企業にとってのインテグリティは、経営の誠実さ、公平性などを指します。企業が不正を防止し、持続的に発展するためには、インテグリティが必要です。本記事ではインテグリティとは何かを解説し、企業にとって重要な理由や高める方法などを解説します。ぜひ参考にしてください。
企業のインテグリティとは?
インテグリティは、一貫性のある正しさや誠実さを意味します。企業のインテグリティについて、定義や語源を解説します。
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インテグリティの定義
インテグリティは、本来、誠実・真摯・高潔などを表す言葉で、組織や個人が持つべき価値観として用いられます。日常的に正しい行動をしたり、ルールを守る姿勢を示したりするだけではなく、不利な状況でも自らの信念を貫き一貫した態度を保つことが、インテグリティの本質です。ビジネスシーンにおけるインテグリティは、経営やマネジメントに必要な資質とされます。
インテグリティの語源
インテグリティは、以下の単語が語源です。
・integer(ラテン語):高潔・完全性・誠実・真摯
・integritas(ラテン語):全体性・完璧性・清廉性
全体性・完璧性という言葉に見られるように、インテグリティは単に正しさや誠実さを意味するものではありません。組織や個人がインテグリティを備えるには、一貫性のある倫理基準が必要です。
人事・経営領域のインテグリティ
人事・経営領域におけるインテグリティは、信頼性・透明性・誠実さなどを指す言葉として使われます。インテグリティを持つ企業や社員の特徴は以下のとおりです。
・法律・社会規範を遵守している
・誠実で真摯な経営を実践している
上記のような特徴を示す企業や社員は、周囲からの信頼を獲得できるでしょう。
インテグリティの提唱者
インテグリティの重要性を主張し、ビジネス界に大きな影響を与えた人物を紹介します。
経営学者ピーター・ドラッカー
経営学者ピーター・ドラッカーは、1954年に発表した著書「現代の経営」において、経営で重要な資質は真摯さ(インテグリティ)であると主張しました。
氏は、明確な定義は難しいものの、以下の人物はインテグリティが低いと言及しています。
・他者の長所より短所に注目しがちな人
・正しさより権威、資質より知性を重視する人
・業務に対して厳格な基準を設けない社員
・優秀な部下に不安を覚える上司
投資家ウォーレン・バフェット
投資家ウォーレン・バフェットは、人を雇う際は、高潔さ(インテグリティ)・知性・活力が重要であると主張しました。ただし、氏は高潔さを欠いた人物を雇用すると、その人物の知性と活力が、組織に深刻な損害をもたらす可能性があると指摘しています。
インテグリティ・コンプライアンスの違い
インテグリティとコンプライアンスは、いずれもビジネス界で重要視される概念です。コンプライアンスは法令や社会的通念・規則の遵守を意味するもので、組織の基本的な責任を示します。一方、インテグリティは、法律や規範を超えた道徳的価値観や倫理観に基づく概念です。つまり、インテグリティの方が、コンプライアンスと比べてより強い倫理的側面を持っているといえるでしょう。
インテグリティが注目される背景
インテグリティが注目される背景には、成果主義の導入に伴う不正行為や、社員の過度な労働などの問題があります。1990年代以降、日本企業は従来の年功序列から成果主義へと徐々に移行しました。しかし、短期的な成果を過度に追求するあまり、企業倫理の軽視や不祥事の増加といった新たな課題が表面化しています。課題が解決されなければ、企業の存続さえも脅かされかねません。課題に対する有効な解決策として、倫理的な側面を重視するインテグリティは広く注目されています。
企業におけるインテグリティの重要性
さまざまな経営課題の解決と企業の成長を実現するうえで、インテグリティは不可欠です。企業におけるインテグリティの重要性を解説します。
コンプライアンス経営実践のため
インテグリティが重視される理由は、コンプライアンス経営を実践するためです。前述の企業における不正行為の増加を受け、コンプライアンス経営の重要性が高まっています。コンプライアンス経営は、法令遵守はもちろん、社会規範や倫理的行動も含めた広範な規律を守る経営姿勢です。企業が社会的信頼を維持するためには、形式的なコンプライアンスではなく、インテグリティを重視しましょう。
