国内企業における近年の離職率
離職率とは、一定期間において、その企業からどれだけの社員が離職したかを表す指標のことです。厚生労働省が発表した「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、日本企業における離職率の平均は15.0%でした。前年の結果である13.9%を、1.1%上回っています。
離職を検知する7つのアプローチとは?データ活用により離職防止を実現
厚生労働省の雇用動向調査結果から分かる主な離職理由
前述した厚生労働省の資料によると、社員の主な離職理由は以下の3つです。
・定年・契約期間が満了したため
・労働時間、休日などの労働条件が悪かったため
・職場の人間関係が好ましくなかったため
理由1.定年・契約期間が満了したため
主な離職理由の1つに、定年退職や契約期間の満了があります。上記調査によると、この理由で離職した対象者の割合は、男性が16.5%、女性が12.3%でした。
理由2.労働時間、休日などの労働条件が悪かったため
労働時間や休日に関する労働条件に納得できなかったという理由でも、多くの人が離職を選んでいます。この理由で離職した対象者の割合は、男性が8.0%、女性が10.1%でした。近年は、ワークライフバランスを大切にする傾向が顕著です。働き手を確保するにあたり、企業にとって働きやすい環境の整備が急務といえます。
理由3.職場の人間関係が好ましくなかったため
職場の人間関係が好ましくなかったという離職理由も目立ちました。この理由で離職した対象者の割合は、男性が8.1%、女性が9.6%でした。多くの時間を過ごす職場であればこそ、人間関係の問題は離職に直結しやすいと考えられます。
厚生労働省の雇用動向調査結果を活用するポイント
厚生労働省の雇用動向調査結果に記載のある離職理由を見て、自社ではどのような状況が該当するか具体的に検討しましょう。具体化して考えると、自社における離職理由の要因を推測できます。
たとえば「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」とあれば、自社の労働条件は他社と比べてどの程度悪いかなどと考えるとよいでしょう。
【男女別】離職につながりかねない職場トラブル
以下で解説する内容は、離職につながりやすい職場トラブルです。独立行政法人労働政策研究・研修機構は、「初めての正社員勤務先で経験した職場トラブル」を調査しています。結果、男性は残業代の未払い、女性は多大な業務負担を理由にトラブルが発生しがちでした。
※参考:調査シリーズNo.164 若年者の離職状況と離職後のキャリア形成|独立行政法人労働政策研究・研修機構
【男性に多いトラブル】残業代の未払い
多くの男性が、残業代の未払いトラブルを経験しています。勤続者で残業代の未払いがあったと回答した人は全体の25.2%で、離職者の場合は38.1%でした。
働いた分の報酬が支払われなければ、仕事や職場への愛着が低下します。未払いが改善されなければ離職を選ぶことは、容易に納得できるでしょう。
【女性に多いトラブル】多大な業務負担
女性の場合、人手不足による業務の多忙さを訴える割合が高くなっています。勤続者で多忙さを訴える人は全体の33.1%であるのに対し、離職者では40.0%です。また、男性と同様に、女性でも、残業代の未払い問題を経験した人が多く見られました。
社員個人に関する主な離職理由10選
社員個人に関する主な離職理由を深掘りします。自社に当てはまりそうなものがないか確認してみましょう。
離職を検知する7つのアプローチとは?データ活用により離職防止を実現
1.勤務条件や休暇制度に不満があったため
勤務条件や休暇制度への不満は、離職理由の多くを占めます。サービス残業やサービス出勤が当たり前になっている、入社前の説明と実際の勤務条件が違っていた、などがよくある不満の原因です。
勤務条件に納得して入社した場合でも、実際に勤務するなかで不満を感じると離職するケースが少なくありません。他社で働く知人の話を聞いた結果、自社の勤務条件や休暇制度に不満を抱く人もいるでしょう。さらに、同じような職場から転職して成功した人の状況を知り、自分も離職した方がよさそうと考える人もいます。
2.職場の人間関係に問題があったため
職場における人間関係の問題も、離職の主要な理由です。上司との相性の悪さや、部下とのコミュニケーションの難しさ、仕事の進め方の違いを発端とした軋轢、身に覚えのない理不尽な叱責など、職場にはさまざまなタイプの人間関係の問題が発生します。
