育休を男性も取得できる?|育休の制度や給付金、取得推進のポイントなども解説


育休を男性も取得できる?|育休の制度や給付金、取得推進のポイントなども解説

育休(育児休業)は法律で定められた制度で、性別を問わず取得可能です。加えて、近年は男性のみを対象とした育休も新設されました。育休の仕組みを理解しておけば、企業や男性社員にとって効果的な提案ができるでしょう。この記事では、人事担当者向けに、男性が取得可能な育休制度を詳しく解説します。男性が育休中にもらえる給付金や企業に支給される助成金なども述べるため、育休への理解にお役立てください。


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男性の育休(育児休業)とは

育休(育児休業)とは、1歳未満の子どもを養育するために、労働者が取得できる休暇制度のことです。育児・介護休業法により定められた育休は、近年の法改正により制度が拡充されました。特に、新設された男性の育休取得を推進する「産後パパ育休(出生児育児休業)」にみられるように、男性が育児に参加しやすい環境づくりが進められています。


育休を取得できる条件

育休を取得するためには、以下の条件を満たす必要があります。


・1歳未満の子どもを育てている労働者であること

・子どもが1歳6か月に達するまでの期間まで、雇用契約が継続していること


正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態を問わず、上記条件を満たせば育休を取得する権利が法律で保障されています。


女性の育休との違い

育休の内容や給付金の仕組みについては、基本的に性別による違いはありません。大きな違いは休業の開始時期にあります。


女性の場合は産前・産後休業(産休)があるため、産後8週間の産後休業が経過してから育休に入るのが一般的です。一方、男性には産休がありません。男性の場合は出産日から育休を開始できます。


男性が取得できる育休の種類

男性が取得できる育休は、通常の育休、産後パパ育休、パパ・ママ育休プラスの3種類です。それぞれの特徴を解説します。


育児休業

一般的な育休(育児休業)は、子どもが産まれてから1歳の誕生日を迎える12か月まで、やむを得ない場合に限り最長24か月まで取得可能です。育休は両親のどちらも取得できるため、家庭の状況や考えに基づき柔軟に活用できるでしょう。


また、育休は2回に分割して取得できます。連続して長期間休むことが難しい人や、ピンポイントで配偶者をサポートしたい人などは、分割での取得を検討するとよいでしょう。


産後パパ育休(出生時育児休業)

2022年10月からスタートした産後パパ育休(出生時育児休業)は、出産日から8週間以内に、最大4週間の休業を取得できる新しい制度です。


産後パパ育休は、一般的な育休とは別枠で取得でき、2回まで分割できます。たとえば、出産直後に2週間のみ休暇を取得し、残りの休暇は状況を見て取得するというように、柔軟な活用が可能です。


パパ・ママ育休プラス

パパ・ママ育休プラスは、両親がともに育休を取得する場合に利用できる制度です。


通常の育休は子どもが1歳になるまでが基本的な取得期間となりますが、パパ・ママ育休プラスを利用すると、子どもが1歳2か月に達するまでの期間で休業を調整できます。ただし、育休取得可能期間自体は、両親それぞれ1年間のまま変わりません。


男性が育休中にもらえる給付金

男性の育休中の収入をサポートする制度として、雇用保険からの給付金について理解しておきましょう。


2024年時点で用意されている給付金は、出生時育児休業給付と育児休業給付の2種類です。いずれの給付金も、休業前の賃金に対する一定割合が支給されます。なお、2025年4月からは、出生後休業支援給付も支給される予定です。


※参考:育児休業給付の内容と支給申請手続|厚生労働省


出生時育児休業給付

出生時育児休業給付は、産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した男性に支給されます。以下の支給要件を満たす場合、休業開始時の賃金日額の67%が育休取得日数分受け取ることが可能です。


・休業開始前2年間に、「賃金支払日数が11日以上の月」または「賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の月」のいずれかが12か月以上あること

・休業中の「就業日数が最大10日」または「就業時間が合計80時間」以下であること

・子どもの出生日から8週間経過後6か月以内に、労働契約が満了しないこと


育児休業給付

育児休業給付は、原則として、子どもが1歳になるまでの育休中に支給されます。育休開始から180日までは賃金日額の67%が、181日以降は50%が支給されます。支給要件は以下のとおりです。


・休業開始前2年間に、「賃金支払日数が11日以上の月」または「賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の月」のいずれかが12か月以上あること