健全な組織運営のため
組織を健全に運営するためには、マネジメント層のインテグリティが重視されます。リーダーの意思決定が透明かつ公正なものであると、経営が安定しやすいためです。また、インテグリティを持つリーダーは、部下のモチベーションを高め、組織としての生産性を向上させます。
雇用問題への対応のため
雇用問題に対応するためにも、インテグリティを意識しましょう。近年の日本では、長時間労働や過労死といった深刻な雇用問題の解消を目指し、働き方改革が推進されてきました。取り組みの一環として、同一労働同一賃金の法制化など、具体的な施策が実施されています。
しかし、問題の根本的な解決には、法令遵守以上のものが必要です。倫理的な面を追求することで、雇用問題に対応しましょう。
インテグリティがある企業
国内では2015年まで、「誠実な企業」賞(Integrity Award)が選出・表彰されていました。この賞を設立したのは、産経新聞社とKPMGファイナンシャルサービス・ジャパンです。評価基準には、誠実な経営、企業倫理の実践、コンプライアンスの徹底、内部統制システムの構築などが含まれていました。
インテグリティがない企業
インテグリティが欠如している企業には、以下のような特徴が見られます。
・取引先や社員の弱みを不当に利用する
・正しい判断や倫理的な決定よりも、地位のある人物の意向を優先する
・企業の目標や倫理的基準が明確ではない
上記インテグリティの欠如は、企業の評判を損ね、業績に深刻な影響を与える恐れがあるため、注意が必要です。
インテグリティがある人物の特徴
インテグリティを備えた人物には、いくつかの共通する特徴があります。主要な特徴を解説します。
誠実さがある
インテグリティがある人物の多くは、誠実です。一貫した価値観があり、言動に矛盾がありません。また、自らの過ちを認め、修正する勇気が備わっています。誠実さと一貫性、素直に間違いを認める姿勢が、周囲からの信頼を生み、インテグリティにつながるでしょう。
利他的な考えを持っている
インテグリティがある人物は、利他的な考えを持っています。自己の利益や評価のみにとらわれず、他者の幸福や利益を重視して行動する傾向です。さらに、社会全体を俯瞰的に見る能力に長けているため、より広い視野で利他的に判断できます。
正義感が強い
インテグリティがある人物は、強い正義感を発揮することも特徴の1つです。間違っていると感じる状況に毅然とした態度で立ち向かい、意思決定の際には公正さを重視し個人的な利害に左右されません。さらに、同調圧力や過度なノルマといった不当な圧力に屈することなく、自らの信念を貫く勇気を持っています。
成長・成果を実現できる
インテグリティがある人物は、継続的に学ぶ姿勢を持ち、自己の成長に対して貪欲です。失敗や困難に直面したとき、彼らは成長の機会として状況を前向きに捉えます。さらに、習得したスキルや知識を効果的に活用し、具体的な成果へと結びつけることが可能です。
【役職別】求められるインテグリティ
インテグリティは組織全体で重要ですが、役職によって期待される内容はどのようなものなのでしょうか。役職別に求められるインテグリティを解説します。
経営者が持つべきインテグリティ
経営者は社会的・倫理的責任を率先して果たし、他の社員に対して模範を示しましょう。また、透明性のある経営と真摯な対応を通じて、企業の信頼性を高めなくてはなりません。経営者の影響力は大きいため、常にインテグリティのある考え方と行動が求められます。
管理職が持つべきインテグリティ
管理職が持つべきインテグリティのポイントは、企業全体と個々の社員の利益を考慮して行動する責任です。部下に適切に寄り添いサポートする管理職は、個々の社員と信頼関係を築き、組織の健全な発展に貢献します。同時に、部下の能力を最大限に引き出し、成長を促すことも管理職の役割です。
人事が持つべきインテグリティ
人事が持つべきインテグリティのポイントは、採用・教育にかかわる立場として、一貫した公正さと誠実さを保つことにあります。採用プロセスでは透明性を確保し、すべての社員に対して平等に教育の機会を提供しなければなりません。また、社員評価においては、明確で公正な基準を設けましょう。
社員が持つべきインテグリティ
社員が持つべきインテグリティのポイントは、担当業務に責任を持ち、誠実に遂行することです。自己の利益や保身のためではなく、組織や顧客の利益を優先して行動しなくてはなりません。また、不正や不祥事を見過ごさず、積極的に防止する姿勢も必要です。
