ワークエンゲージメントの基礎知識
ワークエンゲージメントが高い社員は、企業に多くのメリットをもたらします。ワークエンゲージメントの基礎知識を見ていきましょう。
ワークエンゲージメントとは?概要や高める方法・メリットなど徹底解説
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らによって提唱された概念です。端的に表現すると「活力・熱意・没頭の3つの要素により、仕事に対してポジティブかつ充実した気持ちをもった状態」がワークエンゲージメントといえます。一時的な感情ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情ともいえるでしょう。
※参考:第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて|厚生労働省
ワークエンゲージメントを高める必要性
ワークエンゲージメントの高い社員は、精神的に健康で、積極的かつ主体的に仕事に取り組める状態です。自らやるべきことを探して精力的に働くので、仕事のパフォーマンスが高い傾向も見られます。社員のワークエンゲージメントを高めることは、企業に多くのメリットのある取り組みです。
ワークエンゲージメントを高める3つの要素
ワークエンゲージメントを高める3つの要素である、活力・熱意・没頭について解説します。
1.活力
活力とは、仕事に取り組む際の精力的なエネルギーレベルと、メンタル面のしなやかさを兼ね備えた状態のことです。活力に満ちた社員は、難しい仕事に直面しても前向きな態度で挑戦し、ストレスなく意欲的に状況を楽しめます。
2.熱意
熱意とは、自らの仕事に対して強い誇りとやりがいを抱いた状態のことです。熱意に満ちた社員は、新規事業への参入にも意欲的で、惜しみない努力をしつつ果敢に挑戦する姿勢を示します。また、常に新しい知識を吸収しようと貪欲に学ぶ点も、熱意ある社員の特徴です。
3.没頭
没頭は、業務に対して充実感を覚え、時の経つのも忘れるほど集中している状態です。仕事に没頭できると、作業のペースが上がり、アウトプットの質が向上します。余計なことを考えずに仕事に集中すると、ミスも削減できるでしょう。
ワークエンゲージメントが注目される3つの背景
ワークエンゲージメントが注目される理由を、近年の企業が直面する課題に触れつつ解説します。
1.価値観の多様化
ワークエンゲージメントが注目を集める背景には、社会における価値観の多様化があります。インターネットの発達は、仕事に対する考え方や姿勢の多様化を加速させました。さまざまな価値観の社員が精力的に働けるように、企業はワークエンゲージメントの向上に注力しています。
2.人材の流動化
人材の流動化も、ワークエンゲージメントが注目される一因です。テレワークの普及や副業の解禁などが進むなか、よりよい条件を求めて転職する人が増加しました。人材の定着率を高めるために、多くの企業が職場環境の整備を通じ、ワークエンゲージメントの向上に取り組んでいます。
3.労働人口の減少
労働人口の減少による人材獲得競争の激化も、ワークエンゲージメントに関心が寄せられる一因です。優秀な人材を獲得し定着させようと、多くの企業が社員個々の意向を尊重したキャリア設計を重視しています。
ワークエンゲージメントに関連する4つの概念
ワークエンゲージメントへの理解を深めるために、以下で解説する4つの概念についても把握しておきましょう。
1.バーンアウト(燃え尽き症候群)
バーンアウトは、ワークエンゲージメントとは対局にある状態です。バーンアウトに陥った人は、仕事に対する情熱や関心を失い、ネガティブな心理状態に陥るリスクが高まります。懸命に職務に取り組んでも期待していた結果が得られなかった、仕事で長期間のストレスにさらされたなどがバーンアウトになる原因です。
2.リラックス(職務満足感)
リラックスは、仕事に対して前向きで満足度の高い心理状態です。仕事で優れた成果を出したり、称賛されたりすると、仕事に対する満足感と肯定感が上昇します。ただし、リラックスした状態が長く続くと、生産性の低下につながるかもしれません。適度なリラックスと、活力ある状態とのバランスを保てると持続的な成果につながります。
3.ワーカホリズム(ワーカホリック)
ワーカホリズムとは、仕事に対して否定的な感情を抱きながらも、高い活動レベルを維持している状態のことです。仕事中毒とも呼ばれるように、ワーカホリズムの状態にある社員は、一種の強迫観念にかられながら働いています。積極的に業務に臨む点はワークエンゲージメントも同じですが、否定的な感情が強い点はワーカホリズムの特徴といえます。
4.ES(従業員満足度)
ESは、社員が職場の環境や業務内容、同僚や上司との関係性などに対して感じる充実度を表す指標です。アンケートを通じて社員の意向を調査すると、現状のESを把握できます。職場の課題を明らかにして改善することで社員の満足度を高め、組織力の強化を図る企業は少なくありません。
つまり、ESは職場環境の改善に重点を置きます。一方、ワークエンゲージメントは、仕事に対するモチベーションの向上が焦点です。業績を向上させたいときは、ワークエンゲージメントに注目しましょう。
