ISO30414とは
ISO30414とは、人的資本の情報開示についてまとめたガイドラインのことです。国際標準化機構(ISO)が2018年12月に発表しました。ISO30414では、人事や労務に関する情報を開示する際に意識すべき基本的な指針がまとめられています。ISO30414の適用は義務ではないものの、世界中で取り入れる動きが加速しています。
ISO30414が策定された目的
ISO30414は、なぜ策定されたのでしょうか。ここでは、ISO30414が策定された目的を解説します。
人的資本を定性的・定量的に把握するため
ISO30414の目的は、組織や投資家が人的資本を定量的・定性的に把握できるようにすることです。ガイドラインに則って各企業が人的資本の情報開示を行えば、さまざまな情報を比較しやすくなります。たとえば、自社の過去と現在の状況を比べたり、自社と他社の違いを確認したりできるようになります。
企業の持続的な経営をサポートするため
ISO30414の基準に沿って情報を開示すると、人的資本が企業に対してどの程度の影響を与えているか明確になります。企業の経営を安定的に継続させるには、人的資本による貢献が必要不可欠です。人的資本である社員の貢献度を最大化するための戦略を立てるうえで、ISO30414の基準が役に立ちます。
ISO30414が注目される背景
ISO30414は多くの企業から注目されています。ここでは、その背景について解説します。
人的資本の重要性が高まっているため
以前は有形資産を重視する企業が多い傾向がありましたが、近年は人的資本を含む無形資産の価値に注目する企業が多くなっています。新型コロナウィルスの感染拡大の影響でテレワークを導入する企業が増えてからは、人事戦略の変革も必要になりました。そのため、人的資本の可視化のためにISO30414を利用する企業が目立ち始めています。
ESG投資への関心が集まっているため
ESG投資とは、環境、社会、ガバナンスについて考慮した投資のことです。「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字をとって、ESGと表現しています。ESG投資に対する関心が高まり、ガバナンスについて判断するための材料のひとつとしてもISO30414による情報開示が注目されています。
人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材を資本と捉え、教育や訓練などを行う経営戦略です。ビジネスを成長させて企業価値を高めるための戦略として、注目する企業が増えてきました。人的資本経営は、中長期的な目線で取り組む必要があります。
経済産業省も、人材の価値を最大限に引き出すための取り組みとして人的資本経営を捉えています。企業の人的資本経営を支援するため、さまざまな研究や調査を実施しているところです。
人的資本経営に関する経済産業省の取り組み
経済産業省は、人的資本経営に関するさまざまな取り組みを実施しています。ここでは、取り組みの内容を具体的に解説します。
人材戦略に関する研究会の開催
経済産業省は、人的資本経営の実現に向けて「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を開催しています。この研究会では、人材戦略のあり方が改めて検討されています。
経営陣、取締役、投資家のそれぞれの役割を確認し、どのような変革が必要であるか見解が示されました。研究会の内容は「人材版伊藤レポート」としてまとめられ、2020年9月に公表されています。
検討会の実施
経済産業省は、2021年7月から「人的資本経営の実現に向けた検討会」も実施しています。人材戦略は、経営戦略とどのように連動させるかが重要なポイントです。この検討会では、企業価値を持続するために必要な人材戦略について議論されています。
2022年5月には、人的資本経営を実践している企業についてまとめた「実践事例集」が発表されました。また、検討会の内容については、「人材版伊藤レポート2.0」として公表されています。
人材戦略に必要な3P5Fモデルとは
経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」では、人材戦略には3つの視点と5つの共通要素(3P5Fモデル)が必要であると示されています。ここでは、3P5Fモデルとはどのようなものなのか解説します。
人材戦略に求められる3つの視点(3P)
経済産業省は、人材戦略に必要な3つの視点(3 Perspectives)をあげています。具体的には、「経営戦略と人材戦略の連動」「As is‐To be ギャップの定量把握」「人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着」の3つです。
