経理に目標設定が必要な理由
ビジネスでは目標を立てて逆算し、行動計画を立てることが重要です。目標を設定することで、仕事への取り組み方が合理的・効率的になり、目標に向かって進めるでしょう。ルーティンワークが多い経理では、目標設定が必要ないと考えられることもあります。しかし、どのような業務であろうと目標を立てることは、スキルアップやモチベーション維持のために必要です。
個人の目標設定は仕事に対する取り組み方にもつながり、チームの目標設定は部署内のチームワークが高まります。経理部門でも目標設定をすることで、結果的にコスト削減や業務効率化に貢献できます。
経理の目標設定を具体的に決める手順
経理部門は、売上などの数字に直結する部門ではないため、目標設定が難しいと感じる方も多いでしょう。しかし、以下のように手順どおりに行えばスムーズに目標設定が行えます。
1.業務の全体像を把握する
目標設定は一部の人が行うのではなく、経理部ごと、経理課ごとなど、チーム全体で行います。まずは個人的な作業ではなく、経理として業務の全体像を把握することが大切です。業務全体がわかる体系図を作成できると目標を設定しやすくなります。
たとえば、経理部門全体で会議や打ち合わせを行うのもよいでしょう。新入社員やベテラン社員など、経験を問わず参加できるようにして、業務のなかで改善した方がよいことや目標を意見としてまとめることから始めてみましょう。
2.業務改善アイデアを構想する
経理部は売上を生み出さない間接部門ですが、コスト削減により企業の利益に貢献できます。業務上の課題を見つけて解決策を考えるために、改善が必要な業務のアイデアを構想しましょう。
アナログな手法で行っている業務や二重チェックが必要な業務は、手間や時間がかかるため改善の余地があります。たとえば、どのくらいの紙を使っているのか、チェックの時間がどのくらいかかっているのか、具体的な数字を出すと無理や無駄が見えてくるでしょう。また、残業代を減らすのも経費削減につながるため、残業が増えている業務も改善が必要です。
どの経費をどのくらい削減できそうかなど、部内で具体的なアイデアを募るのもよいでしょう。
3.改善案を具体化して数値目標に落とし込む
業務改善アイデアが構想できたら、アイデアを数値目標に落とし込みます。「もっと早くする」という曖昧な表現ではなく、「〇日短縮する」のように明確な数値を示すことで取り組みやすくなります。
費用削減に関する目標も、具体的に「〇円削減する」という設定にしましょう。たとえば、「社内文書を紙からデータでの確認に変えると年間〇枚の紙が削減でき、〇円のコストカットが見込める」とした方がわかりやすくなります。
ただし、無理な目標設定は担当者の負担になるので注意が必要です。今より少しがんばれば達成できそうな、やや高めの目標設定にします。また、大幅な改善策を求めるのではなく、実際に取り組める範囲の目標設定に留めることも重要です。
4.部署の目標から個人の目標へ移行させる
企業組織の目標設定のステップとして、企業目標・部署目標・個人目標があります。企業目標から部署目標へ、部署目標から個人目標へと落とし込むと目標設定がしやすくなります。まずは企業目標達成のため、部署全体での目標を設定し、部署の目標を何度かクリアするなど、目標と実行のサイクルに慣れてもらいましょう。サイクルに慣れたら、個人目標へ移行します。
ただし、個人で目標設定を行うように指示しても、何を目標にしたらよいか悩む人は多いでしょう。目標設定の手本や成功事例を見せると、個人でも目標をスムーズに立てやすくなります。目標設定のテンプレートを準備しておくのもおすすめです。
目標設定におすすめのSMARTの法則
目標設定のために重要な5つの条件である「SMARTの法則」を知っておくと、意識すべきことや具体的な行動などの計画が立てやすくなります。SMARTの法則について、それぞれの条件を解説しながら、よい例と悪い例を紹介します。
Specific(具体的)
