キャリア自律について
キャリア自律(Career Self-Reliance)とは、めまぐるしく変化する環境のなかで、自身のキャリア構築と学習を主体的に継続して取り組むことです。キャリア自律を実現するには、自己概念は生涯にわたって変化するという、柔軟な姿勢が必要です。
キャリア自律とキャリア開発の違い
キャリア開発は所属企業や業務、研修などの経験から形成されます。社員のスキルやキャリアを中長期的に計画・開発し、主に企業での人材育成の観点からキャリアを開発する点が特徴的です。一方、キャリア自律はキャリア開発とは異なり、新しい気づきや自己変容に焦点を当て、継続的な自主学習によってキャリア構築を目指せます。
キャリア自律が「自立」ではない理由
自立とは、自分以外の助けを借りず、自身の力のみで物事を行うことです。一方で自律とは、外部からの指示を受けず、自身をコントロールして物事を行うことを指します。
自立状態にある社員は、自分の意見を他者に主張できるものの、単なる自己主張や自己満足にとどまります。しかしキャリア自律は、他者のニーズや環境の変化を受け入れる柔軟な対応が必要です。したがって、キャリア「自立」ではなく、「自律」と呼ばれます。
キャリア自律が必要とされる3つの理由
日本企業でキャリア自律が必要とされる理由を3つ解説します。
1.雇用体系が変化しつつあるから
キャリア自律が必要とされる理由の1つに、終身雇用や年功序列に関する考え方の変化があげられます。従来、日本では新卒の一括採用や、終身雇用が一般的な雇用体系でした。終身雇用や年功序列が前提だった時代のキャリア構築は、企業が社員のキャリア構築の課題に取り組んできました。
しかし現代の日本では、経営破綻やリストラなどにより、終身雇用の継続が難しくなりつつあります。雇用形態が変われば、年功序列でポストを与えることは困難です。社員は自身でどうキャリア構築できるか、キャリア自律の観点から考える必要が出てきました。
2.働き方が多様化しているから
業務委託や派遣、副業など働き方が多様化していることも要因の1つです。さらに働き方の多様化の背景には、社員1人ひとりの価値観やバックグラウンドの多様化も影響しています。さまざまな働き方を考えたうえで、社員には多様なキャリアの構築方法を自律的に選び取り、実行する力が求められています。
3.ジョブ型雇用が増えてきているから
ジョブ型雇用とは、企業があらかじめ定義した職務にもとづき、適したスキルを持った人材を雇用する制度です。ジョブ型雇用の人事評価は基本的に、職務の成果で決まります。社員が望む処遇を得るには、自ら社会変化に適応して成果を収めることが必要です。
企業がキャリア自律を支援するメリット
企業がキャリア自律を支援するメリットは何なのでしょうか。代表的なメリットを2つ解説します。
社員のエンゲージメント向上が期待できる
企業がキャリア自律をサポートすると、社員が企業に魅力を感じ、エンゲージメント向上につながります。エンゲージメントとは、仕事に対する社員のポジティブな心理状態です。
成長意欲の高い人材ほど、主体的にキャリア形成できる職場環境に身を置きたいと考える傾向があります。したがって、サポートが充実していると評判になれば、採用場面で優秀な人材が集まりやすくなります。
生産性の向上が期待できる
自律的にキャリア構築できる積極的な社員が増えると、企業全体で積極的に新たな気づきやスキルを得て、成長するようになり、業務効率化や生産性の向上が期待できます。イノベーションの創出や風土改革にとっても、キャリア自律は大切です。
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企業がキャリア自律を支援する際の注意点
特に気をつけたいキャリア自律の注意点を3つ解説します。
転職を抑止できる環境整備が必要になる
キャリア自律を積極的に行った結果、外部の視点が増えて、社員が転職を検討するケースがあります。転職を抑止するためには、社内公募や社内FA制度などを行うとよいでしょう。また、社員が学んだことを積極的に活かして活躍できたり、多様な経験ができたりする場を、企業側が用意することも必要です。