企業が人材戦略を実践するうえでは、これらの 3 つの視点を意識しながら戦略の全体像を確認する必要があります。
人材戦略に求められる5つの共通要素(5F)
経済産業省は、人材戦略に必要な5つの共通要素(5F)をあげています。具体的には、「動的な人材ポートフォリオ」「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「リスキル・学び直し」「従業員エンゲージメント」「時間や場所にとらわれない働き方」の5つです。
人材戦略を進めるうえでは、これらの5つの要素を満たす取り組みやKPIなどを検討する必要があります。
経済産業省が公表した人的資本経営に関する調査結果の概要
各企業は、人的資本経営の実現のためにどのような取り組みをしているのでしょうか。経済産業省は、日本企業の人的資本経営の現状について調査を実施しています。ここでは、2022年5月に公表された調査結果の概要を解説します。
人的資本経営に対する経営陣の認識
経済産業省が実施した調査によれば、人的資本経営の実現に向けた具体的な取り組みを実施していると認識している経営陣は少ないようです。経営戦略は明確化できているものの、人材戦略との連動ができていません。
調査の項目のうち、特に「投資対効果の把握」「動的な人材ポートフォリオ」「投資家との対話」「取締役会の役割の明確化」「経営人材育成の監督」などの取り組みが不足しています。
人的資本経営に対する社員の認識
人材戦略に必要な3P5Fモデルについて、社員は全体的に取り組みが進んでいると捉えています。社員は、経営陣以上に人的資本経営のための取り組みが順調であると認識しているようです。
ただし、「動的な人材ポートフォリオ」については、取り組みが不足していると感じている社員が多くなっています。この点については、経営陣と同様の認識です。
日本企業における人的資本の情報開示の事例
ここでは、ISO30414のガイドラインに基づき、人的資本経営について情報を開示している企業の事例を紹介します。
第一生命ホールディングス株式会社
第一生命ホールディングス株式会社は、人的資本経営のために3つのポイントを意識しています。具体的には、 意識改革、能力の開発、ワーク・ライフ・マネジメントです。
また、 ジェンダーダイバーシティの促進に力を入れており、性別の多様性に配慮した経営を目指しています。LGBTフレンドリーな企業になるため、研修や社外イベントなども積極的に実施しているところです。
アンリツ株式会社
アンリツ株式会社は、環境、社会、ガバナンスに関する情報を開示しています。企業としての目標を定めたうえで、取り組みや指標なども公開しました。
特に、ダイバーシティ経営の推進に力を入れており、人材の多様性を意識した採用活動を進めています。たとえば、外国籍の人材を採用したり、ジェンダーの平等にも配慮したりしています。取り組みの状況が分かるよう、幹部職のうち女性の割合の推移をエリア別に記載しました。
カゴメ株式会社
カゴメ株式会社は女性の活躍を推進するため、数値目標を開示しています。新規採用や管理職など、項目ごとに具体的な数値目標が定められています。
また、働き方改革の取り組みとして、テレワークやサテライトオフィスの活用も始めました。独自の副業制度も設けています。
さらに、社員の年間総労働時間の推移をグラフにまとめて公開しています。
三浦工業株式会社
三浦工業株式会社も、女性が活躍できる人材戦略の実現に力を入れています。有価証券報告書では、女性の役職者や管理監督者の比率の推移が公表されています。
女性の管理職の比率については3%という目標が定められており、積極的に取り組みが進められているところです。女性社員の登用を実現するため、育成にも力が入れられています。
人的資本経営に関する今後の課題
多くの企業が人的資本経営の重要性を認識しています。ただし、実際に具体的な取り組みに着手できている企業はそれほど多くありません。
人的資本経営を実現するには、さまざまな課題があるからです。たとえば、人的リソースや知見が不足していたり、組織体制が未熟であったりする場合も少なくないでしょう。また、目の前の課題への対応に追われ、手が回らない状況である企業も存在します。課題を解決したうえで、人的資本経営の実現を目指す必要があります。
まとめ
人的資本やESG投資への関心が高まっており、ISO30414に則って人的資本に関する情報開示を行う企業が増えています。人的資本経営の実現のためには、ISO30414の基準を意識しながらさまざまな取り組みに着手する必要があります。
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