ジョブローテーションについて
まずはジョブローテーションの基本的概要と、特徴について解説します。
職場や職務を定期的に変更する制度
ジョブローテーションとは、社員の職場や職務を定期的に変更する育成制度を意味します。社内のさまざまな部署・部門の業務を体験させ、会社や業界への理解度を深めたり、社員の適性を発見したりといった効果に期待できる制度です。
特定の部門や業務だけを担当させるのではなく、さまざまな体験を通して社員の能力を開花させられる点がジョブローテーションの特徴です。
ジョブローテーションの周期
ジョブローテーションでは、一般的に2〜3年程度で部署・部門を異動します。一方で、従業員の適材適所の判断を目的とする場合には、3〜6か月程度の短期間で異動するケースもあります。
同じ部署・部門内で別の仕事を担当することもジョブローテーションに含まれるため、社員や職場環境に合わせてさまざまな方法を試せるのが特徴です。
ジョブローテーションと類似した制度の違い
ジョブローテーションは、人事異動などと同じようにみえる制度ですが、その内容には多くの違いがあります。
ジョブローテーションと人事異動の違い
人事異動は社員に命令して、部署や部門を異動させる人事を意味します。主に組織の活性化や戦略上必要な処置として実施されるため、企業側の都合で行われる面が強いのが特徴です。一方で、ジョブローテーションは社員の育成を目的に行われるため、社員都合を優先するケースが多くなります。
また、ジョブローテーションは将来的に部署や業務内容の変更を見込んでいますが、人事異動ではその予定がありません。
ジョブローテーションを導入する目的とは
ジョブローテーションを導入する際には、さまざまな目的が考えられます。
社員の育成と適性の把握
ジョブローテーションは社員にさまざまな体験をさせ、能力の育成を進めるのが目的になります。また、その社員が本来持っているスキルを発揮できる職場・業務をみつけ、適性を把握するのも目的になり得るのが特徴です。
実際に業務を体験することで得意・不得意が分かるケースも多いため、社員を働きやすい環境に導くきっかけになり得ます。
企業の全体像を把握する
さまざまな部署・部門に異動することで、社員は自分が所属する会社の全体像を把握できます。会社の全体像を把握してもらい、業界や事業分野の基本を理解させることもジョブローテーションの目的になります。
自社を動かしている具体的な仕事を把握することで、効率化や新規事業につながるアイデアがみつかる可能性にも期待可能です。
企業にとってのジョブローテーションを導入するメリット・デメリット
企業からみてジョブローテーションを導入することには、さまざまなメリット・デメリットがあります。
社員の能力を引き出せる
ジョブローテーションを実施することで、その社員が持っている能力を最も引き出せる職場をみつけられます。結果的に個々の社員が企業に貢献できるようになり、業績アップにつなげられるのがメリットです。
業務における属人化を防ぐ
特定の人材しか担当できない業務の属人化は、企業にとってはリスクになります。ジョブローテーションで多くの社員が業務を担えるようになれば、代替が容易となるため万が一の際にも業務をストップさせることがなくなるでしょう。
ジョブローテーションの実施中は定期的に人の異動があるため、業務のマニュアル化が進みやすい点もメリットです。
社内での連携を強化できる
ジョブローテーションを実施することで、部署や部門の違う社員同士が交流を持てる機会が増えます。社員間のネットワークが構築できるため、その後も仕事において連携が取りやすくなるメリットがあります。
ジョブローテーションの経験により、部署をまたいだ業務に関する相互理解が進む点も将来的にメリットとなるでしょう。
パフォーマンスの低下につながる可能性
ジョブローテーションを行うと、どれだけ能力のある人材も慣れない業務への対応に苦労してパフォーマンスの低下が起きる可能性があります。結果的に業績が悪化したり、トラブルが発生するリスクがある点はデメリットです。
異動におけるコストがかかる
ジョブローテーションを実施するたびに、異動に必要な人的なコストと時間的なコストが発生する点もデメリットの1つです。また、育成した社員が退職すると、それまでのコストが無駄になるリスクもあります。
社員にとってのジョブローテーションを導入するメリット・デメリット
ジョブローテーションの導入は、社員にもさまざまなメリット・デメリットを与えます。
多くの体験からスキルを学べる
ジョブローテーションによって多くの業務を体験することで、社員はさまざまなスキルを学ぶ機会に恵まれます。自分に向いている仕事やポジションを発見するきっかけになり、能力開発につながる可能性がメリットになるでしょう。
キャリアパスの考案につながる
