こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
フレックスタイム制とは、従業員が労働時間を自由に決められる制度です。ライフスタイルの多様化に伴い、働き方改革の一環として導入する企業が増えています。しかし、フレックスタイム制の概要は知っているものの、詳しくは把握しておらず、導入を検討したことがないというケースも多いのではないでしょうか。
この記事では、制度の基礎知識やメリットデメリット、導入手順を解説します。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、所定時間内であれば従業員が出勤時間や労働時間を自由に決められる制度です。うまく活用すれば従業員として「保育園のお迎え時間に合わせて早く退社する」「資格取得のために試験前だけ勤務時間を減らす」など、柔軟な働き方を実現できるでしょう。
フレックスタイム制の目的
最大の目的はワークライフバランスの向上です。とくに子育てや介護など、労働時間に制約がある従業員はフレックスタイム制と相性がよいといえるでしょう。これまではライフステージの変化で両立を諦めていたようなケースであっても、仕事と生活を無理なく両立できるようになります。
ライフスタイルに合わせて労働時間を調整できるため、労働生産性の向上や離職率低下につながる可能性もあるでしょう。
裁量労働制との違い
裁量労働制はあらかじめ定めた「みなし労働時間」を基準に賃金を計算します。フレックスタイム制と比較した場合、労働時間を自由に決められる点のみ同一です。
たとえば、裁量労働制におけるみなし労働時間を1日8時間と定めた場合、実際に労働した時間が不足していても8時間分の給与を支払わなければなりません。みなし労働時間を超えて働いても基本的に残業代は発生しません。
また、裁量労働制は適用できる職種が限定されます。
時短勤務との違い
時短勤務は1日の労働時間を短縮した働き方で、出勤時間や労働時間は固定されています。
実際の労働時間が減るため、短縮した時間分の賃金を差し引いて支給しなければなりません。従業員から要請がある場合、要件を満たせば残業を免除できる点も特徴です。
フレックスタイム制の実態
厚生労働省の調査結果によると、フレックスタイム制を導入している企業の割合は9.5%です。(令和3年就労条件総合調査)
その中でも従業員数1,000人以上の企業が半数を占めているため、中小企業の多くは制度を導入できていないと想定されます。そのため、フレックスタイム制を導入することは企業にとって大きな強みとなるでしょう。
フレックスタイム制の仕組み
フレックスタイム制には「コアタイム」と「フレキシブルタイム」という考え方があります。任意ではあるものの、設定する場合はそれぞれの時間を定める必要があります。
ただし、以下のような場合はフレックスタイム制の意味を成さない可能性があります。
- コアタイムの時間が総労働時間と同程度
- フレキシブルタイムの時間が極端に短い
コアタイム
コアタイムとは、フレックスタイム制の中で必ず勤務しなければならない時間帯を指します。コアタイムを設定するメリットは、従業員の労働状況を管理したり、会議の時間を設定しやすくなる点です。時間帯は企業で自由に決められるため、たとえば以下のような設定もできるでしょう。
- 週に数日だけコアタイムを設ける
- 日によって時間帯を変える
「フレックスタイム制コアタイム」については、こちらの記事をご確認ください。
フレキシブルタイム
フレキシブルタイムは、従業員の裁量で労働時間を決められる時間帯を指します。フレックスタイム制の効果を最大化するためには、フレキシブルタイムの時間を十分に設けることが重要です。また、コアタイムの前後に設定する必要があります。
「フレキシブルタイム」については、こちらの記事をご確認ください。
フレックスタイム制の労働時間について
フレックスタイム制では、あらかじめ一定の期間内に何時間労働するかを定めます。
事前に定めた時間の範囲内であれば、従業員が自ら労働時間を決めることも可能です。
清算期間
賃金を計算する際の基準となるのが「清算期間」です。精算期間の設定によって、法定労働時間に縛られない自由な働き方が可能となります。しかし、清算期間は企業で自由に設定できますが、上限は3か月と定められている点には注意が必要です。
総労働時間
「総労働時間」とは清算期間における労働時間の合計を意味し、企業があらかじめ時間数を決めておきます。ただし、以下の式で示す通り法定労働時間の範囲内に収めなければなりません。
総労働時間 ≦ 1週間の法定労働時間 (40時間)×清算期間の日数÷7日 |
