eNPSの概要について
まずは、「eNPS」という言葉の意味や概要について解説します。
eNPSとは
eNPSとは、「Employee Net Promoter Score(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア)」を略した言葉です。簡潔にいえば「職場の推奨度をあらわす指標」であり、社員が自社にどの程度満足度や働きがいを感じているのかを測る参考値として利用されます。
eNPSは社員が知人や仲の良い人に対して、「自分の職場をどれくらい進めたいか」という質問に回答する形で実施されます。この回答内容を参考に、エンゲージメントを図るのがeNPSの一般的な活用方法です。
また、「eNPS℠」は「ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ」の役務商標です。
従業員満足度(ES)とeNPSの違い
従業員満足度(ES)は、「個人的に満足感を得られているか」といった調査項目がメインになります。社員個人の感情・気持ちを参考に、会社の福利厚生の充実度や人間関係、給与などが満足する水準にあるか確かめるのが特徴です。
一方eNPSでは、「組織や社内全体についてどう感じているのか」という広い視点で数値化します。組織や会社そのものを他者におすすめできるかを基準に評価するため、従業員満足度(ES)よりも多角的な視点で物事を判断するのが特徴です。
eNPSの水準が高い組織の特徴
eNPSの水準が高い組織は、社内および社員のエンゲージメントが向上しやすい傾向があります。労働環境や待遇面など、会社を構成しているあらゆる要素への満足度が高い状態にあると考えられるため、エンゲージメントが上昇する機会が多いと想定できるでしょう。
また、社員は自社に愛着やロイヤルティを持っていると考えられるため、生産性が高くなりやすい点も特徴です。社員の方から積極的に職場を良くするための提案が出されたり、課題解決につながる行動を起こしたりといったことにも期待できます。
eNPS評価の計算方法について
eNPSの評価を行う際には、基本となる計算方法を把握する必要があります。以下では、eNPSの計算方法を具体的に解説します。
批判者・中立者・推奨者で区分される
eNPSでは、社員に対して「職場をほかの人に勧められるか」と問いかけ、その推奨度を「0〜10」の11段階で評価してもらいます。その結果を集計し、数値ごとに「批判者」「中立者」「推奨者」で分類してエンゲージメントを計測するのが基本です。
具体的な数値ごとの区分は、以下のようになっています。
・9〜10点:推奨者
・7〜8点:中立者
・0〜6点:批判者
全員が推奨者の場合、スコアは100となります。一方で全員が批判者の立場を取る場合には、-100のスコアになる計算式となっています。日本企業の平均的な点数は、ー40〜-20程度です。eNPSを実施する際には、この平均値を参考にエンゲージメントの高さを測ると良いでしょう。
eNPS評価に関わる要素
eNPSはさまざまな要素が合わさった結果の評価です。それぞれの要素について解説します。
社会や顧客に対する貢献感
会社や顧客に対する貢献感が高い社員は、eNPSが高くなる傾向にあります。逆に会社などへ貢献する気持ちが低い社員は、eNPSが低い数値となります。
何のために働いているか自身で理解できている社員は、仕事への意欲が高くなってeNPSが向上します。一方で、仕事に対する具体的な目標や意義を見出せていない社員は、どうしても会社への貢献感が希薄となるでしょう。
貢献感は、社員の幸福度にも関係する大切な要素です。社風や労働環境など会社から提供できる要素を見直して、社員の貢献感を向上させる施策を考案することも必要でしょう。
報酬
社員が自身の労働に対して正当な報酬を受けているという満足感があると、eNPSの数値は高くなります。単純に給与水準が高いのが重要ではなく、実績や成果が報酬につながる環境を提供することで社員の満足感は上昇します。
報酬に対する満足感は、会社への信頼感につながり、結果的に離職率の低下や生産性向上などのメリットを生み出すでしょう。
人事評価
人事評価に対して信頼感があるかどうかも、eNPSを測る際の要素になります。人事評価の方法が明確であり、かつ正当な評価が実際に行われている実績があると、社員からの信頼感は向上するでしょう。
人事評価の方法がブラックボックス化していたり、人事担当者の好き嫌いで評価が決まっていたりすると、社員は不満を抱いてエンゲージメントの低下につながってしまいます。
人間関係
eNPSでは、職場の人間関係が良好なほどスコアは上がりやすくなります。上司と部下、同僚の関係性などが適切であれば、自然とeNPSも上昇する傾向にあります。
人間関係を良好な形に構成するには、日常的なコミュニケーション方法を工夫して誰もが過ごしやすい環境を作り上げるのがポイントです。
eNPSが高いメリット
eNPSの数値が高い状態を維持できれば、さまざまなメリットを得られます。
組織の生産性向上が期待できる
eNPSが高いほど、組織の生産性向上に期待できます。eNPSの高さは社員の満足感や充実感が強いことを意味するため、仕事に対する意欲も上昇しやすくなるでしょう。
仕事へのモチベーションが高い社員が多いほど、仕事に力を入れる環境が構築されて組織全体の生産性が向上します。業務の生産性を高めたい場合には、eNPSの数値を高めることを目標にするのがポイントです。