SMARTの法則の「S」は、Specificの頭文字で、「具体性」や「明確性」を意味します。自分だけではなく第三者から見てもわかるように、曖昧な表現を避けて明確かつ具体的な表現や言葉で書くことが重要です。達成の可否がすぐに判断できるようにするのもポイントになります。
悪い目標例
・仕訳入力を効率化する
・請求書発行のミスをなくす
・貸借対照表を作成できるようにする
よい目標例
・業務効率化のため仕訳入力にRPAツールを導入する
・請求書発行時にはダブルチェックを行い今期のミスをゼロにする
・6月末までに参考書を読んで貸借対照表を作成できるようにする
Measurable(測定可能)
SMARTの法則の「M」は、Measurable(測定可能)の頭文字です。目標は「計測できる数値目標」が望ましいとされ、「Specific(具体的)」をより突き詰めた目標となり、目標の達成度合いが評価しやすくなります。目指す方向性だけではなく、数値を定めて達成の基準をわかるようにしましょう。
悪い目標例
・月次決算処理をスピードアップする
・伝票処理を早く行えるようにする
・郵送費を削減する
よい目標例
・月次決算処理を現在の8営業日から6営業日に短縮する
・伝票処理にかかる時間を前年度の8割で終えられるようにする
・請求書の郵送をメールで行い、郵送費を前年度より15%削減する
Achievable(達成可能)
SMARTの法則の「A」は、Achievable(達成可能)の頭文字です。希望や願望ではない達成可能な目標であることを意味します。
目標設定の際は、評価や成果を気にするあまり、高すぎる目標を設定してしまうことがあります。しかし、高すぎる目標は達成できず、低すぎてもモチベーションが上がりにくくなるため注意が必要です。努力すれば達成できそうな目標を設定しましょう。
悪い目標例
・繁忙期でも残業をゼロにする
・来月までに業務フローをマニュアル化する
よい目標例
・繁忙期は約1時間の業務削減を目指し、全体で1日分の工数を削減する
・半年後の12月末までに業務フローをマニュアル化する
Relevant(経営目標に関連)
SMARTの法則の「R」は、Relevant(経営目標に関連)の頭文字です。Relevantには「関連性」「妥当性」「現実性」などの意味があります。目標設定の際は、現状の業務内容と関連しており現実に即しているか、という意味で用いられます。
会社や経理の目標とかけ離れたものや関連性の低い目標は、達成したところで、企業や部署にメリットありません。不要な業務を増やすことにもつながるため、経理業務に関連した目標を立てましょう。
悪い目標例
・自分の担当外の業務を覚える
・Excelを使いこなせるようにする
よい目標例
・今期中に簿記1級を取得し、新たな業務を3つ覚える
・7月末までに関数を勉強し、Excel管理表を3つ改良する
Time-bound(時間制約)
SMARTの法則の「T」はTime-bound(時間制約)の頭文字です。Time-boundは、期限が定められていることを意味します。期限がない場合、また期限が長い場合は、目標に向けたアクションを起こす気がなかなか起こりません。行動開始を先延ばしにしてしまう可能性もあります。モチベーションが下がるきっかけにもなるため、目標には期限を設けましょう。
悪い目標例
・早めに月次決算業務を覚える
・会計ソフトを導入して効率化する
よい目標例
・9月までに月次決算業務を覚える
・9月までに会計ソフトを導入して経理部門の休日出勤数をなくす
短期目標と長期目標
目標設定の期間は大きく分けて、月単位・四半期単位・半期単位の「短期目標」と年単位またはそれ以上の「長期目標」の2通りがあります。それぞれの目標の立て方や特徴は以下のとおりです。
短期目標の設定方法
短期目標の目的は、モチベーションを維持したり高めたりすることです。短期目標は大きな目標のステップとして活用され、いくつかの短期目標を設定して長期目標を達成しやすくします。高すぎる目標設定をせずに、実現可能なレベルから1段階くらい下げて目標設定するとモチベーションを継続しやすくなるでしょう。
