こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
様々な能力や価値観を所有する人材がビジネスで活躍するためには、従業員一人ひとりが安心して働ける環境づくりは欠かせません。その取り組みの一環として、多くの企業が導入を進めているのが企業内保育所の設置です。企業内保育所とは、会社内もしくは近隣に設置する保育・託児施設を言います。
本記事では企業内保育所がなぜ広まっているのか、導入するメリット・デメリット、立ち上げる流れなどをご紹介しましょう。福利厚生の向上により離職率の低下や勤続年数の増加などを目指す企業は、ぜひ参考にしてください。
企業内保育所とは?
企業内保育とは、オフィスの一部や近隣施設に設置の保育・託児施設を言い、企業内保育園とも言われています。その会社で働く従業員を主な対象としており、就業時間帯に子どもを預けることが可能です。厚生労働省のデータによると平成30年からの1年間で1,616箇所も増加し、平成31年時点の施設数は3,402箇所にもなります。
ここまで広がった背景の1つが、女性の社会進出です。保育園に空きがないことから働けない女性は多く、待機児童数の増加は深刻化していました。
そこで国は、費用の一部を助成する「企業主導型保育事業」をスタートします。これにより設置のハードルが下がり、女性従業員が多い企業を中心に導入を検討する企業が増えているのです。
企業内保育所を導入するメリット・デメリット
女性の社会進出により広がりを見せる企業内保育所ですが、導入によって助かるのは従業員だけではなく、企業側にも大きなメリットをもたらします。続いては、企業内保育が与えるメリット・デメリットをご紹介しましょう。
メリットは離職率の低下・企業のイメージアップ
企業内保育所があれば、育児による離職を減らして人材を確保することが可能です。育児休業中にわざわざ保育施設を探す必要がなく、勤務先の施設内もしくは近くに子どもを見てくれる場所があれば早期職場復帰も期待できます。
職場復帰が早いことは、周りの従業員にとっても喜ばしいことです。また、預ける保護者にとっても、何かあればすぐに駆け付けられる距離に子どもがいることで安心して働くことができます。従業員満足度の向上は、モチベーションアップや生産性向上にも良い影響をもたらすでしょう。
また、企業の社会的評価向上も期待できるメリットもあります。離職率の低下により勤続年数が伸びれば優秀な人材へと成長しやすい、女性が働きやすいという好印象を持たれるでしょう。その結果、取引先や周辺地域、そして求職者からの反応も良くなります。
デメリットは準備・コスト面の負担
設置する場所や保育士の確保などの準備を、すべて企業側が対応しなければならないデメリットもあります。従業員数に余裕があれば良いですが、人員に余裕がないと通常業務以外の負担が増える点に考慮しなければなりません。
また、コスト面の負担もあります。設置にあたっては国からの助成金補助制度はありますが、認可施設ではないと5年で補助金は終了し、それ以降の運営費用は会社が負担します。保育士への賃金以外にも、施設維持費や光熱費などの経費負担が必要になるため、長期を見越した資金繰りを計画する必要があるでしょう。
企業内保育所の種類
企業内保育所の種類は主に2つです。それぞれで特徴や立ち上げ時の基準などが異なり、種類によっては助成金の支給対象から外れる場合もあります。続いては、認可保育所と企業主導保育所の特徴をそれぞれご紹介しましょう。
認可保育所
認可保育所は、国の設置基準をクリアした認可保育所です。ゆとりのある保育の提供のため、幼児の年齢や人数ごとに担当する保育士の数や施設の広さ、衛生管理などの様々な基準項目が定められています。また、遊び場だけでなく調理室や静養室も設置しなければなりません。
その他にも建築基準法やバリアフリー法、児童福祉法などに準ずる必要があるため、導入や運営のハードルは比較的高めです。ただし、すべての基準をクリアすれば国や自治体が提供する助成金制度を活用できるので、長期的に安定した保育を提供できるでしょう。なお、基準は自治体により異なりますので注意しましょう。
企業主導保育所(認可外保育所)
企業主導保育所は、認可外保育所の1つです。認可外保育所は「無認可保育園」と言われており、認可保育所のような厳しい基準項目はなく開所時間の自由が利きやすい特徴があります。保護者のニーズや働く環境に合わせて延長保育や24時間保育、土日の預かりもできることから、企業のスタイルに合う保育を提供するためにあえて認可外保育所として運営する施設も多いです。
