男性の育児休暇・育児休業の考え方とは?メリットや法改正のポイントを解説


男性の育児休暇・育児休業の考え方とは?メリットや法改正のポイントを解説

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

仕事と家庭の両立を図りやすくするために、父親の子育て参加が促される状況になっています。そのため、育児休暇を取得する男性の従業員が増加傾向にあるといえるでしょう。

育児・介護休業法の改正に合わせて、人員配置や時短勤務の対応など男性の従業員が育休を取得しやすい社内制度を整備する必要があります。では、企業として、男性従業員から育休の申請を受けた場合どのように対応すればよいのでしょうか。

本記事では男性の育児休暇・育児休暇の考え方やメリット、法改正についてみていきましょう。

男性が育児休暇・休業を取得する割合

働き方改革やワークライフバランスの促進などをふまえて、両親がそれぞれ育休を取る意識が高まっています。大企業を主な対象とした厚生労働省の調査によると、2020年度の男性の育休取得率は12.7%でした。2021年度には14.0%と1.3%上昇し、社会全体に浸透し始めているといえるでしょう。

しかし、海外に比べると、日本の男性の育休取得率は高くありません。スウェーデンでは90%弱、ドイツでも43.5%にも上るなど大きな差がある状況です。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構

日本の育休取得率が上がらない原因として「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方がまだ残っていることが考えられます。ただし、2022年の調査では、この考えについて賛成は33.5%、反対は64.3%にとどまっている状況です。

年代別で見ると、18〜29歳は16.5%、30〜39歳は20.5%が「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成しています。しかし、管理職が多い40〜49歳は24.8%、50〜59歳は28.9%で賛成の回答が集まっており世代間のギャップが明らかになっており、育休の取得が進まない状況は企業の体制に問題があるケースも多いといえるでしょう。

子育て世代が育休を取得したいと考えても、周囲の理解が得にくい可能性があります。育休制度を整えたとしても、管理職の意識改革も行わなければ、取得率は向上しません。

参照:令和3年度雇用均等基本調査 | 厚生労働省
男性の「育休」受給率、過去最高の43.5% | 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
「男女共同参画社会に関する世論調査」の概要 | 内閣府政府広報室

育休取得率を向上させる企業側のメリット

ここでは、育休取得率を向上させるメリットをそれぞれの立場から解説します。従業員の満足度だけでなく、企業の社会的評価が高くなる点も知っておきましょう。

従業員の満足度が上がる

2022年度の厚生労働省の調査によると、男性が育休を取得していない理由は「収入を減らしたくなかった」という回答が36.4%を占めました。続いて「育休が取りにくい雰囲気だった」「育休制度が整備されていなかった」との回答が同率で25.9%集まっています。

育休制度を整えることによって、ワークライフバランスを重視する従業員の満足度が上がり、企業への帰属意識が高まると考えられます。企業として、従業員の家庭事情に配慮した取り組みを積極的に行うことにより、離職率の低下にもつながるでしょう。

参照:令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 | 厚生労働省

企業の社会的評価が向上する

男性社員が育休を積極的に取得している企業は、社会的な評価が向上し、子育て世代の就職希望者にとって魅力的な企業に映りやすくなります。就職希望者が増えることで、優秀な人材が集まりやすくなることも期待できるでしょう。

日本の生産年齢人口(15〜64歳)は、少子高齢化が進むにつれて1995年をピークに減少へ転じています。企業によっては事業を拡大したいと考えていても、採用者が集まらないことがあるでしょう。男性育休を取得促進することで、企業的評価の向上が期待できるため、人手不足の解消につながる可能性があります。

参照:令和4年版高齢社会白書(全体版) | 総務省

助成金が受給できる

育休の取得促進を図る中小企業に対する両立支援助成金のひとつとして、出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)を受給可能です。第1種と第2種に分かれ、それぞれ受給できる条件が異なります。

まず、第1種の助成金を受給するための条件は、以下のとおりです。

  • 男性が育児休業を取得しやすい雇用環境の整備を複数実施する
  • 労働者の残業を抑制するための業務見直しの規定に基づく業務体制整備を行う
  • 産後8週以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得させる


上記の要件を満たした場合に支給される第1種の助成金は、以下のとおりとなります。

支給される要件 支給金額
育児休業取得 20万円
代替要員加算 20万円(代替要員を3人以上確保した場合には45万円)
育児休業に関する情報公表加算 2万円

代替要員加算の助成金を受け取るには、育休期間中の代替要員を新たに確保しなければなりません。また、育児休業に関する情報公表加算は、厚生労働省が運営するサイト「両立支援のひろば」で育児休業の取得状況を公表したケースに支給額が加算されます。

次に第2種の助成金を受け取る主な条件は、第1種の申請をしてから3事業年度以内に、男性の育児休業取得率が30%以上上昇しているかどうかという点です。

また、「第1種の助成金の受給年度に育休対象の男性が5人未満かつ、取得率70%以上の事業主は、3年以内に2年連続70%以上となった場合、第2種の助成金の対象」となります。

