そもそもダイバーシティとは?
ダイバーシティとは「多様性」のことで、さまざまな国籍や人種が集まるアメリカで提唱された考え方です。企業におけるダイバーシティの定義は、国籍や人種、性別、年齢などを限定せずに能力のある人材を積極的に採用して、経営に活かすことを指しています。
ダイバーシティとインクルージョンの違い
ダイバーシティと共に使われることが多い用語に「インクルージョン(inclusion)」があります。ここでは、インクルージョンの意味や「ダイバーシティ&インクルージョン」という概念について解説します。
インクルージョンとは
英単語としてのインクルージョン(inclusion)は、「包括」「受容」という意味です。ビジネスシーンにおいては、年齢や性別、国籍といった多様性が尊重されている環境で人々が働いている状態を指します。
ダイバーシティは「多様性の受け入れ=採用や雇用」に、インクルージョンは多様な人々を受け入れた後に視点をおいているといえるでしょう。
ダイバーシティ&インクルージョンの概念
「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と受容性)」という概念の理解も不可欠です。この概念は、アメリカで提唱されたダイバーシティマネジメントの核となる考え方です。国籍や性別、価値観などの違いを認め合い、互いが価値のある存在として受容することを指します。
この概念は、多様性を受け入れて組織の一体感を強め、全社員がチームや会社に貢献できる環境を整えることの重要性を示しています。
ダイバーシティの種類
ダイバーシティには「デモグラフィ型」「タスク型」「オピニオン型」の3種類があります。以下で詳しく解説します。
デモグラフィ型
デモグラフィ型に分類されるダイバーシティは、国籍・人種・年齢・障害など、表層的な性質が挙げられます。制度や人事戦略の見直しなどによって、達成が可能です。
タスク型
タスク型に分類されるダイバーシティには、役職・スキル・職務経験・受けてきた教育・宗教といった深層的な性質があります。デモグラフィ型と比較すると、人によって正しさの判断基準が異なるため、制度や人事戦略の見直しだけでは達成は難しくなります。
オピニオン型
意見の多様性を意味するオピニオン型のダイバーシティは、企業や組織において、個人が意見を主張できる雰囲気や環境を指します。日本では、個人よりも集団の意見が尊重される傾向にあるため、個人の意見が反映されにくいことが課題です。
ダイバーシティマネジメントとは
ダイバーシティマネジメントとは、ダイバーシティを導入した経営手法で、「ダイバーシティ経営」とも呼ばれています。労働者の多様性を経営に活かすことで事業を成功に導き、さらに企業の発展にもつなげられます。
女性の活躍を推進することはもちろん、病気の治療や子育て、介護と仕事の両立、外国籍の人材の受け入れなども挙げられます。
アメリカにおけるダイバーシティマネジメントの歴史
さまざまな人種が集まるアメリカでは、どのようにしてダイバーシティマネジメントが浸透していったのでしょうか。ここでは、アメリカの歴史に沿って解説します。
1960年代
1960年代にジョン・F・ケネディ大統領が「新公民権法」を施行したことにより、性別や肌の色、出身地などの差別を是正しました。これを皮切りに、アメリカではダイバーシティ・マネジメントが時代とともに変化します。
1970年~1980年代
1970年代には「雇用機会均等法」が施行され、職場で差別された労働者は企業側に多額の賠償金を請求できるようになります。1980~1990年代には、「社会的責任(CSR)」を果たすために、多くの企業が取り入れるようになりました。
1990年代以降
1990年代以降は、多様性のある人材を受け入れることで、競合他社との差別化に備える企業が増えました。現代のダイバーシティマネジメントが及ぶ範囲は、女性や人種の枠を超えた多様なマイノリティにまで広がっています。
ダイバーシティマネジメントの推進に必要な取り組み
ダイバーシティマネジメントを進めていくためには、さまざまな取り組みや施策が必要です。ここでは、どのような方法で実践するのかを解説します。
仕事と家庭の両立を支援
育児や家事、介護などは、女性に大きな負担がかかる傾向にあります。育児や介護のためにキャリアを中断する女性も少なくありません。一方で、男性が育児休暇を希望しても、制度がなかったり、取得しづらかったりします。
ダイバーシティマネジメントを進めるには、仕事と家庭の両立について、男女を問わず支援する必要があります。育児・介護休暇の取得推進、フレックスタイム制やリモートワークの導入などが挙げられます。
採用の多様性を強化
採用枠の拡大は、ダイバーシティマネジメントにおける重要な取り組みのひとつです。多様な人材の採用は、新たな視点や価値観の受け入れにつながります。
年齢や性別、学歴、人種などの応募資格を設けている場合は、制限を撤廃して採用活動をします。例えば、応募書類への年齢・性別・学歴の記載や顔写真の貼付を不要とする「ブラインド採用」は、多様な人材の受け入れにつながります。
