社員の働きやすさにつながる「心理的安全性」が注目を集めています。しかし、「心理的安全性がどのようなものなのかがわからない」「なれ合いになってしまいそう」など、不安を抱える担当者も多いでしょう。この記事では、心理的安全性の内容や特徴を解説し、心理的安全性を高めるための取り組み事例を紹介します。
心理的安全性とは?
ビジネスシーンで関心が高まっている心理的安全性とは、社員が職場で対人リスクの不安を感じずに意見やアイデアを自由に発言できる状態です。他人の反応を恐れずに自分の意見を堂々と言える安心感がある環境を指します。
心理的安全性は、ハーバード大学の組織行動学を研究しているエイミー・エドモンドソン教授によって提唱された概念です。「心理的安全性が担保されている」ということは、発言によって人間関係が壊れたりストレスがかかったりしない状態を表します。
心理的安全性と似た用語との違い
心理的安全性と似た用語に「心理的柔軟性」や「ぬるま湯組織」があります。それぞれとの違いについてチェックしてみましょう。
心理的柔軟性との違い
心理的柔軟性は、心理的安全性とよく似た用語です。「心理的安全性」は、自分の気持ちやアイデアなどを安心して発言できる状態を表しますが、「心理的柔軟性」は個人の心のしなやかさを表します。心理的柔軟性は、自分が大切にしたい価値に集中し、効果的な行動ができる能力です。心理的柔軟性が高い人が多いと組織の心理的安全性も高まる傾向にあります。
ぬるま湯組織との違い
心理的安全性は「ぬるま湯組織」とよく間違えられます。ぬるま湯組織とは、自分の居心地のよさを維持したり、人との対立を避けたりするために、意見を主張しないことや相手の間違いを指摘しないことです。「空気を読む」などの日本独特の風潮は、ぬるま湯組織を生み出しやすい心理といえるでしょう。
心理的安全性が高い企業は、適度な厳しさや緊張感がありながらも、自由に発言できる環境です。
心理的安全性が注目される理由
心理的安全性が注目されるようになったのは、2012年にGoogleが「プロジェクト・アリストテレス」という調査を始めたことでした。「プロジェクト・アリストテレス」は、4年もの歳月を要した調査です。調査の結果、Googleでは「生産性を高めるためには心理的安全性が必要」という結論に至りました。
近年は、世界的にも技術革新や人材多様化などの変化が激しく、雇用の安定性を高めるためには社員の働きやすさが重要とされています。そこで、社員の働きやすさが向上する心理的安全性が注目されるようになりました。
心理的安全性を高める取り組みが必要とされる理由
心理的安全性の取り組みが企業にとって必要なのは、主に以下のような理由があります。
定着率の上昇
心理的安全性が高いということは、社員が安心して仕事に取り組める環境です。何でも言い合える環境で、意識を高く持ちながら仕事に取り組めるので定着率も上昇します。定着率が上昇すれば、採用コストや教育コストの削減も可能です。
生産性の向上
対人リスクがない職場は仕事に集中できるため、仕事のパフォーマンス向上にもつながります。自由な発言が認められているため、新しいアイデアや改善案も出しやすくなるでしょう。失敗を恐れずチャレンジできる環境があることで、生産性も向上します。
イノベーションの創出
上司や先輩など、周りの顔色を伺ったり気遣ったりする状態が続けば、革新的なアイデアは生まれません。心理的安全性が高いとさまざまなアイデアが飛び交うため、イノベーションが生まれやすくなります。
心理的安全性が高い企業の特徴
心理的安全性が高い企業とは、いったいどのような状態なのでしょう。心理的安全性が高い企業には、以下のような特徴があります。
話しやすい雰囲気がある
心理的安全性が高い企業は上司・先輩・同僚・後輩など、立場が違っていても話しづらさを感じません。また、「言いづらい」「変な人と思われそう」などのためらいがないため、忌憚なく意見を述べられます。他の人に対しても、指摘や注意をしやすい雰囲気があることが特徴です。
助け合いができる
心理的安全性が高い企業は、社内に話しやすい雰囲気があり、「頼みづらい」「断りづらい」などの意識を持たずに助け合いができる環境です。社員は評価や見返りを求めないため、誰もが善意で協力し合います。また、困難なことがあっても、みんなで協力したり意見を出し合ったりすることで、乗り越えようと努力できる雰囲気を作り出せることが特徴です。
