スキル評価とは
スキル評価とは、社員が業務遂行のために有する能力や知識、経験、技術などについて、そのレベルを評価し、可視化するプロセスのことです。
スキル評価には、業務内容や職務行動で発揮される具体的なスキルレベルを把握し、人事評価の基準として評価することが含まれます。市場における競争が激化する中で、社員の保有するスキルを具体的に把握し、活用することが目的です。
スキル評価のプロセスでは、社員が自己評価を行った後、上司がその内容を認定するやり方が一般的です。
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スキル評価が注目される背景
スキル評価の必要性が高まっている背景には、最近では企業の雇用形態が、従来のメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へと移行している点が関連しているといわれています。
また、これまで把握しきれなかったスキルが具体化されることで、業務内容の整理がしやすいことや、さらなるスキルアップを目指して社員のモチベーションが向上することなど、さまざまなメリットが得られる点も、スキル評価が注目されている背景理由の1つです。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い
ジョブ型雇用とは、職務内容を明確にした上で、適切な人材と雇用契約を結ぶ手法です。対して、メンバーシップ型雇用では、日本の従来的な終身雇用制度を基に、「ヒト」を仕事に割り当てるのが一般的です。
労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏によって提起されたこの2つの概念には、社会状況に応じてそれぞれメリットとデメリットが存在します。近年では、メンバーシップ型のデメリットが顕著になり、企業の間ではジョブ型雇用への注目が高まっています。
スキル評価を導入するメリット
スキル評価の導入にはさまざまなメリットがあります。スキルを可視化することで最適な人材配置ができる点や、社員のパフォーマンス向上が図れる点など、主な5つのポイントを挙げて導入メリットを解説します。
スキルの可視化と最適な人材配置がしやすい
社員の保有スキルとそのレベルの情報を可視化することで、スキルの評価に基づいて適切な人材配置を実現できます。そのため、スキルが不足している部署に必要な人員を配置したり、より保有スキルが生かせる現場へ配置転換したりすることも可能です。適切な配置調整が行えるようになれば、効率的な業務遂行とインシデントの未然防止が期待できます。
社員のパフォーマンス向上につながる
スキル評価を通じて、個々の社員は自身が現状保有しているスキルの内容とそのレベル、求められているスキルが明確になり、自身の強みと弱みを認識できます。
可視化されたスキル情報を基に、改善すべき点や生かせる強みが明確化されます。結果として、社員が自身のスキル向上に取り組み、業務における適切な場面でスキルを活用できるようになれば、全体的なパフォーマンス向上を見込めるでしょう。
社員のモチベーション向上につながる
スキル評価を通じて保有スキルの現状を把握することで、個々の社員は、今の自分に何が欠けているかを知り、改善に向けて取り組むべき内容とその範囲を把握できます。スキルアップに向けて起こすべきアクションが具体化されて努力するようになれば、仕事に対するモチベーション向上にもつながるでしょう。
自分自身だけでなく他者のスキルも可視化されることで競争意識が芽生え、お互いに努力を重ねて自己成長できる点も、見逃せない効果です。
公正な人事評価がしやすい
適切なスキル評価の手法を基にして得られた社員のスキルに関する客観的なデータは、人事評価での能力評価に活用できます。これらをもとに、公平で透明性の高い評価システムを構築することが可能です。
公正な人事評価システムが確立されれば、社員も自身に下された評価を納得して受け入れやすくなります。人事評価への不満が解消されれば、職場の人間関係や雰囲気も改善されるでしょう。
採用戦略とスキル不足への対応がしやすい
スキル評価で明らかになるスキル不足の状況は、今後の人材育成プログラムの策定や、新たな人材の採用戦略に直結します。
不足しているスキルを補うために、個々の社員にどのような教育が必要か、本人がどう成長していきたいかを把握することで、明確な目標を立てて人材を育成しやすくなります。新たな人材の採用にあたっても、社内で不足しているスキルを軸に絞り込みが可能です。
社員の転職や急な休暇などにより生じる現場の人員不足に対しても、スキル評価をもとに適切な人員配置や育成、中途採用、外部の人材登用などを検討し、迅速に対応するための準備が可能になります。
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スキル評価を導入するデメリット
