企業の採用活動において、採用マーケティングを導入した採用方法に注目が集まっています。従来の方法から、採用マーケティングを導入した採用活動を行った方がよいのか検討している企業もあるでしょう。
これから導入を考えている企業の担当者の方に向けて、採用マーケティング戦略の策定方法を解説します。採用マーケティングに注目が集まる背景や、導入によるメリットも述べるため、参考にしてみてください。
採用マーケティングとは
採用マーケティングとは、マーケティングの手法を取り入れた採用活動のことです。採用マーケティングでは、自社の認知度向上と求職者を自社のファンにするための仕組みを作成します。各企業による採用競争が激化している状況において、企業が求める人材を集めるための手法として採用マーケティングは有効といえるでしょう。
採用ブランディングとの違い
採用マーケティングと似たような意味で使用される言葉として、採用ブランディングがあります。しかし、採用マーケティングとは目的が異なり、採用ブランディングは自社の魅力をアピールして入社後をイメージしてもらいやすくする狙いがあります。自社の認知度向上や求職者の入社意欲向上を目指して、企業をブランド化する戦略です。
採用マーケティングが注目される理由
多くの企業から採用マーケティングは注目されていますが、なぜ注目を集めているのでしょうか。採用マーケティングが注目されている理由を解説していきます。
人材不足による採用競争の激化
少子高齢化に伴って労働人口が減少し、各企業における採用競争が激化していることが理由のひとつとして挙げられます。企業が求める優秀な人材であればあるほど、他の企業も採用したいと考えているため希少価値が高くなります。
企業が求職者を選ぶ時代から、求職者から選ばれる時代に変化してきたため、採用マーケティングに取り組むことが求められるようになりました。
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採用手法の多様化
採用手法が多様化してきたことも、採用マーケティングが注目されるようになった要因です。従来はフリーペーパーや求人サイトなどの求人広告や、人材紹介により採用が行われるのが主流でした。
しかし近年は、求人広告や人材紹介以外にも、SNSやオウンドメディア、エージェント、ダイレクトリクルーティングなど、採用手法の多様化が進んでいます。従来と異なる採用手法を導入する場合、求職者に対するアプローチ方法も変更する必要があります。
新卒採用の早期化・長期化
新卒採用が早期化・長期化していることも、採用マーケティングが注目されている理由です。「キャリタス就活2024 学生モニター調査結果」によると、2024年卒業予定の学生のうち、大学3年生の時点で内定をもらっていた学生は、32.4%にも及びます。
採用時期になった時点で新卒学生に向けて採用広告を出すのでは遅く、優秀な人材はすでに他の企業から内定をもらっている可能性が高いでしょう。求める人材を採用するためには、学生の価値観やタイミングに合わせた採用活動を行うことが不可欠といえます。
採用マーケティングのターゲット
採用マーケティングにおけるターゲットとなる人材について解説します。
転職したい人
採用マーケティングでは、潜在的・顕在的な転職希望者をターゲットにしています。転職をしたいと考えているものの転職活動に取り組めていない人材や、自社を認知していない人材に対してアプローチできるため、応募者数の増加を目指せるようになります。
また、選考に進んでいる候補者に対しても、内定承諾までのストーリーを明確に示すことが可能です。採用にかかる業務効率の向上を目指すことにもつながるでしょう。
自社の社員
採用マーケティングにおける思考では、自社の社員も既存顧客として考えます。
採用マーケティングでは、自社のファンをつくることが取り組みのひとつです。自社の社員をファンにできれば、モチベーション高く働いてもらうことが可能になるでしょう。またファンとなった社員が、自社に関する情報や口コミを対外的に行うことで、新たなファンをつくることが期待できます。
リファラル採用やアルムナイ採用の活性化にもつながるため、自社の社員をターゲットとして考えることは重要です。
アルムナイ
アルムナイとは、退職者・離職者を意味します。具体的には、定年退職以外の理由で自社を辞めた元社員のことです。退職した元社員を再雇用する手段としても、採用マーケティングは活用できます。
一度は何かしらの理由で退職してしまったアルムナイに対し「また戻りたい」と思ってもらえるような魅力を打ち出すことで、出戻り社員として再雇用を行います。企業としても、自社の業務内容や事情、社風を知っていて、ノウハウも身に付けているアルムナイであれば、即戦力として活躍してもらえるでしょう。