数字で見るワークエンゲージメントの傾向
厚生労働省が公表した情報によると、ワークエンゲージメントスコアには興味深い傾向が見られます。まず、トータルスコアは、男性よりも女性の方が高くなりました。女性は活力のスコアこそ低いものの、熱意・没頭のスコアは男性よりも高めです。
年齢や職位が上がるにつれて、スコアが高くなる傾向も見受けられました。職責の高まりとともに、自身の成長を実感したり、より難易度の高い仕事に挑戦する機会が増えたりすることが、スコアの向上に影響したと考えられるでしょう。
一方で、労使間における、ワークエンゲージメントに対する認識の違いも明らかになりました。企業側が「社員のワークエンゲージメントは高い」と認識していても、実際の社員のスコアはそれほど高くありません。特に、活力不足は多くの社員が自覚する課題です。
企業は社員の声に耳を傾け、ニーズに合った取り組みを通じて、組織全体のワークエンゲージメントを高めなくてはいけません。
※参考:第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて|厚生労働省
ワークエンゲージメントを高めるメリット4選
ワークエンゲージメントを高めて、社員に「働きがい」を感じてもらいましょう。ワークエンゲージメントを高めるメリットを解説します。
1.メンタルヘルスが向上する
ワークエンゲージメントが高い社員は、プライベートな場面でもストレスに対する耐性が強い傾向が見られます。仕事に対して積極的で充実感を感じている状態は、心身の健康状態にもポジティブな影響を与えるためです。
近年、多くの企業が社員のメンタルヘルス支援に力を入れています。ワークエンゲージメントを高める施策を組み合わせると、よりメンタルヘルス支援の効果を高められるでしょう。
2.生産性が向上する
ワークエンゲージメントが高まると、社員のパフォーマンスが上がります。個々がモチベーション高く、積極的に業務に取り組むようになると、企業全体の生産性が引き上げられるでしょう。また、エンゲージメントの高い社員は、自己成長意欲が旺盛です。スキルの習得に励み、新たに身につけたスキルを業務に生かすと、さらなる生産性の向上が期待できます。
3.離職率が低下する
ワークエンゲージメントが高い社員は、離職率が低い傾向が見られます。厚生労働省の調査でも、ワークエンゲージメントと離職率の関連性が明らかになりました。特に、新入社員における入社3年後の定着率は、ワークエンゲージメントの度合いによって大きく変わります。
離職率が低い企業は対外的なイメージが良く、優秀な人材の獲得も見込めるでしょう。社員が定着すると採用コストを削減できるうえに、人材育成に注力できるようになります。
4.コミットメントが向上する
ワークエンゲージメントを高めると、組織全体のコミットメント(仕事に対する責任感)の向上も可能です。ワークエンゲージメントが高まった社員は、周囲にもポジティブな影響を与えます。組織に貢献する雰囲気が醸成されたり、社員同士のコミュニケーションが活発になったりすると、組織全体のコミットメントが向上するでしょう。
5.CS(顧客満足度)が向上する
ワークエンゲージメントの高い社員は、質の高いサービスを提供する傾向が見られます。仕事に対して誇りややりがいを感じている社員は、自社の商材に対して深い関心を持ち、魅力や価値を学んでいるためです。自信をもって商材をアピールできると、顧客からの信頼を獲得できるでしょう。また、高いモチベーションがあると、新商品の開発でも結果を示せます。
ワークエンゲージメントを測定する3つの尺度
ワークエンゲージメントを測定する際は、主に3つの尺度が用いられます。それぞれの特徴と測定方法を見ていきましょう。
ワークエンゲージメントの尺度とは?エンゲージメントを高める方法・注意点を解説
1.UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
高い安定性で世界的に普及が進むUWESは、ワークエンゲージメントを測定する代表的な測定方法です。測定する際は社員に17項目の質問に対して回答してもらい、活力・熱意・没頭の3つの側面から、エンゲージメントの度合いを数値化しましょう。UWESは、日本版や短縮版も開発されています。
2.MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GSは、ワークエンゲージメントの対局となるバーンアウトの測定結果をもとに、ワークエンゲージメントを割り出す方法です。測定する際は、仕事に対する疲労感や冷笑的な態度、やりがいの喪失などについて、16項目の質問をしてください。バーンアウトに当てはまるスコアが低いほど、ワークエンゲージメントが高いといえます。
3.OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
MBI-GSと同様、OLBIもバーンアウトの測定結果をもとに、間接的にワークエンゲージメントを測定する方法です。測定の際は、離脱(冷笑的態度)と疲弊について質問します。OLBIのスコアが低いほど、ワークエンゲージメントが高いと判断可能です。
