企業活動における育成とは?教育・開発との違いや失敗の原因、成功のポイントを解説


企業活動における育成とは?教育・開発との違いや失敗の原因、成功のポイントを解説

育成とは、中長期的な視点で自社社員の成長を促す取り組みです。人的資本経営の台頭など企業を取り囲む環境は変化し、人材そのものへの価値が見直されています。育成に取り組むことで、企業全体の生産性向上や離職率低下などを見込めるのがメリットです。この記事では、育成について詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。


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育成とは?

そもそも育成とは、何を指すのでしょうか。まずは育成の定義と人材教育や指導、開発との違いを確認しておいてください。


企業活動における育成の定義

企業における育成とは、社員個人はもちろん、組織の成長や発展も目的として社員の能力やスキル、知識を向上させるための一連の活動を指します。企業全体の競争力を高めるためには、社員ごとの能力を最大限に引き出す、中長期的な視点での育成が不可欠です。それも実務面だけではなく、社員の主体性や意識なども育てる必要があります。


人材教育・指導・開発との違い

育成と似た意味合いを持つ用語に、人材教育・指導・開発の3つがあります。人材教育は社員にゴールを設定し、知識や業務のやり方、必要なスキルなどを上の立場から教えることです。育成は「人を育てる」という意味合いが強くなり、特に若手や新入社員に対して使われます。本人の性質や目標に合わせて行うものの、企業の目標を達成することが大きな目標です。


指導は短期的な視点で目的達成や方向性に向かって教える行為を指し、育成は指導に比べて中期的または長期的な視野で行う点に違いがあります。開発は新しいスキルや才能を見出すために行うもので、社員のパフォーマンスを最大化させるのが目的です。ただし、育成や人材教育・指導・開発には、ここまで解説してきたような一般的な定義があるものの、完全に決まっているわけではありません。


企業にとって育成が重要になる理由は?

では、なぜ育成が重要だといわれるのでしょうか。理由として、主に以下で解説する3つが考えられます。


少子高齢化などによる人手不足への対応

国立社会保障・人口問題研究所が行った研究では、2020年時点で約29%だった日本の高齢化率が、2070年には約39%になるとの予測です。日本銀行の「全国企業短期経済観測調査」においても、どの企業も人材不足に悩まされていることが分かります。


労働人口が減少すると、人材を得ること自体が難しくなるでしょう。優秀な人材確保の重要性が高まり、社員の能力やスキルの向上が求められます。たとえば、シニア世代の学び直しを推進し、シニア世代の経験や知識を活用するのも有効です。出産・子育て後の女性が仕事復帰する際のプログラムなども重要になります。


※参考:令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-|厚生労働省

短 観(概要)―2024年6月―|日本銀行調査統計局


グローバル化や多様化などのビジネス環境の変化

現代はグローバル化が進み、多くの企業で海外に対応できる人材の需要が高まっています。IT化も、ここ数十年で急激に進んできました。さまざまな技術革新が進む状況において、IT人材の重要性も増しています。


多様化する社会でビジネスを成功させるためには、多様な働き方への対応も急務です。新しい市場や人材へのアクセスも必要になってくるでしょう。企業には、こうしたビジネス環境に対応できる優秀な人材の確保が求められます。


人的資本経営への対応

人的資本経営は人材を資源ではなく「資本」としてとらえ、人材の能力や経験はもちろん、意欲も高める投資を行い、中長期的な企業価値の向上を目指す経営手法です。2020年に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」によって知られるようになりました。


企業の経営評価において重要な指標と見られるようになり、日本でも投資家などのステークホルダーからの注目が集まっています。将来的には、人的資本の情報開示が重要視される可能性も高いでしょう。


企業活動における育成の種類

育成と一言でいっても、種類は1つではありません。企業活動で大切な育成として、人材育成・技術育成・組織育成の3つがあります。


人材育成

人材育成は社員が企業のビジョンに共感し、目標達成に必要なスキルを身につけることが目標です。企業に貢献してくれる次世代のリーダーを早期に発掘し、段階的にリーダーシップトレーニングを提供することで、将来的な経営層の確保が可能になります。そのためにも、企業は多様な手法を組み合わせ、効果的な育成の実現を目指さなくてはなりません。


技術育成

技術育成は、社員に業務で活用する最新技術などを習得させる取り組みです。急速に技術革新が進む現代で企業が競争力を維持し続けるためには、最新技術の習得が欠かせません。人材育成とは違い、専門的な知識やスキルを深めることに重点が置かれているのが特徴です。特にデジタル技術の進化への対応では、継続的な学習が重要視されています。