挑戦できる環境がある
心理的安全性が高い企業は、ぬるま湯組織とは異なり、社員が挑戦する気持ちを持っています。失敗してもただ慰め合うだけではなく、どうすればよかったのかという意見を言い合える環境があることが特徴です。よりよい状態にするために、さまざまなアイデアを出し合えます。
新しさや奇抜性を受け入れている
心理的安全性が高い企業は多様性を受け入れているため、新しいものや奇抜な意見に対しても「変わっている」などと揶揄しません。自分の主観で人を判断しないため、批判を恐れずに誰もが安心して働けます。個性的な人でも「周りから浮いている」「変に思われる」などの不安がないため、自分らしく仕事ができるでしょう。
心理的安全性が低い企業の特徴
コミュニケーションは、心理的安全性を高い状態に保つために欠かせません。しかし、心理的安全性が低い企業は、ただ仲よくなるだけでなれ合ってしまいます。なれ合うことで「誰かがやってくれるだろう」「自分ではなくてもよいだろう」などの考えが生まれやすいことが特徴です。心理的安全性が低い場合は、社員に「責任感を持つ」「生産性を上げる」などの意識が必要といえます。
心理的安全性が低い企業に見られる対人リスクとは?
対人リスクがあると心理的安全性を高めることは困難です。心理的安全性が低い企業に多く見られる対人リスクには、以下の4つがあります。
無知と思われる不安
無知だと思われる不安は、「バカにされそう」「見下されそう」などのネガティブな感情から生まれます。無知だと思われたくないため、他人に聞けない、相談しづらい、納得していなくても意見を受け入れるなどの雰囲気を生み出してしまいます。無知だと思われる不安を生み出さないためには、「こんなことも知らないのか」などの発言に注意しましょう。
無能と思われる不安
無能だと思われる不安は「仕事ができないと思われたくない」などの思いから生まれる感情です。失敗したら無能だと思われてしまうという考えから、新しいことに挑戦しづらくなります。また、ミスしても報告が遅い、報告しないなどの事態が起こり、企業にとって重大な問題に発展しかねません。
邪魔と思われる不安
邪魔と思われる不安は、自分の発言や行動が「誰かの邪魔をしているのではないか」という気持ちから生まれる感情です。「余計なことをする人」「面倒な人」などと言われた経験から、邪魔だと思われたくないという思いが生まれることもあります。
意見やアイデアがあっても発言を控える、手伝いたくても自分から声をかけられないなどの行動を起こすようになるため注意が必要です。
ネガティブと思われる不安
ネガティブと思われる不安は、「否定的な人だと思われたくない」という感情から生まれる感情です。現状の批判ができなくなる、意見があっても言えなくなるなどの行動を起こすようになります。ネガティブな意見を誰もが言えないようになると、問題が発見しづらく潜在化してしまう恐れがあるため注意しましょう。
心理的安全性を高められた場合のメリット
企業が心理的安全性を高められるようになると、社内が意見を言いやすい雰囲気に改善され、社員が主体的に行動できるようになります。仕事に対して主体的に取り組めるようになると、やりがいを感じられる社員が増え、離職率の低下にもつながるでしょう。
また、隠蔽や改ざんなどが起こりにくくなる、問題点が挙がりやすくなって課題の早期発見につながるなどのメリットも生まれます。社員がチャレンジ精神を持つことで、成長しようと努力できるようにもなるでしょう。
心理的安全性が高められない場合のデメリット
心理的安全性を高められない状態が続くと、社員が対人リスクにさらされ、委縮してしまいます。それぞれが疑心暗鬼になっていることで、組織としての機能が低下してしまうでしょう。
対人リスクがあるときは、発言すること自体にハードルがあるため、「報告」「連絡」「相談」などもしないようになります。生産性が低下してミスも増えてしまうでしょう。また、立場が強い人が活動しやすくなり、ハラスメントが増えてしまうことも懸念されます。
心理的安全性の現状を把握する取り組み事例