人間関係の問題は、当事者にストレスを抱えさせるだけではなく、業務のパフォーマンスにも直接的な影響を及ぼすでしょう。人間関係が悪化した結果、悩みを打ち明けられる相手を見つけられない人もいるかもしれません。疎外感や孤独感に悩む社員は、離職を考えるようになります。
3.心身に不調が生じたため
厳しい労働環境や職場の人間関係が原因となる心身の不調も、離職理由の1つです。疲労から病気やケガをしたり、心労から業務に集中できなくなったりした社員は、状況が悪化しないうちに離職した方がよいと考えるでしょう。
離職せず一時的に休職するという手もありますが、復帰したときに問題が解決されているとは限りません。また、復職できた場合でも、問題が解決していなければ再び心身の不調が生じる可能性があります。結果として、離職せざるを得なくなる人もいるでしょう。
4.家庭生活の変化に伴い退職を選択したため
家庭生活の変化に伴う退職は、女性に多く見られる離職理由です。結婚や出産を機に仕事を離れる女性は多く見られます。職場の制度や環境が整っていない場合、社員本人が働き続けたいと思っていても、仕事と家庭の両立が困難です。
近年、働き方改革により、徐々に働きやすい環境が整いつつあります。しかし、制度が整備されていても、実際は利用しにくかったり、上司や同僚の理解が得られなかったりすると、仕事を続けることは難しいでしょう。
5.業務内容が自身の志向とマッチしなかったため
業務内容のミスマッチも、よくある離職理由です。実際に働いてみて自身の志向との差に気づく人もいれば、自社についてよく調査せず入社した結果ミスマッチを感じる人もいます。
特に仕事経験が少ない若手社員は、自分の適性がよく分かっていません。働き続けるうちに仕事に慣れ、当初感じていたミスマッチ感が軽減されたり、仕事へのモチベーションが向上したりする可能性もあります。しかし、ミスマッチを理由に早々と離職を選択する人も少なくありません。
6.給与体系に不満があったため
給与体系への不満も、離職理由として一般的です。他社と比べて給与水準が低い、他の社員と比べて自身の給与に納得できない、などが具体的な離職理由といえます。
近年、転職エージェントのようなサービスが数多く登場し、転職はより身近なものになりました。給与体系をはじめとする待遇面で魅力的な条件を提示する企業があれば、社員の流出リスクは高まるでしょう。
7.キャリアを追究したかったため
キャリアアップを目指して、離職を選択する社員も少なくありません。具体的には、キャリアアップにつながる教育制度が充実していない、目指したいポジションがない、などが離職の動機となります。また、ここにいても自分は力を発揮できない、もっと多くの企業で働いて経験値を積みたい、などと感じた社員も離職を検討するでしょう。
8.仕事に対して自己肯定感が低下したため
自身の仕事能力に不安を感じ、離職を検討する社員もいます。仕事がうまくいかない要因は、社員本人の問題とは限りません。教育体制の不備や、社内のコミュニケーション不足が原因で、パフォーマンスを発揮しきれていない可能性もあります。
また、能力不足を疑われることを恐れ、自分から質問せず、分かったふりをして業務を続ける社員もいるでしょう。分からないまま仕事を続けると、スキルギャップは拡大し、業務改善の機会は徐々に失われていきます。
9.過度な目標や責任が重荷となったため
自身の実力に対して高すぎる目標を課せられている社員も、離職の懸念があるでしょう。仕事経験の浅い社員からすると、高すぎる目標を課せられても、達成への道筋が見えません。
どのように行動すれば目標や責任を全うできるのか分からないと、社員は無力感や挫折感を覚え、結果として離職を選択してしまうでしょう。
10.企業の成長性に疑問を感じたため
企業の成長性に疑問を感じた結果、離職を選択する社員もいます。社員が企業の成長性を懸念する要因は、以下のとおりです。
・業界内での競争力が低下している
・他社と差別化できる要素がない
・サービス残業が多い、ワークライフバランスを軽視しているなど、時代錯誤の風土がある
・経営陣に決断力や行動力がない
・組織全体として、モチベーションが低いと感じる
離職率を引き上げる近年の社会環境
離職率について、近年の社会環境に触れつつ解説します。離職率上昇の要因の1つが、転職に対する障壁の低下です。
