みなし労働時間制のメリット・デメリットと残業代の考え方について解説


みなし労働時間制のメリット・デメリットと残業代の考え方について解説

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

みなし労働時間制とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた労働時間働いたとみなし給与を支払う制度です。ただし、うまく活用しなければ罰則を受けてしまう可能性があります

ここでは、みなし労働時間制の概要、メリット、デメリット、残業との違いについてみていきましょう。

みなし労働時間制とは



みなし労働時間制とは、実際の労働時間を計測するのではなく、所定の時間労働したとみなす制度です。従業員が社外に出ており実際の労働時間の管理が難しい場合や社員が自分で時間管理をした方が効率的な業務などで用いられます。

事前に所定の労働時間を8時間と決めていた場合、実際の労働時間が6時間であっても9時間であっても、8時間分の給与が支払われる仕組みです。つまり、実際に9時間働いたとしても、残業代は支給されません。

ただし、みなし労働時間とは「通常業務に必要な時間」とする必要があります。そのため、10時間分の業務量を与えておきながら、8時間の所定労働時間と定めることはできません。このような場合、会社は2時間分の残業代を支払わなければなりません。

事業場外みなし労働時間制

事業場外みなし労働時間制は、会社に顔を出すことのない外回りの営業担当者や出張の多い住所、旅行の添乗員など、監督者による勤務時間管理が難しい場合に適用されます。

事業場外みなし労働時間制に必要な条件は次の2つです。

  • 労働者が労働時間の全部または一部において事業場外で業務を行っている
  • 労働時間の算定が困難


例えば、終始インターネットを利用して在宅勤務を行っている場合、インターネットの接続時間が会社で確認できれば「労働時間は算定できる」ため、この制度の適用外となります。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、定められている19の業務従事者を対象にした制度です。例えば次のような職業であれば該当します。

・弁護士
・弁理士
・税理士
・放送番組のプロデューサーやディレクター
・コピーライター
・ゲームクリエイター

クリエイティブな業務も多く、従業員自身の裁量で仕事を進めた方が効率の良い仕事に対して適用されているといえるでしょう。

関連記事:裁量労働制とは?専門業務型と企画業務型の違いや導入のメリット・デメリットを解説

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、事業運営の上で重要な決定を行う際の企画、立案、調査及び分析の業務の従事者を対象にした制度といえます。対象者は、業務を適切に行うための知識・経験等が必要です。そのため、一般的におおむね3年以上の職務経験者とされています。

業務遂行の時間配分などを従業員の裁量に任せた方が良いと判断されなければなりません。また、対象の従業員には広い裁量を認める必要があります。

関連記事:みなし残業とは。導入のメリットからデメリット、注意点まで解説

みなし労働時間制と他の働き方との違い

みなし労働時間制は、実労働時間にかかわらず、あらかじめ労使で定めた所定時間だけ働いたとみなす制度です。

ここでは、混同されることの多いみなし残業やフレックスタイム制、変形労働時間制との違いについてみていきましょう。

みなし残業との違い

みなし残業とは、実際の残業時間にかかわらず一定の金額を残業代として支給する制度です。会社によって、既に基本給にみなし残業代を組み込んでいる場合と基本給には含めず「みなし残業手当」などの別名称で支給する場合があります。

従業員は残業の長さにかかわらず、毎月安定して残業代がもらえます。一方、残業時間が長くなった場合でもそれ以上の残業代は支払われません。会社にとっては、毎月従業員の残業時間を計算せず固定金額を払えば良いという点がメリットです。

みなし残業は残業時間だけを対象とした制度です。対して、みなし労働時間制は労働時間全てを対象としている点で異なります。なお、みなし残業には対象となる業務や業種に制限はありません。

フレックスタイム制との違い

フレックスタイム制は、始業時間と終業時間を従業員で自由に決めることができる制度です。全員が出勤する時間帯(コアタイム)が定められており、その時間は出勤しなければなりません。

フレックスタイム制では、従業員の実労働時間を管理しています。そのため、従業員は所定労働時間働かなければなりません。また、所定労働時間を超えた場合、残業代が支給されます。みなし労働時間制には実際に働かなければならない労働時間は設定されていません。

また、フレックスタイム制は対象となる業務や業種に制限がない点は覚えておきましょう。

変形労働時間制との違い

労働基準法では1日あたり8時間、1週間40時間を超えて労働させてはならないとされています。しかし、業務に繁忙期・閑散期がある場合、不都合が生じることもあるでしょう。

変形労働時間制は、週・月または年単位といった一定期間で、1日または1週間の労働時間を調整できる制度です。1年単位・1か月単位を採用する場合、対象となる業務や業種に制限はありません。みなし労働時間制と大きく異なる点です。

なお、1週間単位の変形労働時間制は、労働者が30名以下の小売業・旅館・料理店・飲食店に限られます。

関連記事:みなし残業とは。導入のメリットからデメリット、注意点まで解説

みなし労働時間制の3つのメリット

みなし労働時間制を取り入れるとどのようなメリットがあるのか、企業側・従業員側それぞれのメリットをみていきましょう。

自身の裁量で仕事ができる

従業員は会社への出勤の有無に関係なく給与が発生します。時間帯にも縛られません。そのため、自身の裁量で自由に仕事ができる点はメリットです。

プライベートと仕事の時間を、自分の裁量で自由に割り振ることが可能です。

労働時間の細かい把握が不要となる

みなし労働時間制では労働時間にかかわらず固定の給与が支給されます。そのため、会社側は従業員の労働時間を細かく把握する必要がありません。

ただし、深夜労働や休日出勤の割増賃金は適用される点を把握しておきましょう。

給与が固定化できる

みなし労働時間を採用すると、毎月の給与の支払い金額が固定化できる点はメリットです。各従業員の労働時間確認の手間が不要になるため、給与計算が楽になります。また、賃金が固定化するため、人件費の予算が立てやすくなります。