清算期間ごとに総労働時間と実際の労働時間を比較して、過不足に応じて賃金を清算する必要があります。
総労働時間<実労働時間 |
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総労働時間>実労働時間 |
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フレックスタイム制の残業について
フレックスタイム制では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働した場合であっても、必ずしも残業扱いにはなりません。固定時間制と残業代の計算方法が異なるためです。詳しくみていきましょう。
フレックスタイム制における残業とは
フレックスタイム制では1日、または1週間単位で法定労働時間を超過しても残業扱いにはなりません。清算期間において、総労働時間を超えた部分に対して残業代が発生します。
残業には「法定内残業」と「法定外残業」があり、法定労働時間を超えるか否かによって、残業代の金額が変わる点は知っておきましょう。
法定内残業 |
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法定外残業 |
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残業代の計算方法
ここでは清算期間を1か月と定めた場合の残業代について解説します。法定外残業にかかる残業代(割増賃金)の計算式は以下のとおりです。
基礎賃金×残業時間×割増率(25%) |
具体的な例として、以下のケースを考えてみましょう。
- 実労働時間:170時間
- 労働時間の上限:160時間
- 総労働時間:150時間
総労働時間を超える20時間が残業時間に該当します。ただし、法定外残業は労働時間の上限を超える10時間のみです。そのため、この場合の残業代は「(基礎賃金×10時間)+(基礎賃金×10時間×割増率)」で求めること可能です。
清算期間が1か月を超える場合や休日労働・深夜労働に該当する場合は計算方法が異なる可能性があります。詳しくは厚生労働省の手引きをご覧ください。
フレックスタイム制で違法になるケース
制度内容を正しく理解しなければ故意ではなくても法律違反になるリスクがあります。たとえば、以下のような行為は違法になる可能性があるため、十分注意しましょう。
- 適正な残業代を支払わない
- 残業時間を翌月の労働時間に繰り越す
- 従業員に対して残業命令を下す
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働き方改革関連法によるフレックスタイム制の改定内容
2019年4月「働き方改革関連法」により、フレックスタイム制に関する法改正が行われました。何がどのように変化したのかみていきましょう。
清算期間の上限が3か月に延長
清算期間の上限が「1か月」から「3か月」に延長されています。これまでは会社の閑散期や子どもの夏休みなど、労働時間を減らしたい月でも、上限時間に達するために勤務しなければならないケースが見受けられました。
しかし、上限が延長されたことで、月をまたいで労働時間を調整できるようになるため、状況に応じてより柔軟な働き方ができるようになります。
清算期間が1か月を超える場合は労使協定の届出が必要
清算期間の延長に伴い、制度の手続き方法にも変更がありました。清算期間が1か月を超える場合は、労使協定を労働基準監督署長へ届け出る義務があります。違反すると罰則が科せられる可能性があるため、注意しましょう。
残業の考え方が変更
清算期間が1か月を超える場合、残業の定義が変わりました。具体的には、「1か月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間」も残業時間とみなされます。
清算期間が月をまたぐ場合、総労働時間だけで判断すると月ごとの労働時間に大きな偏りが生まれる可能性があることから、繁忙期などに労働時間が偏りすぎないように制限が設けられました。
完全週休2日制の問題が解消
完全週休2日制でフレックスタイム制を導入した場合、暦によっては残業をしなくても時間外労働が発生するケースがありました。しかし、今回の法改正で、要件を満たせば法定労働時間の限度枠を引き上げられるようになり、この問題が解消されています。
フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制を導入すると、従業員だけでなく企業にも様々なメリットがあります。詳しくみていきましょう。
