こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
家族手当を廃止する企業は、時代の流れとともに増加しています。現代の企業には、多様化するライフスタイルに応じた支援や手当の制度が欠かせません。
この記事では、家族手当が廃止される理由や廃止の手順・注意点に加え、代わりとなる制度もご紹介します。従業員がより働きやすい職場にするために、家族手当の見直しと代替手当の導入を検討しましょう。
家族手当とは
家族手当とは、養っている家族がいる従業員に対して、扶養分の手当を賃金に加えて支給する手当のことです。家族手当は、扶養する家族を持つ従業員の金銭的な負担や、生活面での不安を軽減するために、長らく多くの企業で採用されてきました。
家族手当は法律によって定められているものではなく、各企業が独自で用意する福利厚生のひとつです。そのため、家族手当の金額や支給条件などは企業が自由に設定できます。
欧米などではこのようなタイプの支援はほとんど見られないため、日本独自の文化といえるかもしれません。戦後から高度成長期にかけては男性が社会で働き、家族を養う家庭が一般的だったため、配偶者への間接的な賃金という意味合いもありました。
しかし、近年はさまざまな社会的背景や家族形態の多様化を理由に、家族手当を廃止する企業が増えています。
家族手当廃止が進んでいる理由・背景
家族手当を廃止する企業が増えている背景を解説します。
不正受給の可能性がある
家族手当は各企業が支給金額と支給条件を設定しており、従業員の申請によって手当の支給が決まります。しかし、虚偽の内容で申請した場合は不正受給となります。
例えば世帯年収の制限がある場合に、配偶者や子の収入を申請せず家族手当を受け取るといったケースです。
このような不正受給は、就業規則に違反項目として記載していれば解雇の理由にもなります。ただし、損害の大きさによっては正当な解雇であるか否かが裁判で問われるケースもあり、会社にとってはトラブルのもとです。
こうした不正受給による問題を避けるために、家族手当を廃止する企業や設立時から家族手当を設けない企業が増えているのです。
同一労働同一賃金に違反している
厳密には、家族手当の支給は同一労働同一賃金の原則に反します。同一労働同一賃金は、同じ労働をしていれば同じ賃金を支払うべきだという原則です。
例えば、仕事の内容や量が正社員と同じなのに、パートタイム労働者の賃金が低い場合はこの原則に違反していることになります。
家族手当の問題は、仕事の内容や量が同じであるにもかかわらず、扶養家族がいるだけで賃金に差が生じることです。
家族手当は「扶養家族がいればいろいろと大変だろう」という理由で支給されるものなので、他の従業員が不満を持つ可能性があります。職場の雰囲気が悪くなったり、家族手当を受けている従業員との対立が生じたりするかもしれません。
同一労働同一賃金の原則に違反することは、会社にとってはさまざまなトラブルの原因になります。そのため、家族手当を廃止する企業が増えているのです。
ライフスタイルや家族構成の多様化
家族手当が当然のこととされていた時代と比較すると、働く女性の数は大幅に増えています。そのため、従来の家族手当における世帯年収の制限を大きく上回るケースも少なくありません。
加えて、結婚しない人や事実婚状態で暮らしている人、ひとり親の家庭など、家族構成も多様化しており、家族手当の存在意義が薄れていることも確かです。
家族手当は現在の社会ではメリットが少ない手当であることも、家族手当の廃止に踏み切る企業が増えている理由のひとつです。
家族手当を廃止した企業例
ここでは実際に家族手当を廃止し、新たなサポート体制を作った企業の例を紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、長らく配偶者手当(家族手当)を支給していました。しかし、支給条件が配偶者控除と同じ条件で設定されていることが多く、女性が意欲的に働くことを妨げているとして、廃止を決定しました。
トヨタ自動車は配偶者手当(家族手当)の代わりに、子どもに対する手当を1人あたり 5,000円から2万円に増額しました。
大王製紙
大王製紙では配偶者手当(家族手当)が現状に即していないと判断し、廃止を決定する一方で「子女教育手当」を新設しました。