心理的安全性の現状を把握する取り組み事例として、心理的安全性を提唱したエドモンドソン博士の7つの質問を紹介しましょう。
以下の7つの質問の評価項目を「1.全くそう思わない」から「7.非常にそう思う」の7段階の数字で回答します。ポジティブな回答が多い場合は心理的安全性が「高い」、ネガティブな回答が多い場合は心理的安全性が「低い」状態です。
1.チームの中でミスをすると、多くの場合において非難される。
2.チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
3.チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある。
4.チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
5.チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい。
6.チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない。
7.チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、生かされていると感じる。
心理的安全性を向上させる取り組み事例
心理的安全性を向上させる取り組みには、さまざまなものがあります。企業が気軽に取り組める手段として、以下のような取り組みが効果的です。
社員同士でサポートできる関係性を作る
社員同士でサポートし合い、助け合いができる環境を作ることを心がけると協調性が高まっていきます。新入社員に対してもサポート・フォロー体制を整えましょう。ぬるま湯組織にならないように、緊張感を保ちつつも適切に指導や注意が行える管理者も必要です。
メンター制度やOJTの導入
先輩が新入社員に定期的な面談を行って、精神的なサポートをする「メンター制度」を取り入れることも有効です。実務経験がある上司や先輩がトレーナーに徹し、若手や後輩に知識やスキルを教える「OJT」を行うこともよいでしょう。
意見を言い合える環境を心がける
自分の意見を言える環境を作るため、社員同士の個性を知る機会を作ったり上司や先輩が弱みを見せたりすることも効果的です。勤続年数に関係なく平等な発言をできるようにしましょう。「発言が評価に影響しないか」などの不安を感じさせないためにも、適切な評価基準を示すことも重要です。必要であれば、社員の認識を変える研修なども行います。
「無知」「無能」「邪魔」「ネガティブ」などの対人リスクを排除することを常に社員全員が意識しておくことも重要です。
ポジティブな意見もネガティブな意見も言えるようにする
ポジティブな考え方を社内に浸透させることも有効です。相手に対する発言や言い方を変えるだけでネガティブな意見もポジティブに伝わります。
ただし、「ネガティブな報告がしにくい」という雰囲気を払拭することも大切です。ネガティブな意見は、必ずしも悪いものではありません。ネガティブな報告ができる環境は透明性が確保されます。ネガティブな意見が出ても、否定したりコントロールしたりしようとせずに、じっくり話を聞くようにするとよいでしょう。
多様性を受け入れる意識を持つ
心理的安全性を高めるには、多様性を尊重する環境作りも必要です。同調性を重視するあまり、社員の個性や強みを埋もれさせていないかを確認してみましょう。弱みを見せても大丈夫だ、個性的だと思われても平気だという安心感のある環境作りを心がけることが重要です。社員の発言や行動を肯定し、それぞれの自己肯定感を高められる雰囲気を大切にしましょう。
互いの価値観を認めあう
互いの価値観を認めあうことも心理的安全性が高まる手段です。自分の価値観と合わないことで否定すると、相手は心に壁を作ってしまいます。また、論理的思考を重視し過ぎると価値観や想いをベースにした会話が無駄な雑談と捉えてしまうことがあるため注意しましょう。それぞれの価値観や気持ちに耳を傾けることが大切です。
1on1ミーティングを実践する
