OKRは、GoogleやFacebookが採用している目標管理指標です。効率的に目標管理ができるという理由で、日本でも導入を進める会社が増加し、大きな注目を集めています。ただし、これまでの目標管理指標とは異なる点が多く、導入する際はOKRの基本的な概要の理解が欠かせません。
この記事では、OKRの基本概念やこれまでの目標管理指標との違い、導入ステップなどについて解説します。
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OKRとは
OKRとは「Objectives and Key Results」の略称で、日本語では「目標と主要成果」または「目標と成果指標」と訳されています。全体的な目標をもとに個人、部署、チームそれぞれのOKRを可視化させて、その達成度を測ることで安定的に目標を達成させられる目標管理手段です。
従来の目標管理手段と比べて、短いスパンで設定・追跡をしたり、達成度の見直しや改善をしたりする点が大きな特徴です。
OKR発祥の背景
OKRは1970年代にIntel社のCEOだったアンディ・グローブ氏が提唱し、同社に導入されました。結果に着目することで、組織としての成果を上げるという考えに基づいた目標管理の手法として注目されました。
2000年代の初めには、グローブ氏にOKRの教えを受けたジョン・ドーア氏がGoogle社にOKRを紹介します。intel社の社員だったドーア氏は投資家に転身し、創業期のGoogle社に出資をしていました。
その後、Google社に浸透したOKRはシリコンバレーの他企業にも導入され、日本でも多くの企業で導入が進んでいます。
OKRを構成する要素
OKRは、目標とその目標における難易度や進捗度によって成り立ちます。ここでは、OKRを構成する4つの要素について解説します。
Objectives
OKRにおけるObjectivesは、定性的かつシンプルな目標です。大前提として、売上額や利益率、契約数など数字を含んだ定量的な指標は必要ありません。
基本的に、すぐに達成できる目標は避けつつ、1か月から四半期の短い期間で達成できる目標を立てるようにします。具体的には「新商品の売上向上」「契約数増加」「新規顧客開拓」などが挙げられます。
Key Results
Objectivesが数字を含まない定性的な目標であるのに対し、Key Resultsは数字で測ることができる定量的な目標になります。Objectivesがどの程度まで進んでいるのか、達成できているのかといった、進捗度合いの確認に使用する指標です。
通常、1つのObjectivesに対し、3~5つ程度のKey Resultsを設定します。たとえば、「自社製品の契約数を増やす」というObjectivesであれば、「セミナーを月1回開催」「商談数を現在の2倍に増やす」「既存顧客のアップセル率150%を目指す」などが設定されます。
自信度
OKRにおける自信度とは、設定した目標を達成する自信がどのくらいあるかを測る、自己申告による指標です。自信度の目安は「容易には達成できないが、努力すれば実現できる」という状態であることから、5~6で設定するとよいでしょう。達成が不可能となるとモチベーションが上がらず、すぐに達成できる場合は、成長が期待できないからです。
自信度は個々の感覚で判断する指標であるため、独りよがりにならないようにチーム内で定期的に確認し、必要に応じて調整をしましょう。
進捗・達成度
進捗度とは、目標に対してどのくらい達成しているのかを測る指標です。各Key Resultsに対する進捗度を定量的に確認することで、Objectivesの達成度を把握できます。
OKRは目標達成までのプロセスを重視するため、各Key Resultsの進捗度をチーム内で共有し、達成に向けてメンバーが協力し合うといった行動も求められます。また、進捗度や状況によっては、目標の再設定も可能です。
OKRの目標設定における2種類の考え方
OKRで目標設定を行う際、ムーンショット、ルーフショットという2種類の考え方があります。以下で詳しく解説します。
ムーンショット
ムーンショットとは「月を狙うショット」という意味で、達成させるのが困難な目標設定をすることを指します。そのため、目標の60~70%程度の達成率で成功とみなします。一般的にOKRでは、ムーンショットが目標設定の基本的な考え方です。
ルーフショット
ルーフショットとは「屋根を狙うショット」という意味で、達成しやすい目標設定をすることを指します。そのため、ルーフショットにおいては、達成率100%未満では失敗とみなされます。
前述のように、OKRではムーンショットに重点が置かれますが、初めての導入で慣れていない段階では、ルーフショットを採用するのがおすすめです。
OKRと他の主要な目標管理方法との違い
企業が行う目標管理方法は、OKR以外にもあります。ここではOKRと、他の主な目標管理方法との違いについて解説します。
OKRとKPIの違い
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要(主要)業績評価指標」と呼ばれています。具体的には、目標に対する現状の進捗度を計測するための指標です。
OKRが目標達成につながるプロセスの共有を主眼にしているのに対し、KPIはプロセスの達成度の測定を主眼としている点が異なります。
OKRとKGIの違い
