人材管理とは
人材管理とは、経営戦略の目標達成のために経営資源の一つ「ヒト」を最大限活用する取り組みです。人材マネジメントとも呼ばれます。採用、育成、配置、人事評価を一元管理して社内の人材を正確に把握し、経営戦略に役立てます。
人材管理の業務内容
人材管理の主な業務内容は、以下のとおりです。
採用・育成 | ・必要な人材の採用 ・スキルアップ・キャリアアップ支援 |
配置 | ・適材適所 ・本人の希望を尊重した異動 |
評価・報酬 | ・貢献度に見合った評価制度や報酬制度の導入 ・社員のモチベーション維持 |
その他 | ・採用や異動の情報を管理 ・働き手の多様なニーズに対応できる福利厚生や人事制度の整備 |
企業側の視点のみではなく、社員側の視点を網羅している点が人材管理の特徴です。
人事や労務との違い
一般的な人事・労務と人材管理の違いは、経営戦略とリンクしているか否かにあります。人材管理は、経営戦略に基づく人材戦略です。一方、従来型の人事や労務はバックオフィス業務ともいわれ、多くの場合は経営戦略と直接リンクしていません。
一般的な人事と労務の主な業務内容は、以下のとおりです。
・人事:人事評価、人事異動
・労務:福利厚生、コンプライアンス、給与計算、就業規則、労働安全衛生など
人材管理が注目されている理由
人材管理が注目される一番の理由は、急激に変化する社会情勢への対応が企業に求められているためです。日本企業は、グローバル化、デジタル化、少子高齢化、コロナ禍などの大きな変化の波に直面しています。大企業も例外ではなく、波を乗り越えられなければ優位性を失うおそれすらあります。
企業が生き残るためには、その時々の経営戦略にあわせて柔軟に人材を確保・配置し、各人の能力を最大限に活用しなければなりません。さらに、働き手の多様なニーズに対応できる職場づくりによって、他社との差別化と人材の定着を狙います。
人材管理のメリット
人材管理の実現で得られる5つのメリットを解説します。
企業の組織力が上がる
人材管理では、企業理念やビジョン、経営戦略を全社で共有し、企業と社員が同じ目標に向かって共に成長する視点が重要です。
適切な人材管理ができれば社員の結束が強まり、企業の組織力が向上します。タスクの優先順位や行動基準が明確になり、効率的・効果的な業務遂行が可能になる点も見逃せません。働きやすい職場の実現は企業のイメージアップにつながり、採用活動にも好影響をもたらします。
人材の発掘・育成が効率的になる
企業の人的資源を正確に把握していれば、経営戦略に必要な人材を社内から発掘でき、効率的に育成できます。
採用すべき人材が明確になる点もメリットです。新卒・中途採用・年齢・性別・国籍に関わらず、必要な時期に必要な役割を果たせる人材を臨機応変に採用しましょう。経営戦略に沿った採用を実現するためには、人事部のみではなくトップやマネジメント層が積極的に人材管理に関与する必要があります。
社員のモチベーションが上がる
人材管理では、人材戦略を経営戦略の要と捉えて「ヒト」に投資します。具体的には、以下のような施策が必要です。
・学び直しやスキルアップを支援
・本人のスキルや希望を考慮した配置
・功績に応じた公正な評価
社員にとっては自分の進むべき方向性が明確になり、貢献すれば認められて確実に報酬につながる点が魅力です。結果的に社員の自主性や向上心がアップし、モチベーションの維持にも役立ちます。コミュニケーションが活性化するため、革新的なアイデアが生まれやすくなるメリットも得られます。
社員のエンゲージメントが上がる
エンゲージメントとは、企業に対する愛着心や自発的な貢献意欲です。愛社精神と似た概念ですが、企業に対する社員の一方的な貢献心ではありません。企業の成長と自分の成長が一致する相互の関係性を意味します。
貢献度に応じて適切に評価される仕組みがあれば、社員のエンゲージメントが上がります。企業の成長が自分の成長につながり、主体的に経営戦略の目標実現に貢献しようとする気持ちが高まるためです。
離職率が低下する
エンゲージメントの向上は、離職率の低下にも有効です。優秀な人材が転職を選ぶ理由の一つに、スキルアップ・キャリアアップがあります。しかし、職場がいきいきと働ける場所で適切に評価され、自分の目標を実現できる見通しもあるなら、リスクのある転職を選ぶ必要性が低下します。
人材管理を効果的に行う5つのプロセス
人材管理を効果的に行うポイントは、目標設定・計画立案→実行→評価→改善のPDCAサイクルを繰り返し実施することです。以下で、それぞれのプロセスを詳しく解説します。
1.目標を明確に把握する
人材管理の目標を明確にするプロセスです。経営戦略の目標を明確化して課題を共有し、課題解決に向けて下記の目標を設定します。
・企業・事業部が達成すべき目標
・部署・チームが達成すべき目標
・社員個人が達成すべき目標
