人事戦略の意味や目的とは?人材戦略との違い、4つの策定ポイントを解説|フレームワークも紹介


人事戦略の意味や目的とは?人材戦略との違い、4つの策定ポイントを解説|フレームワークも紹介

人材戦略は、組織の業務改善、人材育成に重要です。人材戦略と経営戦略を連動した施策により、必要な人材を適切に確保・育成し、人材の能力や可能性を最大限に引き出す効果が期待できます。スムーズな経営判断や人材配置が可能ですが、同時に社員の協力や理解が不可欠です。

人事戦略とは、企業の経営目標の達成を目的として人事施策を行うことです。記事では、人事戦略の概要や必要な機能、具体的な戦略の立て方、成功事例などについて解説します。人事戦略を立てる際の参考にしてください。

人事戦略とは?

人事戦略の概念は、米国の経済学者・デイビッド・ウルリッチ氏が、経営目標の達成に必要な人材の確保や、貢献できる人材の育成を行う必要性を唱えたのがはじまりです。2000年以降、世界中の企業で導入されています。
人事戦略が世間で注目された背景として、企業を取り巻くビジネス環境の激しい変化が挙げられます。働き方改革などにより、ワークライフバランスや労働環境の整備が重要視されるようになったことが要因です。

人材戦略との違い

人事戦略に似た言葉に、人材戦略があります。人材戦略とは、人材の獲得・育成・配置についての戦略を指す言葉です。近しい意味を持つ2つの言葉ですが、その定義は企業によって異なります。

戦略人事との違い

人材戦略と混同しやすい言葉に、戦略人事があります。戦略人事とは、「戦略的人的資源管理」の略語で、企業の目標を達成するために、人的資源を管理する仕組みやアプローチのことです。

人事戦略の目的

人事戦略の目的は、人事に関わる業務全般の改善を行って社員の成長を促し、業務全般の改善を進めることで生産性を高めることです。労働人口の減少や少子化、テレワークの普及など、人々の働き方や働くことへの考え方は大きく変わりました。社員全体が目標達成に向けて前進できる環境を作る人事戦略が、企業の成長には不可欠です。

人事戦略を導入するメリットと課題

人事戦略を導入した場合、どのようなメリットが得られ、どのような課題が生じるのでしょうか。

人事戦略を導入するメリット

企業の成長とともに、経営状況も変化します。企業が人事戦略を導入するメリットは、経営状況の変化にあった人材を活用できることです。経営戦略と人事戦略は同時進行で行われるため、必要な人材を適切な部署に配置できます。
人事戦略により、経営判断や人材配置にスピード感をもって取り組めます。

人事戦略の課題

明確な経営戦略がなければ、人事戦略を導入しても成果には結びつきません。人事戦略の導入には、社員の全面的な協力や意識改革が必要であるため、理解を得られないと変革の実現は困難です。
また、人事戦略には分析や立案が必要ですが、人事が日常業務に追われて手が回らないという課題が生じる場合もあります。

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人事戦略の立て方|6つのステップ

人事戦略の具体的な立て方について、6つのステップを具体的に解説します。


経営計画やビジョン、具体的な企業目標を理解する

最初のステップでは、自社の長期的な経営計画を把握する必要があります。経営計画を無視して人事戦略を立案すると、優れた人材を育成できたとしても、必要なスキルや能力をもった人材の配置はできません。各部署の経営計画に目を通し、社会における自社の使命やビジョン、具体的な企業目標などを理解しましょう。

 社員の現状を把握する

次のステップでは、社員の現状を把握します。そのためには、人材データを一元化したうえで、社員が持つスキルやこれまでの実績などについて分析する必要があります。客観的な人材の評価が可能な「人材アセスメント」の利用もひとつの方法です。人材アセスメントは、社員のスキルや能力などを可視化できるため、人事開発や人事考課にも効果的です。

必要な能力や確保したい人材などビジョンを明確にする

次に、必要とする能力と確保したい人材など、人材ビジョンを明確にします。前のステップで理解を深めた、経営計画の「経営ビジョン」や、既存の「社員のデータ」が役に立ちます。ここで明確になった人材ビジョンは、次のステップ以降の「採用計画」や、「人材育成計画」の立案に活かされます。

