こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
現代は先行きが不透明で、未来の予測が困難な「VUCAの時代」にあるとされています。変化の激しいビジネス環境にあって、特に重要な資質として注目されているのが「コンセプチュアルスキル」です。
今回はコンセプチュアルスキルの意味や重要性、具体的な能力の内容などを解説します。また、自社でコンセプチュアルスキルを育成する方法についても詳しく見ていきましょう。
コンセプチュアルスキルの意味とは?
「コンセプチュアルスキル」とは、一言で表現すれば「物事の本質を理解して判断する能力」のことです。様々な事柄に共通する概念を見抜くという意味を持つため、「概念化能力」と呼ばれることもあります。
コンセプチュアルスキルは、ある特定の能力を指す言葉ではなく、ロジカルシンキングや俯瞰力といった様々な能力を複合的に捉えたものです。たとえば、業務を遂行するうえでトラブルに直面したとき、過去のケースとの共通点を瞬時に見極めて適切な意思決定が行えるといった能力もコンセプチュアルスキルの1つです。
コンセプチュアルスキルのモデル
コンセプチュアルスキルという概念は、「カッツモデル」と「ドラッガーモデル」という2つの理論モデルで大きく取り扱われています。ここでは、2つの理論モデルの内容について見ていきましょう。
カッツモデル
カッツモデルとは、経済学者のロバート・カッツが1950年代に提唱したモデルです。組織の役職を3つの層(トップマネジメント層・ミドルマネジメント層・ロワーマネジメント層)に分けて、それぞれに必要とされるスキルの度合いを解説したモデルであり、以下のような特徴を持っています。
役職層とスキル重要度の関係性
各スキルの重要度 | |||
コンセプチュアルスキル | ヒューマンスキル | テクニカルスキル | |
トップマネジメント(経営者層) | 大 | 中 | 小 |
ミドルマネジメント(管理者層) | 中 | 中 | 中 |
ロワーマネジメント(監督者層) | 小 | 中 | 大 |
このように、カッツモデルでは、コンセプチュアルスキルはどちらかと言えば経営者などのトップ層に求められる能力とされています。その理由としては、「上位層はマニュアルが存在しないような事象にも対応する必要性が高い」という点があげられます。
ヒューマンスキル
カッツモデルで取り上げられているヒューマンスキルとは、平たく言えばコミュニケーション能力のことです。具体的には、相手の考えや特徴を把握したうえで適切に対応する会話能力や、双方の妥協点を見つけられる交渉力などが該当します。
カッツモデルによると、ヒューマンスキルについてはどの層も等しく必要とされています。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、業務の遂行に必要な能力や知識のことです。マニュアルに沿って進める「定型業務能力」や、必要な情報を集めて処理する「情報収集・処理能力」などがあげられます。
テクニカルスキルについては、現場に携わることの多いロワーマネジメント層のほうが、重要度は高いと考えられています。
ドラッカーモデル
ドラッガーモデルとは、経済学者のピーター・ドラッガーがカッツモデルを基準に設定した理論モデルです。ドラッガーモデルの大きな特徴は、役職層に「ナレッジワーカー(知的労働者)」が加えられている点と、どの階層でも一様にコンセプチュアルスキルが重要であると考えられている点にあります。
役職層とスキル重要度の関係性
各スキルの重要度 | ||||
マネジメントスキル | ヒューマンスキル | テクニカルスキル | コンセプチュアルスキル | |
トップマネジメント(経営者層) | 大 | 中 | 小 | 大 |
ミドルマネジメント(管理者層) | 中 | 中 | 中 | 大 |
ロワーマネジメント(監督者層) | 小 | 中 | 大 | 大 |
ナレッジワーカー(知的労働者) | なし | 小 | 中 | 大 |
現代のビジネス環境は、先行き不透明で予想困難な「VUCAの時代」にあるとされています。目まぐるしく変化が訪れる現代の経営環境においては、すべての階層がコンセプチュアルスキルを身につけ、主体的に判断・行動できる組織のほうが高い競争力を持ちます。
コンセプチュアルスキルの構成要素は?