KGIとは「Key Goal Indicator」の略で、日本語では「重要目標達成指標」と呼ばれています。成果とするものを定量的に定めた指標で、売上高や営業利益率などが挙げられます。
OKRとの大きな違いは成功とみなす達成率です。OKRは60~70%の達成率で成功とみなされますが、KGIは100%の達成率を求められます。
OKRとMBOの違い
MBOとは「Management by Objective」の略で、日本語では「目標による管理」と呼ばれています。ピーター・ドラッガー氏の提唱による指標で、基本的には上司が部下の評価をする際に使用されます。
MBOは、社員の評価管理という観点から、定量的な評価以外に、勤務態度や交渉力といった定性的な評価もします。「上司だけが目標を共有する」「定量的な評価をする」という2点が、OKRとは大きく異なるといえるでしょう。
OKRの導入が注目されている理由
目標管理手段としてOKRの導入が注目を集める理由について解説します。
ビジネス環境の変化についていくため
IT技術の進化や消費者の価値観が、以前とは大きく変化しており、長期的なスパンでの目標管理では市場のスピードについていけません。そこで、短期間で目標管理ができるOKRが、注目を集めるようになりました。
新たな人事評価を導入するため
従来の目標管理の多くは、報酬を決定する人事評価の一環として行われてきました。しかし、社員のモチベーションを高めて会社として成果を上げるには、目標を達成するためのサポートにつながる目標管理が欠かせません。そこで、目標達成につながる管理手法として、OKRが求められています。
OKRを企業で導入するメリット
企業がOKRを導入する主なメリットとして、以下の5点が挙げられます。
会社全体で方向性を一致させられる
OKRの最終的な目標は、会社全体の目標です。そのため、OKRの成功を目指すことが、結果として会社全体の成功につながります。
また、部署やチーム単体での目標管理ではないため、全社員が同じ目標を共有できる点もOKRのメリットです。
状況にあわせて柔軟に調整・変更ができる
1か月から四半期という、短期間での目標管理を行えるのもOKRの大きなメリットです。市場や消費者の変化に合わせ、柔軟に目標の調整や変更ができるため、大きな失敗につながるリスクを軽減できます。
また、個人や部署、チームの目標が可視化されているため、リーダーは常に達成率を確認できます。その上で、達成率が低い社員やチームに対しては、目標達成に向けた迅速なサポートが可能です。
社員のエンゲージメント向上が期待できる
OKRでは、会社全体の目標をもとに、個人や部署、チームの目標を立てます。自身の目標達成が会社全体の目標達成につながるため、モチベーション向上が実現するでしょう。
自身の目標達成により、会社の目標が達成できれば、会社に貢献できている実感も高まり、結果としてエンゲージメント向上も期待できます。
社内コミュニケーションが改善される
部署やチームごとの目標であれば、部署、チーム内でのコミュニケーションは活性化されます。しかし多くの場合、目標達成に向けて複数の部署、チームが連携・協力をしながら進めていくため、部署やチーム内だけの目標では、円滑なコミュニケーションは実現しません。
OKRでは全社統一の目標を立てて業務を進めていくため、部署やチームを超えた連携がスムーズに進み、社内全体のコミュニケーションが活性化されます。
仕事の優先順位が把握しやすくなる
OKRは、全社的な目標に基づいて事業部からチーム、チームから社員へと、目標を落とし込んでいく仕組みです。そのため、個々の社員においては、自分の仕事が会社の目標に直結していると実感するようになります。
常に会社の目標を意識して取り組むことで、仕事の優先順位がつけやすくなり、生産性や業務効率の向上につながります。
OKRの導入・運用方法
実際にOKRを導入する際の具体的なステップについて解説します。
1.会社全体としてのOKRを設定する
OKR導入の第一歩は、会社全体としてのOKR設定です。トップダウンで進めていけばスムーズな設定が可能ですが、社員のモチベーションを向上させるには、ボトムアップで進めるのがよいでしょう。
また、最初の段階ではおおまかな目標を設定してからチームに展開し、フィードバックを受けながら必要に応じて調整するとスムーズに進められます。
2.チーム・個人ごとのOKRを設定する
会社全体のOKR設定を終えたら、個人やチームでのOKR設定をします。ここでも会社全体のOKR設定と同様に、ボトムアップで進めていきます。
ただし、個人のOKRについては、上司やリーダーと相談しながら設定したほうが、全体の目標への認識不足による目標設定ミスを避けられるでしょう。後から整合性が取れていないと判明し、調整し直す手間が軽減されます。
3.各OKRの進捗をチェックする
目標設定を終え実際に業務を開始したら、定期的に進捗状況をチェックし、個人やチームの行動と会社全体の目標設定に、ずれが生じていないかを確認します。ずれや遅れがあれば、改善ポイントの発見、修正を繰り返し、精度を高めていきましょう。
4.各OKRの検証・評価をする
目標設定の期間を終えたら、各OKRの検証と評価をします。目標の達成度をポイントやパーセンテージでスコアリングし、改めて次の目標設定をしましょう。
達成できた箇所は、さらに高い目標設定をします。達成できなかった箇所については、未達の原因究明と分析を実施し、次の施策に活かすことが重要です。
OKRを導入する際の注意点
OKRを導入するにあたって、認識しておくべき3つのポイントについて解説します。
