊かになることで、経済活性化にも貢献し、自社製品やサービスの売上増加にもつながるプラス効果が望めるでしょう。
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スラッシュワーカーを雇用するデメリットと注意点
企業が副業を許可し、スラッシュワーカーを雇用、もしくは業務を委託する場合の企業側のデメリットや注意点、リスクなどを解説します。
人材が流出する恐れがある
スラッシュワーカーは複数の仕事を持つため、仕事に対する執着が比較的少なく、仕事にやりがいを感じなくなったり、待遇が悪化したりした場合には、退職や契約解除につながる恐れがあります。
また、副業が軌道に乗った結果、離職や独立を選択するケースもあり、育てた人材が社外に流出するリスクが上がります。さらに、本業と類似する業種での副業の場合、情報漏洩のリスクもあるため、機密保持に対する対策が必要です。
専門性が低い可能性もある
スラッシュワーカーを雇用する際の注意点として、専門性が期待より低い可能性も認識しておきましょう。スラッシュワーカーは特定分野の深い専門性を持つことが難しい場合があり、高い専門性が求められる仕事で期待したパフォーマンスが発揮されないリスクもあります。副業に時間や体力、集中力が割かれることで、本業の成果が低下するリスクも考えられます。
まとめ
スラッシュキャリアは「エンジニア/写真家」や「ライター/コンサルタント」といったように、複数の肩書や仕事を組み合わせる注目の働き方です。働き手にもメリットが多い一方、リスクや注意点を理解すれば、雇用側にも多くのメリットや魅力があります。
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