社員が退職した時の手続き方法とは?提出書類・期限・健康保険証の返却まで解説


社員が退職した時の手続き方法とは?提出書類・期限・健康保険証の返却まで解説

自社の社員が退社するときは、社員と会社の両方がそれぞれ手続きする必要があります。提出すべき書類も複数あるため、特に注意が必要です。本記事では、退職手続きの流れ、具体的な手順、注意点、退職後の対応などについて解説します。人事担当者として必見の内容であるため、ぜひ参考にしてください。


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社員が退職した時の手続きとは?

勤め先を退職するには、原則として社員本人が2週間前までに申し出る必要があります。民法第627条第1項において、本人の意思表示から2週間で退職の効力が発生すると定められているためです。


ただし、実際には退職に伴って業務の引継ぎが必要になるため、退職を希望する1〜3か月程度前に意思表示を求める会社が多くなっています。社員が退職する際は、各種保険や税金などの手続きが必要です。提出が必須の書類もあるため、早めの準備が求められます。


※参考:労働政策審議会労働条件分科会 第49回資料|厚生労働省


【社員側】退職までに行う手続き

退職の際は社員自身が行う手続きもあり、着実な対応を求めなければなりません。ここでは、社員が退職までに行う手続きについて解説します。


退職届を勤務先に提出

退職の意思を固めて具体的な退職日を決めた社員は、勤務先へ退職届を提出します。前述した民法の定めにより、退職届は遅くとも退職日の14日前までに提出しなければなりません。しかし、退職に伴う引継ぎや準備などがあるため、退職届の提出期限を退職日の1か月前としている会社が多いでしょう。


退職届の提出先は直属の上司、総務課、人事課などが一般的ですが、会社によっても異なります。また、退職届の様式に特に定めはありません。ただし、会社独自の指定があれば、それにあわせる必要があります。


後任へ業務を引継ぐ

退職する社員は、それまで自分が担当していた業務を後任の社員へ引き継ぐ必要があります。退職日から逆算し、業務の流れや注意点などをすべて伝達しなければなりません。マニュアルを作成するとスムーズに引き継ぎができ、後任の社員が後から確認したいときも便利です。


また、業務でやり取りしている取引先への挨拶も行います。退職の報告とともに後任の社員を紹介し、取引を継続できるようサポートすることが大切です。


勤務先へ貸与物や健康保険証を返却する

社員に貸していたものがあれば、退職前に返却してもらいましょう。具体的には、社員証やパソコン、携帯電話、仕事に関する資料、取引先の名刺などです。基本的にはオフィスで社員が直接返却する必要がありますが、リモートワークで業務を進めていた場合は郵送で返却する方法もあります。


また、健康保険証の返却も必要です。扶養家族がいる社員は、社員本人と扶養家族全員分の健康保険証を返却します。


健康保険特定疾病療養受給者証や高齢受給者証も返却が必要

健康保険証の他にも、健康保険特定疾病療養受給者証、高齢受給者証、健康保険限度額適用・標準負担額認定証など、会社が交付する証明書は種類があります。これら交付している場合も、社員が退職する際はすべて回収しなければなりません。社員によって回収すべき証明書が異なるほか、社員本人が忘れている可能性もあるため、よく確認しましょう。


【会社側】退職までに行う手続き

ここでは、社員の退職にあわせて会社が行うべき手続きについて解説します。


退職届を受理する

社員が退職の意思を表明した場合、基本的に会社は拒否できません。また、退職日は就業規則より民法の定めが優先です。たとえば、退職日の1か月前を退職届の提出期限として就業規則に記載していても、社員が退職日の15日前に退職について申し出れば法的には認められます。


なお、退職するには社員が意思を示せばよく、退職届の提出は義務ではありません。ただし、トラブルを防止するには、退職届を提出してもらった方が無難でしょう。


※参考:e-Gov 法令検索|デジタル庁


退職者から貸与物や健康保険証を回収する

すでに触れたとおり、退職する社員は借りていたものや健康保険証を会社へ返却する必要があります。社員の退職日または最終出勤日までにもれなく回収しましょう。


社員証、パソコン、携帯電話、制服、仕事に関する資料、取引先の名刺、健康保険証など、回収すべきものは多岐にわたります。そのため、一覧表を作成して退職予定の社員に渡すと、スムーズに回収しやすくなるでしょう。トラブルを防ぐには、会社も社員の最終出勤日を把握して着実に確認する必要があります。