1on1ミーティングは上司と部下が1対1で話すことで、心理的安全性を高めるのに有効です。実際に欧米では一般的な手法であり、仕事内容よりはプライベートのことを中心に話して互いを知る機会にします。「社内に頼れる人がいる」という信頼関係を築くことができ、部下が上司に相談しやすくなるでしょう。
共通認識を持つ
社員それぞれの認識のズレを防ぐために、組織目標、ビジョン、社内ルールなどの共通認識を擦り合わせることも重要です。認識のズレは互いに不信感を抱きやすくなるため、共通認識を持つことで信頼関係が向上します。共通認識を持って仕事に取り組むことで、目標のために自発的に動けるようになり、社員のモチベーションも向上するでしょう。
現状の課題や改善点の洗い出しを行う
現状の課題や改善点の洗い出したり、心理的安全性を向上させるための対策を考えたりすることも必要です。調査内容は、組織制度、働き方、社員のモチベーションやエンゲージメントなど多岐にわたります。社員にアンケートを行うことも有効です。
OKRを設定する
OKRとは「Objectives and Key Results」の略語です。日本語では「目標と主要な結果」を意味します。OKRは「達成目標(Objectives)」と「主要な成果(Key Results)」を設定し、企業が目指すべき目標と社員の目標をリンクさせる管理方法です。OKRを設定すれば、組織の目標に対して社員が協力しやすくなり協調性やコミュニケーションも向上します。
評価方法を改善する
ネガティブな発言をする、上司に意見を述べるなどの行動は、評価にかかわるのではないかという不安を招きます。社員の不安を取り除くためにも、人事評価制度の改善が必要になることもあるでしょう。評価基準が不透明である、属人化しているなどの場合は、上司の一存で評価が決まらないように変更することも必要です。評価制度が社員のストレスになっていないかを確認してもよいでしょう。
感謝の気持ちを形に残す
周りからの「承認」を得て、自分に価値があると思えるようになると心理的安全性は高まります。承認を得るための具体策として「ピアボーナス」などを導入することもおすすめです。ピアボーナスとは、感謝の気持ちを「ボーナス」や「感謝のメッセージ」などの形で見える化した仕組みであり、新しい人事評価・報酬制度として注目を集めています。
社員同士で話ができる機会の創出をする
以下のような機会を創出することも、社員同士のコミュニケーションを促進します。
・学習者同士が互いに協力しながら学び合う「ピアラーニング」
・交流を目的としたイベントやコミュニティの発足
・他部署の人同士が交流できる休憩スペースの設置
心理的安全性の学び方
さらに心理的安全性について知識を深めたい、学びたいという場合は、以下のような方法が有効です。
セミナーやワークショップに参加する
心理的安全性は日本でも認知度が高まっており、近年は多くのセミナーやワークショップが開催されています。講師や経験者を通して「知識」や「スキル」などの情報が得られるでしょう。オンライン受講や実践的なカリキュラムを設けているケースもあります。
書籍を活用する
心理的安全性について書かれた書籍も数多くあります。同じ書籍を社員各自が読んで、チーム内で感想を伝え合うことも効果的です。書籍を活用することで、心理的安全性の理論や実践について理解を深められるでしょう。
心理的安全性を高める取り組みを行う際の注意点
心理的安全性が高い企業は、意図的な働きかけを行っています。心理的安全性は自然と高まることはありません。働きかけを行わない場合は、現状維持や心理的安全性の低下を招きます。
また、心理的安全性を高めるためには、社員同士の仲がよければよいというものでもありません。心理的安全性が高めることは、なれ合いの関係になることではないと各自が意識することが重要です。心理的安全性を高める取り組みは、企業側が無理に押し進めるのではなく、施策の目的を社員に伝えてから実践することも重要になります。
まとめ
心理的安全性が高まると、社員が対人リスクの不安を感じずに堂々と自分の意見の伝えられるようになります。また、職場に対しての安心感が生まれるため、定着率が高まって全体的な生産性も向上するでしょう。
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