アスペルガー症候群にはさまざまな特性があり、その人に合った環境でなければ、モンスター社員のような問題行動を取る可能性があります。一方で、特性をうまく生かせば企業の戦力となるかもしれません。本記事では、アスペルガー症候群の概要やモンスター社員との違い、企業が取るべき対応などを解説します。
アスペルガー症候群とは?
アスペルガー症候群とは、「自閉スペクトラム症(ASD)」と呼ばれる発達障害の一種です。どのような特性があるのか解説します。
アスペルガー症候群の概要
アスペルガー症候群は発達障害の1つで、従来はアスペルガー症候群や自閉症、広汎性発達障害など、さまざまな呼び方をされていました。2013年にアメリカ精神医学会が発表した診断基準『DSM-5』以降からは、「自閉スペクトラム症(ASD)」としてまとめて表現していますが、本記事では「アスペルガー症候群」と記載します。
アスペルガー症候群の原因は未だ特定されていないものの、遺伝をはじめとした多くの要因によって、脳機能障害が起こっていると考えられているようです。
※参考:自閉スペクトラム症(ASD)について学ぶ|一般社団法人 日本自閉症協会
アスペルガー症候群の人は珍しくない
アスペルガー症候群自体の人口統計のデータはありませんが、20~40人に1人程度は、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向があるといわれています。社員が数百人程度在籍する中規模以上の企業には、数人程度アスペルガー症候群の傾向を持つ人がいるかもしれません。このことから、アスペルガー症候群の症状がある人は珍しくないといえるでしょう。
※参考:自閉スペクトラム症(ASD)について学ぶ|一般社団法人 日本自閉症協会
業務におけるアスペルガー症候群の人の特徴・傾向
アスペルガー症候群の人は、一般的に以下に挙げる内容が苦手な傾向があるとされています。
- 対人関係
- 相手の気持ちやその場の空気を読むこと
- 自分の考えをわかりやすく伝えること
また、想定外の事態が起こったときに臨機応変な対応が苦手なことも、アスペルガー症候群に見られる傾向の1つです。社内でコミュニケーションが苦手な人や、職場で馴染めずに浮いてしまう人がいたら、その人はアスペルガー症候群の傾向があるかもしれません。
業務で発揮されるアスペルガー症候群の人の特性
アスペルガー症候群の人は、業務で優れた能力を発揮する可能性があるとされています。主な能力は以下の通りです。
- 細部にこだわりやすく、小さなミスも見逃さない
- 感情に左右されることがなく、論理的な思考で物事を考えられる
- 常に正直で、コンプライアンス遵守の意識が高い
- 長時間集中でき、タスクに没頭しやすい
- パターンの認識力が高く、物事の規則性を見つける能力が優れている
このように、アスペルガー症候群の人は細部への意識や集中力が高く、分析やタスク処理などの能力に長けていると考えられています。
アスペルガー症候群とモンスター社員の関係
アスペルガー症候群の人はモンスター社員が取る行動と似ていることがあり、勘違いされることもあるでしょう。そのため、社内にモンスター社員がいる場合に、実際はアスペルガー症候群の傾向があるものの、モンスター社員と間違えられているかもしれません。
しかし、すべてのモンスター社員がアスペルガー症候群とは限らないため、医師の診断もなく決めつけることがないようにしましょう。
アスペルガー症候群と勘違いされやすいモンスター社員
アスペルガー症候群とモンスター社員が取る態度は似ており、勘違いされることもあります。
承認欲求が強いタイプ
モンスター社員の特徴は、承認欲求が強すぎることです。自分が優位に立つためなら、手段さえ選ばず他人に攻撃的な態度を取ることもあるでしょう。極端な行動に走ると他の社員との間で問題が生じてしまいます。また、チームと連携できないことから、アスペルガー症候群と勘違いされやすいようです。
傲慢・自己評価が過大なタイプ
モンスター社員は、傲慢かつ過大な自己評価をするタイプが多いとされています。自己評価が高く、自分がいないと仕事が回らないと考える人も珍しくありません。他の社員よりも自分の能力の方が高いと考え、周囲を見下す人もいるようです。周囲の人とコミュニケーションを取ることが難しいため、アスペルガー症候群と勘違いされてしまいます。
突出したスキルがあるタイプ
モンスター社員は他の社員と不和を起こす可能性があるものの、突出したスキルを持つケースも少なくありません。アスペルガー症候群の得意・不得意が極端に偏っているイメージが先行し、モンスター社員に間違えられることがあります。
しかし、アスペルガー症候群は社会性とコミュニケーションを苦手とする特性のため、能力の偏りだけではアスペルガー症候群とは言い切れないのが現状です。
アスペルガー症候群のモンスター社員によるトラブル
