企業における労務問題とは?労務問題の発生を防止する方法や対応の流れを解説


企業における労務問題とは?労務問題の発生を防止する方法や対応の流れを解説

労務問題とは、企業と社員間もしくは社員同士などで発生するトラブルのことです。労務問題は年々増加傾向にあり、適切に対処できなければ大きな問題に発展するリスクも高まるでしょう。


本記事では、労務問題に関わる要素や、労務問題の発生を防止する方法を解説します。労務問題への対応の流れや、労務問題に対応する際の注意点についてもまとめているので、ぜひ参考にしてください。


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労務問題とは

まずは、労務問題の概要や労務問題と労働問題の違いを解説します。


企業や社員間のトラブル

労務問題とは、企業と社員、企業と内定者、社員と社員の間で発生するトラブルを表します。労務問題は企業にとってリスクとなるため、適切な防止策を講じなければなりません。トラブル発生後の対応に問題があると企業のイメージも悪化します。


なお、労務とは社員の労働に関連する業務全般を指す言葉です。労務部門では、給与の計算や社会保険の手続きなど、事務処理や管理業務を担っています。


労務問題と労働問題の違い

労務問題と似た言葉として労働問題が挙げられます。基本的には、どちらも労働に関するトラブルを表しているものの、視点が異なる問題です。労務問題は企業視点における言葉であり、社員に限らず求職者や退職者に関するトラブルも含まれます。一方、労働問題は社員視点の言葉となるため、対象が企業に在籍している人に絞られる点に注意が必要です。ただし、労務問題と労働問題を同等のものとして扱うケースもあるため、文脈から判断する必要があります。


労務問題の現状

続いて、厚生労働省の労働紛争処理業務室が管理しているデータをもとに、労務問題の現状を分析していきます。


15年連続で100万件を超えている

厚生労働省が公表した「個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和4年度の総合労務相談件数は124万8,368件となっており、15年連続で100万件を超えている状態です。なお、内訳は法制度の問い合わせが86万1,096件と最も多く、民事上の個別労働紛争の相談が27万2,185件と続きます。


※参考:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します|厚生労働省


人間関係におけるトラブルが多い

個別労働紛争解決制度では「総合労働相談」「助言・指導」「あっせん」という3種類の方法が用意されています。民事上の個別労働紛争における相談、助言・指導の申出、あっせんの申請の全項目において「いじめ・嫌がらせ」が最多の件数を占めている状況です。データの結果から、労務問題のなかでも人間関係のトラブルが特に顕著であること分かります。


※参考:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します|厚生労働省


労務問題に関わる要素

労務問題には、さまざま種類があります。ここでは、労務問題に関わる要素や注意点を解説します。


労働時間

労働基準法では勤務時間の上限が定められており、原則として1日に8時間、1週間に40時間を超える労働はできません。法定労働時間を超えて社員に時間外労働(残業)をさせる場合は、36協定の締結・届出が求められます。


しかし、36協定を結んだからといって、長時間労働や休日出勤を前提とした働き方が定着してしまうのは、労務問題につながる原因です。時間外労働は必要最小限にとどめましょう。


※参考:労働時間・休日 |厚生労働省

※参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省


残業

残業は、長時間労働や残業代の未払いといった労務問題に発展しやすい要素です。企業は、社員が所定の残業代を請求しない「サービス残業」をしていないかも確認しなければなりません。企業が残業代を支払っていないと、労働基準法第37条に違反しているとして罰則の対象となる可能性があります。


※参考:労働基準法 | e-Gov法令検索


有給休暇

有給休暇をめぐる問題は、労務問題における代表的なトラブルの1つです。社員は有給休暇を取得する権利がある一方で、企業側にも時季変更権の行使が認められています。ただし、正当な理由がないと時季変更権は行使できないため、まずは代替人員の確保や業務の調整などを行うことが重要です。


賃金や給与

賃金や給与に関する労務問題は多岐にわたります。経営不振を原因とした給与未払い、業績悪化による不当な賃金カットなどは法律に違反する行為です。一方で、法律上の支払い義務がない退職金については、企業によって対応が異なります。企業側に責任があるかどうか判断して、適切に対応することを心がけましょう。


労働条件の変更

社員にとって不利益となるような労働条件の変更は、労務問題に発展するリスクがあります。具体的には次の項目に注意しましょう。


・賃金や退職金の減額

・休日の削減

・賃金制度の変更


人事異動や出向

人事異動期も労務問題の発生に注意しなければなりません。転勤による勤務地の変更や、配置転換による業務内容の見直し、他社への出向などは、代表的なトラブル事例です。降格や降職も労務問題を伴いやすいため、一方的に通知するのではなく、説明の場を設けるといったフォローも欠かせません。