組織育成

企業が業績を上げるためには、組織全体が一体となっていなければなりません。組織育成は企業のビジョンやミッションに基づいた組織文化を育成しつつ、社員の連携を強化する取り組みです。組織が一体となって目標に進む基盤をつくるために、欠かせないプロセスともいえます。組織育成の主な目的は、強力なリーダーシップチームの育成やコミュニケーション手段の導入、組織全体のパフォーマンス向上を図ることです。


企業が育成に力を入れるメリット

企業が育成に力を入れると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。以下で4つのメリットを解説します。


企業の生産性が向上する

育成によって社員個々のスキルや能力がアップすれば、全体の生産性向上を実現できる点が大きなメリットです。生産性が上がることで、結果的に企業全体での生産性向上や利益の拡大にもつながります。


生産性が向上すれば、社員1人が従事できる業務も増やせるでしょう。高い能力を有する社員が増えれば、人手の足りない現場へのカバーや後輩育成にも対応でき、企業全体として人手不足の解消が期待できます。


社員のモチベーションが向上する

育成を通じて、社員のモチベーションを高めることも可能です。成長機会の増加は、社員自身の成長意欲の向上にもつながります。自社の人材への投資を惜しまない企業であれば、社員に「人材を大切にしてくれる企業」だと感じてもらえるでしょう。社員のモチベーションが上がれば、相乗効果で企業全体の生産性向上も期待できます。


リーダー・管理職を育成できる

現場で必要なスキルの習得だけにとどまらず、リーダーや管理職の育成にも力を入れれば、優秀なリーダー候補の育成も可能です。企業が長く存続するためには、チームや組織をまとめるリーダーの育成も欠かせません。マネジメントを担当できる人材を増やすことで、企業の組織力向上や社員のキャリアパスを広げることにもなります。


優秀な人材の確保や人材流出防止につながる

自社の人材を大事にし、育成に対して積極的に投資する企業には、成長を求める優秀な人材が集まりやすくなるのもメリットです。中長期的なキャリアを描きやすい環境ならば、人材流出の防止にもつながります。


育成に関するデータを集めて可視化することで、その後の人事評価の方向性の参考にしたり、採用活動に役立てたりもできるでしょう。社員の能力や役職に合わせた育成を行えば、社員エンゲージメントの向上にもつながります。


企業における育成の具体的な方法

企業で人材の育成を行う具体的な方法として、主に以下の3つの方法があります。育成を行う際の参考にしてください。


OJT(On the Job Training)

OJTは実務に従事しながら、仕事に必要な知識やスキルを身につけてもらう育成の手法です。現場の上司や先輩が教える立場となり、主に若手や新人に対して行います。OJTは、教える側の上司や先輩との1on1で行われるのが原則です。


実践を通して行われるため、座学では教えきれないことを効率よく伝えられます。育成対象者のレベルや能力に合わせた個別の指導ができるため、教える内容は理解度に合わせたカスタマイズが可能です。


OFF-JT(Off The Job Training)

OFF-JTは、職場外で行われる訓練の一種です。企業内に講師を招いて研修のような形で行うこともありますが、外部組織のセミナーや講座に参加する形を取ることもあります。


OFF-JTは普遍的または汎用的なスキルを学ぶ場合に適しており、業務に必要な知識を体系的に学べる点がメリットです。社内では学びづらい知識やスキルを身につける手法としても有効で、新入社員を対象としたものから、管理職向けなど対象に応じた研修を実施できます。


自己啓発

自己啓発は、社員が自主的にスキルアップや知識の習得を目指して学ぶ方法です。資格取得のための勉強をしたり、セミナーに参加したりする方法のほか、業務に役立つ本を読むことも該当します。


自己啓発は企業がある程度、eラーニングなどの方法を提供していることもありますが、基本的には社員自身の意思で取り組むものです。そのため自由度が高く、自分のペースで興味に合わせて学べます。セルフマネジメント力を高めるのにも役立つでしょう。


企業での育成が失敗してしまう原因

育成が失敗するとしたら、それなりの理由があるはずです。6つの原因が考えられるため、あらかじめ把握しておきましょう。


育成に時間をかけない

人材の育成には、教える時間から結果の振り返りまでを含め、それなりの時間と工数がかかります。育成する側の上司や先輩も自分が担当する業務があるため、工数管理が難しくなることには注意が必要です。


