オーセンティックリーダーシップは、新しいリーダーシップの考え方です。トップダウン経営の行き詰まりや、ダイバーシティ推進などの時代の変化に合わせて、オーセンティックリーダーシップを取り入れている企業もあるでしょう。本記事では、オーセンティックリーダーシップとは何か、必要な特性、求められる背景、導入するメリットと注意点、おすすめの本などを解説します。
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オーセンティックリーダーシップとは
オーセンティックリーダーシップとは、自分の考えや価値観を基にリーダーシップを発揮するスタイルです。「本物」「信頼できる」を意味する、オーセンティシティ(authenticity)という言葉が由来になっています。従来のリーダーシップと異なる点は、組織や上司などからリーダーシップ像を与えられるのではなく、リーダー自身の内なる考えや価値観が根底にある点です。
オーセンティックリーダーシップは誰が提唱したのか
オーセンティックリーダーシップを提唱したのは、アメリカのメドトロニック社の元CEOであるビル・ジョージといわれています。2003年出版の「Authentic Leadership(日本版:ミッション・リーダーシップ)」において、世の中に広く知られるようになりました。
オーセンティックリーダーシップとサーバントリーダーシップの違い
オーセンティックリーダーシップとサーバントリーダーシップは、どちらも支配型のリーダーシップへの反省から考案されましたが、考え方が違います。
オーセンティックリーダーシップは、自分の考えや価値観に基づいてリーダーシップを発揮するスタイルです。オーセンティックリーダーは、自分の考えや価値観に対するメンバーの共感を得ながら、目標達成への活動に巻き込んでいきます。
対してサーバントリーダーシップは、部下の考えや価値観に注目してリーダーシップを発揮するスタイルです。サーバントリーダーは部下の意見に耳を傾けながら目標達成を目指します。似たような用語でも考え方が違うため注意しましょう。
オーセンティックリーダーが持つべき5つの特性
オーセンティックリーダーシップの提唱者ビル・ジョージは、オーセンティックリーダーが持つべき特性を次の5つに分類しています。
1.自分の価値観・倫理観を持っている
2.目標達成のための情熱がある
3.他者に対する思いやりを持っている
4.人間関係を構築する能力が高い
5.セルフマネジメントができる
それぞれの特性を以下で詳しく見ていきましょう。
1.自分の価値観・倫理観を持っている
オーセンティックリーダーは、外部に影響されない自分だけの価値観や倫理観を持っているのが特徴です。他人の意見で行動を変えたり、世の中の風潮や慣習に流されたりすることなく、自分を信じてリーダーシップを発揮できます。
オーセンティックリーダーの持つ価値観や倫理観は、一貫したものでなければなりません。短期的あるいは状況によって変わるのでは、気まぐれで横暴なリーダーになってしまいます。
2.目標達成のための情熱がある
目指すべき目標を明確に持っており、なおかつ目標達成に情熱を持っていることも、オーセンティックリーダーに欠かせない特性です。オーセンティックリーダーは、自分の考えや価値観を発信して周囲を巻き込む必要があります。これには理屈や論理だけでは不十分で、メンバーの共感ややる気を引き出す情熱が欠かせません。
3.他者に対する思いやりを持っている
他者への思いやりを持ち、真心を込めてリードできるのも、オーセンティックリーダーに欠かせない特性です。メンバーと本音で向き合えるからこそ、自らの考えや価値観の本質的な部分を伝えられます。
このため、オーセンティックリーダーは自分に対しても率直でオープンです。従来の支配型リーダーシップと違い、時には自分の弱みを見せながらリーダーシップを発揮します。
4.人間関係を構築する能力が高い
人間関係を構築する能力が高いのも、オーセンティックリーダーの特徴です。コミュニケーション能力が高く、良好な人間関係を継続的に築けます。
優れたオーセンティックリーダーは、ミーティングや指示・命令、部下へのフォローなどの量や頻度が適切です。メンバーとの信頼関係を築けるために、組織に活気とチームワークをもたらします。
5.セルフマネジメントができる
オーセンティックリーダーは、自分を律するセルフマネジメントに秀でているのも特徴です。高潔な価値観や倫理観を貫く意志や、目標達成のためのモチベーションも高いレベルで維持できます。また、現状に甘んじることなく成長意欲を持ち続けることも可能です。
こうした高いレベルでの活動ができるのは、オーセンティックリーダーが常に内省し、自分で自分をマネジメントしている成果といっても過言ではありません。
オーセンティックリーダーシップを組織運営に取り入れるメリット
オーセンティックリーダーシップを組織運営に取り入れると、どのような効果が期待できるのでしょうか。
コミュニケーションが活性化する
オーセンティックリーダーシップを発揮すると、組織全体のコミュニケーションが活性化され、チームワークがよくなります。なぜなら、オーセンティックリーダーは周囲との人間関係を大切にして、自身の考えを丁寧に伝えながら、積極的にコミュニケーションを取るからです。メンバーと信頼関係が築かれるため、情報やアイデアの交換が活発になるでしょう。