従業員のメリット
従業員のメリットは以下のとおりです。
- ワークライフバランスの向上
- 業務効率化
自身の都合に合わせて勤務時間を調整できるため、仕事とプライベートを両立しやすくなります。たとえば、共働きで子育てをしている場合、フレックスタイム制を活用すれば保育園の送り迎えを無理なく分担できるでしょう。
一定期間の中で労働時間を調整すればよいため、繁忙期に集中して働き、業務が落ち着いたら早めに帰宅することも可能です。時間を有効に使えるため業務効率化につながります。
企業のメリット
企業にも次のような多くのメリットがあるといえるでしょう。
- 優秀な人材の獲得
- 従業員のモチベーションアップ
- 生産性向上
フレックスタイム制を導入していることを採用活動でアピールすれば、社内体制が整っていると評価されるため、優秀な人材が集まりやすくなります。働きやすい環境をつくることで従業員が離れにくくなる点もメリットです。
多様な働き方に対応できれば、従業員の満足度やモチベーション向上につながります。個人の業務状況に合わせて労働時間を調整できるため、生産性が高まるでしょう。人材の配置によっては、ムダな残業の削減も可能です。
フレックスタイム制のデメリット
フレックスタイム制を導入することでデメリットも発生する点は知っておきましょう。とくに、体制が整っていない場合はリスクが大きいといえます。
従業員のデメリット
従業員のデメリットには、コミュニケーション不足が挙げられます。出社が必須となっている業務であれば、人によって勤務時間が異なる場合、チーム全体で顔を合わせる機会が減るためです。メンバー間でスケジュールを共有するなど工夫しましょう。
企業のデメリット
企業のデメリットは、労働時間の把握が難しくなることです。労働時間を正確に管理できていない場合、労働時間が不足する、残業代が正しく支払えないといった問題が発生します。従業員の労働状況を正しく管理したい場合には、勤怠管理システムやツールの導入が効果的です。
「フレックスタイム制デメリット」については、こちらの記事をご確認ください。
フレックスタイム制の導入手順5ステップ
ここからは、フレックスタイム制を導入する際の手順を解説します。とくにルール作りに関しては時間をかけ、全社ではなく部署単位からスタートするなどの段階的な導入も大切です。
1.フレックスタイム制のルールを定める
対象となる労働者の範囲や清算期間など、フレックスタイム制のルールを決めましょう。労使で十分に話し合うことが重要です。必ずしも全従業員を対象とする必要はなく、フレックスタイム制を適用しやすい部署から順に導入してもよいでしょう。
2.就労規則に規定
就業規則等に「始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定める必要があります。コアタイム・フレキシブルタイムを設ける場合は、具体的な時間帯も規定します。就業規則変更後は、労働基準監督署に届出が必要です。
3.労使協定を締結する
あらかじめ決めておいたルールに基づき、労使協定で以下の事項を定めます。労使協定は必ず書面で締結しましょう。
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム(任意)
- フレキシブルタイム(任意)
4.労使協定を届け出る
清算期間が1か月を超える場合のみ、労使協定を労働基準監督署長へ届け出る必要があります。届け出を怠ると違法になる可能性があるので注意しましょう。
5.従業員へ周知する
手続きが完了したら、定めた就業規則を従業員へ周知しましょう。フレックスタイム制導入によるメリットだけでなく、デメリットも理解してもらうことが大切です。また、取引先や他部署への影響が想定される場合は、事前に説明しておきましょう。
まとめ
フレックスタイム制は従業員が労働時間を自由に決められる制度です。従業員のワークライフバランスを実現できるため、優秀な人材が集まりやすくなり、企業の生産性向上につながります。
また、適切に制度を運用していくためには、従業員の労働時間を正確に管理することが重要です。タレントマネジメントシステムである「タレントパレットシステム」なら従業員の労働状況や人事データを一元管理できます。フレックスタイム制の複雑な労務管理にも対応可能です。労務管理に頭を悩ませている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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