人的資源の特徴と他の経営資源との関連性|管理面の課題や人的資本との違いも解説


人的資源の特徴と他の経営資源との関連性|管理面の課題や人的資本との違いも解説

人的資源は、企業活動を支える経営資源の1つです。人的資源を有効活用すると企業力を強化できます。しかし、人的資源の定義や役割をイメージできない人もいるでしょう。この記事では、人的資源の特徴や他の経営資源との関連性などを解説します。人的資源と人的資本の違いにも述べるので、参考にしてください。

ビジネスにおける人的資源の意味合い

人的資源は企業の目標達成や競争力の向上に貢献し、他の資源の価値を左右する存在です。ビジネスにおける人的資源の意味合いを解説します。


人的資本経営時代の人材マネジメント戦略


人的資源の意味合い

人的資源は、企業が経営目標を達成するために不可欠な要素です。端的にいうと、人的資源は自社の社員を指します。企業のステークホルダーも人的資源に含む、という考えの人も少なくありません。ステークホルダーも、商品やサービスに対するフィードバックや資金提供によって、企業の経営に影響を及ぼすためです。


人的資源の英語表現

人的資源を英訳すると「Human Resource」となります。また、後述する人的資源マネジメントの英訳は、「Human Resource Management」です。


人的資源と人的資本の使い分け方

人的資源と混同されがちな言葉が、人的資本です。人的資源の場合は企業で働く人材そのものを指し、個々のパフォーマンスには直接着目していません。一方、人的資本が重視するものは、人材に付随するスキルやノウハウ、知識などです。人的資源の能力を開発して価値を高めるにつれて、企業は人的資本を蓄積できます。


人的資源以外の3つの経営資源

4大経営資源は、「ヒト・モノ・カネ・情報」です。ここでは、人的資源(ヒト)以外の3つの経営資源を解説します。それぞれの資源の意味合いや、企業活動に与える影響について把握しておきましょう。


モノ(物的資本)の意味合い

モノ(物的資本)は、企業が事業を遂行するために所有するものです。たとえば、不動産や機械設備、消費者に提供する商品やサービスなどは、モノとして挙げられます。


モノを上手く活用するポイントは、コスト最適化です。モノである材料の調達や商品の生産、品質や状態の維持にはコストがかかります。企業は、事業に必要なモノを見極め、適切な投資をすることで、収益性の向上が可能です。また、モノの効率的な活用は、以下で紹介するカネの有効活用にもつながります。


カネ(財務資本)の意味合い

カネ(財務資本)は、現金や預貯金、金融機関からの融資、株式や債券などを指します。カネは価値が分かりやすい経営資源ですが、カネさえ確保すれば企業が安泰なわけではありません。企業が長期的に存続し、発展し続けるためには、必要な部分にカネを投資してキャッシュフローを健全化させることが重要です。不健全にカネをため込みがちな企業は、ビジネスチャンスを逃す可能性があります。


情報(組織資本)の意味合い

情報(組織資本)は、顧客・取引先・競合相手などの情報、ブランドイメージやノウハウ、ステークホルダーとのつながりなど、目に見えないものです。近年はテクノロジーの発展により、情報の価値が大きく上昇しました。情報を効果的に活用することで、企業の競争力は高まり、有利に事業を進められます。ただし、情報の取り扱いには注意が必要です。万一、情報漏洩が起きると、企業は大きなダメージを受けるリスクがあります。


人的資源の4つの特徴

人的資源は他の経営資源とは異なり、価値が変動しやすいうえに管理が難しいものです。人的資源の特徴を解説します。


1.研修・自己研鑽により価値を高められる

他の経営資源とは異なり、人的資源は価値を高められます。社員個々のスキルやノウハウ、知識などは、研修や自己研鑽によって底上げが可能です。ポテンシャルが高まった社員は、優れたパフォーマンスを発揮できるでしょう。


人的資源の価値が高まれば、他の経営資源をより有効に活用できるようになります。ただし、新入社員教育のみでは、人的資源の価値を発揮しきれません。企業には、中長期的な視点に立った人材育成計画の策定と継続的な実行が不可欠です。優秀な人材を育成し、組織全体の生産性と競争力を高めましょう。


2.流動的である

流動とは、異動や退職、転職、新入社員の採用などによる人材の入れ替わりのことです。近年、終身雇用制度を採用する企業が減少し、生涯同じ企業で働き続ける社員も減少しつつあります。一方で、転職をサポートするエージェントサービスは増加傾向にあり、ライフスタイルや自己実現を追求して仕事を変える社員が増えました。


企業や職場に魅力がない、自分の能力を正当に評価されていないと感じた社員は、他の企業へ転職する可能性があります。


3.正確な管理手法はない

他の経営資源とは異なり、人的資源の管理手法には正解がありません。人的資源の管理を難しくさせる理由は、ヒトの感情や考え方の多様性です。社員それぞれの内面が異なるため、全ての社員に適用できる画一的な管理手法は存在しません。人的資源の管理においては、社員それぞれの個性や状況を理解したうえでの柔軟さが求められます。