目標達成までの期間設定や達成度を評価するための数値的指標も必要です。個々の目標には必ず経営戦略の実現につながる課題を設定し、同じゴールを目指します。
2.自社に必要な人材を把握する
目標達成に必要な人材を把握するプロセスです。企業に所属しているすべての人材のパフォーマンスレベルや、スキルを洗い出しましょう。さらに、現状と目標を比較して、差異を明確化します。目標達成に貢献できる人材が自社にいないと判明すれば、新たに採用しなければなりません。
一方、他部署からの異動や教育によるスキルアップによって対応できる場合もあります。このプロセスで、人材確保が必要なのか、異動や人材育成が有効なのかを判断します。
3.適切な人員計画を立てる
具体的な人員計画を立てるプロセスです。現状と目標の差異を埋める具体的な計画を策定しましょう。主な方向性は以下の2通りです。
・人材を新たに採用する
・自社内の異動や教育で対応する
ただし、本人の意志に反する異動は望ましくありません。適材適所は重要ですが、人材管理では社員側の視点を意識する必要があります。企業側の都合を一方的に押し付けると、モチベーションやエンゲージメントの低下、離職率アップを招きかねません。
4.配置転換・育成計画・新規採用計画の実行
配置転換、育成、新規採用などの人員計画を実行するプロセスです。優先度と効果が高い計画から取り掛かりましょう。複数の目標を同時に達成しようとすると、社員の混乱を招く場合もあります。
新規採用では、多様な人材の確保を意識しましょう。先が見えない社会情勢の変化に対応するためには、多様性が重要です。配置転換では社内公募制度、育成計画ではOJT(実務研修)やOFF-JT(実務外研修)、eラーニングの活用も検討しましょう。
5.各プロセスへの適切なフィードバック
評価と改善のプロセスです。人員計画の実施によって目標がどの程度達成できたのかを評価し、フィードバックを実施します。さらに、計画の問題点を洗い出して改善し、再度サイクルを回します。プロセスを1度実行すれば、最適な人材管理を実現できるわけではない点に注意しましょう。
社員にフィードバックする際には、エンゲージメントやモチベーションの低下を招かない方法を取る必要があります。社員自身が主体的に課題を捉えて、積極的に改革に取り組める企業風土づくりも重要です。
人材管理における課題
人材管理の課題は、以下の2つです。
・経営計画そのものの見直しが必要
・管理すべき情報が多岐にわたる
従来の人事業務を超える管理項目も多く、トップやマネジメント層が関わらなければ成果が見込めないおそれもあります。
具体的に取り組むべき主な課題を以下で紹介します。
・多様化への対応:多様な働き方ができる組織体制、柔軟な評価制度
・職場環境・待遇の向上:モチベーション・エンゲージメントの向上・維持に必須
・個人視点の取り組み:自律的なキャリア構築の支援、キャリアパスの明確化
・情報管理:社員のスキルやパフォーマンスを一元管理
人材管理はシステムを活用することで効率化できる
人材管理を効率化するためには、システムの利用が有効です。社員数が少なければエクセルなどでも管理できますが、社員数が多い企業でのアナログ管理は現実的ではありません。大量のデータを一元的に管理・分析できる人材管理システムを活用すれば、担当者の負担を大幅に軽減できます。アナログ管理では把握できない課題や強みが判明する可能性もあります。
人材管理システムの選び方
人材管理システムを選ぶ際には、下記のポイントをチェックしましょう。
・使いやすさ
・システムの柔軟性
・サポート体制の充実度
・外部ツールとの連携
システムが使いにくいと担当者の負担が増えて業務効率が下がり、逆効果です。データベースの数やカスタマイズ性、サポート体制も重要となるでしょう。一方、社内ツールや他社ツールとの連携が取れない場合では、人材データの一元管理そのものができないおそれがあります。
人材管理を効率的に行うHR Techとは
HR Techとは、Human Resource(人材)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語です。採用、教育、評価などの人材管理に、クラウド、人工知能、ビッグデータ解析などのICT(情報通信技術)を活用することを意味します。
人手不足が深刻化する日本では、HR Techに注目する企業が増えています。人材確保や人事業務の効率化に、HR Techが役立つと考えられているためです。アメリカをはじめとする世界でも優秀な人材の確保が課題となっており、HR Techに大きな関心が寄せられています。
まとめ
人材管理とは、経営戦略の目標実現のために社内の人材を有効に管理・活用する方法です。大量の情報を扱う必要がある人材管理には、HR Techが欠かせません。
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