ヒューリスティックとは、経験から得た法則や先入観によって結論を出す思考法のことです。ヒューリスティックをビジネスに活用すれば、少ない労力と時間である程度の正しい判断を行えるでしょう。本記事では、ヒューリスティックの意味やメカニズム、主な種類などを解説します。マーケティングやその他のビジネスで活用する方法も解説しているため、ぜひ参考にしてください。
ヒューリスティックとは
ヒューリスティックとは、最短時間で労力をかけずに問題を解決する方法を見つける思考法のことです。以下で概要を概説します。
ヒューリスティックの意味
ヒューリスティックは、経験に基づく法則や先入観から直感的に、道筋が立つ答えを見つけることを意味します。緻密な計算や分析は必要ありません。最小限の思考で判断できるため、少ない時間と労力で答えを導き出せます。
ヒューリスティックを活用するメリットは、意思決定にかかるスピードを早められることです。導き出した答えが必ずしも成功するとは限らないものの、正しい判断ができればスピーディーな問題解決ができるうえに、悩む時間や労力を減らせます。
ヒューリスティックの例
ヒューリスティックの活用例は以下のとおりです。
・空の状態を確認し、過去の経験から「雨が降りそうだ」と判断する
・礼服で手荷物を持つ人を見て、「結婚式に参列した帰りだろう」と判断する
ヒューリスティックは経験に基づいた判断をすることから、経験則といわれることがあります。
ヒューリスティックと似た言葉
ヒューリスティックと混同しやすい言葉には、どのようなものがあるのでしょうか。本章では、認知バイアスやアルゴリズムとの違いを解説します。
認知バイアスとの違い
認知バイアスは経験から得た知識や周囲の状況から直感的に、合理性に欠けた判断をすることです。認知バイアスの例として、見た目が赤い料理を見て熱そうだ、辛そうだと非合理的な判断をすることが挙げられます。
一方のヒューリスティックは、限りなく正解に近い答えを導き出すことです。どちらも過去の経験から導き出している点は似ているものの、ヒューリスティックの方がより合理的な判断を行えます。認知バイアスは、ヒューリスティックの枠組み内で起こり得る現象といえるでしょう。
アルゴリズムとの違い
アルゴリズムとは、論理的なプロセスを経て問題を解決する方法のことです。アルゴリズムを活用すれば精度の高い解決方法を見つけられるものの、論理的なプロセスを手順に沿って解決策を導き出すため、答えに行き着くまでに時間や手間がかかります。
また、正解がある問題は得意である反面、答えが1つではない問題は苦手です。その点、ヒューリスティックは答えが1つではない問題の解決が得意なため、正解を導くのが難しい分野でも活用できます。
ヒューリスティックのメカニズム
ヒューリスティックの主な活用シーンは以下のとおりです。
・情報量が多く、すべてを正しく把握するのが難しい場面
・短時間で速やかに判断しなければならない場面
・判断にかかる時間や思考力など、リソースの負担を最小限にしたい場面
ヒューリスティックは、限られたリソースを効率よく活用するために用いられています。
ヒューリスティックの主な種類
ヒューリスティックは大きく分けて5つの種類がありますが、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。
代表性ヒューリスティック
代表性ヒューリスティックは、無意識の状態で第一印象や見たままの特徴から判断することを指します。代表性の意味はもっともらしさです。
代表性ヒューリスティックの例として、青い目をした金髪の人を見て外国人だと思い込み英語で話しかける、といった例が挙げられます。見た目や特徴から外国人と判断しても、実際は日本生まれの人や流暢に日本語を話せる人もいるかもしれません。
代表性ヒューリスティックはある程度の正解率が期待できる一方で、的が外れた結論を導き出す恐れもあるため注意しましょう。
固着性ヒューリスティック
固着性ヒューリスティックは、最初に得た視覚情報に基づいて判断してしまうことです。係留と調整ヒューリスティックとも呼ばれており、英語ではアンカリング効果を意味する、Adjustment Anchoringと呼ばれています。
販売額が同じ1,000円でも、定価1,000円の商品より、定価1,500円から500円引きされた商品の方が得だと感じることも、固着性ヒューリスティックといえるでしょう。
利用可能性ヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティックは、入手しやすい情報や印象が強い記憶に基づいて判断することです。普段からよく目にする情報や過去の衝撃的な出来事などは、印象に残りやすいことから、想起ヒューリスティックとも呼ばれています。