ジョブローテーションによって多くの部署・部門をみることで、社員は自身の具体的なキャリアパスを考えられるようになります。将来どのように仕事をしたいのかを明確にすることで、必要なスキルの習得などを早くから進められる点もメリットです。
多角的な視点を得られる
ジョブローテーションを体験することで、社員は仕事を多角的な視点からみる能力が得られます。1つの視点に縛られずに物事を捉えられるため、新しいアイデアを生み出したり、業務改善案を提案したりといった形で企業に貢献して評価される可能性が高まります。
業務負担が増加する
ジョブローテーションが実施されるたびに、慣れた仕事を手放さなければならない点は社員にとってデメリットです。新しい仕事を覚えるためにはそれなりの労力が必要になるため、業務負担が増加して心身が疲弊する可能性も懸念されます。
戦力として評価されることが難しい
ジョブローテーションによって異動するたびに、社員は「新人」状態となってしまいます。戦力として評価されない状態が続くため、モチベーションが低下するリスクがある点はデメリットといえるでしょう。
ジョブローテーションに向いている企業・向いていない企業
ジョブローテーションの導入時には、自社がその制度に向いているのか・向いていないのかを確認するのが重要です。
ジョブローテーションはマニュアルが整備されている企業に向いている
ジョブローテーションでは、異動した社員に仕事を一から教える必要があります。そのためマニュアルが整備されていて、ほかの社員の仕事を増やさずに済む企業に向いている制度です。
ジョブローテーションはスペシャリストを必要としている企業には向いていない
ジョブローテーションでは一定の期間で異動が繰り返されるため、特定の業務に特化した人材を育成しづらくなります。専門性や高度なスキルを持つスペシャリストを必要とする企業は、ジョブローテーションの導入を慎重に考えるべきでしょう。
ジョブローテーションを実施する手順・ポイント
ジョブローテーションを実施する際には、基本的な手順と成功につながるポイントを事前にチェックしておきましょう。
ジョブローテーションの対象となる社員と配属先の選定
まずはジョブローテーションで異動させる社員と、配属先を決定します。社員の年齢や勤続年数などを参考にし、その性質に合わせた配属先を選定するのがポイントです。
若手が多く活躍している部門にベテランの社員を異動させると、相互コミュニケーションが難しくなって業務に支障が出る可能性があります。社員と配属先の特徴を正確に把握して、適切な人事異動を行えるように備えましょう。
ジョブローテーションを実施する期間の設定
続いてジョブローテーションを実施する期間と、異動のスパンを設定します。期間とスパンは、ジョブローテーションの目標によって変わります。
その部署・部門を深く理解させるのならある程度長く設定し、触り程度で十分なら短く設定するのがコツです。
対象者にジョブローテーションについて説明をする
ジョブローテーションの対象者となった社員に、詳しい内容を説明する機会を作ります。どのようなメリットがあるのか、どんなデメリットに注意すべきかを解説し、参加に了承してもらいます。
ジョブローテーションの導入におけるポイント
ジョブローテーションの導入時には、確認しておくべきポイントがいくつかあります。
社員にジョブローテーションの意義をしっかりと説明し、理解してもらう
まずはジョブローテーションの必要性や「なぜやるのか」といった背景を、社員に理解・浸透させることが重要です。しっかりと説明の時間を取り、理解が完了するまで何度でも話し合います。
社員の考えや意向を把握する
ジョブローテーションを実施する際には、対象となる社員の考えや意向を必ず確認します。望まない異動は退職などの理由になるため、社員が興味のある職場へのジョブローテーションを優先するのが基本です。
事前にアンケートやヒアリングを実施し、興味のある業務や将来のキャリアプランについて把握しておきましょう。
社員の経歴や役職ごとに目標を設定する
ジョブローテーションは新入社員だけでなく、部下を持つミドルクラスの社員や管理職も対象となります。これまでの経歴や実現したいキャリアプランを参考に、それぞれの目標を設定する必要があるでしょう。
社員の経歴・役職に合わない職場への異動は、エンゲージメントの低下などにつながるリスクがあるため注意が必要です。
まとめ
ジョブローテーションは、社員にさまざまな「体験」を与えられる教育制度として注目されています。社員に適した職場をみつけたり、能力の開発につながったりといったメリットがあるため、うまく活用できれば会社に貢献する人材を育成できるでしょう。
この機会にジョブローテーションの基本を確認し、自社の教育制度として導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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