企業がインテグリティを高めるメリット
企業がインテグリティを高めるメリットを解説します。倫理的な経営を推進すると、ビジネス上の優位性を確保できるでしょう。
ステークホルダーと信頼関係を築ける
企業がインテグリティを高めると、顧客・取引先・投資家・社員などのステークホルダーとの間に、強固な信頼関係を築けます。正直で誠実な行動を一貫して取り続けることで、企業の価値観や行動原則が高く評価されるためです。結果として、ステークホルダーの支持を得られ、事業展開がよりスムーズになるでしょう。
経営におけるリスクを軽減できる
インテグリティの高い企業は、経営におけるリスクを大幅に軽減できます。インテグリティが高ければ、社内の不正や非倫理的な行動が抑止され、各社員の倫理的な行動が促進されるためです。また、潜在的なトラブルを事前に特定して早期に対処すると、企業の評判を維持できるでしょう。
企業イメージ・ブランド価値が高まる
インテグリティの高い企業は、確固たる企業イメージとブランド価値を構築できます。短期的な利益よりも長期的な視点を重視する姿勢が社会に評価されると、安定した成長がもたらされるでしょう。さらに、獲得した社会的信頼はブランド価値を高め、市場での競争力を強化します。
企業のインテグリティを高める手段
企業のインテグリティを向上させるには、組織全体での取り組みが必要です。効果的な取り組みについて解説します。
リーダー育成に力を入れる
企業のインテグリティを高めるには、まず、リーダーとなる立場の人々にインテグリティを身につけてもらいましょう。リーダーが率先して誠実な行動を示すと、組織全体によい影響を与えられるためです。信頼されるリーダーの存在は、社員の模範となり、健全な組織文化を形成します。
社員教育・研修を実施する
企業のインテグリティを高めるには、社員教育・研修が効果的です。社員教育・研修を開催すると、インテグリティの必要性と重要性を全社員で共有できます。
人によって真摯さや誠実さの解釈が異なるため、組織全体で認識を統一しなければなりません。各社員の言動や意識が企業全体のイメージを形成するため、1人ひとりがインテグリティを理解し実践することが重要です。
評価制度にインテグリティを組み込む
企業のインテグリティを高めるために、評価制度にインテグリティを組み込みましょう。評価制度にインテグリティを組み込むと、社員にインテグリティの重要性が明確に伝わり、日々の判断や行動に反映されるためです。なお、評価基準には、コンプライアンス遵守・チーム貢献度・目標達成度などを含めてください。
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インテグリティに関連するワード
インテグリティは、さまざまな分野で注目されるワードです。インテグリティに関連するワードとして、インテグリティマネジメントと、データインテグリティについて解説します。
これから見るべき人的資本KPIとは 人的資本経営に求められる人事データ活用のポイントを解説
インテグリティマネジメントとは?
インテグリティマネジメントは、企業が信頼性と公正性を重視した経営を実践するための取り組みです。インテグリティマネジメントの一例として、企業理念の浸透・社員教育の充実・社会への配慮などが挙げられます。インテグリティマネジメントを採用する企業は、法令遵守にとどまらず、幅広い社会的責任を積極的に果たそうとするでしょう。
データインテグリティとは?
データインテグリティとは、データにエラーやミスがなく信頼できる状態を指します。企業が提供する商品やサービスは、データインテグリティを確保しなければなりません。データにより信頼性を確認できると、消費者は安心して商品やサービスを利用できるためです。デジタル化が進む近年において、データインテグリティへの要求が高まっています。
まとめ
企業におけるインテグリティとは、一貫性のある倫理基準に基づき経営に取り組むことです。インテグリティの向上は、企業活動に好影響を与えます。リーダー育成や社員教育・研修、評価へのインテグリティの組み込みなどによって、自社のインテグリティを高めましょう。
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