第2種で支給される助成金の要件は以下のとおりです。

支給される要件 支給金額
1年以内 60万円
2年以内 40万円
3年以内 20万円
参照:両立支援等助成金のご案内(リーフレット)2023 | 厚生労働省

育児・介護休業法改正に伴う変更点



2021年に育児・介護休業法が改正されたことに伴い、社内制度の変更が必要です。ここからは、特に社内制度で変更しておくべきポイントを解説します。

産後パパ育休(出生時育児休業)制度の新設

育児・介護休業法の改正に伴い、子どもが生まれた8週間以内に最長で4週間まで育児休業を取得できる産後パパ育休が新設されました。育児休業の申請期限は休業の1ヶ月前ですが、産後パパ育休は、休業開始予定日の2週間前まで申請が認められます。

改正前までは、パパ休暇と呼ばれる産後8週間以内に夫が育児休業を取得した場合、もう1回育児休業を取得できる制度がありましたが廃止されました。育休期間を2回まで分割できる産後パパ育休に改正され、取得しやすくなるようになっています。

育休を取得しやすい環境の義務化

育児・介護休業法によって、育休を取得しやすい環境整備や育休制度の周知、取得意向の確認が義務化されました。育児休業の取得を促進するための一環として、相談窓口の設置や育児休業に関連するセミナーの実施が必要となります。

また企業は、育児休業給付の内容や社会保険料の取り扱いについて、書面交付や電子メール、セミナーなどで従業員に周知しなければなりません。

従業員1,000人超の企業は育休取得状況を公表する

改正された育児・介護休業法では「男性の育児休業等の取得率」あるいは「育児休業等と育児目的休暇の取得率」を公表する義務についても定められています。従業員が1,000人を超える大企業は、直前の事業年度の育休取得状況を公表しなければなりません。

公表先は、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」や自社ウェブサイトなどです。インターネットを利用し、従業員以外も育休取得状況を閲覧できるように努める必要があります。

自社の従業員はもちろんのこと、社会全体が子育てしやすい環境整備への協力が各企業にも求められていると言えるでしょう。

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男性の育休期間と開始時期

育休も制度によって取得期間や申請期限、開始時期が異なります。ここからは、男性と女性では育休の条件がどのように異なるのか、違いをみていきましょう。

育児休業期間についての詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。
「育児休業期間」については、こちらの記事をご確認ください。

育休期間

育児休業と産後パパ育休の休業期間の違いは、以下のとおりです。

育児休業 産後パパ育休
取得期間 子どもが1歳になるまで(やむを得ない事情がある場合は最長2歳まで) 子どもが生まれてから8週間以内のうち、4週間まで
申請期限 原則、休業の1ヶ月前まで 原則、休業の2週間前まで
分割取得が可能か 2回まで分割可能 2回まで分割可能
休業中の就労が可能か 原則不可 労使協定を締結し、労働者との合意があれば就業可能
延長の可否 特別な事情があれば可能 原則不可

なお、育児休業に似ている制度として育児休暇があるものの、法律で定められているものではありません。取得期間や申請期限などは、企業によって異なります。

男性の育休開始時期

男性の育休は、子どもが生まれた日から取得できます。取得開始日を誕生日から後ろに変更することも可能です。出産予定日は出産日とずれることも多いため、開始日は変更できるケースがほとんどといえます。

また、育休の開始日は繰り上げも可能です。なお、期間によって、育休期間中の給付金が変わる可能性も知っておきましょう。

育休期間中の従業員の給付金・税金



産後パパ育休・育児休業期間中の従業員は、育児休業給付金の受給が可能です。ここからは、従業員が給付金を受給するための企業側の対応方法についてみていきましょう。

育児休業についての詳しい説明は、以下の記事をご確認ください。
「育児休業」については、こちらの記事をご確認ください。

給付金の計算方法

育児休業給付金の金額は、基本的には休業前の給与の67%に相当する額です。育休開始後181日目以降は50%相当額の給付を受けられます。

支払われる給与の金額によって、給付金の受給額が異なり、育児休業期間の受給額は以下のとおりです。

企業から支払われた賃金の金額 育児休業給付金の金額
13%(181日以降30%)以下 休業開始時賃金日額×支給日数×67%
13%(181日以降30%)を超えて80%未満 休業開始時賃金日額×支給日数×67%-賃金
80%以上 給付されない

ただし、支給上限額と下限額は決まっており、1日あたりの上限額は15,190円、下限額は2,657円になります。2023年7月までの30日間の給付金は、以下のとおりです。

【給付率67%のケース】

  • 支給上限額 305,319円
  • 支給下限額 53,405円


【給付率50%のケース】

  • 支給上限額 227,850円
  • 支給下限額 39,855円


参照:育児休業給付の内容と支給申請手続 | 厚生労働省

育児休業給付金の申請方法

育児休業給付金の申請は、企業がハローワークに対して行います。受給資格確認手続きのみ行う場合の申請期限は、初回の支給申請を行う日までです。また、初回の支給申請まで同時に行う申請期限は、育児休業開始日から4ヶ月を経過する日の月末までと規定されています。