前述の通り、コンセプチュアルスキルは様々な能力を複合的に捉えた考え方です。ここでは、コンセプチュアルスキルの具体的な構成要素として、14のスキルをご紹介します。
スキルの種類 | 内容 |
ロジカルシンキング (論理的思考) | 物事の原因と結果を明確につかみ、両者のつながりを考えられる能力 |
ラテラルシンキング (水平思考) | 固定観念や過去の方式にとらわれず、水平方向に新たな発想を広げられる能力 |
クリティカルシンキング (批判的思考) | 物事の本質を見極めるために疑いの視点で考えられる能力 |
多面的視野 | 物事に対して複数のアプローチで向き合える能力 |
柔軟性 | 想定外の事態に対しても臨機応変に対処できる能力 |
受容性 | 異なる意見や価値観に耳を傾けて受け入れる能力 |
知的好奇心 | 知らないことに対して関心を持って臨める能力 |
探求心 | 物事をより深く理解するために主体的な調査や分析を行える能力 |
応用力 | 得られたデータや経験を異なる事象にも活用できる能力 |
洞察力 | 物事の本質をとらえ、将来の展望について分析できる能力 |
直観力 | ひらめきを活用し、物事に対して瞬時に対応できる能力 |
チャレンジ精神 | 未経験の分野にも恐れずに挑戦できる能力 |
俯瞰力 | 物事の全体像を把握できる能力 |
先見性 | 未来の推移を予測できる能力 |
コンセプチュアルスキルが高い人と低い人の特徴
コンセプチュアルスキルに優れていると、具体的にはどのような言動として表れるのでしょうか。ここでは、コンセプチュアルスキルが高い人と低い人の特徴をそれぞれ見ていきましょう。
高い人
コンセプチュアルスキルが高い人には、以下のような特徴が見られます。
・物事の全体と詳細をどちらも把握する ・データや根拠を重視する ・決めつけや思い込みをしない ・目的志向で考えられる ・新しいアイデアを次々に提案する ・口頭で相手を納得させることができる ・話の要約とたとえ話がどちらも得意 ・トラブルに見舞われても慌てずに対処できる |
低い人
一方、コンセプチュアルが低い人には、以下のような傾向が見られます。
・全体に目を向けずに特定の部分ばかりにこだわる ・目的があいまいなまま網羅的な計画を立てる ・原因の深堀りができない ・実行が不可能な計画を立ててしまう ・周囲の状況に流されやすい ・情報収集にこだわるあまり意思決定ができない ・同じ失敗を繰り返してしまう |
このように、コンセプチュアルスキルは生産性に大きな影響を与える資質であることから、経営層から現場の従業員まで、どの階層にも等しく求められるのもうなずけるでしょう。
個人の潜在能力を引き出すには、あらゆる人事データを統合して分析
コンセプチュアルスキルは、必ずしも個人が生まれ持った資質というわけではありません。企業から適切な働きかけを行えば、従業員のコンセプチュアルスキルを向上させることも可能です。
その第一歩として、まずは社内の人事データを統合・分析し、現状を的確に把握しておく必要があります。そして、各部門やチーム、ときには従業員個人のレベルにまで視点を掘り下げ、どのようなアプローチでコンセプチュアルスキルを育成すべきかを検討しましょう。
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コンセプチュアルスキルの身につけ方
コンセプチュアルスキルを身につけるためには、訓練によって個人の思考法を変化させていく必要があります。裏を返せば、考え方のクセや習慣を変化させることで、個人レベルでもスキルの向上が可能であるともいえます。
ここでは、具体的な訓練方法として、5つのポイントをご紹介します。
抽象化する
コンセプチュアルスキルの基本は、物事を概念化して本質をつかむところにあります。そのため、まずは「抽象化」が行えるように訓練することが大切です。
具体的な方法としては、「複数の物事に共通する要素を抜き出してひとくくりにする」というものがあげられます。以下のコツを意識して、物事の共通点や全体像を把握できるように練習してみましょう。
抽象化を行うコツ
・様々な事象の共通点を見つけるクセをつける ・バラバラなデータは書き出して整理する ・「要するに○○」というまとめ方を心がける |
具体的にする
抽象化が行えるようになったら、反対に「具体化」できる能力も訓練しましょう。具体化とは、抽象的な事柄を詳細な情報によって特定し、各パーツの構成要素を掘り下げていくという考え方です。
具体化を行うコツ
・常に5W1Hで考える ・細かな情報や手順を丁寧に整理する ・「たとえば○○」という表現方法を用いる |
本質を考える
抽象化と具体化の両方向にわたる思考が行えるようになったら、物事の本質を捉える練習に入ります。本質を捉える能力に欠けていると、物事を思考する際に論点がズレてしまったり、枝葉末節にこだわってしまったりするようになります。
こうした事態を避けるためには、「そもそも」何が主題なのか、物事の本質に立ち返って考えられる習慣をつくることが大切です。
モレやダブりをなくす
情報を整理するうえでは、モレやダブりがない状態(MECE/ミーシー)を目指すことも大切です。MECEとは、「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(互いに排他的かつ網羅的)」の頭文字をとった略語であり、ロジカルシンキングの基本となるフレームワークです。
ここでは、日本をエリアごとに分類する場合を例にあげて、MECEとそうではない状態の違いを見ていきましょう。