部下が主体的に活動しやすくなる
オーセンティックリーダーシップの組織では、部下が主体的に活動しやすくなります。オーセンティックリーダーと部下は主従関係ではなく、リーダーの倫理観や価値観への共感で結びついているためです。
リーダーの考えや価値観を深く理解しているメンバーは、目標達成に向けて主体的かつ柔軟に行動を起こせます。また、リーダーが弱みを見せたときは、リーダーを支えようと自主的に行動を起こそうとするでしょう。
ダイバーシティの推進
オーセンティックリーダーシップは、ダイバーシティの推進と親和性があります。オーセンティックリーダーは自分の考えや価値観を大切にするのと同様に、他人の考えや価値観も尊重するためです。したがって、多様な考え方や価値観を持った人が活躍できる組織を構築しやすくなります。
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透明性の高い組織運営ができる
リーダーの考えや価値観をオープンにし、リーダーシップを発揮するオーセンティックリーダーシップでは、透明性の高い組織運営が可能です。オーセンティックリーダーは、選挙に立候補した政治家のように常に自らの信条を表明し、メンバーの賛同を得ながらリーダーシップを発揮します。原理原則をオープンにすることで、透明性の高い組織運営になるでしょう。
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個性を生かしたリーダーシップを発揮できる
オーセンティックリーダーシップでは、リーダーの個性を生かしたリーダーシップを発揮できます。従来型のリーダーシップは組織の目標が優先されるため、個性が犠牲になる場合もありました。
一方、オーセンティックリーダーシップは、リーダーの考えや価値観を大切にできます。リーダーの目標と組織の目標を融合させてリーダーシップを発揮できるため、リーダーの強みや独自性を打ち出しやすいのがメリットです。
オーセンティックリーダーシップが注目されている背景
なぜオーセンティックリーダーシップは、新たなリーダーシップのスタイルとして注目されているのでしょうか。3つの背景を解説します。
トップダウンのリーダーシップの限界
オーセンティックリーダーシップは、リスクマネジメントの一環として注目されるようになりました。
オーセンティックリーダーシップが提唱された背景には、2000年ごろにアメリカで多発した大企業の不正会計事件があります。これらはカリスマ経営者や独裁型の経営者が方向を誤り、大きな問題を引き起こしているケースが多いのが特徴です。
こうしたリスクを少なくする方法として、部下が反対意見を述べやすく、軌道修正や自浄作用が機能しやすいオーセンティックリーダーシップが注目されています。
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価値観の多様化
価値観が多様化し、自分なりの考え方を持つ人が増えていることも、オーセンティックリーダーシップが注目されている背景です。たとえば、かつての日本では、企業の命令に忠実で、組織の歯車となることに違和感を覚えない人が多くいましたが、現在は違います。個性や多様性を認めるオーセンティックリーダーシップは、現代の潮流に合っているといえるでしょう。
心理的安全性の重要性が高まっている
オーセンティックリーダーシップは、部下が心理的安全性を確保しやすい特徴からも注目されています。
心理的安全性とは、組織のなかで、自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言できる状態です。2015年にGoogleが、チーム構築で最も重要なのは心理的安全性であると発表し、広く知られるようになりました。
オーセンティックリーダーは自分の考えや気持ちを率先してオープンにし、思いやりを持って部下に接します。このため、部下も心理的安全性を持ちやすいのが特徴です。
オーセンティックリーダーシップを発揮するための方法
オーセンティックリーダーシップを発揮するには、どうしたらよいのでしょうか。ここではリーダーとなる人向けに方法を解説します。
自分の価値観・倫理観を明確にする
自分の考えや行動の軸となる価値観・倫理観を明確にすることが重要です。自分の価値観、倫理観を明確にすることなしに、オーセンティックリーダーシップは発揮できません。
この価値観・倫理観は、自分が納得できているレベルでは不十分です。他人にも理解できる形で自分らしさを示せるレベルにまで、内面を掘り下げて分析する必要があります。
個人の目標と組織の目標を一致させる
個人の目標と組織の目標を融合させることが重要です。融合できていないと、単なる独りよがりのリーダーシップになってしまい、メンバーはついてきてくれません。
このため、自分の考えや価値観を生かしながら、組織目標とも合致するポイントを見つけることが重要です。方向性が一致すれば、企業とリーダーはWin-Winの関係となります。また、メンバーも自身の貢献が業績や人事評価とリンクするため、モチベーションを持ちやすくなります。
コミュニケーション能力を鍛える