離職率が下がる
eNPSが高いと、離職率が低下する傾向にあります。「この会社で働きたい」「もっと貢献できるようにキャリアアップしたい」と考える社員が増えるため、転職や退職する人の数を抑えられます。離職率が低くなると、教育コストや採用コストの削減にもつながる点もメリットです。
仕事の成果を上げた人物が批判者に分類されている場合には、原因を解明して対策を練る必要があります。
リファラル採用が増加して採用コストが下がる
eNPSは「人にどれくらい職場を推奨したいか」という点を指標にするため、知人や友人を紹介する「リファラル採用」の促進につながります。優秀な人材を低コストで獲得できる可能性が高まるため、組織力の強化に期待できるでしょう。
リファラル採用は離職率が低く、即戦力として働いてくれる人材確保にもつながるため、通常の採用と組み合わせることで充実した組織づくりを進められます。
業績向上につながる
eNPSが高くなるほど、上記のようなメリットを得られるようになるため、企業の業績向上につながります。エンゲージメントが高く、離職率の少ない組織づくりを進められれば、業績の改善にも効果的です。
業績の成長が頭打ちになっているときなどは、eNPSの向上を施策の1つとして取り入れることもおすすめです。
国内における業界別のeNPSスコア
国内におけるeNPSのスコアは、業界ごとに高い・低い傾向があります。
eNPSが高い業界の例
国内の航空業界、化粧品業界、回線・通信キャリア業界などは、eNPSスコアが高い傾向があります。具体な平均スコアは航空業界が-37.4、化粧品業界が-44.8、回線・通信キャリア業界が-54.1となっています。
また、官公庁・自治体・公共団体のスコアも高い傾向にあります。
eNPSが低い業界の例
国内企業のなかでも、出版・印刷関連産業、サービス業、運輸・運送業はeNPSのスコアが低い傾向にあります。これらの業界におけるスコアは、いずれもー70以下となっている点に注目です。
労働時間、給与・待遇面、人間関係などの要素に、何らかの問題が生じやすい業界であることが想定されます。
eNPSで数値化して改善を行う手順
eNPSの計算から結果を参考に改善を行う手順は、以下のような流れが基本となります。
調査チーム・改善チームの立ち上げ
eNPSの計測を開始するには、まず調査チーム・改善チームの立ち上げます。eNPSのプロジェクトを立ち上げて、調査を実施・改善できる組織体制を作るのが最初のステップになるでしょう。
調査を開始する
各チームの立ち上げを終えたら、社員の意識を測るサーベイの設計や社内マーケティングなどによる調査方法を決めます。質問内容と項目を確定させ、具体的な調査が行えるように準備しましょう。
質問項目の例としては、以下の要素があげられます。
- 労働時間や環境面
- 報酬や評価面
- やりがい
- 会社の将来に関する安心感
- 会社のビジョンへの共感
また、eNPSの調査を実施する際には、調査ツールを利用するのもポイントです。無料のフォームサービスを使用するほか、社員情報と紐付けた分析が可能になるタレントマネジメントシステムのアンケート機能を使うことも検討することをおすすめします。
調査結果を数値化する
eNPS調査の実施後は、結果を数値化します。数値化された内容をもとに、どの項目で評価が低いのかを確認し、原因究明に進みましょう。
数値化すること課題の大きさを定量的に計測できるため、どこから手をつけるべきか判断しやすくなります。
改善施策のアイデアを練る
eNPSスコアをもとに課題を抽出し、改善につながるアイデアを練ります。まずはスコアの低い項目を重点的に改善し、社員の不満を取り除くことに注力しましょう。
例えば適切に評価されていると感じていない社員が多い場合には、人事評価の方法を改善するアイデアや施策を考えるのがポイントです。
施策を実行する
eNPS調査の結果で判明した課題に対して、必要とされる改善策を実行します。最適な改善策を実施するために、複数の案を用意して効果を検証するのがポイントです。
例えば改善策を半年〜1年程度継続した後に、再度調査を実施して効果が出ているか確認します。
スコアが改善されたか確認する
一定期間改善施策を実行したあとには、再度eNPSの調査をします。スコアが改善されたか確認し、効果が出ている場合にはそのまま施策を継続してさらなる改善を目指します。
eNPSがマイナススコアの場合は、まずは0を目標に改善を進めることになるでしょう。
eNPSを活用して組織力を高めるポイント
eNPSを上手に活用できれば、社内の組織力を高めることにつながります。例えば社内コミュニケーションの健全化、公平性の徹底、適切な人事評価などがきちんと行われているかを判断することが可能です。
eNPS調査によって何に不満を抱く社員が多いのかを判断し、改善を目指すことができるため、結果的に織力を高めるきっかけになるでしょう。
まとめ
eNPS調査は、社員の思いや会社へのエンゲージメントを測る指標として多くの企業で活用されています。この機会にeNPSの基本である計測方法やメリットを確認し、社内でeNPS調査を実施してみてはいかがでしょうか。
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