こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
アドラー心理学とは、自分らしさを大切にしながら対人関係を良好にする上で役立つ心理学です。近年アドラー心理学をテーマにした書籍が多く出版され、注目を集めています。
多様な働き方や人間関係をフラットに捉える価値観が重視される昨今、従来の上下関係を基準にした考え方では、良好な人間関係が築きづらくなりました。職場においても同僚や上司、部下とどのように接すべきか悩んでいる方も多いでしょう。そこで活用できるのがアドラー心理学なのです。
本記事ではアドラー心理学の概要やメリット、デメリット、活用できるシーンを解説します。アドラー心理学を採用して職場の人間関係を改善し、生産性を向上させたい人はぜひ参考にしてください。
アドラー心理学とは?なぜ人気になったのか
アドラー心理学は古くからありますが、近年改めて注目が集まっています。アドラー心理学の概要を解説するとともに、なぜアドラー心理学が人気になったのかわかりやすく解説します。
アドラー心理学とは
アドラー心理学は、フロイトやユングと並ぶ心理学における世界三大巨頭の一人であるアルフレッド・アドラーによって提唱されました。正式名称は「個人心理学」といい、「人は一人では生きていけない存在である」という考え方をベースに、個人とそれを取り巻く人や組織などとの関係性を踏まえて「いかに生きていくか」を説いています。つまり人の心は自分だけでなく、属するコミュニティと大きく関連しており、互いに影響を与えあっているという考え方です。
また、アドラー心理学では「人は目的のもとに生きている」という概念が根底にあります。その目的の果たすために心理が形成され、自ら選択しているという「目的論」を説いている点が大きな特徴です。
なぜアドラー心理学が人気になったのか
2013年に出版された心理学者の岸見一郎氏と、ライターの古賀史健氏によるアドラー心理学をテーマにした共著「嫌われる勇気」がヒットしたことにより、広くアドラー心理学が知れわたるようになりました。日本のみならず世界31言語で翻訳刊行され、海外でも人気を博しているほかドラマ化もされており、世代を超えて注目を集めています。
アドラー心理学がなぜ人気を呼んだのかというと、現代の風潮が理由の一つに挙げられるでしょう。インターネットが普及し、SNSを活用することが当たり前となっている昨今、自分と他人を比較する機会が増えました。その結果、自分らしさについて悩む人も多くなっています。
こうした背景から、他人との付き合い方や自分との向き合い方を教えてくれるアドラー心理学が注目を集めています。
フロイトとの違い
フロイトは精神分析学の草分け的存在であり、アドラーと同じく世間に大きな影響を与えた人物です。フロイトが提唱した「原因論」は、「過去の経験が現在の行動に関係している」という考え方で、原因があって結果があると説いています。
一方でアドラーの「目的論」は、原因と結果には関連性はなく「現状の価値観で行動を選んでいる」という考え方です。そのため、フロイトとはアプローチが大きく異なります。
ユングとの違い
スイスの精神科医だったユングは、もともとフロイトの弟子でした。しかしフロイトとは決別し、独自の理論である「分析心理学」を立ち上げ、広く知られるようになりました。
ユングの特徴は「集合的無意識」という考えを提唱している点です。普遍的無意識と呼ばれることもあり、個人的な無意識ではなく、人類すべてに共通する無意識があると説いています。一方でアドラーは、集合的無意識を想定した考え方を説いていません。
アドラー心理学で重要な5つの理論
アドラー心理学で重要となるのが、以下に挙げる5つの理論です。
・1.認知論
・2.目的論
・3.全体論
・4.対人関係論
・5.自己決定性
それぞれの理論についてわかりやすく解説します。
1.認知論
「認知論」とは、目の前に見えているものは現実そのものを認識しているのではなく、自分自身で事実に意味を加えた状態で解釈したものを体験しているという理論です。同じ事象を目にしたとしても時間や場所、感覚によって解釈が異なります。解釈が異なれば、目の前に見えているものの印象も変わってくるでしょう。意味づけによって体験が変わり、人生に大きな変化をもたらします。
2.目的論
アドラー心理学のベースである「目的論」は、人間は目的を達成するために行動しているという理論です。私たちは原因があって、結果(行動)に結びつくという考え方をしがちですが、アドラーは現状に理由があるから行動につながると説いています。
例えば「会社を休む」という行動に対して、「職場の人間関係が嫌だから」という原因を探るのではなく、「ストレスを解消するために休む」という目的を見出す点が特徴です。視点を変えることで、行動に対する受け止め方も変わります。