社内のモンスター社員が、必ずしもアスペルガー症候群とは限りません。しかし、アスペルガー症候群の特性によって現れる態度がトラブルに発展し、モンスター社員に見えてしまうことがあります。ここでは、アスペルガー症候群の人の特性がモンスター社員として現れた場合に、一般的に想定されるトラブルについて確認しておきましょう。
生産性が低下する可能性がある
アスペルガー症候群で生じやすい特性として、感覚過敏が挙げられます。感覚過敏とは、視覚や聴覚などの感覚器官が過敏に反応する特性のことです。たとえば、騒々しい環境や新しい環境では周囲の音や目に映るものが気になり、集中力が持続しづらい傾向があります。結果としてモンスター社員のように、勤務態度が悪いと判断されてしまうこともあるようです。
連携が取れない場合がある
アスペルガー症候群の人は、特性によって相手の気持ちを汲み取ることができず、連携が難しくなる場合があります。たとえば、空気を読み取れない特性によって、他の社員が忙しくても気遣えないケースも少なくありません。チーム内の人間関係が悪化することでトラブルが増え、モンスター社員のように見えることもあるでしょう。
思わぬトラブルが発生する可能性がある
企業がアスペルガー症候群の人への対応を間違えると、思わぬトラブルに発展しかねません。たとえば、アスペルガー症候群の傾向がある人の特性を理解せずに、懲戒処分や罰則を科すと、対象者から訴訟を起こされる可能性があります。訴訟に発展すると、企業が経済的な損失や社会的な信用を失うため、注意して対応しましょう。
アスペルガー症候群の社員に活躍してもらうメリット
アスペルガー症候群の傾向がある人は、一見モンスター社員に見えたとしても、特性を把握していれば活躍の場を提供できます。特性を生かせる環境を提供できれば、企業の戦力として活躍してくれるでしょう。
独創的な発想が生まれる場合がある
アスペルガー症候群の傾向を持つ社員が活躍するメリットは、独創的なアイデアが生まれる可能性があることです。対象者が常識に捉われない柔軟な発想力を持っている場合は、今までにないイノベーションを起こすかもしれません。結果的に、他社と差別化を図ることができ、市場における自社のポジションを優位にすることもできます。
業務の質の向上・効率化が期待できる
一般的にアスペルガー症候群の人は、完璧主義のように独自のこだわりを持つことも特性の1つです。その特性を製品・サービスの開発や改善などの業務に生かせられれば、質を向上させることもできます。また、パターン認識が得意な特性を持つため、業務効率化につながる方法に気づきやすく、企業全体の業務効率化を図れるかもしれません。
モンスター社員がアスペルガー症候群かもしれない場合の対応
モンスター社員と認識していた社員が、アスペルガー症候群かもしれないと気づく場合もあるでしょう。ここでは、企業側でどのように対応するとよいかを解説します。
専門家への相談や病院への受診を勧める
モンスター社員に一般的なアスペルガー症候群の特性が見られる場合は、専門家への相談や病院の受診を本人に勧めましょう。アスペルガー症候群の可能性があるモンスター社員に活躍してもらうには、職場環境やサポート体制を整備する必要があります。医師から診断を受ければ、企業として必要な措置を取りやすくなり、業務が円滑に進められるようになるでしょう。
ただし、本人にとってはデリケートな問題であるため、強要はせずに本人の意思を尊重することが大切です。まずは面談を実施してみましょう。
面談を実施する
医師からアスペルガー症候群(現在では自閉スペクトラム症(ASD))と診断を受けた場合は、対象者の特性を把握したうえで業務の進め方のすり合わせを行います。
面談で話す内容は本人のデリケートな問題に触れるため、専門家と本人の1対1で行うことが重要です。専門家に特性を生かした働き方や他の社員との付き合い方など、職場での注意点などをアドバイスしてもらいましょう。
アスペルガー症候群の社員に向き・不向きな業務の一例
ここでは、アスペルガー症候群の社員に向いている業務と、向いていない業務の一例を解説します。ただし、紹介する業務はあくまでも一例です。必ずしもすべてのアスペルガー症候群の社員に当てはまるとは限りません。対象者との面談の機会を設け、個別に対応することが大切です。
アスペルガー症候群の社員に向いている業務の一例
アスペルガー症候群の人は、チームで取り組む業務よりも1人でできる業務の方が向いています。向いている業務の例は以下の通りです。
- プログラマー
- デザイナー
- 管理業務
- チェック作業
- 研究職
上記のように作業工程を1人で完結できる業務や集中力を要する業務は、アスペルガー症候群の人に向いているとされています。
アスペルガー症候群の社員に向いていない業務の一例
アスペルガー症候群の人は対人関係やコミュニケーションが苦手なため、接客やコミュニケーションスキルを必要とする業務は、向いていないかもしれません。また、柔軟な対応も苦手なことから、臨機応変な対応が必要な業務も難しい可能性があります。
