組織の生産性を低下させる1つの要因がリンゲルマン効果です。本記事では、リンゲルマン効果の意味をはじめ、具体的な事例や原因について解説します。また、リンゲルマン効果が企業にどのような影響を与えるのかもまとめました。企業における対策もまとめているので、自社の生産性を上げるためにも参考にしてください。
リンゲルマン効果とは?
まずは、リンゲルマン効果の特徴や他の用語との違いについて解説します。
リンゲルマン効果の特徴
リンゲルマン効果とは、フランスの学者「リンゲルマン」によって提唱された理論です。「社会的手抜き」「フリーライダー現象」「社会的怠惰」などとも呼ばれ、集団での共同作業のときに起きる現象を指します。
リンゲルマン効果は、肉体的な行動のみならず、認知的な行動においても起きてしまうのが特徴です。1人で作業を行う場合と、複数人で作業を行う場合では、1人あたりの生産性が低下してしまいます。作業者が増えるに従い、1人あたりの生産性も低下することが特徴です。
リンゲルマン効果と傍観者効果との違い
リンゲルマン効果とよく似た言葉に「傍観者効果」があります。傍観者効果も集団心理の1つです。傍観者効果は、参加者や目撃者が多いほど傍観者と同化する傾向にあり、個人が本来のパフォーマンスを発揮できない現象を表します。
リンゲルマン効果と傍観者効果の共通点は「誰かがやるだろう」という心理です。ただし、リンゲルマン効果は無意識の状態で発生する一方で、傍観者効果は他人の行動を見た結果、意図的に「自分は行動しない」と判断する点で異なります。
リンゲルマン効果の実験例
リンゲルマン効果への理解を深めるために、2つの実験例を紹介します。
綱引きの例
リンゲルマン効果を提唱したリンゲルマン博士の「綱引きを用いた実験」では、綱を引くチームの人数が増えるほど個人の出力が減少することが分かりました。以下のように、綱を引くときの1人あたりの出力は人数が増えるほどに低下します。
・2人の場合93%
・3人の場合85%
・4人の場合77%
・5人の場合70%
さらに綱を引く人数が増えると1人あたりが発揮する力は落ち、8人を超えると「持っている力の半分以下」になるという実験結果になりました。
チアリーダーの例
次は心理学者「ラタネ」と「ダーリー」による「チアリーダーに関する実験」です。2名のチアリーダーに目隠しとヘッドフォンを装着してもらいました。互いの状況が分からないようにしたうえで、1人の場合とペアの場合の2パターンで大声を出してもらう実験です。
実験の結果、ペアで大声を出した場合は、1人の場合に比べて94%の音量に留まっています。しかし、チアリーダーの2人はどちらのケースも手を抜いたつもりはなく、全力で声を出したと感じていました。つまり「集団作業では意識せずとも手を抜いてしまう」という現象が起こり得るといえます。
リンゲルマン効果がもたらす企業の具体例
リンゲルマン効果がどのような現象であるか分かったところで、リンゲルマン効果が社内で起こる影響について解説します。
業務中のネットサーフィン
雑誌「ニューズウィーク」によると、アメリカ全土の就業者の約9割が、仕事中にインターネットを私的に利用していることが分かりました。そのなかで就業者の8割以上の人は、私的なメールも送信しており、いずれも無意識のまま行われています。
私的にインターネットを利用している時間に本来の業務ができていれば、作業効率は上がり、生産性に反映するでしょう。ただし、就業者に悪意があるわけではなく、むしろ無意識の行動であることがポイントです。したがって、管理者や上司は、社員のモチベーションを損なわないよう慎重に対策を講じる必要があります。
ダブルチェックでのミス
人数が多い企業や複数人で行う作業では、心のどこかで「誰かがやるだろう」という考えが無意識に働いてしまいます。そのようなリンゲルマン効果が続くと、複数人で行うダブルチェックの際にも「何回かに数回はミスが起きてしまっても仕方ない」という雰囲気が生まれてしまうので注意が必要です。
企業内でリンゲルマン効果が起きる原因
リンゲルマン効果が社内で起こってしまうのは、以下のようにいくつかの原因があります。
責任感の欠如
責任感がない人は、仕事の能率を低下させたり他人任せになったりします。「誰かがやるだろう」「自分がやらなくても問題ないだろう」などの気持ちは、手抜きにもつながるので注意が必要です。責任感を意識させることは、個人が社会的な信用を得ると同時に、生産性を高めることにもつながります。
集団内の同調行動
リンゲルマン効果は、集団内における「同調行動」とも深い関係があります。同調行動とは、周りの意見や行動に合わせて、自らの意見や行動を決める現象です。同調行動は、意識の有無にかかわらず行われます。あまり好みではなくても流行の服を着る行為も同調行動の1つです。