採用計画を立てる

人材ビジョンが明確になった段階で、採用計画を立てます。採用計画を立てるには、必要な人材と人数を具体化しなければなりません。たとえば、高度なスキルを持った先進的な人材が多ければよいとは限らず、規律を守り、協調性を保てる人材とのバランスを考えた採用計画を立てる必要があります。

人材育成計画を立てる

企業の理念や経営ビジョンを盛り込んだ、人材育成計画を立てます。これらを考慮せずに計画を立てると、企業が必要とする社員像から、大きくかけ離れた人材を育てることになります。実現可能な計画を立案するためにも、企業が理想とするモデル人材を設定するとよいでしょう。そのうえで、ターゲットとなる人材の洗い出しを行います。

組織人事戦略を進める

最後のステップでは、組織人事戦略を進めるための規則や規律をつくります。組織人事戦略とは、企業の経営方針にもとづいて行う組織開発です。企業の発展に貢献できる人材の確保と、育成が、組織人事戦略には欠かせません。
このように、6つのステップを確実にクリアしてこそ、組織人事戦略を進められます。ただし、人事戦略を策定するには、注意すべき点もあります。

関連記事:人材戦略で事業戦略を優位に進めよう!具体的な計画の策定方法とは

 人事戦略を策定する際の4つのポイント

人事戦略を策定する際に、重要とされる4つのポイントを解説します。

社内に周知する

従来の方法を変更することに抵抗感がある社員も少なくありません。人事戦略は、しっかりと社内に施策を周知し、協力体制を確立しましょう。社員の理解を進めるために、質問や説明の機会を設けてもよいでしょう。

経営戦略との整合性をとる

先述のとおり、人事戦略は、経営戦略の理解なしには進められません。そのため、経営戦略やビジネスモデルとの整合性がとれていることが、重要なポイントと考えられています。また、人事戦略の策定には、経営陣や人事部だけではなく、社員の意識改革も必要です。会社の戦略を丁寧に説明し、社員の理解を得る必要があります。

他社のやっていることに惑わされない

他社の成功事例は、人事戦略を立てる際に参考になります。しかし、他社の成功例をそのまま自社に取り入れても、同様の成果が得られるとは限りません。自社にあった人事戦略を立てるためにも、他社の取り組みに惑わされないようにしましょう。自社の課題や目標に沿った人事戦略を立てることが、成功への近道です。

責任者は自分の考えを持つ

従来の人事制度を覆す人事戦略を策定する場合、責任者が自分の考えをしっかり持つことが、特に重要です。社員の理解を得るためには、質問を受けた際に返答できる準備をする必要があります。
具体的には、人事戦略を行う理由、得られるメリット、他の選択肢との比較などについて、質問者を納得させられる回答を用意しましょう。

人事戦略と経営戦略を連動するためのポイント

人事戦略と経営戦略を連動させるために重要なポイントを3つに分けて解説します。

社員の役割や責任を明らかにする

経営戦略に基づいて、社員1人ひとりの役割・ミッション・責任範囲を明確にすることは、人事戦略にも大きく影響します。組織が目指す方法の具現化にもつながります。持続可能な成長を促すためにも、役割や責任を明らかにしましょう。

人員配置の見直しをする

社員の適正やスキル、考え方などを把握し、適材適所へ配置できる仕組みを整えましょう。人員配置の見直しは、社員のスキル向上や能力開発に役立ちます。成長を促す制度であるジョブローテーションを採用してもよいでしょう。社員にさまざまな部署や業務を経験させることで、スキルアップにつながるだけでなく、能力開発の面でも効果が期待できます。

評価制度やルールの見直しをする

評価制度やルールを見直し、経営目標の達成と、現行の評価・処遇の基準に差異がないかを確認しましょう。経営戦略と評価基準を合わせることで、組織全体が足並みをそろえた行動がしやすくなります。適正な評価は、社員の強みや改善点が明確になるため、育成のサポートにもつながります。また、社員のモチベーション向上にも有効です。