4.周囲の働きかけによりアウトプットの質が変わる

前述のようにヒトは、多様な感情や考え方を持っているものです。周囲の働きかけがヒトの内面に影響を与えると、アウトプットの質が変わります。


アウトプットの質に影響を与える可能性がある働きかけを一部以下に示しました。


・上司や同僚、後輩などの仕事仲間とのかかわり

・待遇や報酬

・仕事のやりがい

・成長の機会

・ワークライフバランス


ビジネスにおける人的資源マネジメントの意味合い

人的資源マネジメントは、人事労務管理に変わって広まった考え方です。人的資源マネジメントの担当者は、企業としての利益向上を目指して人的資源の価値を高めるよう求められます。人的資源の価値を高めるには、環境や制度を整備したうえで、社員1人ひとりに合わせた育成計画が必要です。人的資源マネジメントについて詳しく知りたい人は、以下の資料も参考にしてください。


人的資本経営時代の人材マネジメント戦略


人的資源マネジメントと人事労務管理との違い

人的資源マネジメントは、ヒトを資源と捉えています。個々のパフォーマンス向上に伴う企業の持続的な成長と発展が、人的資源マネジメントの目的です。


一方、人事労務管理では、ヒトを必要経費と捉える傾向が見られます。人事労務管理の主な目的は、経費削減を通じて企業の短期的な利益を確保することでした。しかし、近年のビジネス環境を考慮すると、人事労務管理を続けていても企業の成長・発展は難しいでしょう。


人事労務管理の問題点

アメリカのホーソン実験により、企業内での立場や人間関係は、人間の生産性に影響を及ぼすことが明らかになりました。心理的安全性が確保された職場環境や、人間関係の風通しのよい職場環境をつくる取り組みは、人的資源の価値を高めます。


従来の人事労務管理は、ヒトを単なる労働力と捉え画一的に管理する手法です。人事労務管理のままでは、社員のパフォーマンスも企業の競争力も高まりません。


人事管理と労務管理の役割・業務内容を解説|それぞれの違いをおさえよう!


人的資源マネジメントが重視される理由

人的資源マネジメントが重視される理由を、他の資源への影響と労働力不足に触れつつ解説します。


人的資源は他の経営資源を動かすため

人的資源以外の経営資源には、モノ・カネ・情報があると解説しました。これらの経営資源を効果的に活用できるかどうかは、ヒトの能力と行動に大きく依存しています。経営資源を最大限に生かすために、まずは人的資源マネジメントに取り組みましょう。


価値ある人的資源は貴重な存在であるため

近年、労働力不足が社会問題となっています。高度な専門知識やスキルをもつ人材は、どの企業でも入社してほしい貴重な存在です。優秀な人材の確保は、企業の存続と成長を左右する大きな課題といえます。各企業には現在所属する人材を育成するとともに、流出を防ぐ取り組みが不可欠です。


人的資源マネジメントの成果を高める8つの手法

ヒトの感情や考え方は多様です。以下の手法を参考に、人的資源の価値を高めるためにさまざまなアプローチを実行しましょう。


1.等級制度を整備する

かつて日本では、年功序列や終身雇用が土台となった人事評価制度が主流でした。一方、等級制度は、社員を知識やスキル・業務内容・役割などによってランク付けする人事制度です。


等級制度に照らし合わせると、社員は自分の現時点での立ち位置を把握でき、キャリアについて明確に目標を設定できるでしょう。さらに、等級制度により評価基準を明確に示すと、社員に自分の評価について納得してもらいやすくなります。


2.適切に評価して報酬に反映させる

上述の等級制度を導入すると、社員の仕事ぶりが正当に評価され、自分のランクが報酬に直接反映されます。社員のモチベーションを高められると、優秀な人材の定着率向上が期待できるでしょう。


従来の年功序列を反映した昇給・昇格や人事評価制度は、成果主義が浸透する近年の風潮にそぐわない面があるかもしれません。人的資源マネジメントの成功に向け、時代に合った人事評価制度への見直しが求められます。


3.研修を計画し自己研鑽を推進する

階層別に研修を受講させたり、社員のキャリアビジョンに合う研修を促したりすると、人的資源の価値を高められます。


体系的な知識を習得させるeラーニングや、実践的なスキルが身につくOJT研修など、研修の手法はさまざまです。それぞれを組み合わせてデメリットを補いつつ、社員の価値を効率よく高めましょう。なお、研修は1回限りではなく、継続的に社員のスキルを高める育成計画を立ててください。


また、研修を通じて自分の可能性を自覚した社員は、積極的に自己研鑽に励む可能性があります。以下のような、自己研鑽を推進する制度を導入しましょう。


・書籍購入費用の補助

・外部セミナーへの参加費用の補助

・資格取得費用の補助

・勉強会などの開催支援


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4.適材適所に人材を配置する

自分の価値を発揮できる場所に配置された社員は、人的資源の価値を存分に発揮することが可能です。人的資源マネジメントの担当者は、企業のビジョンや課題を整理して、好ましい状況を継続でき、改善すべきところで適切な取り組みがなされるように、人材を配置する必要があります。