社会保険・雇用保険・所得税・住民税に関する手続き

社員が退職する際は、社会保険、雇用保険、所得税、住民税などについてそれぞれ手続きが必要です。窓口や手続きの期限などが異なるため、注意して対応しましょう。定められた期限内に手続きを終えないと罰則を受ける可能性もあります。各種手続きの詳細については後述するため、参考にしてください。


源泉徴収票などを発行・郵送する

社員が退職した後も会社による手続きは続きます。退職に関する各種書類がそろったら、社員の居住地へ郵送しましょう。重要な書類であるため、退職後に居住地が変更されていないか確認する必要があります。


送付する書類は、源泉徴収票、雇用保険被保険者証、離職票などです。離職票は、退職した社員が59歳未満の場合のみ発行します。ただし、本人が発行を希望しないなら不要です。また、本人が求めていれば、退職証明書や健康保険資格喪失証明書なども送付しましょう。


社会保険の資格喪失の手続き方法

退職に伴う社会保険の資格喪失の手続きは、どのように行うのでしょうか。ここでは、手続き方法を具体的に解説します。


期日までに年金事務所へ書類を提出

退職した社員については、社会保険の資格喪失の手続きを行いましょう。具体的には、健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届とともに、本人とその扶養家族の健康保険証を提出する必要があります。社員が資格を喪失した日から5日以内に管轄の窓口へ提出してください。


なお、社員が退職した場合の資格喪失日は退職日当日ではなく、翌日です。たとえば、3月15日が退職日なら資格喪失日は3月16日であり、手続きの期限は3月20日となります。


※参考:従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き|日本年金機構


健康保険組合に加入している会社は要注意

健康保険組合に加入している会社は、被保険者資格喪失届の提出先が2つあるため、注意しましょう。具体的には、年金事務所と健康保険組合です。年金事務所には被保険者資格喪失届を提出します。健康保険組合には、被保険者資格喪失届に健康保険証を添付して提出してください。


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雇用保険の資格喪失手続き方法

雇用保険の資格喪失手続きでは、事業所を管轄するハローワークに対して、雇用保険被保険者資格喪失届と雇用保険被保険者離職証明書を提出します。提出期限は、退職日の翌々日から10日以内です。


賃金台帳、労働者名簿、出勤簿など、離職日以前の賃金支払い状況や離職理由を確認できる資料も提出すると、離職票が交付されます。離職票の発行が必要なければ、これらの資料は添付しなくて構いません。


※参考:雇用保険被保険者離職証明書についての注意|厚生労働省


所得税の手続き方法

所得税に関しては、社員が退職した年の所得税額を記載した源泉徴収票を会社が発行する必要があります。源泉徴収票は、退職する年の1月1日から退職日までに支払った給与、賞与額、控除した社会保険料などを示すための書類です。


源泉徴収票は、社員が退職してから1か月以内に交付しなければなりません。1か月以内に交付しなかった場合、罰則の対象になるため注意が必要です。退職した社員の手元へ着実に届くよう、退職後の居住地についても忘れずに確認しておきましょう。


住民税関連の手続き方法

住民税を特別徴収で給与から天引きしていた場合、退職にあわせて住民税に関する手続きも必要です。社員が居住している市区町村に対して、給与支払報告に係る給与所得者異動届書を提出しましょう。提出期限は、社員の退職日の翌月10日までです。書類を提出しないと会社宛てに督促状が届く可能性があるため、忘れずに手続きしてください。


※参考:給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書|総務省


【社員側】退職後、すぐ再就職しない場合にするべきこと

社員が退職してから再就職するまでに期間が空く場合、社会保険や税金に関する手続きが必要です。ここでは、具体的にどのような手続きに対応する必要があるか解説します。


国民年金の加入手続き

社員が退職したときの年齢が20歳以上60歳未満であり、再就職するまでに期間が空く場合は、国民年金へ加入する必要があります。社員が居住している市区町村の役所に出向き、加入手続きを済ませなければなりません。加入手続きの期限は退職してから14日以内です。


国民年金の加入手続きをするには、退職を証明できる書類の提示が求められます。具体的には、健康保険資格喪失証明書や離職票などです。期限内に手続きができるよう、会社に対して書類を送付するよう依頼する必要があります。


※参考:国民年金に加入するための手続き|日本年金機構


健康保険の手続き

退職直後に再就職しない場合、健康保険についても手続きが必要です。国民健康保険への新規加入と、退職前に加入していた健康保険の任意継続のいずれかを選択できます。国民健康保険へ加入するなら、居住地の市区町村の役所で手続きが必要です。期限は退職日から14日以内となっています。