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過去に不採用になった候補者
採用マーケティングでは、過去に不採用になった候補者や転職意欲が低い内定辞退者もターゲットにあたります。過去に不採用になった場合、SNSや掲示板でマイナスな口コミをされてしまうかもしれません。マイナスな印象を広めないためにも、再度候補者となってもらえるよう魅力を伝えることが大切です。
内定辞退者の目にも留まるようになると、現在は転職意欲が低くても、気持ちが変わったときに再度候補者となってくれることが期待できます。
採用マーケティング導入のメリット
採用活動に採用マーケティングの手法を導入するメリットについて解説します。
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応募者数の増加
自社の認知度が上がることで、応募者数の増加が見込めるようになります。採用マーケティングでは、従来の採用活動ではターゲット外となっていた退職者や選考参加者も対象として、自社の魅力を積極的に発信可能です。
採用の母集団を拡大するための手段として、採用活動にマーケティングの思考を活用することは有効といえます。これまで自社に関心がなかった転職潜在者にも自社を知ってもらう直接的なきかっけとなるでしょう。
自社にマッチした人材の発掘
採用マーケティングの手法では、採用したいペルソナを設定することが重要です。ペルソナの設定によりロードマップが最適化されるため、自社の求める人材を見つけやすくなります。
自社のメッセージ・社員・文化・福利厚生などの魅力を伝えることで、転職潜在層に向けてもアプローチ可能です。求職者からも自社が自分に合うか・合わないかを判断してもらえるよう、多角的に自社について伝えると、入社後のミスマッチを避けられます。
採用コストの削減
求人広告やエージェントなど、打ち出しが高額な媒体に依存しなくて済むため、採用活動にかかるコストの低減が期待できます。採用にかかるコストの最適化により、長期的なコスト削減も可能でしょう。また、採用活動における課題を自社で蓄積して分析もできるため、費用対効果の高い採用活動を継続的に続けられます。ただし、採用活動に使用している媒体自体を知ってもらうことが欠かせません。
採用マーケティングの進め方
採用マーケティングを効果的に進めるためには、進め方を知っておく必要があります。採用マーケティング実施の流れを解説します。
1.自社の分析・把握
まずは、自社の分析や状況の把握が欠かせません。何を発信するのか明確にしておかなければ、採用マーケティングを効果的に活用するのは難しいでしょう。求職者に「この企業は自分に合うかもしれない」と感じてもらえるよう、自社の魅力を分析・把握して、発信する必要があります。
自社の魅力を知るためには「市場」「事業」「業務」「人」「文化」「制度」など、企業の構成要素を洗い出し、その内容を採用マーケティングのコンセプトとして施策に反映します。実際に働く人材が感じている魅力もあわせて発信すると、より高い効果を発揮できるでしょう。
2.ターゲット・ペルソナの設定
自社が求める人物像を明確にし、ターゲット・ペルソナとして設定します。ペルソナとは、ターゲットを象徴する架空の人物設定のことであり、具体的にすればするほどよいとされています。しかし、理想が高すぎるペルソナを設定しても、実際に見つかりにくい可能性がある点も留意しておきましょう。
自社が採用したい人物像と、自社が採用できる人物像を設定し、折衷案でペルソナを設定すると現実的かつ理想的な人物像となります。
3.キャンディデートジャーニーの設定
キャンディデートジャーニーとは、カスタマージャーニーの求職者版です。求職者が情報収集から応募・入社に至るまでの行動や考えを時間軸で見える化し、ストーリーとして組み立てます。
組み立てたストーリーのなかで自社が求職者とどのような接点を持ち、どのような訴求をするのかを整理するために活用可能です。キャンディデートジャーニーの設定は、求職者が採用に至るまでの過程を明確にするためにも欠かせないプロセスです。
4.ファネルに応じたチャネルの選定
設計したストーリーに応じたチャネルの設定を行います。求職者のニーズに対するアプローチ方法を考え、「認知」「応募」「選考」「入社」の各フェーズで自社の魅力を伝えましょう。各段階で候補者の意欲を高めるため、以下のように設定します。
フェーズ | 目的 | チャネル |
---|---|---|