短期目標は1歩ずつステップアップするようなイメージで設定するのがおすすめです。モチベーションをキープしたまま心の負担が軽くなるだけではなく、進捗状況もわかりやすくなり、達成の可能性もより現実的になります。
長期目標の設定方法
長期目標は、最終目標を達成するための中間目標を設定します。長期で設定する目標は、成し遂げたいことを具体的に挙げて、重要度の高い目標をピックアップしましょう。
そして、その目標を達成する期限を具体的に決めておくことがポイントです。期間が長いからといって目標を抽象的にするのではなく、1年後、2年後など明確な期限を決めておきます。ただし、期限や目標の内容はある程度、実現可能なものにしないとモチベーションが維持できません。
たとえば、普段の生活においても、3年後までに30キロ痩せるという目標よりも、1年後までに10キロ痩せるという方が、現実的で取り組みやすくなります。
経理の目標設定の5つのポイント
経理の目標設定をする際に、何を切り口にしたらよいか悩む方は多いでしょう。目標設定する際は以下のポイントを意識するのがおすすめです。
1.業務の幅を広げる目標設定
自分がやりたい新しい業務の遂行を目標にして、業務の幅を広げることを切り口にするとよいでしょう。特に、20~30代前半までの若い社員は、こうした内容が目標として認められやすくなります。たとえば、新入社員の場合は、2年目までに単体決算業務をマスターする、3~5年目は連結決算業務を経験するなど、具体的な数値と目標を設定しましょう。
2.業務改善を目指す目標設定
業務の正確性の向上や省力化など業務改善を目標にするのもおすすめです。「システムを導入して10人でやっていた業務を3人で行う」など、具体的な数字も盛り込みます。
また、現システムの利用料金の見直しなど、コストの改善を目標にするのもよいでしょう。社内文書をパソコン上で閲覧できるようにして、コピー用紙の経費を削減するなどの目標も業務効率化やコスト削減につながります。
3.属人化の改善を目指す目標設定
特定の担当者以外はできないなど属人化している業務は、他の人も担当できるようにすることを目標にすると担当者の負担が減ります。マニュアルの見直しなどは、属人化の改善を目指せる目標の1つです。マニュアルは業務内容を理解できていないと作成できないため、業務を理解できているという評価にもつながります。
4.人材育成を目指す目標設定
社員が経理業務に役立つ知識を身に付けられるようにすることも、目標として適しています。セミナーや勉強会を開催し、経理部員が知識を身に付けられる機会を設ける、ジョブローテーションでさまざまな業務を経験するなどの目標がおすすめです。個人の目標としては、経理に関連する資格を取得するなど自己啓発を目標にするとよいでしょう。
5.改正に対応する目標設定
会計基準や税制の改正対応も、簡単にできて評価されやすい目標です。マニュアル作成や勉強会への参加を目標設定にします。部内で改正内容にくわしい人になれるだけでなく、セミナーに参加して得た知識を部内でプレゼンすれば、経理全体のレベルアップも図れます。
経理の目標設定の具体例・例文
具体例や例文があるとスムーズに目標設定しやすくなります。経理の目標設定のポイントに沿って具体例や例文を解説します。社内にテンプレートがない場合にも参考にしてください。
業務の幅を広げる目標設定
業務の幅を広げる場合は、以下のような具体例や例文を参考にしましょう。
・7月までに小口精算・電話対応・ファイリングなどの初歩的な業務を確実にする
・9月までに月初振替仕訳・債権債務管理・請求書発行などを覚えて業務の幅を広げる
・来期までに自分の仕事以外でも部内の業務を1つ覚える
・9月末までに月次決算業務を覚える
・貸借対照表の知識を得て、第二四半期までに作成できるようになる
・今年度の連結決算業務に加わるために連結決算について学ぶ
・連結決算業務に携わるため、1月までにIFRSの知識を身につける