ワークエンゲージメントを高める4つの方法
ワークエンゲージメントを高める4つの方法を解説します。環境や体制を見直すとワークエンゲージメントを高められます。
1.フィードバックをする機会をつくる
ワークエンゲージメントを高めるには、前向きなフィードバックが効果的です。定期的にフィードバックの機会を設けると、現状や仕事の課題、人間関係の悩みなどを把握できます。社員の努力や成果を認め、仕事に対するモチベーションを高めましょう。
一方で、改善が必要な点を伝える際には、その後の適切なサポートやフォローも重要です。建設的なアドバイスは、社員のワークエンゲージメントを維持・向上させます。
2.仕事のやり方・考え方を主体的に捉え直す
ジョブ・クラフティングと呼ばれる方法でも、ワークエンゲージメントを高めることが可能です。ジョブ・クラフティングでは「やらされている」という受動的な意識から、「主体的に働いている」という能動的な意識に切り替え、社員のモチベーションを高めます。
ワークエンゲージメントの向上に向け、仕事の進め方や存在意義、上司や同僚とのコミュニケーションの取り方などを考えさせましょう。
3.自己効力感を高める
自己効力感は心理学の概念で「特定の課題や目標を達成する能力が自分に備わっていると認識すること」を指します。
自己効力感を高めてワークエンゲージメントを向上させるには、ポジティブな環境の構築や社員のスキルアップが効果的です。たとえば、周囲との積極的なコミュニケーションを促進したり、能力開発のための研修を実施したりすると、社員は自己効力感を高められます。
4.人事評価制度を見直す
ワークエンゲージメントを高めるには、社員のモチベーション向上が重要です。人事評価制度を見直し、評価制度が公正で透明性の高いものへと改善しましょう。職種の多様化が進むなか、すべての社員を適切に評価しようとすると多角的な視点が欠かせません。成果が目に見えにくい職種を適切に評価するためには、360度評価の導入が有効です。
ワークエンゲージメントを高めるための重要ポイント
前述の方法を試しても、社員のワークエンゲージメントが高まらない場合があります。期待する成果が出ない場合は「仕事の資源」と「個人の資源」の両方を充実させる取り組みが必要です。ワークエンゲージメントを高めるための重要なポイントを解説します。
仕事の資源
仕事の資源とは、業務の効率化や適切なサポートなどをもたらす外的要因のことです。仕事の資源を充実させると、社員の負担を軽減し、モチベーションを高められます。前向きなフィードバックや裁量権の付与などを通じて、ワークエンゲージメントの向上につなげましょう。
個人の資源
個人の資源とは、社員自身の心理的ストレスを軽減し、自己のモチベーションを高めるための心理的要因のことです。本人の希望に沿った業務の割り当てや、必要なスキルの習得支援などが個人の資源を充実させます。個人の資源を高めて、個々のパフォーマンスや生産性の向上につなげましょう。
ワークエンゲージメントを高めた企業の事例
最後に、ワークエンゲージメントを高めた企業の事例を解説します。参考にして、自社の施策を検討しましょう。
千寿製薬株式会社の事例
千寿製薬株式会社の目標は、社員それぞれの成長を支援する人材管理体制の確立です。しかし、同社は、社員情報の管理に課題を抱えていました。
タレントパレットを導入したところ、社員情報を一覧で確認できるようになり、人事評価や採用計画が効率化し、社員のスキルアップや職務満足度の向上も実現できています。また、アンケートやストレスチェックのような多様な機能を活用して、人事部門の業務効率化も実現できました。
株式会社プレナスの事例
株式会社プレナスは、社員の経歴や異動歴を十分に把握できておらず、人材育成に課題を抱えていました。効果的な人事施策に向けて導入したシステムが、タレントパレットです。システム導入後は、データの一元管理と蓄積により、細かな評価制度を運用できました。また、社員のフォローにもタレントパレットを活用したことで、離職率の低下も実現できています。
綾羽株式会社の事例
綾羽株式会社は、後継者不足をきっかけに、属人的で科学的根拠のない人事異動から脱却したいと考えました。タレントパレットを導入した決め手は、スキルや能力、経験により計画的に人材育成できる見込みがあったためです。
システムを導入した結果、評価運用が紙ベースからデータに切り替わり、コストを削減できました。加えて、アンケート機能により、社員が抱える課題や今後の目標をタイムリーに共有できています。
まとめ
社員のワークエンゲージメントを高めるには、職場環境や情報管理の仕組み、制度の見直しなどが求められます。効果的にワークエンゲージメントを向上させるために「仕事の資源」と「個人の資源」の両方を充実させましょう。
タレントパレットは、HRテックの知見をもとに提供されるサービスで、大手をはじめ数多くの企業に導入されています。経験豊富なコンサルタントによるサポートも可能です。社員のワークエンゲージメントを向上させるために、ぜひタレントパレットの導入をご検討ください。
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