認知 | 求職者から自社に対して好印象を持ってもらう | ・インタビュー記事 ・求人媒体 ・プレスリリース ・SNS ・Webメディア露出 ・YouTube ・SEO |
応募 | 複数社の選考を受けていると想定し、自社に対する入社意欲を高める | ・ダイレクトリクルーティング ・採用サイト ・リファラル ・採用広報記事 ・カルチャーデック ・応募者への会社説明資料 |
選考 | 求職者の入社意欲を高め、安心して選考に進んでもらう | ・応募者への会社説明資料 ・採用広報記事 |
入社 | 内定から入社までのフォローを行い、内定承諾をしてもらう | ・オファーメッセージ ・採用広報記事 |
5.コンテンツを企画
求人を打ち出す広告やイベント、セミナーなどのコンテンツを企画・開催します。メディアのコンテンツを企画・制作するのもおすすめです。ただし、活用するコンテンツによっては工数が多く、負担が大きい可能性があるため、外注化した方がよいケースもあります。
自社で取り扱いやすく、問題なく運用できるコンテンツから始めると、負担を少なく始められるでしょう。コンテンツ管理ツールや動画作成に適したツールなど、コンテンツ制作をサポートするツールは幅広く存在しているため、活用しながら運用するのがおすすめです。
6.実践・改善
実際に採用活動を開始し、エントリー率やページビュー数などのデータを管理・分析します。蓄積したデータを基に改善を行うことで、成功につなげることが重要です。
データが蓄積した場合でも、短期間のデータだけで結果を判断するのは危険なため、長期的に取り組む必要があります。数か月~年単位で運用と分析を繰り返すことで、より正確な分析結果を出せるようになり、改善に取り組みやすくなるでしょう。
採用マーケティングを成功させるコツ
採用マーケティングを成功させるためのコツを解説します。
フレームワークの活用
採用マーケティング成功のためには、後ほど解説する「3C分析」「4P分析」「SWOT分析」といったフレームワークの活用がおすすめです。フレームワークを活用すると、適切な分析・戦略の策定が可能になります。
活用するフレームワークによっては、自社の強みや弱みを把握できたり、自社がおかれている環境を分析できたりします。目的や効果に合わせたフレームワークを導入するとよいでしょう。
人事戦略に効果的なフレームワークとは?おすすめの方法や基本の考え方も徹底解説
マーケティング力の強化
採用担当者がマーケティング力を向上させることも、採用マーケティングの成功には不可欠といえます。従来は採用を通して人と接する機会が多かったため、営業職のような能力が求められていました。
しかし、採用活動にマーケティングの要素が大きく関わるようになってきたことで、データの分析力や、魅力的なコンテンツの企画力も求められるようになっています。また、ページビュー数やクリック率などの数字を分析する能力も高める必要があるでしょう。
ファネルごとに活動を最適化
採用マーケティングでは、入社前から入社後までの段階をファネルとして捉えています。「認知」「応募」「選考」「内定・入社後」の各段階で、それぞれの課題解決に向けて早期に取り組むことが大切です。
自社の採用活動をファネルごとに数値化し、分析することで活動の最適化が実現します。受け身の採用活動からの脱却を目指すことが重要です。
マーケターの確保
マーケターを採用チームに追加し、マーケターが持つマーケティングの知識を活用することも採用マーケティング成功には有効です。マーケターの持つマーケティングのノウハウを、採用ブランディングや企業認知の拡大に活かせると、効率的な採用マーケティングが可能になるでしょう。
採用マーケティングに有効なフレームワーク
採用マーケティング成功のために、活用したい代表的なフレームワークを解説します。
3C分析
代表的なフレームワークのひとつに、3C分析があります。3Cとは「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つから、自社の魅力やポジションを分析する手法で、マーケティングの分野においてよく使用されるフレームワークです。
採用マーケティングにおける3Cは「Candidate(候補者)」「Competitor」「Company」の3つであり、それぞれの側面から分析を行います。求職者のニーズを整理する目的でも活用できるフレームワークです。
4P分析
4P分析とは、自社の魅力を分析する際に使用するフレームワークです。4Pとは「Philosophy(理念・目的)」「Profession(事業)」「People(人材・文化)」「Privilege(働き方・待遇)」を指し、それぞれの要素を洗い出すことで、自社の魅力を整理します。