3.全体論
アドラー心理学では、人間は「精神」「無意識」「肉体」などに分割されることのない統一体であると説いています。便宜上それぞれのパーツに分割することはありますが、いくら自分自身を細かく紐解いてみても、人間のすべてを把握することはできません。また「全体論」では、人間は自分だけでなく様々な要素と互いに作用しながら成り立っていると考えています。
4.対人関係論
「対人関係論」とは、個人の行動は常に他者が関連しており、互いに影響しあっているという理論です。私たちは家族や友人、社会など様々なコミュニティの中で暮らしています。
誰でも横のつながりがあり、個人が抱える悩みや感情の裏には他者の存在があります。対人関係論では、自分の体や性格に関する悩みも他者と比べることが引き金となっていると考えられます。
5.自己決定性
「自己決定性」とは、自分自身の行動はすべて自分で決められるという理論です。対人関係のように相手がある悩みであっても、自分が変化することで関係性が変わります。
つまり自己決定性は、自分ではコントロールできないからと諦めるのではなく、自分の選択によって悩みから脱却することが可能であり、人生も変化していくという前向きな考え方になっています。
アドラー心理学で重要な4つの考え方
アドラー心理学では、以下の4つの考え方が重視されています。
・1.劣等感
・2.勇気づけ
・3.早期回想
・4.共同体感覚
それぞれの考え方について解説します。
1.劣等感
劣等感とは、自分と他者を比較した際に劣っていると思うことです。目標とする姿があるからこそ生まれる感情であり、アドラー心理学では非常に重要なポイントとされています。
人は誰でも劣等感を持っているものです。その劣等感を克服するために、自分を改善しようと努力します。そのため劣等感自体は悪ではなく、むしろ自分を変える原動力と捉えています。
2.勇気づけ
勇気づけとは相手をありのままに受け止めて信頼、共感することで課題の克服ができなかった人にエネルギーを与えることです。アドラー心理学では目標を達成できない理由を、「劣等感をカバーするための勇気が不足しているためである」と説いています。勇気づけによってエネルギーが補われると、再び困難を克服するために歩き出すことが可能です。
3.早期回想
早期回想とは10歳になる前までの幼い頃のエピソードを語り、自分や世界をどう捉えているかを推察することです。アドラー心理学では幼い頃の体験により、自ら作り上げた目標が性格のベースになっていると考えます。早期回想を実践することで、その人の今の傾向を見出すことが可能です。
早期回想において重要な点は、正確に思い出すことではありません。「今の心理状態で過去をどう思い出すか」がポイントとなり、認知傾向を知ることが重要になります。
4.共同体感覚
共同体感覚とは、自分は周囲とつながっている状態であることを主観的に感じる思想です。私たちは家庭や職場など、何らかのコミュニティに属しています。その中で幸せに生きるためには、周囲にいる人を無条件に信頼し、コミュニティに属している自分をありのままに受け入れることが重要です。
また他人の役に立つことで、自分の価値に気づけるでしょう。このように「信頼感」「所属感」「貢献感」は、共同体感覚を得る上で必要な要素となります。
アドラー心理学のメリット
アドラー心理学を実践すると様々なメリットが得られます。どのようなメリットがあるかを把握しておくと、実践する際の参考になるでしょう。続いては、アドラー心理学のメリットを3つ紹介します。
物事をシンプルに捉えられる
アドラー心理学とは現状は自分の選択の結果であり、自分が抱える問題は自分自身で解決してもよいという考え方です。また自分の課題と他人が関係する課題を混在させずに分けて捉えます。
自分の課題を解決することで、その他の課題が解決することも少なくありません。つまり、人生を困難にさせているのは自分自身であり、人生そのものは複雑ではないといえます。
こうしたロジックにより、物事をシンプルに捉えられるようになる点がアドラー心理学の大きなメリットです。
課題との向き合い方が分かる
物事をシンプルに捉えられるようになると、向き合うべきものが明確になります。難しい課題に対峙する場合、何から手をつけたらよいか分からなくなることも多いでしょう。
アドラー心理学では他人が介在する課題ではなく、自分自身の課題を解決することに専念します。そのため周囲との関係性に捉われる必要がなく、今解決するべき課題を見出しやすくなります。
自分のすべてを活用できる