・一支給単位期間中の「就業日数が最大10日」または「就業時間が合計80時間」以下であること

・子どもの出生日から1歳6か月以内に、労働契約が満了しないこと


【2025年4月~】出生後休業支援給付

出生後休業支援給付は、2024年の雇用保険法改正により新設された給付金制度です。新制度は2025年4月からスタートし、これまでの育児休業給付に加えて受給すると、休業前の手取りと実質同程度の収入を確保できるようになります。


男性の育休で企業に支給される助成金

育休取得を推進する企業を支援するため、助成金制度が設けられています。各制度の詳細を確認しておきましょう。


両立支援等助成金

両立支援等助成金は、仕事と育児の両立を実現する職場環境の整備を促進する目的で、国が設けた助成金制度です。両立支援等助成金の支援メニューのなかから、育休に関する3つのコースについて以下で詳しく解説します。


※参考:2024(令和6)年度 両立支援等助成金のご案内 | 厚生労働省


出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

出生時両立支援コースは、男性の育休取得を推進する企業を対象に、環境整備を支援する助成金制度です。支給要件に該当する取り組みの例を、以下に示しました。


・社員向けの研修実施

・制度や取得事例を紹介する資料の配布

・イントラネットなどでの育休制度の周知

・社外向けホームページやSNSでの取り組み発信

・相談窓口の設置


育児休業等支援コース

育児休業等支援コースは、社員の育休取得から職場復帰までを総合的に支援する企業への助成金制度です。支給されるためには、社員が3か月以上の育児休業を取得すること、職場に復帰して6か月以上継続して就業していることなどが求められます。


職場復帰が支給要件に含まれる点に着目すると、育児休業等支援コースは、長期的な視点での人材活用を後押しする制度といえるでしょう。


育休中等業務代替支援コース

育休中等業務代替支援コースは、育休取得者の業務をカバーするための人材確保を支援する助成金制度です。支給対象となる具体的なケースは以下の2つです。


・既存社員に業務を引き継ぎ、その負担増に対して手当を支給するケース

・育休取得者の代替要員として、新たに人材を雇用するケース


都道府県が支給する助成金

国の助成金制度に加えて、各都道府県でも独自の支援制度を設けているので確認してみましょう。たとえば、東京都は「働くパパママ育業応援奨励金」により、社員の育休取得を推進する企業に対して奨励金を支給しています。この制度には「働くママコースNEXT」「働くパパコースNEXT」など4つのコースがあり、企業の取り組みに応じて申請するコースを選択可能です。


男性の育休中の社会保険料や税金

育休中は、社会保険料が免除されるだけではなく、税金の軽減措置も受けることが可能です。育休中の社会保険料や税金について解説します。


健康保険・厚生年金の保険料

事業者からの申請を条件に、育休中に健康保険・厚生年金の保険料が免除される制度があります。通常の育休だけではなく、産後パパ育休も免除の対象です。免除される期間は、育休を開始した月から、育休が終了する翌日が属する月の前月までとなります。


所得税・復興特別所得税・住民税

育休中に受け取る育児休業給付は非課税所得として扱われるため、所得税と復興特別所得税、住民税は課税されません。


ただし、住民税は前年の所得に基準に今年度の税額が計算されるため、育休中にも通常通りの支払いが発生します。


男性の育休取得推進を義務化する流れ

近年、育児・介護休業法の段階的な改正が進行し、2022年度から2025年度にかけて、企業に対する義務化の内容が拡大されつつあります。改正の狙いは、男性の育休取得の推進です。以下で、各施行時期における改正のポイントを解説します。


【最新】2025年4月から順次施行

2025年4月より、男性労働者の育休取得状況の公表義務が、常時労働者が300人超の企業にまで拡大される予定です。企業は「育児休業等の取得割合」と「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のどちらかを選択し、毎年公表しなくてはいけません。公表する手段には、自社の公式サイトや、厚生労働省が運営するWebサイト「両立支援のひろば」などがあります。


2023年4月に施行された内容

常時労働者が1,000人超の大企業に対して、男性労働者の育休取得状況の公表が義務化されたのが2023年4月です。公表内容自体は2025年4月と同じく、「育児休業等の取得割合」と「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」となっていました。


2022年10月に施行された内容

2022年10月には、産後パパ育休が創設されました。休業を申し出る期限は2週間前までで、労働者の合意があれば休業中も就業できる点が特徴的でした。また、このタイミングで、通常の育休も産後パパ育休も、2回までの分割取得が可能となりました。