4P分析は自社の魅力を把握できるため、求職者に対するアピール方法の最適化実現が期待できるでしょう。
SWOT分析
SWOT分析とは、自社がおかれている環境の分析に活用するフレームワークのことです。SWOTとは「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの要素であり、それぞれを洗い出して分析すると、自社の採用マーケティングにおける状況を把握できます。
採用マーケティングにおすすめの手段
採用マーケティングを行う上で、おすすめの手段を6つ解説します。
モデル人材を再定義し採用を強化する4ステップ〜タレントパレットで実現する新卒・中途採用の一元管理と最適化〜
オウンドメディア
自社独自のメディアを活用して、採用マーケティングを行うのもおすすめです。オウンドメディアであれば、自社の魅力を自由に伝えられる上、マーケティングデータも収集しやすくなります。
また、求人を出すための費用が不要であり、すでに自社メディアを所有しているのであれば、制作費用もかかりません。コストをかけずに、早く採用マーケティングに取り組みたいと考えている場合は、有効な方法でしょう。
Wantedly
Wantedlyの活用も、採用マーケティングを行う上で有効な手段です。Wantedlyでは、給料や待遇、条件ややりがい、環境など自社の魅力を求職者に対して伝えることで、共感採用で求職者と企業のマッチングを進めます。新しいビジネスSNSであり、採用マーケティングに活用する企業も多いです。
Wantedlyでは、さまざまな手法で自社の魅力を伝えられる上、気軽に応募・面談を実施できるため、数多くの求職者と交流できます。
note
noteとは、文章や画像、音声、動画のコンテンツを投稿するメディアプラットフォームのことです。法人向けのnote proを使用すれば、自社ページのデザインをカスタマイズして独自のページを作成できるため、ブランディングにも役立ちます。
自由に長文を投稿できるため、自社の採用に関する記事を発信してもよいでしょう。法人アカウントと社員個人がアカウントを所有している場合、個人アカウントで書いたコラムを法人アカウントにまとめることも可能であり、現場のリアルな声をターゲットに向けて発信可能です。
SNS
XやInstagramなどの各種SNSも採用マーケティングに活用できます。SNSを採用活動に用いる大きな特徴として、シェア機能が高いことが挙げられます。多くの人が活用しているツールであり、コストをかけずに自社の情報を広範囲に届けられます。
また社員が実名でアカウントの運用を行う場合、求職者が親近感を抱きやすく、安心感も与えられるため活用する企業も多いです。シェア数やフォロワー数から反応を分析可能で、戦略改善がしやすい手段といえるでしょう。
リファラル採用
リファラル採用とは、自社の社員から友人・知人を紹介してもらう方法のことです。リファラル採用の場合、人材の適正・スキルやマッチング率、コストなど多方面でメリットが期待できるでしょう。実際に自社の社員からお互いの情報を確認できるため、入社後のギャップが生じにくく、スキルがマッチしやすいのもリファラル採用の特徴といえます。
リファラル採用を制度として設ける場合は、求職者が採用された際に紹介者に対して紹介料のような報酬制度を設定するのもおすすめです。
リファラル採用とは?注目されている理由や成功させるためのポイントを解説
採用イベント
オンラインまたはオフラインでの採用イベントを企画し、開催するのもよいでしょう。イベントを通して、実際に働く社員と求職者が交流することで、リアルな現場の魅力を感じてもらいやすくなります。企業文化や専門知識の共有が可能となり、求職者からの信頼も得られやすいでしょう。
求職者の質問にも答えられるため、積極的な求職者の入社意欲をさらに向上させることが期待できます。
まとめ
人材不足や採用手法の多様化などの影響により、企業の採用活動においてマーケティング思考は欠かせないものとなっています。採用マーケティングを効果的に行うためにも、自社の状況や求める人物像を明確化しましょう。自社に適したツールや手法を駆使して取り組むことで、よりよい人材の確保が期待できます。
採用マーケティングにお悩みの場合は、タレントマネジメントシステムであるタレントパレットの活用をご検討ください。あらゆる人材データを一元管理して分析可能であり、採用活動にも活用可能です。また採用後の人材育成や人材配置、離職防止、経営の意思決定支援の多岐にわたる管理をワンプラットフォームで実現できるため、お気軽にお問い合わせください。