苦手な業務をさせると、他の社員やクライアントに迷惑をかけやすくなり、本人のモチベーションが低下する恐れがあるため注意しましょう。
モンスター社員の見極め方
社員がモンスター社員か、アスペルガー症候群かを判断するのは難しいものの、モンスター社員を見極めるには判断材料が必要です。モンスター社員の特徴やモンスター社員が増える背景がわかれば、モンスター社員かどうかを見極めやすくなるでしょう。ここでは、モンスター社員の特徴やモンスター社員が増える背景を解説します。
モンスター社員の特徴
モンスター社員の主な特徴は勤務態度が悪く、無断で遅刻や欠勤などの問題行動が多いことです。自己評価が過大で他の社員を見下す傾向があるため、ハラスメントや逆パワハラを繰り返すことも少なくありません。また、規則を破る行為もいとわず、社内で問題行動ばかり引き起こす特徴があります。
モンスター社員が増える背景
モンスター社員の急増は、パワハラが社会問題として取り上げられていることがきっかけです。ハラスメントを訴えられることを恐れる上司は、部下を指導しづらくなっています。また、成果主義や競争社会が激化してコミュニケーションが希薄になり、他人を攻撃しやすくなっていることも背景の1つです。
モンスター社員に対処しないリスク
社内にモンスター社員がいる場合は、トラブルに発展するリスクが高まります。どのようなリスクがあるのか確認しておきましょう。
訴訟を起こされるリスク
モンスター社員の問題行動を放置し続けることでの懸念点は、訴訟に発展するリスクです。事態が深刻になってから懲戒処分を決めると、「今まで何も注意されなかったのに」と本人が納得できずに、法的手段を取る可能性があります。訴訟では、企業の過去の対応と処分内容を照らし合わせた場合に、合理性があるかどうかが重要な鍵です。
社会的な損失が生じるリスク
モンスター社員の問題行動がエスカレートした場合は社会的な信用を失い、企業の大きな損失になってしまいます。たとえば、モンスター社員がSNSを活用し、企業を誹謗中傷するコメントを投稿し拡散されることもあるかもしれません。離職するにしても他の社員やクライアントなど、周囲を巻き込んで大事にして離職するリスクもあります。
モンスター社員への対処法
モンスター社員の問題行動に対して、企業はどのように対処するとよいのでしょうか。具体的には、問題行動への指導や適切なタイミングでの懲戒処分が挙げられます。
問題行動に対して指導する
モンスター社員が問題行動を起こしたときは、上司が速やかに指導を行うことが重要です。指導する際は問題行動を止めるように指導するだけでなく、改善すべき点を本人にわかりやすく具体的に伝える必要があります。問題行動の原因が配置先にある場合は、対象の社員を適切な部署へ異動することを検討しましょう。
懲戒処分を実施する
モンスター社員の問題行動に対して指導をしても態度を改めない場合は、懲戒処分を実施します。懲戒処分は、就業規則に基づいて行うことが重要です。懲戒処分には、諭旨解雇と懲戒解雇の2種類があります。諭旨解雇とは、企業と社員が合意のうえで解雇処分を進めることです。懲戒処分は企業が一方的に解雇処分を下すなかで、最も重い処分といわれています。
モンスター社員を生まない工夫
企業がモンスター社員を生まないためにできる工夫は、採用人材の見極めや就業規則の周知などが挙げられるでしょう。
採用時に見極める
モンスター社員を生まないためには、採用する人材を見極めることが大切です。モンスター社員になりやすい人材かどうかを判断できれば、モンスター社員を生まずに済みます。たとえば、転職回数が多い人には、転職理由や退職理由を詳しく確かめましょう。また、連絡や提出物が期限内に行われているかを確認することも、人材を見極める際のポイントになります。
就業規則・評価制度を整備・周知する
モンスター社員に適切な対応を取るには、就業規則の整備と周知が重要です。モンスター社員を懲戒処分するには、就業規則を根拠とする必要があります。また、人事評価の項目を全社員に公開すれば、企業が社員に求める行動や勤務態度を周知でき、不当な訴訟を起こされるリスクを減らすことも可能です。
権限の独占を防止する
個人に大きな権限を与えると、部下や他の社員に対して理不尽な要求をしかねません。複数人が業務に携わる体制をつくることで、権限の独占を防止できます。また、数年に1度は部署替えを行うといった制度を設けるとよいでしょう。
まとめ
モンスター社員とアスペルガー症候群を見極めることは難しいため、社内にモンスター社員を生まないことが重要です。たとえば、採用する人材を見極めたり評価制度を周知させたりと、人事部門の役割が鍵になります。人事評価システムの導入を検討し、人事業務の効率化を図りましょう。
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