人事評価とは分けて考える
OKRは人事評価を行うための手法ではありません。人事評価の手段としてOKRを導入すると、社員は目標設定を保守的にまとめるようになり、チャレンジをしなくなる可能性が高まります。
無難な目標では社員1人ひとりの成長にもつながらず、会社としての目標にも届きません。そのため、OKRの評価と人事評価は分けて考えることが必要です。
目標や成果を公開・共有する
OKRの運用においては、透明性の確保に努めなければなりません。設定した目標や進捗状況、成果、評価などを公開し、経営層や幹部だけではなく、すべての社員が確認できる状態にしましょう。
目標が共有されていない場合、社員は取り組むべき方向性を決められず、モチベーションが上がりません。また、評価が確認できないと信頼性が揺らぐでしょう。社員が納得して取り組める仕組みづくりが重要です。
ボトムアップをメインにする
OKRでは、ボトムアップの流れをつくることが重要です。ボトムアップとは、上層部が社員の意見や提案を吸い上げて、意思決定をする経営方式です。
経営陣などの上層部が決めた目標を社員に提示して行動させるトップダウン形式では、OCRのメリットを得られません。社員1人ひとりが目標達成に向けた行動を自ら考え、進捗度や達成率を意識しながら仕事に取り組める環境であることが重要です。
OKRを効果的に運用するためのポイント
OKRを導入し、効果的に運用するにはいくつかのポイントがあります。特に重要なのは以下の4点です。
具体的かつ明確な目標を設定する
Objectivesは定性的なものとはいえ、抽象的すぎるとKey Resultsの設定が困難になります。短期間での目標設定であるため、現状分析をした上で、特定の商品の売り上げアップ、特定のサービスの契約者増加など、対象を絞ることが重要です。
また、Key Resultsは、Objectivesを受けて具体的な数字を決定し、定量的に評価することが、成果を上げるポイントになるでしょう。
評価測定は迅速に実施する
OKRの特徴のひとつとして、短期間での目標設定、評価が挙げられます。そのため、評価測定は時間を掛けず迅速に行うことが重要です。
評価に時間がかかり、次の目標設定ができなければ、OKRを導入する効果が半減するだけではなく、社員のモチベーション低下も招いてしまうでしょう。
1対1のミーティングを取り入れる
OKRを達成させるポイントのひとつは、個人目標の達成です。1人ひとりの目標達成がチーム目標の達成と、会社全体の成功につながります。そのため、最低でも月に一回は1対1のミーティングを実施しましょう。
不安を抱えながらでは、達成できるものもできなくなるため、定期的なミーティングにより、不安の解消と、モチベーションアップを図れば、成功の可能性も高まります。
ITシステム・ツールの導入を検討する
OKRを効率的に進めるには、システムやツールの導入が欠かせません。社員各自の進捗管理だけではなくチーム間の情報共有もできるため、どこにいても業務を滞らせることなく、目標管理が可能です。
人材管理システム「タレントパレット」は、OKRを効率的に運用するための機能を数多く搭載しています。目標設定や進捗管理に加えて、1on1ミーティング機能もあり、これからOKRに取り組む企業におすすめです。
OKRを導入した企業の事例
実際にOKRを導入・運用している企業を紹介します。
Google LLC
「OKR発祥の背景」にて述べたように、Googleでは2000年代の初めからOKRを運用してきました。同社は3か月ごとに実施する全社的なミーティングにおいて、OKRの公開と評価をしています。
成功とみなす達成率は70%程度に設定し、個々の社員が能力を活かせるようにしています。目標達成への貢献も実感しやすいことが、モチベーションアップにつながっています。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリは2015年に、日本企業としてはいち早くOKRを導入しました。当時の同社は事業の急成長により社員が増加し、会社としての目標が社員に浸透しにくくなっていました。
グループ全体から個々の社員まで落とし込まれた目標は、3か月ごとに評価を実施し、共有されています。達成率は、誰もが挑戦しやすい50%を目標として設定しています。
花王株式会社
花王株式会社は「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」として、2021年度にOKRを導入しました。具体的には、社員が高い目標や夢を積極的に掲げることで、組織の活性化を目指しました。
OKRの共有により、部署やチームの枠を超えた、社員同士の連携が実現しました。また、高い目標を提起できる環境にあることで、モチベーションも高まっています。
まとめ
OKRは、「Objectives and Key Results」の略で、日本語では「目標と主要成果」と呼ばれています。OKRで成果を上げるには、頻繁に進捗状況を確認し、上司と部下による1対1のミーティングをしながら改善していかなくてはなりません。
OKRの運用においては手間がかかることから、システムやツールの活用が重要とされています。そこでおすすめなのが「タレントパレット」です。大手企業をはじめとした数多くの企業に導入されて、効率的なOKRの実施に貢献しています。
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