利用可能性ヒューリスティックの主な例は、自分や周囲の人がインフルエンザにかかり、インフルエンザが流行している、感染が拡大していると判断するなどです。
感情ヒューリスティック
感情ヒューリスティックは、湧いた感情をもとに意思決定を行うことを指します。好きなものや好意的に感じることには多くのメリットを感じ、デメリットは低く評価する一方で、嫌いなものや苦手なことはメリットが少ないと感じ、デメリットの方が多いと評価するケースが少なくありません。
たとえば、自分が好きなインフルエンサーが勧める商品をよいと判断して購入したり、優秀かどうかを能力ではなく印象によって判断したりするケースがあります。
シミュレーション・ヒューリスティック
シミュレーション・ヒューリスティックは、過去の経験や先入観のみで結果を判断することです。たとえば、プレゼンテーションで失敗した経験があり、次回も失敗するとネガティブな判断をしてしまいます。
他のケースでは、毎回会議室の照明を消し忘れる人がいた場合、同じ状況が起こると、「今回もあの人だろう」と根拠のない判断をしやすくなることも、シミュレーション・ヒューリスティックといえるでしょう。
ヒューリスティックから起こりやすい認知バイアス
認知バイアスは、ヒューリスティックの枠組み内で発生しがちです。本章では、認知バイアスの主な種類を解説します。
正常性バイアス
正常性バイアスは、自分にとって都合の悪い情報を過小評価して平静でいようとすることです。想定外の事態に直面した際に起こりやすく、正常の範囲内と誤って判断をしてしまうことがあります。
失敗しても取り返せるミスであれば問題はありません。しかし、自分や周囲の人の命に危険が及ぶ場合に正常性バイアスが働くと、最悪の事態を招く恐れがあります。
対応バイアス
対応バイアスは、起こった出来事に対して外的な要因ではなく、内的な要因を重視した心理的傾向のことです。基本的帰属誤謬(きほんてききぞくごびゅう)や、根本的な帰属の誤りとも呼ばれています。
対応バイアスが働くと、他者の行動はすべて、その人の性格や考え方に関連付けて考えるため、外的な要因を無視しかねません。たとえば、交通機関の遅延で遅刻した人に対し、時間管理ができない人と一方的に決めつけるような判断する傾向があります。
内集団バイアス
内集団バイアスは、関係性やつながりの深い集団の人には好意的な感情を持ち、特別扱いをすることです。一般的に、身内びいきとも呼ばれています。内集団バイアスの考え方の根本には帰属意識があるため、同じ出身地や出身校の人に好印象を持ち、それ以外の人にはあまり興味関心をもたない人もいるでしょう。このように、仲間意識が強くなる傾向があります。
確証バイアス
確証バイアスは、自分の判断に都合のよい情報ばかりを無意識に集めてしまうことです。数多くの情報のなかでも、自分の判断を肯定する情報ばかりを採用する一方で、否定的な情報は切り捨ててしまう傾向があります。
たとえば、開発担当者が新商品を検証する際に商品を肯定する意見ばかりを集め、逆にネガティブな意見を無視する場合も確証バイアスといえるでしょう。偏った意見によって検証するため、正確な分析は行えません。
ステレオタイプ
ステレオタイプは、社会に浸透している既成概念や固定概念を意味します。ステレオとは、活字印刷で用いられる鉛のステロ版のことです。同じ内容のものを一度に大量印刷できることから由来します。ステレオタイプは、ある属性と特定の特徴を結びつけて考えてしまいがちです。
たとえば、Z世代はSNSでの情報収集が得意であるが、シニア世代は苦手であるといった例が挙げられます。実際は、Z世代でもSNSを利用しない人もいれば、シニア世代でも積極的にSNSを利用して情報収集する人もいるでしょう。
アインシュテルング効果
アインシュテルング効果は、自分になじみのあるものだけを受け入れることです。自分にとって慣れ親しんだものを受け入れる一方で、なじみのないものは否定する傾向があります。特定の思考や考え方のみを物事の判断材料にするため、他の視点になかなか気付けません。
たとえば、先輩から「この方法なら効率が上がるよ」いわれても、慣れ親しんでいる従来の方法を選んでしまうことが例に挙げられます。アインシュテルング効果が働くと他人の意見を受け入れられず、視野が狭くなる恐れがあるため注意が必要です。
ヒューリスティックはマーケティングで効果を発揮する
ヒューリスティックをビジネスで有効活用するためにどうすればよいか、知りたい人もいるでしょう。本章では、マーケティングで効果を発揮する活用例を紹介します。
ヒューリスティックを用いたイメージ戦略
イメージ戦略を行う際は利用可能性ヒューリスティックの仕組みを活用し、繰り返し宣伝する方法が有効です。利用可能性ヒューリスティックが働くと、消費者は宣伝によって印象が残った商品を選びやすくなります。