これは、両親ともに働く世帯でも子育てがしやすいよう、経済的に援助することを目的とした手当です。大王製紙はこの制度の導入により、家族がいる従業員が安心して働ける環境作りに取り組んでいます。
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家族手当を廃止する方法と手順
「自社でも家族手当を廃止したい」と考えている方もいるでしょう。ここでは、家族手当を廃止をする際に必要な手続きと注意したいポイントを解説します。
従業員にとってのデメリットを検討する
家族手当のデメリットに着目すると、できるだけ早く廃止し、新しい制度の導入を検討したくなるかもしれません。
しかし、家族手当の恩恵を受けている従業員は、家族手当が廃止されることで不利益を被ると感じるかもしれません。「とりあえず廃止して、代替手当は後で考えよう」と先に廃止を発表すると、支給対象だった従業員のモチベーションが下がってしまうでしょう。
また、手当の廃止・見直しをする際は、合理的な理由が必要です。一方的な制度の廃止によって労働者に大きな不利益が発生すると、労働審判や訴訟において企業は不利な判決を受けるおそれがあります。
労使で話し合う場を設けて理由を説明し、理解してもらう機会も用意しておきましょう。
まずは、現在家族手当を支給している従業員の数とそれぞれの家族構成を、できる限り把握してください。そのうえで、廃止後にどのような代替手当を用意すれば、当該従業員の不利益をカバーできるか検討しましょう。
代替手当を制定する
家族手当を廃止する際は、従業員が不利益を被らないないようにするだけでなく、一人ひとりに合った代替手当の手段を検討しましょう。例えば、基本給に手当分を組み込んだり、成果に合わせて上がるボーナスを設けたりするなどと、労働意欲やモチベーションを高める方法があるかもしれません。
また、いきなり手当の全額を廃止するのではなく、数年かけて減額していく「経過措置」も方法のひとつです。
代替手当を用意するとしても、それまで受け取っていた手当がいきなりなくなると、モチベーションの低下につながりかねません。経過措置を実施しながら、新手当制度へ徐々に移行していく方法も検討してください。
手当の廃止と代替手当の周知・合意
代替手当の導入を決定したらまず手当が適用される条件を就業規則や賃金規定などに定め、労働基準監督署に届け出ます。その後、変更に関する書類などを事業所に備え置き、従業員への周知を図りましょう。
新しい制度についてわかりやすい周知方法を採ることは、労働基準法(106条)において義務として定められています。わかりにくい周知方法であったり、周知する努力を怠ったりした場合は、30万円以下の罰金が科せられるため注意しましょう。
従業員の同意を得やすいよう配慮する
従業員の同意を得られるよう努力したり、配慮したりすることも、制度変更の際には重要です。説明会を催したり、従業員向けの相談窓口を設けたりすれば、会社が従業員に配慮していることを伝えられるでしょう。
決して制度変更の受け入れを強要したり、従業員の不利益を隠蔽したりすることがないよう注意してください。
家族手当を廃止する際の注意点
ここからは、家族手当を廃止する際に注意したいポイントを解説します。
同一労働同一賃金に違反していないか
家族手当の廃止が進んでいる理由の項で触れた「同一労働同一賃金の違反」に関しては、家族手当を廃止する際にも注意が必要です。
家族手当が上記の原則に違反していると考えられる場合でも、家族手当を廃止すれば即問題が解決するわけではありません。問題はもう少し複雑です。
例えば、家族手当以外にも同一労働同一賃金の原則に抵触する可能性のある手当がある場合です。この場合に家族手当だけを廃止すると、家族手当以外の手当を受け取っている従業員が賃金面で優遇されることになります。
また、家族手当の廃止によって既存の別の手当を受け取れるようになるケースがあるかもしれませんが、これも問題になることがあります。どの手当の条件にも該当しない従業員がいると、同一労働同一賃金の原則に違反している状態が新たに発生してしまうからです。
家族手当を廃止する際は、正社員と非正規社員の間に不平等が生じないか、家族手当の廃止で正当な理由なく不利益を被る従業員がいないかなどをチェックしましょう。
合理性のない不利益変更になっていないか