メンバーとの信頼関係の構築のために、コミュニケーション能力を鍛えましょう。上述のとおり、コミュニケーション能力はオーセンティックリーダーの特性の1つです。
たとえば部下との面談やミーティングを振り返って改善点を見つけるなど、継続的にスキルアップを図るとよいでしょう。また、コミュニケーション能力に関する研修を受けるのも効果的です。
オープンマインドを身に付ける
素質や性格に頼らず、意識的にオープンマインドを身に付ける努力もしていきましょう。オーセンティックリーダーシップでは、自分の考えや価値観を積極的に発信しなければなりません。時には、弱さをさらけだす勇気も必要になるからです。
たとえば自信過剰で人の意見を聞かなかったり、周囲から助けをもらうのが苦手であったりすれば、自分を変えていく努力が必要となるでしょう。
セルフマネジメントを鍛える
オーセンティックリーダーは自分を常に律することが求められるため、セルフマネジメントを鍛える必要があります。適切な方法は人によって違うので、自分に合った方法を見つけるとよいでしょう。
オーセンティックリーダーシップの提唱者ビル・ジョージは、日々内省して自分を見つめ直すために、マインドフルネス(瞑想法)のような訓練方法を勧めています。
オーセンティックリーダーシップを取り入れる際の注意点
オーセンティックリーダーシップを導入しても、組織がよい方向に変わるとは限りません。4つの注意点を解説します。
オーセンティックリーダーの成長意欲がなくなると組織の成長も止まる
オーセンティックリーダーシップの心臓部は、リーダーの意欲や情熱です。オーセンティックリーダーが現状に満足してしまうと、組織の成長も止まってしまいかねません。オーセンティックリーダーには、自分の志が低いと一定の成果しか上がらないという自覚が必要です。
リーダーの独りよがりなリーダーシップに陥る可能性
オーセンティックリーダーが自分の考えや価値観を過度に優先すると、独裁的なリーダーシップに陥ってしまいます。他人の意見を聞かなくなったり、自分の考えを押し付けたりすることになるでしょう。
オーセンティックリーダーは自分を貫く必要がありますが、柔軟性を失わないようにすることが重要です。
トップダウンのリーダーシップが必要な組織もある
オーセンティックリーダーシップよりも、牽引型のリーダーシップが有効な組織や状況があります。たとえば経営困難な状況では、リーダーに権限を集中させて業績回復できた事例が珍しくありません。
また、前例のないような新事業の立ち上げでは、創造性にあふれるリーダーがメンバーを導く場合もあるでしょう。オーセンティックリーダーシップが本当に自社にフィットするか、慎重に考える必要があります。
オーセンティックリーダーになるには長い時間がかかる
オーセンティックリーダーになるには、長い時間がかかりがちです。組織目標に沿ってリーダーシップを発揮するのであれば、リーダーの理念は必ずしも必要ありません。極端な場合は、上の命令を忠実に執行する能力があればよいでしょう。
一方、オーセンティックリーダーには自分の価値観や理念が求められます。また、自身の特性や強み・弱みを理解したうえで、他者の助けも得ながらリーダーシップを発揮する、しなやかさと器の大きさが必要です。
こうした成熟に至るには長い時間が必要で、短期間でオーセンティックリーダーを育成するのは難しい面があります。
オーセンティックリーダーシップを学ぶのにおすすめの本3選
オーセンティックリーダーシップを学べる本は主に3冊あり、いずれも評価が高い良書です。
「ミッション・リーダーシップ: 企業の持続的成長を図る」|提唱者ビル・ジョージの著書
この本はオーセンティックリーダーシップの提唱者ビル・ジョージの著書で、オーセンティックリーダーシップ考えを世に広めた名著となっています。
本書は本物の企業を築くために、オーセンティックリーダーシップがなぜ必要かを説いているのが特徴です。世界的医療技術企業に成長させたことで、「CEO of the Year」に選出された著者の本だけに、実践的な内容も豊富となっています。
「True North リーダーたちの羅針盤」|リーダーが基軸を見つける方法を解説
こちらの本も、オーセンティックリーダーシップの提唱者ビル・ジョージの著書です。リーダーの内面に焦点を当てており、True North(人生の基軸)の見つけ方を提案しています。キャリアを突き詰めて考えたいリーダーやリーダー候補の人は、有益なヒントを見つけ出せるでしょう。
「オーセンティック・リーダーシップ」|HRアワード2019「書籍部門」入賞
HRアワード2019「書籍部門」入賞した評価の高い本です。提唱者ビル・ジョージなどの著名な執筆陣が、「自分らしさ」を貫くリーダーシップ、「自分らしさ」を保つ工夫など10のパートを受け持っています。
本書は実績ある経営者の模倣から脱却し、オーセンティックリーダーとしてのマインドや技術を得たい人におすすめです。
まとめ
オーセンティックリーダーシップは、リーダーの考えや価値観に基づきながら、メンバーの主体性や多様性も尊重できる、時代に即したリーダーシップのスタイルとして注目を集めています。従来の支配的なマネジメントに限界を感じている企業は、導入を検討してはいかがでしょうか。
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