退職前に加入していた健康保険の任意継続を希望するなら、協会けんぽまたは健康保険組合に対して申請手続きを行いましょう。期限は退職日の翌日から20日以内です。ただし、退職後の任意継続では労使折半がなくなり、保険料全額を社員が負担する必要があります。


※参考:国民健康保険の加入・脱退について|厚生労働省

※参考:会社を退職するとき|全国健康保険協会 協会けんぽ


失業保険の受給手続き

失業保険とは、労働者が退職後も安定した生活を送りつつ再就職を目指すための給付金です。社員の自己都合による退職なら、退職日以前の2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あると給付金が支払われます。会社都合による退職なら、退職の日以前の1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上あれば給付対象です。


受給資格が認められると、7日間の待機期間を経て給付が開始されます。ただし、自己都合による退職の場合は給付制限があるため、7日間の待機期間を経て、さらに2か月間待たないと給付金を受け取れません。


※参考:雇用保険事務手続きの手引き|厚生労働省

住民税の支払い

住民税は、前年の所得額に応じて、6月から翌年の5月までの12回に分けて徴収される仕組みです。そのため、退職の時期によっても対応が異なります。6~12月に退職した場合は普通徴収になりますが、1~4月に退職した場合は一括徴収へ切り替えが行われます。また、5月に退職した場合は、通常どおり給与からの天引きで対応可能です。


ただし、居住している市区町村によって住民税の納付方法が異なる可能性があります。詳細については自治体に確認が必要です。


※参考:<特別徴収Q&A>|東京都主税局


【会社側】退職時に関する手続きの注意点

社員が退職する際は、さまざまなことに気をつけて手続きを進めましょう。会社が意識すべき注意点について解説します。


退職する社員が財形貯蓄をしている場合

社員が財形貯蓄をしている場合、転職先でも財形貯蓄を継続するかどうかによって対応が変わります。そのため、退職する社員に確認をとりましょう。退職から2年以内に継続の手続きをすれば、財形貯蓄の積立の継続が可能です。


同じ財形貯蓄取扱金融機関を利用するなら「勤務先異動申告書」、別の財形貯蓄取扱金融機関を利用するなら「転職等による財形貯蓄継続適用申告書」を転職先に提出します。退職してから2年以内に転職しなかったり、転職先が財形貯蓄を扱っていなかったりするパターンでは、財形貯蓄の解約が必要です。


退職する社員が社内融資を利用している場合

社内融資とは、社員の住宅購入や資格取得などを支援する目的による融資制度です。社員が退職するタイミングで返済残高が残っている場合、原則として一括で返済を求める必要があります。そのため、社員から退職届が提出されたら、社内融資の返済期間や残額について確認しましょう。退職までに返済の手続きが済むよう、早めに準備を整えてください。


外国人の社員が退職する場合

海外と日本では退職時のルールが異なり、外国人の社員は具体的な内容を理解していない可能性もあります。その場合、就業規則を確認しながら説明する機会を設けましょう。


外国人の社員についても、退職の際に行う基本的な手続きは日本人の社員と同様です。ただし、外国人の社員が退職する際は、ハローワークに対して外国人雇用状況届出書も提出しなければなりません。なお、雇用保険に12か月以上加入していれば、退職後に失業保険の給付も受けられます。そのためには、日本人の社員と同じく退職証明書の交付が必要です。


※参考:外国人雇用状況の届出について|厚生労働省


退職後は情報の取り扱いにも注意

2020年4月に労働基準法が改正され、退職者の労働関係の重要書類は5年間保存する義務が定められました。経過措置として当分の間は保存期間が3年とされていますが、経過措置の期間は明言されていません。そのため、重要書類を5年間保存できる体制を早めに整える必要があります。


書類を紙で管理している場合は、個別にファイルで管理すると後から見つけやすいでしょう。情報をデジタル化している場合は、クラウドサービスを利用すると管理がより楽になります。


※参考:e-Gov 法令検索|デジタル庁

※参考:改正労働基準法等に関するQ&A|厚生労働省


電子申請を活用して効率的に手続きを

雇用保険や社会保険は紙による手続きだけでなく、電子申請にも対応しています。近年は電子申請に対応しているシステムやクラウドサービスも増えてきました。システムやクラウドサービスを利用すれば作業の効率化を実現可能です。社員自身もシステムやクラウドサービス上で手続きを済ませられるため、手間や負担を最小限に抑えられます。


まとめ

社員が退職する際は、さまざまな手続きが必要です。退職する社員と会社がそれぞれ対応すべき手続きがあり、もれなく対応しなければなりません。社員や会社によっても必要な手続きに違いがあるため、よく確認しましょう。


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