たとえば、高い意欲を持つ社員がいても、周りにいる同僚のモチベーションが低下していると、同調によって仕事への意欲を失う可能性があります。
コミュニケーションの不足
組織やチームに所属していることへの意識が希薄になると、リンゲルマン効果が発生するリスクが高まります。特にチーム内でのコミュニケーションが不足すると、メンバー同士の信頼関係や連携が弱まり、組織への愛着心が薄れやすいでしょう。愛着心が失われると、貢献したいという気持ちも減退し、無意識のうちに仕事への意欲が低下します。
たとえば、リモートワークでは対面でのやりとりが減少するため、意思疎通が不十分になりがちです。適切なコミュニケーションの機会を設けることで、チーム全体の意識を高め、リンゲルマン効果を抑止できます。
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勤怠管理システムの未整備
勤怠管理システムとは、出退勤の時間を管理するシステムです。勤怠管理システムによって、社員の出退勤時刻の把握や適切な労働時間の管理ができます。勤怠管理システムが整備されていないと「管理されている」という緊張感から開放され、無意識のまま手を抜く場面が多くなってしまうので注意が必要です。
業務の振り分け
業務の振り分け方法が適切でない場合も、リンゲルマン効果が生じやすくなります。振り分けが明確でないと当事者意識が低下してしまい「誰かがやるだろう」という思考になりがちです。業務の範囲や担当者が不明瞭の場合は責任の所在が分かりにくいため、パフォーマンスが低下しやすくなるでしょう。
評価システムの不備
貢献度に対する評価制度が不透明の場合は、モチベーションの低下を引き起こしかねません。たとえば「自分のノルマさえ達成していれば、それ以上何もしなくてもよいだろう」など、成果を求めない考え方の人も現れる可能性があります。
貢献度の高い社員を評価システム不備のために放置すれば、社員は不満を感じやすくなるでしょう。「頑張っても評価されない」など、周囲も感覚が麻痺してしまうケースもあり、やる気や貢献意欲の減退につながります。
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リンゲルマン効果が発生しやすい企業の特徴
リモートワークを導入している企業は、社員が「監視されていない」「管理されていない」という考えに陥りやすく、リンゲルマン効果が生じる可能性が高くなります。また、社員に自主的な行動や決定を行う権限があまり与えられていない場合も、自分の役割や貢献がはっきりせず、手を抜きやすい状態です。
さらに、経営層や管理職にリンゲルマン効果の傾向がある場合は、組織の発展を妨げることがあるので注意しましょう。現状維持の状態が続きやすく、組織が衰退していく原因にもなります。
リンゲルマン効果が企業に与える影響
ここでは、リンゲルマン効果が発生・持続・増加すると、企業にどのような影響を与えるのか、詳しく解説します。
生産性への影響
リンゲルマン効果が社内に広がっていくと、知らない間に手を抜く人が増えてしまう可能性があります。次第に組織内の作業効率が悪くなり、生産性の低下を招く恐れもあるでしょう。
生産性が低下すると1人あたりの作業量も低下してしまい、チェックミスも増えやすいなど、余分な業務が発生する要因にもなります。さらに深刻な事態になると、優秀な人材が離職に至る可能性も高まり、生産性に大きく影響するでしょう。
モチベーションへの影響
リンゲルマン効果は、社員のモチベーションを低下させるリスクもあります。気づいたときには、組織内にすでに広がっていたというケースも少なくありません。集団内の同調行動により、モチベーションが高い人も「手を抜くことが当たり前」と思うようになってしまう可能性があります。
仕事に対して「憧れ」や「熱意」のある若手社員や新入社員の離職率増加につながるリスクも高まるため、注意が必要です。
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フリーライダーへの影響
リンゲルマン効果は、集団作業においてフリーライダーの出現を促す要因となるケースがあります。フリーライダーとは、他人の努力に依存しながら、自分はほとんど貢献しない人のことです。
もともとは経済学で、対価を支払わずに公共財を利用する人を意味しますが、ビジネス環境では「組織に対して十分な労力を提供せず、他者の成果に便乗して利益を得る人」として捉えられます。
フリーライダーの存在は、他のメンバーに不満を引き起こしかねません。「なぜ自分の負担が多くなるのか」「なぜ貢献している自分が評価されないのか」という感情が芽生えることで、職場の士気が低下し、パフォーマンス全体にも悪影響を及ぼす可能性があります。