柔軟な働き方の推進
多様な人材を活かすためには、社員が自分に適した働き方を選べるようにする必要があります。人事担当者や上司が働き方を管理するのではなく、社員の意見・要望を積極的に取り入れるといった対応が求められます。
勤務時間や勤務形態だけではなく、業務においても、社員への選択権や裁量権を与えます。柔軟な働き方が可能になると、モチベーションや責任感も高まるでしょう。
日本企業におけるダイバーシティマネジメント導入の背景・理由
日本企業でダイバーシティ・マネジメントが導入されている背景について解説します。
企業のグローバル化による事業運営
国内市場は飽和状態にあるため、国内企業は市場拡大のために拠点を海外へ移す必要性が高まっています。業務の効率化やコスト削減の観点からも、現地での人材採用・人材育成が不可欠です。一方、国内では多言語を話せる外国人の採用が積極的に実施されています。
労働人口の減少による人材の多様化
企業では、労働人口の減少などによって、人手不足が深刻化しています。なかでも人手不足が顕著な介護・飲食業などでは、外国人労働者を積極的に採用する傾向にあります。また、結婚や出産、定年を機に第一線を離れた女性やシニア層の人材活用を推進する企業も増えています。
社会的な責任を果たすための取り組み
社会全体が多様性を受け入れる動きが活発化していることも、理由のひとつです。多様な人材を受け入れた企業は、社会的な責任を果たしたとみなされて、高い評価を受けます。たとえば、LGBTなどの性的マイノリティや障害者などの雇用拡大、女性管理職の起用などが挙げられます。
テクノロジーの進歩による消費の多様化
科学テクノロジーの進歩や時代の変化により、ユーザーの価値観も多様化しています。日常生活に必要な高機能のモノから、人生に彩りを与えるような体験への消費へと移行しつつあります。企業が成長し続けるには、ユーザーへの理解や、迅速かつ適切な対応が不可欠です。
ダイバーシティマネジメントを導入するメリット
企業側・社員側の双方が得られるメリットについて解説します。
企業側のメリット
多様な意見やアイデアの統合がイノベーションを生み出す
個々でブレインストーミングをするよりも、多様な意見やアイデアを集めたほうが、企業や組織の意識改革やイノベーションを起こす可能性が高まります。統計において、ダイバーシティとイノベーションには有意な関係性があることが認められています。
多様化するユーザーニーズにも対応できるため、機会損失の防止策としても有効です。
人材の確保や定着化により生産性が上がる
多様な人材を受け入れるためには、採用条件の範囲を広げ、社員にとって働きやすい環境を整備する必要があります。これらの実施により、人材が確保できるだけではなく、社員の定着率や企業に対する社員の満足度を向上させることにもつながります。結果的に、社員のモチベーションも上がり、会社全体の生産性のアップも期待できます。
企業の社会的評価・信用がアップする
「従業員満足度(ES)」の高さや働きやすい職場環境は、企業の社会的な評価や信用を向上させます。ユーザーからの印象もアップするため、自社の商品やサービスの購入・申し込みなどの成約にもつながりやすくなります。企業の評判を知った優秀な人材が集まりやすくなるため、安定的に優秀な人材を採用することも可能です。
社員側のメリット
価値観や仕事の幅が広がる
多様な人材と働くことは、社員にとってさまざまな価値観や意見に触れる機会を増やします。それにより、視野が広がる、さまざまな価値観を認めて受け入れられるなど、自己成長を促すことも可能です。結果として、社員は自身の価値観や仕事の幅を広げられます。
多方面で活躍できる
縦割り体質からの脱却にもつながるため、役割分担や部署の垣根を超えた人材配置やプロジェクトなどの実施も可能です。個人の活躍の場が広がるため、社員は多方面で個人のスキルや能力を発揮できます。
個性が尊重される
日本では古くから協調性を重視してきたため、個性の強い人材は受け入れられませんでした。しかし、ダイバーシティマネジメントの実施により、個性が尊重されるため、誰もが働きやすさを感じられるようになります。
ダイバーシティマネジメントを導入した場合のデメリット
ダイバーシティ・マネジメントの導入により、企業、社員の双方に影響するデメリットについて解説します。
パフォーマンスやチームワークが低下する
個人の先入観や偏見まではなくせません。個人間での誤解が生じる恐れがあるため、善意による行為でも裏目に出てしまうケースも少なくありません。人間関係が悪化すれば、個人のパフォーマンスの低下やチームワークにも悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
人事業務が複雑化する
人材の多様化によって人事業務が複雑化すると、人事担当者への負担が増えることは免れません。さらに、個性と欠点の線引きが難しくなるため、評価によっては社員の不満が募る可能性が高まります。
統制が難しくなる