休職

休職制度は法律による定めがありません。そのため、取得条件や期間などは企業側の裁量で決められます。労務問題を生じさせないためには、休職制度を整え、利用しやすいように社内に周知することが大切です。


解雇

解雇した社員に「不当だ」と訴えられて、労務問題に発展するケースも少なくありません。たとえば、試用期間中なら入社日から14日経過するまでは、解雇予告をせずに解雇することが認められています。しかし、試用期間中に起きた解雇は納得されづらく、トラブルにつながりやすいため、相手の理解が得られる形で決着させましょう。


懲戒処分

懲戒処分とは、社員がトラブルを起こした際に課せられる罰則のことです。懲戒処分には次の種類があります。


・戒告

・譴責

・訓告

・減給

・出勤停止

・降格

・諭旨解雇

・懲戒解雇


不当または無効な懲戒処分として社員に抗議されると、労務問題に発展する可能性があります。


※参考:労働契約法 | e-Gov法令検索


退職勧奨

退職勧奨とは、企業が社員に対して自発的な退職を促すものです。退職勧奨に関する法律はないため実施自体は原則として適法ですが、社員が「退職強要を受けた」と主張すると、トラブルに発展してしまいます。また、退職を促すための言動や方法によっては、違法と判断されるケースもあるため注意が必要です。


人員整理

不採算事業の廃止や事業規模の縮小に伴い、リストラを実施する企業は珍しくありません。しかし、会社都合のリストラは「不当解雇である」と訴えられるリスクがあります。希望退職制度や早期退職制度など、社員の選択肢を増やす仕組みを新たに構築することで、スムーズな人員整理の実現が可能です。


退職金

退職金の支払いを巡って、企業と退職者間でトラブルが発生することもあります。懲戒解雇の場合、退職金の不支給や減額を定めている企業が多いですが、訴訟において企業側が敗訴するケースも少なくありません。懲戒解雇による退職金の不支給や減額は必ずしも認められる訳ではないため、慎重な対処が求められます。


※参考:第8章 退職金|厚生労働省


採用や入社

採用や入社の段階においても、労務問題を意識しなければなりません。たとえば、採用内定通知後の内定の取り消しや、試用期間中の解雇などは、重大なトラブルに発展するリスクがあります。内定を通知した時点で企業と内定者間で労働契約が成立するため、基本的に取り消しはできないものとして認識しておきましょう。


試用期間中は、入社日から14日以内なら事前告知なく解雇することが認められているものの、14日を超えた場合は解雇予告や解雇予告手当が必要となります。


ハラスメントや人間関係

ハラスメントや人間関係は、労務問題として増加傾向が顕著です。ハラスメントや人間関係のトラブルは個人の問題として扱われがちですが、安全配慮義務違反や職場環境整備義務違反として、企業の責任も問われます。社会的にもハラスメントへの注目度は高まっているため、社員からの申し出があれば、適切な対応を検討しなければなりません。


※参考:労働契約法 | e-Gov法令検索


団体交渉

団体交渉とは、労働組合などの労働者団体と企業との間で行われる交渉・協議のことです。労働条件や労使関係のあり方について話し合っても、法的な知識がないと労務問題に発展する可能性があります。労働組合法への理解を深め、法令を遵守しながら対応していきましょう。


※参考:労働組合法|厚生労働省


業務上横領

社員の業務上横領をきっかけに、労務問題が深刻化することがあります。証拠が不十分なまま解雇したり、就業規則に横領に関する記載がなかったりすると、解決までに時間がかかるケースも少なくありません。


不当解雇と判断されないためには、調査をして確実な証拠を確保する必要があります。そのうえで、本人や周囲への事情聴取で横領を認めさせ、適切に対処していくことが重要です。


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企業における労務問題の防止方法

労務問題は、解決までに手間と時間がかかるため、未然に防ぐことが大切です。ここでは、企業における労務問題の防止方法を解説します。


雇用契約書や就業規則を整える

雇用契約書や就業規則を整えると、曖昧で不正確な部分が減ってトラブルを防ぎやすくなります。雇用契約書や就業規則は、法改正や働き方の変化に合わせて定期的に見直し、実態に即した形で運用していきましょう。