「家族手当を廃止する方法と手順」の項でもご紹介した、「合理性のない不利益変更」についても慎重にチェックしましょう。
「合理性のない不利益変更」とは、特に理由もないのに手当を廃止したり、制度を変更したりして、従業員が不利益を被ることです。会社が独裁者のように勝手なルール変更をしてはいけないということが、労働基準法に定められています。
不利益変更とみなされるのは、支給実績のある手当を廃止したり、既存手当の支給基準を引き下げたりするケースです。支給実績のない手当を廃止する際は、不利益変更にはあたりません。
支給実績のある家族手当の廃止は、従業員にとって不利益となります。「家族手当を廃止する目的」「家族手当の代替手当に関する詳細」などを、従業員に説明できなければなりません。
また、家族手当を廃止して成果主義型の手当に移行する場合も、給与が減る人が出れば不利益変更にあたります。その場合も、合理性と従業員の合意が必要です。
従業員が受ける不利益が小さければ小さいほど、変更の合理性が認められやすくなります。逆に不利益が大きいほど、強い合理性が求められる点に注意しましょう。
家族手当の廃止によって、どれだけの人がどれほどの影響を受けるかを把握しておくことは、求められる合理性を把握するうえで大切です。
家族手当に代わる手当や制度
最後に、家族手当を廃止した後の不利益の解消や、モチベーションキープのために制定できる手当や制度を紹介します。
基礎能力手当
基礎能力手当は、家族手当(配偶者手当)を廃止した企業が新設した手当です。
ある企業では、配偶者および子どもの人数に応じて支給していた家族手当(配偶者手当)を廃止しました。代わりに、「PC・IT能力手当(最大2万円 /月)」「対人・態度能力手当(最大2万円//月)」「英語力手当(最大2万5,000円/月)」などのスキルに応じた手当を新設し、従業員のやる気を引き出せる制度に移行しました。
家族手当を廃止する際は、能力に応じた手当を用意すると新しい制度に移行できるかもしれません。
両立支援制度
両立支援制度は、厚生労働省の両立支援等助成金を活用した制度です。
両立支援等助成金には「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」「介護離職防止支援コース」「育児休業等支援コース」などがあります。状況に合わせて休暇を取得させたり、スムーズに職場復帰をした際に助成金を受け取れたりするものです。
この両立支援等助成金を活用して扶養家族がいる従業員をサポートする福利厚生を用意すれば、従業員のワークライフバランスにも良い影響をもたらすでしょう。
子女教育手当
子女教育手当は配偶者ではなく、子どもを対象とする支援制度です。高校卒業までの被扶養者を支給対象としている企業が多いようです。子どもを対象にした福利厚生があれば、安心して働いてもらえるでしょう。
リフレッシュ休暇制度
リフレッシュ休暇制度は、その名のとおり従業員のリフレッシュを目的とした休暇制度です。有給休暇とは別に取得できるため、手当制度に代わる福利厚生とすることができます。
休暇には、法律で義務付けられている法定休暇と、企業が任意で設定できる法定外休暇(特別休暇)があります。リフレッシュ休暇は法定外休暇にあたり、取得条件を企業が決められます。
リカレント教育制度
リカレント(recurrent)は、循環や再発を意味する言葉です。リカレント教育制度は、学校教育から離れた後も生涯に渡って学習を続け、就労と学習のサイクルを交互に繰り返すための制度です。
長寿化に伴って人生の中で労働する期間が長くなるため、ライフステージごとに新たに働く機会が訪れることもあるでしょう。リカレント教育制度によって必要に応じた学びの機会が提供されれば「生涯現役」が可能になるため、今注目を浴びています。
企業はリカレント教育の実施によってキャリアアップを支援するとともに、「教育訓練給付金」や「人材開発支援助成金」の活用も検討できるでしょう。
まとめ
時代の流れに合わせて、家族手当を廃止する企業が増えています。この機会に、自社で働く従業員にとってメリットの多い手当や制度を見直してみてはいかがでしょうか。その際は、同一労働同一賃金の原則や一方的な不利益の変更にならないよう注意してください。
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