認可外保育所は基本的に国からの助成制度はありませんが、企業主導型保育所に関しては一定条件をクリアすると「企業主導型保育事業」の対象となります。企業主導型保育事業とは、平成28年度に内閣府が始めた制度です。主に企業主導保育所の設置にかかる整備費・運営費の助成を行っています。
企業内保育所の運営方法
企業内保育所の運営方法は主に2つです。どちらを選んでも設立までの申請の流れや助成額に変わりはありませんが、それぞれメリット・デメリットは異なります。2つの特徴を踏まえて、どの運営方法を導入するかをご検討ください。
自主運営方式
自主運営方式とは保育所の運営をすべて自社で行う方法になります。外部へ委託しないため運営コストが低い、実施方針を会社の状況やスタイルなどに合わせて柔軟に対応できるなどがメリットです。自主運営方針を選ぶ理由の多くは委託コストの大きさや自由度の低さなどですが、中には保育を事業の1つだと考え、ノウハウの蓄積を目的にあえて自社での運営を選ぶ会社もあります。
ただし、開設や運営にかかる負担は大きいです。特に初めて立ち上げる場合は保育士の集め方や流れなどの知識がないため、スムーズな進行は難しいでしょう。
また、風評被害にも注意してください。保育側の故意や過失にかかわらず、万が一トラブルや事故が発生した際には企業に悪いイメージが付いてしまう恐れもあります。
外部委託方式
外部委託方式とは、その名のとおり業者に運営を依頼する方法です。企業内保育所の立ち上げ実績が多い業者は、保育場所の選定から人材募集、運営に関するノウハウを豊富に所有しているため、自社への負担軽減が期待できます。また、万が一何らかのトラブルが発生したとしても運営元である業者の名前が先行するため、自社への風評被害を避けられるでしょう。
コストが高くなるデメリットはありますが、保育のノウハウがない状態で自主運営方式を選ぶのは危険度が高いです。従業員の子どもを保育する責任の重さや安全を第一に考え、設置や運営をプロに任せる企業は少なくありません。運営に少しでも不安を感じるのなら、安定した運営が期待できる外部委託方式を検討しましょう。
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福利厚生の向上は、離職率の低下や勤続年数の伸びなどにつながります。しかし、福利厚生の内容を正しく選定するためには、従業員の年齢や能力などを集約した人事データの活用も必要です。人事データの分析には、必要なデータや機能が搭載された便利なシステムをご活用ください。
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企業内保育所を立ち上げる流れ
企業内保育所の立ち上げには、以下の7ステップがあります。
- ニーズの把握
- 設置種類の検討
- 運営方法の検討
- 自治体への相談
- 設置場所の確保
- 補助金の確認・申請
- 施設準備・利用者募集
それぞれのステップごとに詳しく解説しましょう。
1.ニーズの把握
企業内保育所の立ち上げの理由は企業によって様々であり、満足度向上や夜間・休日の人材確保、従業員の子育てサポートなどを目的としているケースは多いです。しかし、どのような理由でも従業員のニーズを把握することが重要です。
その際には保育所設置のメリット・デメリットを伝えながら、従業員の子どもの人数や年齢、保育希望の時間帯などのアンケートやヒアリングを実施します。ニーズをまとめれば何を目的とする保育所なのかが明確になり、設立後のギャップ発生を防げるでしょう。
2.設置種類の検討
続いて、設置方法の検討です。大きく分けると、1社のみが保育所に関わる「単独設置型」と複数の企業が設置・運営をする「共同設置型」の2種類があります。単独設置型は自社従業員のみ、もしくは地域の子どもたちも対象にしたもので、共同設置型は近隣にあるグループ企業や他社も一緒に利用する保育所です。
認可外保育所の場合は、保育所に関わる事項をすべて会社内で対応しなければならないため、共同設置型の方が従業員の負荷やコスト面を軽減できます。
3.運営方法の検討
設置方法が決まったら、次に自社運営方式と外部委託方式のどちらにするかの選定です。申請の流れや助成金額に大きな違いはありませんが、設置や運営にかかる負担が異なります。
自社運営方式の場合は保育士や園児募集、年間の保育カリキュラムの作成、行政報告などの専門業務を自社で対応しなければなりません。社内に学校法人や社会福祉法人などの部門がある企業であれば、自社が保有する知識やノウハウを活かしての運営も可能でしょう。しかし、それ以外の保育知識が乏しい企業であれば、外部委託方式の方がおすすめです。