申請する際の必要書類は、以下のとおりです。

  • 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
  • 育児休業給付金受給資格確認表
  • 育児休業給付金支給申請書
  • 育児休業を開始終了した従業員の賃金の金額と支払い状況を証明できるもの(賃金台帳やタイムカードなど)
  • 育児の事実出産予定日と出産日を確認できるもの


出産予定日と出産日を確認できるものは、写しでも問題ありません。

参照:育児休業給付の内容と 支給申請手続

社会保険料の免除

育休期間中は、従業員の厚生年金保険料や健康保険料などの社会保険料が免除されます。従業員から申請を受けた企業は、年金事務所に申請しなければなりません。申請方法は、電子申請や郵送、窓口持参の方法があります。必要書類は申請書のみです。

なお、免除期間は将来被保険者の年金額を計算する際に、保険料を納めた期間として扱われます。育児休業給付金は非課税所得のため、住民税や所得税の算定の対象に含まれない点も知っておきましょう。

参照:厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間) | 日本年金基金

男性の育休を取得促進するための対策

男性の育休を取得推進するためには、各企業の対策が最も大切です。社内の育休に対する意識改革、育休を取りやすい環境の整備など具体的な方法をみていきましょう。

管理職の育休に関する意識改革を行う

男性が育休を取得しにくい背景には、周囲の理解が不足している点が挙げられます。そのため、研修などを通じ、管理職の意識を変えていくことも必要です。

また、経営幹部から管理職に対して、「男性の育休を積極的に取得させる」ように伝える方法も有効です。状況を把握し、改善していく必要があることから、様々な取り組みを通して、部下の育児参加をサポートする意義を伝えましょう。そして、育児休業を取得しやすい環境づくりを行うことが大切です。

仕事と育児が両立できる制度を整備する

従業員が長期間の休暇を取りづらい理由の1つとして、業務の属人化や人手不足などによる「他の社員へ迷惑がかかることへの恐れ、不安感」が挙げられます。こういった場合や業務フローの見直しやツール導入、DX化やテレワークの推進なども働きやすい環境につながるでしょう。

たとえば、つぎのような取り組みも効果的です。

・育児に関わるためのファミリーサポート休暇など企業独自の特別休暇を設ける
・法律で定められた以上の育児休業期間を整備する

育休取得へのハードルを下げる取り組みも重要といえるでしょう。育休を終えて復帰した後も育児は続きます。企業内保育所の設置や育児中の従業員に合わせて柔軟な時短勤務制度の設定なども含めて制度を整えることで従業員のモチベーションも維持できるでしょう。

育児休業制度を運用する注意点

ここからは育児休業制度の配偶者の就業・育休状況もふまえて、注意点をみていきます。従業員から育休制度に関する質問があったときには、人事担当者・マネジメント担当者が説明できるようにしておきましょう。

配偶者が専業主婦(夫)でも育休を取得できる

育児休業は、育児・介護休業法によって定められた子どもを養育する義務のある労働者の権利です。性別は問われません。そのため、配偶者が常に育児できる専業主婦(夫)であっても、育児休業を取得できます。

育休は子どもが育てられない状況のため取得するだけではなく、成長を見守る意味もあります。企業は、「配偶者が子育てに専念できるから」という理由で従業員の育休の取得希望を拒否できない点は注意が必要です。

両親ともに育児休業取得期間が延長できる

両親ともに育児休業を取得するケースでは、取得期間が延長される「パパ・ママ育休プラス制度」を利用できます。パパ・ママ育休プラス制度とは、両親がともに育児休業を取得すると、1歳2ヶ月まで育休を延長できる制度です。育児休業を延長した場合、育児休業給付金も延長して受け取れます。ただし、取得できる期間が延長されるだけで、休業の最大取得日数が1年であることは変わりません。

育児休業の延長期間に関する詳細は、以下の記事をご確認ください。
「育児休業延長」については、こちらの記事をご確認ください。

まとめ

少子高齢化で人手不足が加速することから、企業は男性の育休制度を整え、従業員にとって魅力あふれる環境にすることが重要です。男性の育休を進めるには、管理職の育休に関する意識を変えることを目的に、セミナーや研修を実施し、仕事と育児が両立できるような制度を設置しましょう。また、制度を運用する前に、自社の育休取得状況を確認し改善点を明確にすることも大切です。

制度をスムーズに運用する方法のひとつとして、人事管理を一元化できるタレントパレットがあります。育休期間中の従業員を把握し、給付金の申請・給付などの手続き漏れを無くしやすくなるでしょう。育休制度をスムーズに運用するために、タレントパレットをご活用ください。

タレントパレットのHPはこちら