法律や就業規則の周知を徹底する

雇用契約書や就業規則を整備しても、社員に周知ができていないと効果を発揮することはできません。書面やオンライン掲示板で伝えたり、研修を実施したりしながら、社内に浸透させることが大切です。法律や就業規則への理解が深まると、問題に対して共通認識を持ちやすくなり、速やかな解決が期待できます。


福利厚生制度を整える

労災や通勤災害などのトラブルを防止するためには、福利厚生制度を整えるのが効果的です。社員の心身の健康が維持できないと、労災や通勤災害などの重大な事案が発生しやすくなります。定期的な健康診断の実施やリフレッシュ休暇の導入など、社員の健康をサポートするための取り組みを検討していきましょう。


相談窓口を設置する

相談窓口を設置すれば、問題が大きくなる前に対処できる可能性が高まります。また、社員の心理的安全性が高まるのも相談窓口を設置するメリットです。社内に独立した部門を作ることで、客観的な情報が収集しやすくなり、問題解決のノウハウも蓄積できます。個別の問題を解決に導くだけでなく、情報を分析することにより自社の課題を把握するのにも効果的です。


透明性の高い社風を作る

労務問題を防止するためには、小さな問題やトラブルがあった際に、素直に報告できる社風を作ることが大切です。改ざんや隠ぺいが起こると、後々になって労務問題に発展する恐れがあります。組織的な改ざんや隠ぺいがあったと判断されると、企業の評判やイメージが低下し、経営にも悪影響を及ぼすかもしれません。


労務管理システムを導入する

企業が管理する労務は多岐にわたるため、規模が大きくなるほど効率的な対応が求められます。そこで注目したいのが労務管理システムの導入です。システムによって労務管理に関する工数が削減でき、労務問題防止の取り組みにリソースが割り当てられるようになります。結果として、社員へのサポートも手厚くなり、労務問題を未然に防ぎやすくなるでしょう。


効率化に役立つ労務管理システムとは?選び方や導入時の注意点を解説


労務問題への対応の流れ

企業は、労務問題が発生してしまった場合に備え、解決までの流れを知ってくことが大切です。ここでは、労務に関するトラブル対応の流れを解説します。


1.現状を把握する

労務問題が発生したら、まず現状の把握を行うことが大切です。トラブルの当事者や関係者へのヒアリングを通して、起こっている問題や原因、結果などを調査します。トラブルをさらに悪化させることがないよう、客観的かつ公正に現状を確認しましょう。


2.就業規則や過去事例を確認する

次に、就業規則を確認して、労務問題に該当するかを判断していきます。過去に類似した事例があれば、そのときの詳細や結果を参考にしてみましょう。過去の事例を参考にすることで、企業として一貫性のある対応がしやすくなります。


3.第三者や専門家に相談する

労務問題は当事者間での対話を通して解決を目指すことが理想ですが、両者の主張が食い違い、話し合いでの解決が困難となるケースもあります。そのようなときは、第三者や専門家への相談を検討しましょう。


第三者や専門家に相談することで、それぞれの責任の範囲が明確になり、解決への道筋が見えてきます。それでもお互いに納得できる落としどころが見つからない場合は、訴訟や調停などに進む流れになります。


労務問題に対応する際の注意点

最後に、労務問題に対応する際の注意点を解説します。企業と社員の間でトラブルが発生した際は、企業に有利になるように動くのではなく、当事者への誠実かつ丁寧な対応を心がけましょう。


証拠の改ざんや隠ぺいをしない

労務問題が発生した際の対応は、企業イメージに直結するため注意が必要です。社内の出来事だからといって不誠実な対応をしてしまうと、企業に大きな損失をもたらす恐れがあります。特に、証拠の改ざんや隠ぺいは厳禁です。改ざんや隠ぺいが発覚すると、書類送検といった処分を受ける可能性があるため、絶対に行わないようにしましょう。


臨機応変に対応する

近年は価値観の多様化が進んでいます。労務問題において、価値観の多様化に疑問を感じる場面があっても、臨機応変に対応しなければなりません。性別や年齢といった従来の価値観にとらわれず、柔軟な思考でよりよい解決策を模索していきましょう。


まとめ

労務問題は、さまざまな要因で発生しており、件数も年々増加傾向にあります。企業が健全な経営を続けるためには、労務問題を防止するための取り組みが不可欠です。また、労務問題への対応の流れを知っておくことで、トラブルが大きくなる前に解決しやすくなります。


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