特に売上などの結果を求められる営業や製造などの部門では、時間や工数が優先されると育成にまで手が回らないことも珍しくありません。育成にリソースを割けない状況ならば、企業の経営陣や管理側が積極的に動く必要もあるでしょう。


育成の重要性に気づいていない

そもそも企業の経営陣や管理者などが、育成の重要性に気づいていないケースもあります。育成に興味がない体質の企業では、体制づくりはもちろんのこと、なかなか育成そのものが進まないのも失敗する原因です。


本来は若手や新入社員に教える立場の上司や先輩の意識が薄いと、親身になって育成の対象者に対応しないことも考えられます。育成の制度があったとしても形骸化していれば、効果的な育成は望めないかもしれません。


育成は営業や製造のように明らかな数字などで利益が見えるわけではないため、意識はあっても後回しにされるケースもあるでしょう。マネジメント側が育成に対して関心が低いようなら、重要性をしっかり浸透させる必要があります。


コミュニケーション不足が発生している

コミュニケーション不足によって、教える側と教わる側の信頼関係が崩れることもあります。教える意欲や学びたい気持ちがあっても、上司の教えたいことと部下が教わりたいことに乖離が起こると、育成はスムーズに進められません。


乖離を避けるためには、定期的なミーティングや報告の機会を設けるなど、少しでもコミュニケーションを取れる体制を整えておくことが大事です。教わる側の緊張をほぐすために、教える側が業務以外の軽めの話題を振るのもコミュニケーションに役立ちます。


教える側のスキルが不足している

人を育てたり、人にものを教えたりするためには、育成ならではのスキルやノウハウが必要になります。現場で教える立場の上司や先輩などは、原則として育成の専門家ではありません。


業務で能力を発揮できる人でも、育成能力がなければ期待するような人材に育てることは不可能です。必要以上の指示を出すと社員のモチベーションが低下し、かえって成長を阻害するリスクもあります。教える側もコーチングやリーダーシップについて学ぶ必要があるでしょう。


自律型の人材を育てるのが難しい

教える側が何もかもサポートしてしまうと、教わる側は受け身になります。育成では若手や新入社員が自律した人材として育つよう、適切にサポートするのもポイントです。


教える側の対応によっては、自分で考えたり判断したりできる自立型の人材を育てるのが難しいでしょう。常に教わる側に考える余地を持たせ、適度な難易度の課題を与えることが大切になります。教わる側が取り組みやすいように、明確な目標設定を行うことも重要です。


教育体制が整っていない

そもそも体制がしっかり整っていない状況では、スムーズに育成は進みません。目の前の業務はある程度こなせるようになっても、そこから先の成長までつながらない可能性があります。その場しのぎでは中長期的な人材の伸びは期待できないため、育成を効果的に行うためのカリキュラムや、評価方法などを定める必要があるでしょう。


育成の課題を解決する方法

育成を行うにあたって課題がある場合は、以下で挙げる5つのポイントも参考にしてください。


現場からのヒアリングを行う

まずは各部署からヒアリングを行ったうえで、課題を把握しておくことが重要です。現状を知らなければ育成の方向性を決められないのはもちろん、育成で優先すべきところも設定できないでしょう。それでは効果的な育成はできません。


社員の年齢や役職、能力や経験、知識やスキルなどをあらためて洗い出しておくこともポイントです。実施したヒアリング結果は、経営陣や管理側とも共有してください。


育成の方向性を明確にする

現場の課題を把握していると、課題の解決を優先した育成の目標を立てることが可能になり、企業の経営目標などに連動した育成計画も作成しやすくなります。方向性や目標を設定する際は、「○○年に○○達成」のように、具体的な数値や基準を設けるとよいでしょう。


段階的な目標を設定すれば達成しやすく、教わる側のモチベーション維持や向上にもつながります。最初の方向性を間違えると結果につながらないため、方向性の設定は慎重に行うことが重要です。


課題と方向性に合致する解決方法を実施する

課題や問題を洗い出し、育成の方向性が絞れてきたら、自社の経営方針や戦略に合った解決方法を探すことがポイントです。具体的には、社員の能力をアップさせられるようなプログラムやトレーニングの導入、チームビルディング活動などが挙げられます。


「なんとなくよさそうなもの」ではなく、自社の課題解消につながるもの、求める人材への成長が期待できるものを策定してください。解決方法の作成とともに育成スケジュールも作成し、実行します。


人事部だけでなく企業全体を巻き込む

社員の育成を人事部だけの問題としてとらえるのではなく、社内全体で社員を育成するという意識を持つことが重要です。人事部はもちろん、管理側や現場の担当者が一体となって協力し合う必要があるでしょう。