外部委託方式は設置から運営に関することをすべて任せられ、従業員が通常業務以外の作業をする必要がなくなります。コスト面がかかる留意点はありますが、無資格者よりも保育のプロに保護者が安心して預けられる環境づくりは大切です。
4.自治体への相談
企業内保育所を立ち上げる際には、守るべき基準項目や法律、手続きなどを自治体へと確認しなければなりません。また、保育所として使用する予定の建物が建築基準法や消防法、食品衛生法などの基準をクリアしているかどうかも確認が必要です。
自治体へと相談し、それらの基準を満たしているかを確認しましょう。なお、建物によっては用途を変更する手続きが必要となるケースもあるため、その場所の用途目的は何かをチェックしておく必要もあります。窓口の部署は自治体によって異なるため、まずは設置予定のエリアを管轄する自治体へと相談してください。
5.設置場所の確保
次に、設置場所の検討と確保です。基本的に従業員は子どもと一緒に通勤するため、設置場所次第で使いやすさは大きく変わります。社内だけでなく、近くの駅や従業員が居住しているエリアなど、別の建物を確保するケースも多いです。
また、設置時には近隣住民からの了承を得なければいけません。施設から聞こえてくる子どもたちの賑やかな声や音楽、アナウンスの音が原因でトラブルが発生する恐れがあります。事前に説明会を開き、設置への理解を深めてもらうことが大切です。
6.補助金の確認・申請
国や自治体が提供する補助金・助成金制度を活用できるかどうかも確認しましょう。例えば雇用保険適用事業所の事業主もしくは団体であること、審査に必要な書類を整備・保管していること、労働省の調査に協力することなどの項目があります。
申請には様々な書類が必要となるので、自治体へ基準項目を相談する際に合わせて確認しておくと良いでしょう。外部委託方式であれば経験豊富なプロに相談したり、書類作成のアドバイスをもらったりできるので、よりスムーズに申請が完了します。
7.施設準備・利用者募集
ここまでの手順が済んだら、いよいよ具体的な施設準備に取り掛かります。保育所内のロッカーや遊具などの配置決めのほか、人材確保、保育料の検討などやるべきことは多いです。
また、外部委託方式であれば業者を選定します。コスト削減ばかりを考えて業者選びを進めると、保育の品質に問題が出る恐れがあるため、業者の実績や評判などにも注目しながら決めましょう。
さらに、社内向け説明会を実施して利用者の募集を行います。近隣地域の子どもも受け入れるなら、別で説明会が必要です。また、グループ企業との共同運営であれば、利用者数の調整も行わなければなりません。
企業内保育所がおかれている企業例
実際に企業内保育を行う企業例として、トヨタ自動車株式会社と株式会社東急百貨店をご紹介します。どのような特徴を持ち、保育サービスを提供しているのかを把握し、自社で導入する際のアイディアの1つとしてください。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では育児への不安や負担を軽減し、安心して働ける環境づくりのために事業所内託児施設を4つ運営しています。その1つである「ぶぅぶフォレスト」は産後8週から小学校就学前の幼児・児童を対象に、各工場からの幼児バス送迎、給食・おやつの提供などを行っている施設です。
また、交替勤務者や夜勤を伴う業務に従事する従業員の仕事と子育ての両立を支援するため、早朝・宿泊保育も行っています。年度途中でも入所可能なため、早期復職やキャリア入社などを希望する人材も利用しやすいと言えるでしょう。
株式会社東急百貨店
株式会社東急百貨店では、待機児童数問題が深刻化する北海道札幌市において、事業所内保育所を設置しています。JR札幌駅から徒歩2分の場所にある店舗の、5階西側エレベーター周辺のスペースを改修して預かり保育を行っているのが特徴です。19名の定員数のうち10名が従業員枠、9名が地域枠となっています。
開所時間は7時半から20時半までと長めで、土日祝日も開園しているのは保護者にとっても嬉しいポイントでしょう。株式会社東急百貨店の従業員だけでなく地域の児童も入所でき、利用料も割安だと喜ばれている保育所です。
まとめ
企業内保育所の設置は、従業員の働きやすさや企業のイメージアップにつながります。働きたくても働けない女性が活躍できるようになり、産休からの早期復帰も期待できることから人材確保に悩む企業の助けになってくれるかもしれません。しかし、企業内保育所の設立にあたっては、従業員の求めるニーズを正しく理解する必要があります。
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