なお、配置を決める際は、社員本人の希望も考慮してください。企業としての意思のみを重視して配置を決めると、社員のモチベーションが低下する可能性があります。


5.人材情報を一元管理する

適材適所に人材を配置するためには、現時点で自社にどのような人材がいるかを把握する必要があります。タレントマネジメントシステムを導入すると、多くの社員を抱える企業でも社員の情報を一元管理可能です。多様な人材データを分析し、組織としてのパフォーマンスが高まる配置を検討しましょう。


6.福利厚生制度を充実させる

福利厚生制度を充実させ、報酬や待遇以外の面でも社員を支えましょう。福利厚生制度でワークライフバランスの実現をサポートすると、働きやすい環境を整備できます。


福利厚生制度を導入する際は、社員の家族も利用できるものがおすすめです。社員や家族に喜ばれやすい福利厚生制度を、一部以下に示しました。


・リモートワーク制度

・子育て支援制度

・慶弔金

・社員食堂や社員寮

・健康保険制度や雇用保険制度

・通勤手当

・住宅手当・家賃補助

・人間ドックやスポーツジムなどの費用補助


7.労使関係の安定化を図る

安定した労使関係を維持するために、職場環境の改善や就業規則の見直し、労働条件の明文化などに着手しましょう。


人的資源の価値を高めるべく新たな制度を導入する場合、労働組合との協議が必要になるケースがあります。企業側の都合だけでは、自由に制度を導入できません。日頃から企業と労働組合との関係性が良好であれば、新しい制度の導入がスムーズに進む可能性が高くなります。


8.時代に合わせて自社の制度をブラッシュアップする

ビジネスを取り巻く環境や、社会や社員の考え方は常に変化しています。状況の変化に応じて、等級制度や報酬制度、福利厚生制度などを見直すと、社員のエンゲージメントを高め、人的資源の価値を効果的に引き上げられるでしょう。近年の人材マネジメント戦略については、以下の資料も参考にしてください。


人的資本経営時代の人材マネジメント戦略


人的資源マネジメントにおける課題

人的資源マネジメントの課題を解説します。社員1人ひとりに向き合い価値観や考え方をくみ取ることが、マネジメント成功のポイントです。


企業の業績との因果関係は証明されていない

ミシガンモデル、ハーバードモデルのようなフレームワークは確かに存在します。ただし、人的資源マネジメントと企業の業績との因果関係は、証明されていません。企業の置かれた状況や業種、規模などによって、それぞれの管理手法の効果は異なります。


前述のように、人的資源マネジメントの手法には正解がありません。1つの手法にこだわらず複数の手法を使い分け、人的資源の価値が高まるアプローチを、社員1人ひとりの状況に合わせて見出すことが重要です。


社員1人ひとりにマッチするアプローチが難しい

人材の価値観は多様化しており、仕事内容、報酬、育成制度などと個人が重視する対象は異なります。画一的なアプローチでは、社員のモチベーションが上がりません。企業の思い込みを社員に押し付けるのではなく、社員1人ひとりのニーズや価値観を理解し、柔軟な姿勢で人的資源マネジメントに取り組みましょう。


ワークライフバランスに配慮しなければならない

人的資源の価値を高めるための施策は、社員のワークライフバランスへの影響を考慮して決める必要があります。ストレスの蓄積、労働時間の増加は、社員のパフォーマンスを低下させる要因です。ワークライフバランスが問題で、離職を選ぶ社員もいます。社員の立場を思いやり、コミュニケーションを取りつつ施策を検討しましょう。


ワークライフバランスの概要から考え方、現状、ポイントを解説


人的資源マネジメントに取り組む企業事例

人的資源マネジメントに取り組む企業事例を紹介します。課題と施策を参考に自社の取り組みを検討しましょう。


1.株式会社ニチレイ

株式会社ニチレイは、女性の活躍推進と次世代人材の育成を目的に、タレントパレットを活用しています。システムを導入した結果、過去の人材データを整理・分析し、育成状況をモニタリングできました。人事担当者が見過ごしてしまっていた人材も、システムならば抽出できます。効率よく将来を背負う人材を見つけ、研修や学習のチャンスを提供できるようになりました。


2.株式会社横浜銀行

株式会社横浜銀行がタレントパレットを導入した目的は、経営戦略にマッチする人事戦略の立案です。かつて同社はExcelで人材データを管理していましたが、データの登録や、俯瞰的なデータの把握に時間を取られていました。


システムの導入後は、効率よくデータを管理でき、人材データをリアルタイムに把握できています。結果的に、スピーディに人事戦略を立てられるようになりました。


まとめ

端的にいえば、人的資源は自社の社員です。経営資源を生かし、貴重な人的資源を守るためには、人的資源マネジメントが不可欠といえます。時代に合わせて人事評価制度や報酬制度、育成計画などを見直し、人的資源マネジメントに取り組みましょう。


タレントパレットは、HRテック企業が提供する人事評価システムで、大手をはじめ数多くの企業に導入されています。導入後も、コンサルティングの知見を生かしたサポートを受けることが可能です。人的資源マネジメントに取り組みたい人は、ぜひタレントパレットをご検討ください。


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