また、商品の宣伝だけでなく、企業やブランドに親しみやなじみを感じてもらうことで、感情ヒューリスティックによる働きも得られるのもメリットです。
イメージ戦略では、商品・企業・ブランドのCMを流す、キャッチフレーズ・ロゴを用いるなど、消費者の記憶に残る施策を実行するとよいでしょう。
期間限定の値引き
ヒューリスティックは、期間限定の値引きにも効果を発揮します。値引きキャンペーンを行う際、消費者に元値と値引き価格を提示することで、固着性ヒューリスティックによるお得感を得やすくすることが大切です。
また、期間限定にすると、消費者はスピーディな判断が求められ、即決で商品を購入する可能性が高まります。このとき、消費者は「この機会を逃すと損をする」、「またとない機会だ」という思考が働きやすくなるため、企業側は購買行動を後押ししやすくなるでしょう。
インフルエンサーによる宣伝広告
インフルエンサーによる宣伝や広告掲載も、ヒューリスティックの効果を発揮するのに有効な手段です。感情ヒューリスティックの働きによって、インフルエンサーが勧める商品やサービスは、よいものと判断される傾向があります。自社の商品やサービスを人気のインフルエンサーに紹介してもらえれば、消費者に大きな影響を与えられるでしょう。
松竹梅戦略
松竹梅戦略は3つの価格帯を設定した商品のうち、中間の価格帯を選びやすいという消費者の心理を逆手に取った施策です。たとえば、8,000円の商品を販売したい場合は、10,000円のコースと6,000円のコースを用意します。
固着性ヒューリスティックにより、10,000円よりも8,000円や6,000円の方が、お得感があると感じる人もいるでしょう。また、代表性ヒューリスティックによって高価格の方がよいもの、低価格の方が質は低いと判断されがちです。結果的に、10,000円よりも安くてお得かつ、6,000円よりもよいものと判断される8,000円コースが選ばれます。
マーケティング以外でヒューリスティックを活用できるシーン
ヒューリスティックは、マーケティング以外にも有効活用できるため、ぜひ取り入れてみてください。本章では、マーケティング以外の活用シーンを紹介します。
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日常業務におけるヒューリスティック活用
日常業務では、ヒューリスティックのデメリットを逆手にした考え方が有効です。たとえば、確証バイアスや正常性バイアスが働いて、リスクを過小評価していないかを確認するとよいでしょう。
顧客の好感度を高めるには、SNSを頻繁に更新して顧客との接点を増やします。また、手順を決める際は目的から逆算して優先順位を決めることが大切です。ただし、利用可能性ヒューリスティックに陥らないように注意しましょう。
人事・採用におけるヒューリスティック活用
人事・採用業務では単純接触効果によって起こりやすい、利用可能性ヒューリスティックを活用できます。単純接触効果とは、何度も見たり会ったりすることで親しみを感じる心理的事象です。たとえば、内定辞退のリスクを回避したい場合は、入社までの期間に内定者とのやり取りや接点を増やし、しっかりコミュニケーションを取りましょう。
ITにおけるヒューリスティック活用
IT系のビジネスでヒューリスティックが活用されるのは、以下の4つです。
・ヒューリスティック調査
・ヒューリスティック分析
・ヒューリスティック評価
・ヒューリスティック検知
ヒューリスティック調査は、コンサルタントがWebサイトの使いやすさを調査します。調査後は経験で得たことを活かしつつ試行錯誤しながら分析を進め、ユーザーの視点から対象物の評価を行うことが不可欠です。ヒューリスティック検知は、パターンマッチング以外のウイルス検知の方法を指します。
ヒューリスティックの注意点
ヒューリスティックは、ビジネスでうまく活用できれば大きな効果を発揮しますが、ヒューリスティックを重視しすぎると、消費者の心理を過剰に煽ることになり、自社に対する不信感につながりやすくなるでしょう。
また、手段を選ばずに情報提供すれば、景品表示法や薬機法に違反する恐れもあります。消費者の購買行動につなげるために、自社にとって都合のよい宣伝をしないように注意しましょう。
まとめ
ヒューリスティックはさまざまなビジネスに活用すれば、大きな効果を得ることができます。特に、採用・人事業務では経験則に基づいた意思決定が行われやすいため、ヒューリスティックを把握したうえで業務に活用することが大切です。タレントマネジメントシステムを合わせて活用すれば、より効率よく人事・採用業務を行えます。
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