転職を支援するサービスの急増
転職エージェントをはじめとする転職を支援するサービスの急増は、離職率上昇の一因となるでしょう。たとえば、転職エージェントに登録しておくと、転職に関する情報や、自身の希望とマッチする企業からのスカウトを受けられます。現在の職場に勤めながらも、比較的容易に転職活動が可能です。
また、転職を支援するサービスが増えただけではなく、中途採用に積極的な姿勢を示す企業も増加傾向にあります。
終身雇用制度の崩壊
近年、終身雇用制度から、成果を重視する制度へとシフトする企業は少なくありません。成果を出せないまま1つの企業に勤め続けると、昇進や昇給の機会が限られたり、リストラの対象となったりするリスクがあります。
将来を不安視した結果、勤務先に頼らず、自身のキャリアを主体的に考える社員が増えました。キャリアを主体的に考える傾向と、前述した転職市場の活性化が相まって、離職率の上昇につながっていると考えられます。
オンラインによる情報収集のしやすさ
オンラインで手軽に情報収集できるようになった環境も、離職率上昇の要因の1つです。企業サイト以外にも、SNSや口コミサイトなどを活用すると、多くの情報に触れられるでしょう。しかも、情報収集が容易になっただけではなく、個人による情報発信も活発化しました。
多くの情報により企業同士の比較が容易になった結果、自身のニーズやキャリアに適合する企業を見つけ出しやすくなっています。
離職を食い止める方法
社員の離職率が高まると、組織の生産性や競争力に影響するかもしれません。離職を食い止める方法を紹介するため、対策を検討しましょう。
離職を検知する7つのアプローチとは?データ活用により離職防止を実現
人事評価制度と教育制度を見直す
離職を食い止めるには、透明性が高く、客観性が高い人事評価制度を実現すべきです。納得できる人事制度であれば、社員は働きに応じた評価が得られていると実感できます。また、評価制度により、社員は自身のレベルを理解でき、キャリアアップに向けて適切に努力できるでしょう。
人事制度に加え、教育制度の整備も重要です。現在の職場でキャリアアップの機会が十分にあると認識できれば、離職率の低減につながる可能性が高まります。
社員の考えを知る
離職につながる兆候を探るために、定期的な1on1ミーティングなどで、社員の考えを把握しましょう。今まさに抱えている課題や、キャリアに対する考え方を把握していれば、突然の離職を減らせる可能性があります。
たとえば、心身に不調を感じている社員を見つけた場合は、負荷を低減するように仕事の量や内容を調整するとよいでしょう。仕事に対して自己肯定感が低下している社員を発見したときは、フォローに向けた体制を整えてください。
労働環境や待遇を見直す
自社の労働環境や待遇を他社と比較して、見直すべきかどうかを判断しましょう。前述した厚生労働省の調査に見られたように、労働条件を理由に離職する社員は数多くいます。転職しやすい環境が整っている近年、労働環境や待遇の問題は、離職に直結するでしょう。
なお、待遇改善を検討する際は、給与水準だけでなく、福利厚生制度の内容や利用のしやすさにも注目する必要があります。福利厚生制度により働きやすい職場を実現できると、離職率が低下すると考えられるためです。
タレントマネジメントシステムを導入する
前述のとおり、人事評価制度と教育制度を見直し、社員の考えを把握するよう努めると、離職を食い止められる可能性があります。離職率低下に向けた施策を効率よく実行するためには、タレントマネジメントシステムの導入がおすすめです。社員のさまざまなデータを一元管理することで、データの分析・活用にも役立つでしょう。
また、離職の食い止めだけではなく、効果的な人事戦略や、社員エンゲージメントの向上などにも、タレントマネジメントシステムは貢献します。
離職を検知する7つのアプローチとは?データ活用により離職防止を実現
まとめ
社員の離職理由はさまざまです。人事評価制度や教育制度を見直して働きがいがある職場環境を整えたり、定期的なミーティングなどで社員の考えを把握したりすると、離職を食い止められる可能性があります。離職率低下に向けた取り組みを効果的に進めるために、タレントマネジメントシステムの導入を検討してはいかがでしょうか。
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