・第一四半期末までに経理関連の書籍を読んで、BS(貸借対照表)を作成できるようにする
業務改善を目指す目標設定
業務改善を目指す場合は、以下のような具体例や例文を参考にしましょう。
・人手不足によって間違いが多い業務を来期までに見直し、2人以上でのチェック体制を築く
・入出金管理表の不必要な項目や確認のステップを減らし、作成期間を現状の5営業日から3営業日に短縮させる
・時系列のみの管理となっている外注費管理表を分類しなおし、来期の問い合わせ件数や再確認を減らす
・各工程で1時間の業務を削減し、全体で1日分の工数削減を目指す
・支払いミスを減らすために6月末までにリストを作成する
・決算業務の円滑化を目指し、週に1度の仕訳入力チェックを行い、決算月の残業時間を30時間から15時間に短縮する
・毎朝15分を決算書の更新にあて、月次決算報告書の作成を4日から2日に短縮する
属人化の改善を目指す目標設定
属人化の改善を目指す場合は、以下のような具体例や例文を参考にしましょう。
・全員が業務を行える環境を整えるため、6月までにマニュアルを作成する
・業務を割り振る際のマニュアルを作成し、誰が欠けても業務が滞ることない体制を9月までに構築する
・経理部門内で半期ごとにジョブローテーションを行う
・属人化の弊害が大きい業務を3つピックアップし、9月までに業務フローマニュアルを作成する
・7月までに経理部内で共有できる「よくあるQ&A」をスプレッドシート形式で作成し共有する
・半年後までに負担が大きい業務を見直してマニュアル化し、月の残業時間を50%削減する
・来期までに会計ソフトを導入してマニュアルを作成し、経理部全体の休日出勤数をゼロにする
・半年後までに経理部全体で横展開できる効率化に寄与する改善策を3つ以上出す
人材育成を目指す目標設定
人材育成を目指す場合は、以下のような具体例や例文を参考にしましょう。
・7月のマネジメント研修を受講して組織マネジメント力を向上させる
・毎月1回の面談の機会を設け、部下の困りごとや悩みごとをヒアリングする
・新人のスキルアップを目指し月に1度の勉強会を行う
・顧客対応マニュアルを3月末までに完成させ、来年度の新入社員のビジネスマナー向上を目指す
・簿記検定1級取得者として、部内の資格取得者を増やすために勉強会を月1回開催する
・若手社員向けの経理研修資料を作成し、年間で3回実施する
改正に対応する目標設定
改正に対応する目標設定を行う場合は、以下のような具体例や例文を参考にしましょう。
・税制改正に関するセミナーに1年間で3つ以上出席し、部内勉強会を開催して知識を共有する
・来年の新制度施行前に会計基準改正に関する知識を習得して、施行後適切な対応をとれるように情報を部内に共有する
・来月の税制改正セミナーを受講し、レポートを部内で発表する
・1年間で会計基準や税制改正セミナーに参加し、知識不十分による経理処理のミスをゼロにする。
目標設定を立てた後にすべきこと
「目標を設定したものの、1年後に何も達成できなかった」という結果では意味がありません。目標未達成は、人事考課や人事評価におけるマイナス評価につながるため注意が必要です。目標設定してから期間を開けず、毎月もしくは3か月に1回程度、進捗状況や達成度を確認すると目標を達成しやすくなります。
目標設定後に達成が難しいと判断した場合は、途中で軌道修正しても構いません。取り組む姿勢や手法を改善し、無理のない範囲で軌道修正を行います。業務の幅を広げたいのに携わる環境がない場合などは、上司に相談してみるのもよいでしょう。
目標管理制度(MBO)とは|運用方法や手順、導入のメリット・デメリットも解説
まとめ
経理部門は売上を生み出さない間接部門のため、目標設定が難しいといわれることもあります。しかし、経理の目標設定を決める手順やポイントを押さえれば難しくありません。紹介した具体例や例文を参考に、短期目標と長期目標を設定してみましょう。
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