キャリアデザインとは?キャリアプラン・キャリア形成・キャリアパスとの違いは?
ここではキャリアデザインの定義、キャリアプラン・キャリア形成・キャリアパスとの違いについて解説します。
キャリデザインとは
キャリアデザインとは、仕事を通じて将来自分がなりたい姿、実現したい目標を定め、プライベートを含めて行動指針を設計することです。単に職業、目標とする給料・役職などではなく、価値観やライフスタイルまで含めて設計することが特徴です。
キャリア形成・キャリアパス・キャリアプランとの違い
キャリアデザインと混同しやすい用語と、それぞれの違いを解説します。
- キャリア形成:資格やリーダーシップなど仕事の目標を達成するためのスキル習得計画。キャリアデザインの一部。
- キャリアパス:主に企業側が社員に対して示す人事育成計画。キャリアデザインと違い、社員の主体性は重視されない。
- キャリアプラン:転職や独立を含めた職業人生の計画。キャリアデザインと違い、プライベートは含まない。
個人がキャリアデザインを行う目的
キャリアデザインを行う目的とは何でしょうか。ここでは、社員側からの視点で解説します。
自己実現のため
キャリアデザインは、自分らしい働き方を考えるきっかけになります。プライベートや価値観なども含めて主体的に仕事を捉え直すことで、仕事に対する取り組み方を変えられます。
ビジネスパーソンとしての価値を明確にするため
組織のなかでの自分の役割や強み、個性などを自覚するためにキャリアデザインを行います。年功序列がなくなり実力主義の傾向が強まっている現在、市場価値として自分を客観的に評価できることが重要です。
将来の目標に向けた行動を決めるため
なりたい自分から逆算して、現在取り組むべきことを決めるきっかけにできます。若い世代のための自己啓発のように考える人もいますが、キャリアデザインは全世代で適応可能です。実際、高齢期のキャリアシフトを検討する際にもキャリアデザインは使われます。
転職時のリスクヘッジ
キャリアデザインは順調にキャリアを歩む道だけを計画するものではありません。失業しないためのスキルや資格取得なども含まれます。また、「手に職を付けるには」「転職でキャリアアップするには」などもキャリアデザインで考えるため、将来への備えになります。
なぜキャリアデザインが重視されるようになったのか?
ビジネスパーソンに必須の知識であるとして、近年ではキャリアデザインの学科がある大学も増えてきました。なぜこれほど重視されるようになったのでしょうか。
社会・経済状況の変化
少子高齢化やグローバル化、多様な働き方の実現、人生100年時代など、時代が変化したことで、個人個人が主体的にキャリアデザインを考える必要が出てきました。
雇用形態や企業が求める人材の変化
終身雇用、年功序列の廃止により人材流動が激しくなり、企業は即戦力としての人材を常に求めています。高齢者の職業マッチング事業も広まっていますが、高齢になるほど条件のよい職場は限られてくるのが現状です。そのため、長期的なビジョンを持ってキャリアデザインを考える重要性が増しています。
仕事に対する考え方の変化
ワーク・ライフ・バランスを重視する人や仕事よりプライベートを優先する人など、働き方に対する考え方が多様化しました。自己実現のひとつとして働くためにも、キャリアデザインによって仕事の意味を問い直すことが大切になっています。
キャリアデザイン設計の軸となる3要素
キャリアデザインの設計は「価値観・仕事に対する考え方」「自分の強み・個性」「目標を達成するために必要なスキル」の3要素を軸に行います。
価値観・仕事に対する考え方
「どのような仕事に携わりたいのか」「仕事のどの部分に興味・やりがいを持っているか」など、仕事に対する価値観、キャリアアップのモチベーションを考えます。本質的な面を分析・検討することが、キャリアデザインの土台となる要素です。
自分の強み・個性
持っている知識や経験、協調性やリーダーシップなど、自分の資質を検討します。ここでのポイントは、あくまで企業からみた価値、すなわち「エンプロイアビリティ(雇用されるための能力)」の観点から考えることです。たとえば、転職エージェントの視線で自分を評価します。