2022年4月に施行された内容

すべての企業に対して、社員が育休を取得しやすい雇用環境を整備することが義務付けられたことが、2022年4月です。具体的な施策として、研修の実施や相談窓口の設置などが求められました。また、妊娠・出産の報告を受けた際に、企業側から育休制度を説明し取得の意向を確認することも、この時点で義務付けられています。


男性の育休推進が企業に求められている背景

近年は、少子高齢化で人手不足が深刻化しています。限られた人的資本を有効に使うべく、企業には、社員の仕事と育児を両立する支援策が必要です。また、育児に積極的にかかわりたい男性が増加傾向にあるなか、充実した育休制度の整備は、人材の確保や定着にもつながる重要な戦略であるといえます。


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男性の育休取得の現状

男性の育休取得について、取得率と取得期間の現状を、統計データを用いて解説します。


男性の育休の取得率

厚生労働省が公表した令和5年度のデータによると、男性の育休取得率は30.1%で、前年度から13.0ポイント上昇しました。また、男性の育休取得者が1人以上いる事業所の割合は37.9%となり、前年度から13.7ポイント上昇しています。


※参考:令和5年度雇用均等基本調査|厚生労働省


男性の育休の取得期間

令和3年度と令和5年度における、男性の育休の取得期間を表にまとめました。

取得期間 令和3年度 令和5年度
5日~2週間未満 26.5% 22.0%
2週間~1か月未満 13.2% 20.4%
1~3か月未満 24.5% 28.0%

比較範囲では、2週間~1か月未満、1~3か月未満の育休を取得する割合が上昇しています。


※参考:令和5年度雇用均等基本調査|厚生労働省


男性が育休を取得しにくい理由

男性の育休取得率は上昇傾向にあるものの、依然として3割程度です。実際に取得するには多くの課題があるといえるでしょう。以下では、男性が育休を取得しにくい主な理由について解説します。


職場の雰囲気

企業における育休制度は整備されつつありますが、職場の雰囲気や風土によっては、男性社員が育休取得を申し出にくい状況です。特に、前例が少ない職場では、周囲の反応を気にして育休の希望を伝えられないケースもあります。国や企業が育休を推進する流れは理解できても、自分事となるとハードルが高いことが現状です。


人手不足や周囲への負担

仕事に追われる職場への配慮から、育休取得をためらう男性もいます。多くの職場では人員に余裕がない状況が続いており、自分が休むことで業務に支障が生じたり、同僚の業務負担が増えたりすると懸念する人は少なくありません。特に、中小企業では、人手不足が育休取得の推進を阻む傾向があります。


上司の評価や昇進への影響

育休取得がキャリアに悪影響を及ぼすのではないか、という不安を抱える男性も珍しくありません。上司からの評価が下がったり、昇進・昇給の機会を逃したりするかもしれないという懸念が、育休取得を躊躇させる要因となっています。


男性が育休を取得するメリット

男性が育休を取得するメリットは、社員個人と企業の双方にあります。それぞれの立場から、育休取得のメリットを確認しておきましょう。


社員側のメリット

育休を取得すると、家族との関係に加え、仕事にもよい影響を与えます。育休取得について社員側のメリットを解説します。


子どもとの絆が深まる

育休取得は、子どもの成長が著しい大切な時期に寄り添える貴重な機会です。赤ちゃんの時期は、日々新しい発見があります。成長が目覚ましい時期を一緒に過ごせると、自然にスキンシップやコミュニケーションが生まれ、父子の絆が深まっていくでしょう。子どもとの信頼関係は日々の触れ合いのなかで築かれるものであり、育休の取得はその重要な第一歩となります。


配偶者の負担を減らせる

出産後の女性は心身ともに大きな負担を抱えており、育児による疲労や体調不良を訴えるケースも少なくありません。男性が育休を取得して育児に参加することで、配偶者の負担を軽減し、産後の回復をサポートする重要な役割を果たすと考えられます。産後のサポートは、たとえ一時であっても、以降の夫婦関係に大きな影響を与えるでしょう。


仕事のモチベーションが上がる

男性の育休取得は、仕事に対するモチベーションを高める効果もあります。子育てを通じて家族のために頑張りたいという気持ちが芽生えるだけではなく、育休制度を整備する企業への感謝の気持ちや帰属意識も強くなるためです。また、育休中に仕事を離れてリフレッシュできると、心機一転して仕事に取り組めるようになる可能性もあります。