キャリア自律を望まない社員への対応も必要になる
必ずしもすべての社員がキャリア自律を希望しているわけではありません。よって、キャリア自律を望まない社員への企業側の対応も必要です。企業の運営方針によっては、社員に対するキャリア自律の動機が弱いケースがあります。
組織全体が個々の社員に、どのような役割を期待しているか明確にし、課題を提示しながらキャリア自律を促すことが重要です。
キャリア自律を促す体制作りが必要になる
自律的なキャリア形成を図る社員には、キャリア自律で学んだスキルを発揮できる機会が必要です。企業として社員のキャリア自律をサポートする場合は、社員1人ひとりが自律的にキャリアを構築できる体制づくりがまず求められるでしょう。
キャリア自律を社員に促すポイント
企業は社員にどのようにしてキャリア自律を促すとよいのでしょうか。ここでは3つの大事なポイントを解説します。
社内のポストやポジションに対する透明性を提示する
キャリア自律を社員に促す際には、まず社内にどのような部署や業務があるか、社員に明らかにすることがポイントです。
日本の企業は業務内容の把握を部署単位で行っているケースが多い傾向にあります。また、特定の業務に関して1人の社員依存している場合もあり、社内の全体像が見えにくい点が課題です。社内全体のポストやポジションを可視化できると、長期的なキャリア構築の目安や目標にできます。
個人と組織の共同目標を持つ
社員個人と組織の方向性に食い違いがあると、社員のモチベーション低下や早期離職につながりかねません。したがって、社員が業務目標と、組織の目標の連動が重要です。
企業側は、社員がどのような目的を持って仕事をしているのか把握し、社員が業務に対して目標を見失わないよう、サポートする必要があります。社員が適切な目標を立てられるよう、上司との対話の機会や、定期的な面談の機会を設けるなどして、コミュニケーションを図ることも大切です。
キャリア意思を表明できる機会を作る
社員によっては、キャリア自律を希望しない人もいるでしょう。まず社員がキャリア自律に取り組みたいと考えているか、1人ひとりの意思を確認することが大切です。
社員の意思を確認するためには、キャリアカウンセリングや上司との対話などを通して、社員の意思を聞く機会を作ります。社員自身が自分の意思を表明する機会を設けられれば、自律を促すことにつながります。
企業が行うキャリア自律の具体的な取り組み
企業がキャリア自律を社員に促す際には、具体的にどのような取り組みが必要になるのでしょうか。企業による、取り組みの具体例を2つ解説します。
キャリア自律の機会を提供する
社員が長期的な視点を持ってスキルアップやキャリア形成できるには、学習機会やキャリアプログラムの提供が必要です。特にキャリア自律を目的とした機会の提供には、社員の意思と選択の自由が求められます。キャリア自律を社員にスムーズに促すには、自由なキャリア形成が可能な環境の整備が重要です。
定期的なキャリア面談や専門のキャリアコンサルティングなども交えながら、企業全体で社員のキャリア自律のサポートを行いましょう。
キャリア自律が可能な企業体勢を整える
キャリア自律をサポートするうえで、社員自身が求めるキャリアについて、上司をはじめとしたマネジメント層が理解することも大切です。さまざまな人事制度を用い、新しい職務に挑戦する機会をつくると、キャリア自律を促せます。
メンター制度の導入やキャリア相談窓口の設立、副業の容認など、社員にとって効果的な制度を導入し、社員のキャリア自律をサポートする仕組みの整備も大切です。
まとめ
社員のキャリア自律を企業がサポートすると、社員のエンゲージメントや生産性の向上が期待できます。雇用体系や働き方の多様化などを背景に、日本企業では社員のキャリア自律が今後も求められるでしょう。
企業として社員をサポートできるよう、効果のある施策を考え実践していくことが重要です。