目標を達成するために必要なスキル
目標を達成するには何をすべきか、どのようなスキルを持つべきか、などを具体的に検討します。「自分の技術が将来も必要とされるか」など、将来の社会状況や需要まで含めて考えることが重要です。
キャリアデザインの設計手順4ステップ
ここでは、キャリアデザインの設計手順を解説します。企業が社員に対しキャリアデザインの設計を行わせるときも、基本的にこの流れで行います。
1.現状分析
現状のキャリア、能力を検討します。キャリアデザインの設計に慣れていない場合は、キャリアシートを使うこともよい方法です。最低限の内容は網羅できるでしょう。より詳しく分析する場合は、心理テスト、能力テストも実施します。客観的に分析するために周りに意見を求めることも有効です。
2.将来の目標やなりたい自分を書き出す
自分らしいキャリアとは何かをもとに、目標や将来なりたい姿を書き出します。3年後・5年後・10年後など、段階的に考えると具体的になります。結婚や出産、マイホーム購入などのライフイベントもキャリアデザインに深く関係するため、検討項目に加えましょう。
3.キャリアプランを考える
目的に達するために仕事でやらなければならない事柄(キャリアプラン)を考えます。「企業にとって必要とされる人材になる」という観点が重要であるため、上司や人事担当者、コンサルタントなどに相談することもよい方法です。
4.今やるべきことを決める
優先順位を検討し、今何をやらなければならないのかを決定します。このとき、すぐに成果が出るものと長期的に取り組むものを区別し、いつまでに目標を達成するのかも決めておきましょう。数値目標を立てると、後から検証しやすくなります。
企業の人材育成としてキャリアデザインを取り入れるメリット
企業の人材育成としてキャリアデザインを導入している企業もあります。どのようなメリットがあるのでしょうか。
成長意欲を持つ社員を増やせる
人材育成ではスキル研修以前に成長したい意欲を持ってもらうことが大切です。仕事に関する価値観も含めて考えるキャリアデザインを導入することによって、モチベーションやエンゲージメント(会社に対する愛着)が高まります。理想と現状のギャップを埋めることで、離職防止にもつながります。
各社員のキャリアデザインを人事データとして活用できる
中長期的なビジョンで人材育成するためには、社員のキャリアデザインを知っておく必要があります。個々のキャリアデザインを提出してもらってデータベース化すれば、人材配置や人事育成計画の立案などに役立てられます。
企業の人材育成としてキャリアデザインを取り入れるデメリット
人材育成としてキャリアデザインを取り入れるにはデメリットもあります。実施する前に、どのようなことに気を付けるべきか知っておきましょう。
転職のきっかけになってしまう
自己分析の結果、仕事や企業が自分に向かないとわかることもあります。結果として転職を選ぶ人が出るかもしれません。こうしたリスクを軽減するには「自社で成長してほしいから」などキャリアデザインの実施目的を伝え、現状を肯定的に見直す方向性を示すことが重要です。
昇給・昇進が目的になる
企業主導でキャリアデザインを実施すると、人事部や経営層が望む人材になろうとする傾向が出ます。極端な場合は昇給・昇進目的になってしまうでしょう。キャリアデザインは主体的に取り組まないと効果が出にくいため、人材育成の側面が強くなりすぎないように注意が必要です。
企業がキャリアデザインをサポートする3つの方法
社員の主体性を確保しながらキャリアデザインを支援するにはどうしたらよいのでしょうか。ここでは3つの方法を解説します。
キャリアカウンセリング
上司や先輩社員によるコーチング、キャリアデザインに関して知識を持つ人事担当者によるカウンセリングが有効です。このプロセスを通じて価値観や将来像などを共有することもできます。また、第三者に話すことで、自分では気づかなかったことを発見するきっかけにもなります。
人事制度と組み合わせる