個性が尊重される反面、組織としての一体感が低下し、会社全体の統制が難しくなる可能性があります。たとえば、価値観やバックグラウンドの違いにより、個人間の対立やあつれきが生まれ、社内で混乱が生じるなどのケースも想定できます。
ダイバーシティマネジメントを導入する場合のポイント
ダイバーシティマネジメントを導入するにあたって、取り組むべきことについて解説します。
制度や職場環境の整備
リモートワークや短時間労働、外国人労働者などの受け入れには、制度の見直しやルールの整備が必要です。たとえば、フレックスタイム制の導入やリモートワーク、サテライトオフィスの設置、育児休業・介護休業などの取得の推進などが挙げられます。
経営戦略に沿ったダイバーシティ・マネジメントの実施
ダイバーシティ・マネジメントを事業や業務に活かすためには、経営戦略に沿って実施することが重要です。経営陣がダイバーシティを理解してこそ、企業が一体となって取り組むことができます。社員の理解を得ることも重要なポイントになるため、ダイバーシティを盛り込んだ企業理念や経営指針を共有しておきましょう。
経営陣を含めた人材育成や研修プログラムの整備と実施
ダイバーシティを社内全体に浸透させ、全社員の意識改革を促すには、経営陣を含めた人材育成や研修プログラムの整備や実施が不可欠です。まずは、現状を把握したうえで自身への理解を深め、相手の意見や価値観との違いを認めて受け入れられる人材を育成することが大切です。経営陣が本気で取り組むことで、社員の意識を変えるきっかけになります。
コミュニケーションの活性化
管理職と社員、社員同士のコミュニケーションを促進することも重要です。ダイバーシティマネジメントでは、多様な人材の受け入れが求められます。採用においても業務においても、異なる属性の人と関わる機会が増えるでしょう。
コミュニケーションの活性化により、意見交換や対話を通じてお互いを理解し、価値観を共有することが、多様性の尊重につながります。
ダイバーシティマネジメントを実施する場合の注意点
ダイバーシティマネジメントの実施にあたっては、社員の理解や認識を揃える必要があります。以下で詳しく解説します。
公平性を重視する
ダイバーシティマネジメントは、人事や経営陣だけではなく、会社全体が一丸となって取り組むことが重要です。多様性を重視しすぎて一部の社員を特別扱いすれば、ほかの社員が不平や不満を募らせてしまいます。あくまでも、公平な評価制度のもとで多様性を活かすことを前提にして実施しましょう。
目的を明確にする
ダイバーシティマネジメントにおいては、何を目的にしているかによって、実施すべき取り組みや施策が異なります。そのため、導入する理由や目的を明確にしておかなければなりません。
たとえば、イノベーションの創出や新たなビジネスチャンスの獲得を目指すなら、多様な人材を受け入れるための取り組みが有効です。また、女性の活用を進めるのであれば、育児休暇や時短勤務などの制度を整える必要があります。
ビジョンや方向性の浸透に努める
多様な人材の受け入れによって、異なる考え方や価値観が混在する状態になります。そのため、業務を遂行するなかで意見が対立したり、不満が生じたりする可能性があります。
そのような場合に有効な解決策となるのが、会社の将来像を示すビジョンです。社員1人ひとりが会社のビジョンを理解していれば、ゴールに向けて成すべきことを共有し、意見のすり合わせもできるでしょう。
ダイバーシティマネジメントに取り組む企業の成功事例を紹介
ダイバーシティ・マネジメントに取り組む企業の成功事例を紹介します。
株式会社ローソン
株式会社ローソンでは、全体の8割が男性社員であることから、女性社員の活躍を推進する必要性を課題として認識していました。男性社員の積極的な育児参加により、女性が働きやすい職場を目指すために、男性の育児休暇を積極的に促す仕組みや環境の整備を実施しました。
これにより、育児への積極的な協力をする男性社員が増えて、産後の女性社員が復帰しやすい職場環境の整備に成功しています。
株式会社ZOZO
株式会社ZOZOでは、充実したワークライフバランスや、それによる企業の活性化が課題でした。そのため、フレキシブルな時短制度や、子育てスタッフ、障害者スタッフの支援、同性パートナーを対象にした社内規定や福利厚生の整備などに取り組んでいます。
結果的に、ほかの社員が障害者スタッフとの交流のために、自発的に手話を習うといった意識変革が起こり、誰もが働きやすい職場環境を実現できました。
まとめ
ダイバーシティマネジメントの実施にあたり、適切な人事評価や人事配置などのルールや環境の整備が不可欠です。そのためには、人事業務を効率化させて、環境整備のためのリソースを確保しなければなりません。
プラスアルファコンサルティングの「タレントパレット」では、人事業務の負担を軽減し、効率的な人事評価やデータ分析が可能です。手厚いフォローがあるほか、先進ユーザーの取り組みを紹介する「科学的人事フォーラム」を実施しています。自社の人事業務の効率化を検討中であれば、ぜひお問い合わせください。
人的資本経営の詳しい情報はこちら
人的資本の「見える化」がつくる企業価値の新潮流