アドラー心理学では、他人だけでなく自分自身も尊重します。また、自分の課題は自分自身で解決することも重要なポイントです。自分の特性や得手不得手など、これまで知らなかった部分も含めて、自分自身を改めて把握します。
人は意外と自分を理解できていないものです。アドラー心理学によって自分を知ると自信が持てるようになり、取得したスキルや知識を効果的に発揮できるようになります。
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アドラー心理学のデメリット
アドラー心理学は物事をシンプルに捉え、課題を解決していく上で役立つ考え方です。しかし、アドラー心理学に傾倒しすぎて、あらゆる物事に適用してしまうと、人間関係がこじれる原因になる可能性があります。
例えばビジネスにおいて、部下が悩んでいるときに「課題は自分で解決するものだ」という考え方を押しつけてしまうと、部下は見放されたと感じるでしょう。また自分を変えることを望んでいない従業員に対して、アドラー心理学を押し売りすれば、人間関係だけでなくあらゆるトラブルに発展しかねません。
アドラー心理学に限らず、過度に一つの思想に頼りすぎるのではなく、他者が関連するケースではコミュニケーションを取って、相手を尊重することを意識しましょう。
アドラー心理学を活用できるシーン
アドラー心理学は、日常の中のあらゆるシーンで活用できます。シーンによって意識するべき理論が異なるため、押さえておくとより効果的に活用できるでしょう。アドラー心理学を活用できる主なシーンを3つ紹介します。
仕事での活用
仕事でアドラー心理学を活かす場合は、共同体感覚を構成する要素である「貢献感」を意識しましょう。貢献感は仕事をする上でのモチベーションの源です。
例えば目的を達成するために、自分自身ができることを主体的に考えて実行に移すと、共同体感覚が増します。また行動に対して上司や同僚が感謝を伝えると、本人のやる気につながるでしょう。
このようにアドラー心理学をうまく活用すると、従業員のモチベーションが上がり、ひいては組織全体の生産性向上も期待できます。
人間関係での活用
人間関係では、共同体感覚のうち「所属感」を意識すると、円滑にコミュニケーションができるようになります。特に友人の場合、職場と比べて互いの心理的距離が近い関係です。そのため、自分の個性を主張しても許される間柄であり、ありのままでいられることにより共同体感覚が上がります。
お互いに共同体感覚を向上させて良好な人間関係を築くためには、安心できるコミュニティに属することも重要なポイントです。
育児での活用
育児でもアドラー心理学は大いに役立ちます。育児において活用すべき意識は「勇気づけ」です。
アドラー心理学は横の関係を重視する考え方であり、子どもをコントロールするための方法ではありません。子どもを信頼し、寄り添いながら勇気づけを行いましょう。
また単に褒めるのではなく、具体的な理由を述べることも重要です。例えば「お手伝いしてくれて助かったよ」とストレートに伝えると、なぜ褒められているのか子どもが理解しやすく、自立にもつながります。
アドラー心理学を勉強するには?
近年、アドラー心理学は多方面から注目されており、勉強用のツールが多数あります。今回は、その中から「本」と「セミナー」で学ぶ方法を紹介します。
本で学ぶ
アドラー心理学を初めて学ぶには、心理学者である岸見一郎氏の著書「アドラー心理学入門」がおすすめです。アドラー心理学の概要やベースとなる考え方、実践方法がまとめられており、アドラー心理学を知らない方でも読み進めやすいでしょう。
その他、おすすめの書籍はベストセラーとなった「嫌われる勇気」です。「アドラー心理学」の著者である岸見一郎氏とライターの古賀史健氏の共著で、対話形式で書かれています。日常生活における課題をテーマに解説しているため、活用方法をイメージしやすい一冊です。
セミナーで学ぶ
文字で覚えるよりも、実際にアドラー心理学を体感したいという方は、セミナーで学ぶ方法もおすすめです。基礎を学んだ上で、ロールプレイング方式で実践できるセミナーを選ぶと、より効率的に理解できます。
例えば、従業員教育にアドラー心理学のセミナーを導入すると、職場の人間関係改善や生産性向上に役立つでしょう。
まとめ
アドラー心理学を日常生活の中に取り入れると、対人関係の悩みが解決し、良好な人間関係を築けるようになります。職場でも役立つ考え方であり、多様な働き方やダイバーシティが浸透する現代社会において、ぜひ活用したいと考えている経営者の方も多いでしょう。今回紹介した5つの理論や4つの考え方を踏まえて、職場でもアドラー心理学を実践してみることをおすすめします。
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