構成要素 | 判定 | MECEでない理由 |
北海道・本州・四国・九州・沖縄 | 〇 (MECE) | - |
東日本・西日本 | 〇 (MECE) | - |
北海道・本州・九州・沖縄 | × | 四国が漏れているため |
北海道・本州・東京・四国・九州・沖縄 | × | 本州と東京がカブっているため |
東日本・関東地方・西日本 | × | 東日本の一部と関東地方がカブっているため |
このように、MECEはとてもシンプルな方法でチェックでき、コンセプチュアルスキルを高めるうえでも重要なステップとなります。物事を過不足なく捉えることで、本質の見極めと判断が行いやすくなるのです。
言葉の定義を明確化する
コンセプチュアルスキルを磨くうえでは、言葉の扱い方にも着目することが大切です。思考を広げたり、周りを納得させたりするためには、特に「言葉の定義を明確化する」が重要となります。
理解が曖昧な言葉については、すぐに調べて定義を明確につかむ習慣を作りましょう。
コンセプチュアルスキルの具体的な育成方法
コンセプチュアルスキルは、個人で訓練しながら高めることも重要ですが、企業や組織の側から育成の機会を提供することも大切です。ここでは、従業員のコンセプチュアルスキルを育成する方法をご紹介します。
OFF-JTとOJTを使い分ける
「OFF-JT(Off The Job Training)」とは、通常の業務を離れて行う教育や訓練のことです。たとえば、座学による勉強会や外部研修の参加などが当てはまります。
コンセプチュアルスキルには様々な能力が包括されているので、すべてを実務の身で習得するのは容易ではありません。そこで、集合型研修や座学研修などで体系的に学べる機会を作ることも大切です。
そのうえで、実務を通してスキルを取得する「OJT(On The Job Training)」も同時に使い分ける必要があります。OFF-JTで得た知識は、実務を通して活用できるスキルへと変換することで、初めて仕事のパフォーマンスや生産性に影響を与えるのです。
意識して日常業務をする
個人における訓練方法でも触れたように、コンセプチュアルスキルは日常的な思考の習慣を変えることで向上していくものです。そのため、日常業務を通して、常にコンセプチュアルスキルの訓練を意識できる仕組みを整えることも大切です。
eラーニングで学ぶ
コンセプチュアルスキルで学ぶべき内容は幅広いため、OFF-JTの効果を高めるうえでは、専門家による教材などの外部サービスを利用するのも有効です。しかし、毎回の研修で外部講師を呼んだり、外部施設へ足を運んだりするのは、コストや時間の面で大きな負担になってしまうでしょう。
そこで、パソコンやスマホなどのデジタル機器で学べるeラーニングを活用するのもおすすめです。通信環境さえ整っていれば、どこでも気軽に受講できるため、空き時間などを利用しながら効率的に学習を進めていけるのがメリットです。
コンセプチュアルスキルのメリット
最後に、コンセプチュアルスキルのメリットについて、改めて簡単に整理しておきましょう。
本質の解決につながる
コンセプチュアルスキルは問題の本質を鋭く見抜ける能力であるため、向上させることで問題解決能力が大きく高まります。表面化した課題だけでなく、根本的な問題的にも目を向けられるため、早い段階で失敗の芽を摘み取れるようになるのです。
イノベーションの土壌が耕される
コンセプチュアルスキルを持つ人材が増えると、固定観念にとらわれない意見やアイデアが生まれるため、イノベーションの機会が広がっていきます。また、既存のサービスが不要になってしまうなどの大きなリスクでも、慌てずに対応策を見つけられるようになります。
一人ひとりのパフォーマンス力アップ
物事の本質を捉え、効率的に労力を注げるため、同じ労働力でも生産性は格段に向上していきます。また、自身の役割や周囲の状況についての把握能力も高くなるため、細かな指示がなくても臨機応変に動けるようになっていきます。
まとめ
コンセプチュアルスキルは幅広い能力を含んだ概念ですが、一言で表せば「物事の本質を捉えて適切な判断が行える能力」であるといえます。従来は経営者層などのトップマネジメントに必要な能力とされていましたが、変化の激しい現代のビジネス環境では、現場で動く従業員にも強く求められるようになっています。
コンセプチュアルスキルは一見すると先天的な能力として捉えられがちですが、実際には後天的に育成することも可能です。企業の側から適切な機会を用意すれば、従業員のコンセプチュアルスキルが高まり、生産性が高く柔軟な組織づくりを実現できるでしょう。
人材育成によって確かな成果を上げるうえでは、「タレントマネジメントシステム」を活用することが重要です。タレントマネジメントシステムとは、人材の能力やスキルを最大限に発揮してもらうために、人材データを集約・一元管理して、高度な意思決定を可能にするシステムをいいます。
人材一人ひとりのスキルや保有資格、経歴などのデータをもとに、計画的な人材育成や高度な配置戦略を練るために活用できます。また、タレントマネジメントシステムである『タレントパレット』は、データに基づいた科学的な人事を実現するためのシステムです。
あらゆる人事データを蓄積・統合することにより、精度の高い分析を行えるので、部門や個人の状況に合わせた研修機会の設定にも役立てられるでしょう。「コンセプチュアルスキルの育成を図りたい」「人材育成のブレない軸を構築したい」という方は、ぜひタレントパレットをご活用ください。