社員のキャリアデザインを応援できる柔軟な人事制度を取り入れる企業があります。具体的には自己申告の異動制度や社内FA制度、多様な働き方を実現するリモートワークなどが考えられます。
キャリアデザインを定期的に評価して、それらをデータ化することも効果的です。ただし、データ化することで質の高い人事戦略ができる反面、管理が複雑になることから、人材を見える化できるツールを併せて導入することが重要です。
外部のキャリアデザイン研修を活用する
外部のキャリアデザイン研修を取り入れている企業は少なくありません。プロにキャリアデザインを手伝ってもらえることに加え、第三者であることがプラスに働くことから「意見を素直に聞きやすい」「多角的な視点を持ちやすい」などのメリットがあります。
キャリアデザインの実施に適したタイミング
社員に結婚、子育てなど、ライフイベントが発生した場合は、キャリアデザインを実施するチャンスです。仕事と自分について深く考えてもらいやすいタイミングであるため、キャリアデザインを促してみてはどうでしょうか。
昇進や異動、社内の事業転換もキャリアデザインの実施に適しています。このようなタイミングは人事部が管理しやすいことが特徴です。人材をデータ化する施策としても価値があるので、制度化を検討してはどうでしょうか。
キャリアデザイン支援の事例
ここでは、キャリアデザインを企業が積極的に支援している事例を3社紹介します。
大阪ガス株式会社
大阪ガス株式会社は、継続的な成長のためには個人レベルで役割を明確化することが必要だと考えています。そのために、年1回の「自己観察面談」、45歳と53歳のタイミングでのキャリアガイダンス研修・キャリア開発面談を実施し、能力開発などを促しています。
株式会社千代田設備
ビルの空調設備の工事などを行う株式会社千代田設備は、社員の成長は会社の成長という考えのもと、生きがいのある人生設計を支援してきました。ライフステージとリンクさせたキャリアデザインを実施する「社員成長制度」により、人としての成長も促すことで企業の地力を高めています。
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほフィナンシャルグループは、主体的なキャリア設計を推奨しており、独自のキャリアシートを使ったキャリアデザインを実施してきました。併せて人事部キャリア開発室に専任のアドバイザーを配置した結果、被面談者の約8割が女性となり、女性の活躍も支援できています。
「タレントパレット 」は、人材のスキルや受講研修履歴、成長の度合いを見える化。見える化したスキルデータを活用し、他のデータと掛け合わせることで科学的な人材育成を支援します。
【人事が読んでおきたい】キャリアデザインが学べる本
ここでは、人事担当者が読んでおきたいキャリアデザインの良書を紹介します。
「成功! キャリアデザイン」|社員向けのガイドライン作成に使える
仕事の現状分析や将来の可能性について考えるためのノウハウがわかりやすくまとまっている本です。社員向けに配るキャリアデザイン設計のためのガイドラインの参考にできるでしょう。
英文にも対応しており、外国人の社員に対しても活用できます。
「働くひとのためのキャリア・デザイン」|第一人者による実践的な良書
キャリアデザインの第一人者である金井壽宏氏によるビジネスパーソン向けの著作です。キャリアデザインについての現実的な考え方を示しているため、人事担当者が具体的な施策を立案するためにも役立ちます。
「ストラテジック・キャリア」|経営戦略としてキャリアデザインを取り入れる
マッキンゼーや国防総省のスタッフも受講するビジネススクールのカリキュラムを書籍化した本です。経営戦略のなかにキャリアデザインを組み込むポイントが詳しく書かれていることが特徴です。
まとめ
社会・経済状況の変化や仕事に対する価値観の多様化によって、社員がキャリアデザインについて考え、仕事に対する関わり方を本質的に見直す重要性が高まっています。企業側にとっても離職率低下や人材育成などのメリットがあるため、キャリアデザインを制度として導入してみてはいかがでしょうか。
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