企業におけるリンゲルマン効果の対策
企業への影響を防ぐためにも、リンゲルマン効果への対策は必要です。そこで、具体的な6つの対策を解説します。
評価システムの整備
評価システムの不備は、リンゲルマン効果を生み出す原因になります。そこで、適切な評価システムを整備することが重要です。個人の評価基準を明確化して、貢献の度合いが公平に評価される仕組みを整える必要があります。
人数の多い組織やチームの場合は「相互評価制度」を導入するのもおすすめです。相互評価制度では、一定の評価基準に従って社員同士が評価します。また、評価は可視化することも重要です。自分の貢献が周囲に伝わってないと感じると、モチベーションが低下してしまいます。評価が可視化されれば、能率の低下も防ぎやすくなるでしょう。
役割分担の整備
先に解説したとおり、業務の振り分け方法が適切でないとリンゲルマン効果が起こりやすくなるため、各自の役割分担を明確にしましょう。責任の所在を明らかにすると「誰かがやるだろう」という無意識の感覚がなくなります。
各自の当事者意識が芽生えると、本来のパフォーマンスが発揮されるでしょう。ただし、各自の業務を独立化させるのは得策ではありません。各役割に相関性を持たせることで、自分の業務が他の人にも影響を与えることが理解しやすくなり、互いに責任感を持ちやすくなります。
少数精鋭制の導入
リンゲルマン博士による綱引きの実験では、集団の母数が大きいほど、社会的な手抜きの度合いが大きくなることが分かりました。つまり、少数精鋭制を導入すれば、集団の母数が小さくなり、手を抜く度合いも小さくなります。さらに、少人数制では目が届きやすくなるため、それぞれの働きも可視化されるでしょう。チーム編成を可能な限り少人数にして、個人の責任が薄まらないようにすることもよい方法です。
1on1ミーティングの実施
リンゲルマン効果を防ぐために、定期的に1on1ミーティングを行うことも効果的です。リーダーを中心に、メンバー間で定期的に面談の機会を設けます。上司やメンバーと対面で話すことで、自分を分かってもらえているという満足感や安心感が生まれやすいでしょう。
1on1ミーティングでは、目標の進捗、協力してほしいこと、日頃の困りごとを話し合い、協力関係を強化します。コミュニケーションを活性化し、メンバー同士の無関心を生まない取り組みとしても有効です。
当事者意識の創出
組織では、所属人数が多いほど個人の存在感が薄くなります。仕事の能率を下げないためにも、意欲を高めつつ主体的に行動してもらうことが重要です。「自分のポジションがある」「プロジェクトの一員である」などの当事者意識を持たせることで、個人の存在感を意識してもらいましょう。
職場環境の見直し
職場環境を整備することもリンゲルマン効果の対策として有効です。「誰かに評価してもらっている」「誰かに応援してもらっている」などの喜びは、積極的かつ前向きな行動を後押しします。上司と部下やチーム全体など、互いに応援できる関係性を構築するのもよいでしょう。
リンゲルマン効果を考慮したチームとは
チーム作りをする際は、リンゲルマン効果を考慮しなければなりません。具体的なチームづくりの方法を解説します。
チームに何が必要かを明確にする
リンゲルマン効果に陥らないためには、チームで明確な役割分担と目標設定を行うことが不可欠です。メンバー全員が自分の職務や責任を明確に理解し、遂行するために果たすべき役割が可視化されていれば、チームにする環境が整います。
また、チーム内での信頼関係を構築するため、定期的なフィードバックや進捗報告が行われ、目標が共有されているかも確認することが重要です。
チーム構成を工夫する
個人の仕事の能率を下げないためには、チーム内の意思疎通が欠かせません。さまざまな属性・経験・スキルの人材をチームに所属させ、交流を図るのもおすすめです。チーム内の問題をうまく引き出せるように、聞き役をチーム内に割り当てておくとよいでしょう。
まとめ
リンゲルマン効果は、無意識の状態で行われ、組織内の生産性やモチベーションの低下を招きます。職場環境の見直しや社員の意識改革によって対策できますが、評価システムの導入も有効な対策です。
タレントパレットは、リンゲルマン効果を防ぐために必要な「評価の可視化」「1on1ミーティング管理」などの機能を備えたタレントマネジメントシステムです。人材データの一元管理により、個人の貢献度を可視化し、適切な評価と動機付けを支援します。大手企業での導入実績も豊富で、組織の生産性向上に効果を発揮しています。リンゲルマン効果対策の一環として、ぜひご検討ください。