スキル評価の導入には多くのメリットが期待できる一方で、デメリットの存在も無視できません。評価対象となるスキル選定の難しさ、日常業務では可視化しにくいスキル評価の難しさなど、3つのポイントから見ていきましょう。
評価対象のスキル選定が難しい
第一に挙げられるデメリットが、企業が評価対象とすべきスキルの選定に悩むケースが多い点です。評価すべきスキルを明確化できなければ、スキル評価の仕組みの確立は困難です。
どのスキルを評価対象とするかは、既存事業での日常業務の遂行に必要なスキルはもちろんのこと、新規事業開発に関連するスキルも含めるなど、企業の業務内容を基準に選定する必要があります。
日常業務で見えにくいスキル評価が難しい
スキル評価では、日常業務では見えにくいスキルも評価対象に含める必要があります。しかし、他のスキルと異なり、これら可視化しにくいスキルを正確に評価することは、困難な作業です。
しかし、これらのスキルにも明確な基準を定めることは可能です。可視化しにくいスキルも含めて個々の社員のスキルを適切に評価することで、たとえば人手不足に陥った際や、人員配置の際にも、限られた人材を有効活用できる可能性が高まります。
評価者によるバラつきと明確な評価基準の作成が難しい
第3のデメリットが、評価者によって評価のバラつきが生じ、明確な評価基準の作成が困難になる点です。公正なスキル評価を行うには、客観的かつ組織全体で共通した評価基準の構築が欠かせません。
特に数値化が難しいスキルの評価では、明確な基準を独自に設ける必要がありますが、これはかなりのチャレンジを要する作業です。その際、たとえば、公的機関の提供するスキル評価の情報を参考にして、自社の評価基準の設定に活用することがおすすめです。
スキルの種類
スキル評価の対象となるスキルには、大きく分けて「共通スキル」と「専門スキル」の2種類があります。それぞれ特徴にどのような違いがあるのか解説します。
共通スキル
共通スキルとは、企業に属するすべての社員に求められ、会社全体で評価されるスキルのことです。企業が活動を行う特定のビジネス領域に関する基本知識、英語などの言語スキル、組織運営に必要なスキルなどが含まれます。
また、たとえばコミュニケーションスキルや情報収集スキル、資料作成スキルなど、職種や業務に関係なくビジネスパーソンとして求められる汎用スキルも、共通スキルとして挙げられます。
専門スキル
専門スキルとは、特定の事業領域や役職、職種などにおける業務遂行に必要となる高度な知識や技能を指します。専門スキルに関しては、専門性の高い業務を担う一部の社員が評価対象です。
たとえば、人事部門の場合は給与計算のスキルに加えて労働法などの法律的な知識、IT部門であればシステムやプログラミングの専門知識・スキルなどが、このカテゴリーに含まれます。なかには、業界の中でもほんの一部の人間しか持たない特殊スキルもあります。
スキル評価における2つの方法
実際にスキル評価を適切に導入するには、具体的な方法を把握する必要があります。代表的な手法である「スキルマップ」と「ルーブリック」の2つについて、それぞれの概要を解説します。
1.スキルマップ
スキルマップは、企業の社員のスキルを集約・可視化するツールです。評価対象のスキルとその結果を明確に提示するために使用されます。
この方法は、国際規格であるISO9001のスキルマップ(力量管理)にも適用されており、多くの企業で利用されています。
スキルマップには固定されたフォーマットがありません。作業内容と付随する評価を表で一覧化する形式が一般的です。企業ごとに使用目的に応じて評価の粒度や指標、付加情報などを自由にカスタマイズして活用しています。
2.ルーブリック
スキル評価に使用されるもう1つの方法が、ルーブリック評価です。最初は学校教育の現場で活用されていましたが、やがて企業でのスキル評価に用いられるようになりました。
ルーブリック評価では基準の一覧表(ルーブリック表)を用います。1つの課題に対し、縦軸に評価項目を、横軸に評価基準を配置して、それぞれのマス目に具体的な達成基準や指標を記入します。
ルーブリック評価は、特に、単純な合否判定や数値表現が困難なスキルの評価に有効です。評価基準を明確にすることで、スキル評価のプロセスをスムーズに進めることができます。
スキルマップの作成手順
スキルマップを作成する際は、まずスキルマップの準備と計画、次にスキルの階層化と粒度の定義、さらにスキルの評価基準の設定の順番で行います。各手順の詳細を解説します。
1.スキルマップの準備と計画
最初に、スキルマップの導入目的を明確にして、関係者と共有します。たとえば「社員の育成プログラムの確立」など、何のためにスキル評価を行うのかを明確化することで、評価の対象とするスキル項目や達成度の設定方法がつかめるからです。