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関連記事:労務管理の重要性とは?就業規則・労働時間などを管理して業務改善を目指そう

みなし労働時間制の3つのデメリット



みなし労働時間制のデメリットについて詳しくみていきましょう。とくに残業代に関してはトラブルになりやすいため、みなし労働時間制の特徴をよく把握・周知しておく必要があります。

みなし労働時間を超過しても残業代が支払われない

みなし労働時間が8時間であった場合、実際の労働時間が10時間など、8時間以上かかった場合でも残業代を支払う必要はありません。実際の労働時間に対して残業代が支払われない点をデメリットと感じるケースもあるでしょう。

みなし労働時間は適用条件がある

みなし労働時間は全ての業務・業種で利用することはできません。適用条件を満たす必要があり、各適用条件は次の通りです。

種類 適用条件
事業場外みなし労働時間制
  • 労働者が労働時間の全部または一部において事業場外で業務を行っている
    • 労働時間の算定が困難
専門業務型裁量労働制 プロデューサー・ディレクター業務・コピーライター業務、弁護士、建築士、税理士など定められた19の業務従事者のみ
企画業務型裁量労働制
  • 事業運営の上で重要な決定を行う際の、企画、立案、調査及び分析の業務の従事者
    • おおむね3年以上の職務経験者

適用条件に合わない職種や業務に従事している場合は、みなし労働時間を利用することはできません。職種や業務が限定されている点はデメリットといえるでしょう。

長時間労働が常態化する可能性がある

みなし労働時間制は所定労働時間を超えても原則として残業代が支給されません。そのため、長時間労働が常態化する可能性がある点はデメリットです。

みなし労働時間制の注意点

みなし労働時間制を導入する際には気を付けなければならないことがあります。ここでは、3つの注意点についてふれて行きましょう

みなし労働時間制でも割増賃金はありえる

みなし労働時間制を採用している場合でも、従業員が深夜(22時~5時)や法定休日に働いた場合は割増賃金を支払わなければなりません。

また、規定されたみなし労働時間が法定労働時間(1日あたり8時間)を超えている場合は、残業代の支払いが必要です。例えば、みなし労働時間が9時間である場合は、1時間分の残業代を支払わなければなりません。

導入時の流れを確認する

みなし労働時間を導入するには、所定の手続きが必要です。どの場合も就業規則の変更を行い、労働基準監督署長に届け出たうえで、従業員に周知しなければなりません。

それ以外の手続きについて詳しくみていきましょう。

事業場外みなし労働時間制を導入する場合は、就業規則の変更や周知と共に労使協定の締結が必要です。就業規則と労使協定を労働基準監督署長に届け出ます。

労使協定では、対象業務、みなし労働時間、協定の有効期間を決定しなければなりません。なお、みなし労働時間が8時間以内の場合は労使協定の届け出は不要です。

専門業務型裁量労働制を導入する場合は、労使協定の決議と労働基準監督署長への届け出が必要です。なお、労使委員会を設置して決議を行うことで、労使協定の代わりにできます。決議の有効期間は3年以内が一般的です。

企画業務型裁量労働制を導入する場合は、労使委員会の設置が欠かせません。労使委員会で具体的な業務内容や労働者の範囲、みなし時間などの決議を行います。決議内容を労働基準監督署に届け、同意を得なければなりません。決議の有効期間は3年以内が望ましいとされています。

働き方に対する相互理解が必要

みなし労働時間制は経営側、従業員側が双方ともによく理解した上で導入しなければなりません。

従業員が納得していない場合、裁判を起こす可能性がある点に留意しましょう。実際に、みなし労働時間制で裁判を起こし、「労働時間を算定しがたいとは認められない」とされ、企業側に残業代(未払割増賃金)の支払いが命じられた事例もあります。

導入前に労使ともにしっかり話し合い、相互理解をすすめ納得したうえで導入しましょう。

みなし労働時間制の適用事例

実際にどのような場合にみなし労働時間制が利用できるのか、よく把握できないケースもあるでしょう。ここでは、みなし労働時間制の適用事例について解説します。

営業職

2018年6月21日に判決が出たナック事件では、営業職に対する事業場外みなし労働時間制の適用が認められました。

企業コンサルティングなどを行っている企業の営業販売担当者(X)が、会社に対して残業代等の支払い請求を行った事案です。

Xは会社から外出し顧客の元を訪問して営業活動を行っていました。訪問スケジュールは管理ソフトで共有していましたが、上司はスケジュールの指示や確認は行っていなかったのです。また、Xは会社に訪問結果を報告していたものの、その都度上司に報告されていたわけではないため、「労働時間を算出しがたい」と判断されています。

この事例から、上司への報告や上司から部下への指示の頻度は「労働時間を算出しがたいかどうか」のポイントの1つとされることがわかります。

システムエンジニア

システムエンジニアは、専門業務型裁量労働制として、みなし労働時間制の適用が可能です。対象として定められている19業務の1つ「情報処理システムの分析または設計の業務」に該当します。

ただし、肩書がシステムエンジニアであっても実際の業務内容がプログラマーに近い場合は、裁量労働制の対象外となるため注意しましょう。

まとめ

みなし労働時間制は、実際の労働時間ではなく所定の労働時間働いたとみなす制度です。みなし労働時間制が適用できる業種や職種は限られています。制度の導入には、就業規則の変更や労働基準監督署長への届け出、労使協定や労使委員会の設置などが必要です。

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