育成を失敗に終わらせないためには、育成に関わる全員の意識改革や、育成方針の浸透などを徹底しておかなければなりません。効果的な育成を可能にするためには、育成に取り組む体制と風土を社内でつくり上げておくことが大切になります。


自発的に学びたいと思える環境・体制を構築する

誰でも押しつけられたことには、やりたいという気持ちが湧いてこないでしょう。育成においては、社員の学びへのモチベーションが重要となります。加えて、学べる環境を整えておくことも大事です。自分が学びたいと思ったタイミングで実行できれば、社員も学びの機会を逃すことがありません。


方法としては、学びに役立つ書籍の購入やeラーニングの導入を検討するとよいでしょう。人事部側の対応としては、人事評価制度や採用計画が部下のモチベーション維持や、公平公正な評価につながっているかどうかを見直してみてください。育成を成功させるためのステップは以下をご参照ください。


人材育成に必要なスキル分析とは?最適な育成方法でパフォーマンスを最大に


育成で教える側が意識すべき3つの心構え

育成を行うにあたり、教える側にも意識しておくべきポイントがあります。以下で挙げる3つの心構えも押さえておきましょう。


自分で考える余白を与えること

簡単に正解を教えたくなるかもしれませんが、すべてを教えてしまっては部下の成長を妨げる可能性があります。そこは抑えて「どうしたらよいと思うか」「何をしたら成功するか」など、相手の思考を引き出す問いかけや課題を与えるようにしましょう。


相手が成長してきたタイミングで、信頼して仕事を任せる機会を設けることもポイントです。ただ指示を待つだけの人間にならないよう、自律した人材を育てる意識を持って育成を進めてください。


相手を理解すること

人材の育成には相手の能力はもちろん、性格や意欲、経験などを把握し、強みや弱みを把握しておくことが大事です。相手のことを知ったうえで、レベルや問題に合う課題を与えるようにしましょう。明確に成長した部分や将来性を感じるところがあれば、しっかり褒めることも大事です。課題や成長過程は可視化し、共有しておくことも欠かせません。


自分の価値観を押し付けないこと

社員の持つ能力や適性、感じ方などには違いがあるため、部下が自分と同じ経験や思いをしていると勘違いしないようにしましょう。「自分はこうしたから、部下もこうするべき」といった、一方的な押しつけは通さないようにしてください。


部下の能力や性格、強みや弱みを考えることなく自分の意見だけを押し通したとしても、意図するところが通じない可能性もあります。客観的かつ、事実や成果に基づいたフィードバックを行うことが大事です。


育成の成功事例

実際に育成を行い、効果を上げている企業の成功事例として3社の取り組みを紹介します。


富士通エフ・アイ・ビー株式会社

2000年代からキャリア開発研修実施によるキャリア支援が行われ、キャリアチェンジ研修や3年目研修、7年目研修などが導入されていました。人生80年・生涯現役の観点での、キャリア研修も特徴的です。


キャリア開発の重要性や具体的な方向を示唆し、現在は「ジョブ型マネジメント」の考え方も導入されています。キャリアオーナーシップを支援する「FUJITSU Career Ownership Program(FCOP)」の実施や、社内起業家を誕生させることを目標とする「Fujitsu Innovation Circuit(FIC)」が特徴的です。


広島ガス株式会社

ガス事業のプロとなるべく、製造・供給・営業・管理業務まで、業務をトータルで経験できる環境を提供しつつ、本人の適性や希望を踏まえ、適材適所の配属が叶う人事制度を実現しています。


育成はOJTが基本ですが、各種研修や訓練の実施、自己啓発の支援など取り組みは多彩です。ワークライフバランスにも力を入れ、育児短時間勤務制度の導入により、育児や介護の参加を認めたうえでのキャリア形成を支援しています。


コニカミノルタ株式会社

社員自身が明確な目標を立てて行動し、会社がキャリア開発を支援する仕組みになっています。育成の基本は、プロフェッショナルとして成長していくためのOJD(On the Job Development)です。


キャリア開発支援や能力開発支援、社会的課題への取り組みを進め、OFF-JDプログラムも含めて常に変革し続ける人をサポートしています。技能伝承や女性の活躍推進、中高生への教育支援など、独自の取り組みも特徴的です。


まとめ

育成は単に目先のことだけに目を向けるのではなく、中長期的な視点で社員の成長を促す取り組みです。グローバル化や少子高齢化による人手不足など、企業を取り巻く環境は急激に変化し、人材育成が欠かせない課題になっています。


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