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企業側のメリット

育休取得は、企業にとってもさまざまなメリットがあります。企業側から見た主なメリットを把握し、育休取得を推進しましょう。


企業イメージが向上する

男性の育休取得を積極的に推進する企業は、ワークライフバランスを重視する企業として、世間に好印象を与えます。


特に若手人材の採用において、育休制度の充実度は重要な評価ポイントとなるでしょう。社会的に男性の育休取得実績が依然として低水準にあるなか、育休推進は他社との差別化要因となるためです。


離職の防止につながる

育休取得を推進する活動は、社員の離職防止に効果を発揮します。育休を取得しても自身の評価や昇進への影響がないと分かれば、企業への信頼感が高まり、長期的なキャリアを描きやすくなるためです。


また、育休取得が当たり前の環境は、時間制約のある社員も安心して働き続けられる職場づくりにつながります。


属人化を解消できる

男性の育休取得は、業務の属人化を解消するチャンスにもなり得ます。育休の際は他の社員に業務を引き継ぎますが、円滑な引継ぎには、整備されたマニュアルが必要になるためです。マニュアルを作成するために業務プロセスを明確化すると、特定の個人に依存しない体制を構築できます。属人化が解消されると、業務効率や生産性が向上し、一定の品質を維持しやすくなるでしょう。


男性が育休を取得するデメリット

育休取得にはメリットばかりではありません。社員側、企業側のデメリットを解説するため、対策を立てつつ育休取得を推進しましょう。


社員側のデメリット

以下では、育休取得によって生じる、収入や立場に関する社員側のデメリットを解説します。


収入が減る

育休中は原則として給与が支給されないため、家計への影響を心配する人も多いでしょう。育休開始から180日までは賃金日額の67%が支給されますが、181日以降は50%にまで減額されます。育休中は社会保険料や税金が免除されるとはいえ、ある程度は休業中の経済的な準備が必要です。


社内での立場への不安

育休後の職場復帰に対する不安を抱える男性は、少なくありません。育休中は業務の変更点や職場の状況を把握することが難しいためです。また、復帰後のパフォーマンスが評価や昇進に影響するのではないかという心配も育休取得をためらう原因となります。


企業側のデメリット

育休制度を推進するにあたって、企業側の課題も理解しておきましょう。以下では、企業が直面する主なデメリットを解説します。


社内に不満が生じる

育休取得者が増える過程で、職場内に不公平感や不満が生じる可能性があります。特に、子どものいない社員や、育休取得により業務負担が増える社員へのケアは重要です。


育休に限りませんが、新しい制度を定着させる過程では社内から不満の声が出ることは当然といえます。丁寧な対応と事前説明により、企業として育休取得を推進する姿勢を示しましょう。


制度の構築から定着への負担が大きい

育休制度の構築と定着には、企業側に大きな負担がかかります。制度が形だけのものにならないよう、定着には根気強い取り組みが欠かせません。育休取得者へのフォロー体制の確立や、管理職をはじめとした全社員の育休制度に対する理解促進など、職場風土の醸成に時間をかけて取り組む必要があります。


男性の育休取得を推進するためのポイント

男性の育休取得を推進するためには、具体的な施策が必要です。以下では、効果的な取り組みのポイントを解説します。


育休制度について周知する

男性社員の育休取得を促進するためには、まず制度の整備と周知が欠かせません。社内研修や社内報などで、育休制度の内容や取得方法を定期的に発信しましょう。企業の積極的な姿勢を何度も示すうちに、男性社員は安心して育休を検討できるようになります。また、育休に関する法改正があった際は、変更点を速やかに周知し、最新の情報を共有してください。


管理職の理解を深める

育休制度を機能させるには、申請を受ける立場である管理職の理解と協力が欠かせません。管理職自らが育休取得のメリットや必要性を発信することで、職場全体に前向きな雰囲気が広がり、育休取得を申請する男性に対するハラスメント防止にもつながります。


育休に対応した組織づくりをする

男性社員に安心して育休を取得してもらうには、社員が休業しても問題なく対応できる組織体制の構築が重要です。余裕のある人員配置や、派遣社員の活用、業務のアウトソーシングなどの対策を検討しましょう。また、業務マニュアルの整備や仕事の見直しにより、特定の個人に仕事を集中させない取り組みも求められます。


まとめ

男性の育休取得率は上昇傾向にあります。しかし、さらなる育休推進のためには、育休制度の周知や管理職の理解促進、育休取得に対応した組織づくりが不可欠です。適切に制度の意義を説明しつつ働きやすい職場環境を整備して、男性の育休取得を推進しましょう。


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