目的を明確化できたら、業務に直接関連するスキル項目を洗い出した上で、体系的に分類します。この段階では、実際の業務フローや作業マニュアル、社員からのヒアリングに基づいて、該当する必要スキルをできるだけ詳細に把握するのがおすすめです。
2.スキルの階層化と粒度の定義
第2のステップでは、抽出したスキルを適切な階層に整理し、スキルの粒度を決定します。たとえば、大項目となるスキルに対し、小項目として関連する細かいスキルを紐づけていきます。これにより、各スキルの関連性や進行方向が明確になり、スキル間の移行や代替が容易になります。スキル名は具体的かつ判別しやすいものに設定し、必要に応じて補足説明を加えれば、使い勝手がよい内容にまとまるでしょう。
3.スキルの評価基準の設定
第3のステップでは、各スキル項目に対して、評価基準と評価段階を定め、これを基にスキルマップを作成します。ここで設定する評価基準は、スキルの習熟度や目指すべき次のレベルを明確に示すものです。
完成したスキルマップを運用して実際の業務に適用し、スキル評価を行います。必要に応じて適宜調整を加えながらより良い内容のスキルマップにしていくことがおすすめです。
ルーブリック表の作成手順
ルーブリック表の作成は、目的の明確化と必要要素のリスト化、評価観点の整理とグループ化、評価尺度と評価基準の設定の順に進めます。
1.目的の明確化と必要要素のリスト化
第一のステップでは、まず、評価対象とする業務を洗い出し、業務ごとになぜそれが必要なのか、目的を明確に定義します。業務と目的が明確化されたら、業務内容を可能なかぎり詳細に洗い出してリストアップします。
リストアップの際は、業務に必要なスキルや達成したい品質・水準をイメージに含めることが重要です。業務の目的が明確になっていることで、スキル評価での優先順位や重要度が決まります。
2.評価観点の整理とグループ化
次のステップでは、リストアップした必要要素を評価観点ごとに整理します。共通する業務内容に基づいてグループ化し、重複する項目があればまとめるようにします。
このステップでは、行動ベースでの表現を用いて、評価がしやすくなるように配慮することが大切です。各グループに付けた名前が評価観点あるいは評価基準、必要要素や重要度が評価基準の土台となります。
3.評価尺度と評価基準の設定
最後のステップでは、評価尺度の段階を決めるとともに、それぞれの段階で求められる、あるいは達成すべき具体的な水準の内容を定義します。
評価尺度には「1・2・3・4」の4段階、「A・B・C」の3段階、あるいは「〇・×」といった記号を用いるなど、さまざまな方法があります。
評価尺度と評価基準が明確に設定されれば、評価の一貫性と公正性が保たれ、教育目的にも応じた明確な評価基準が設けられます。
スキルマップを作る際の注意点
スキルマップを作成する際は、定められた手順に沿って行うのも大事ですが、いくつかの注意点があります。その中から、特に押さえておくべき主な3つの注意点を見ていきましょう。
スキル項目は具体的に挙げる
スキルマップの項目を設定する際は、実際の業務フローやマニュアルなども参考にしつつ、現場の社員や管理職などから詳細なヒアリングを行うことが必要です。
業種や役職、職種に応じて求められるスキルは異なります。業務の目的に応じて適切なスキルを選定することが重要です。かつ、各スキルの具体的な名称を明確にし、適切な粒度で分類することで、評価や育成がしやすくなります。ただし、過度な細分化は避けるべきです。
すべての社員が作成に関わる
スキルマップの作成は、管理者やリーダーだけでなく、全社員が関与することが望ましいやり方です。現場の社員の声を反映させることで、実際の業務に即したリアルなスキル要求を把握しやすくなります。
また、全社員がスキルマップ作成に関与することで当事者意識が高まり、完成後のスキルマップの受け入れや運用がスムーズになるとともに、将来的な業務効率化にも寄与するでしょう。
組織全体で共有する
作成されたスキルマップは、組織全体で共有して運用することが重要です。スキルマップの情報を全社的に公開することで、スキル評価の透明性を保ち、社員のエンゲージメント向上を図ることができます。
必要に応じて、スキルマップに基づいたトレーニングや育成プランの策定も進めることも効果的です。スキルチェックの結果に基づいて、個々の社員に対し、スキルアップに向けた的確な提案や指導が可能になります。
まとめ
スキル評価の導入を通じて、可視化されたスキルに基づき的確な人材配置がしやすくなるとともに、社員のパフォーマンスやモチベーション向上、公正な人事評価の実現が期待できます。全社員が関わるかたちでスキルマップを作成して評価項目と評価基準を明確に設定し、組織全体に共有することで、運用がスムーズになり、業務効率化にも寄与するでしょう。
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