人事戦略策定に有効なフレームワーク

人事戦略の策定には、フレームワークの活用が有効です。ここでは、主なフレームワークを7つ解説します。

ケプナー・トリゴー(Kepner Tregoe)分析

ケプナー・トリゴー(Kepner Tregoe)分析は、アメリカの社会心理学者チャールズ・ケプナーと社会学者ベンジャミン・トリゴーが体系化した問題解決と意志決定の手法です。フレームワークは、以下の4つのステップで構成されています。

  • 状況把握:問題を特定して関連情報を収集
  • 問題分析:根本原因を特定
  • 決定分析:最適なソリューションを決定
  • 潜在的問題、潜在的好機分析:選択したソリューションの潜在的な問題を特定し、対処するための対応策を検討


CATWOE分析

CATWOEは「活動」を表現するツールです。Customers、Actors、Transformation Process、Weltanschauung、Owners、Environmental Constraintsの頭文字を並べたものです。それぞれの視点と意味は以下のとおりです。

  • Customers:問題や解決策が影響する対象者
  • Actors:問題に関わっている者
  • Transformation process:問題解決に必要な過程
  • World view:問題解決に影響する価値観
  • Owner:問題の分析、解決者
  • Environmental cunstraints:問題解決に影響をあたえる経済的要因


SWOT分析

SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境を洗い出し、分析する手法です。SWOTは、Strength、Weakness、Opportunity、Threatの頭文字をとった言葉です。それぞれの意味は、以下のとおりです。

  • Strength:強み
  • Weakness:弱み
  • Opportunity:機会
  • Threat:脅威


業務に影響をあたえる内部および外部要因を把握することで、効果的な人事戦略を策定できます。また、組織が持つスキルと不足している能力を特定できます。

ロジックツリー

ロジックツリーとは、問題とその原因をツリー状に書き出すロジカルシンキングの手法の1つです。複雑な事柄を可視化して分解することで、解決策の発見に役立ちます。問題点をリストアップできるため、優先順位がつけやすいことも特徴です。

VRIO分析

VRIO分析は、ヒト、モノ、情報など自社の経営資源が競合と比べてどれだけ優位性があるかを分析する手法です。これにより、自社の強みや弱みを把握できるため、経営戦略の立案や見直しに役立ちます。VRIO分析は、以下の4つの頭文字をとった言葉です。

  • Valuable:企業がマーケットの機会を生かして脅威を無効にできる、価値あるリソース
  • Rare:競合他社にないリソース
  • Inimitable:ほかの企業が追随できないリソース
  • Organization:リソースを活用する組織力


SCAMPER分析

SCAMPER分析とは、新製品やサービスの創造に役立つアイデア発想法の1つです。「オズボーンのチェックリスト」を下地に、アメリカの創造性開発の研究家、ボブ・エバール氏が開発しました。典型パターンに沿った質問に回答することで、アイデアを導き出します。それぞれの頭文字で提示される質問は、以下のとおりです。

  • Substitute:ほかのもので代用できないか
  • Combine:組み合わせることはできないか
  • Adapt:ほかのものを適用できないか
  • Modify:修正できないか
  • Put to other uses:何かに転用したり、使ったりできないか
  • Eliminate:削除できる部分はないか
  • Reverse:組み替えたり並べ替えたりできないか


根本原因分析

根本原因分析は、問題の原因がどこにあるかわからないときに役立つフレームワークです。原因を正確に特定し、恒久的な解決策を見つけるために有効な手法です。根本的な問題点を特定することで、再発防止や効果的な改善策につながります。

 人事戦略に成功した企業の事例

人事戦略の成功事例を2つ紹介します。人事戦略を策定するときの参考にしてください。

パナソニック株式会社の事例

パナソニック株式会社は、家電や電子部品、自動車用部品など、さまざまな事業を国内外で展開する企業です。持続的な企業成長のため、既存のビジネスモデルからの脱却をテーマに、新事業の成長に貢献できる人材の確保や、育成が課題とされていました。
成功のポイントは、社員の中から執行役員を選抜するという、従来の体制を見直したことです。グループ全体の経営と事業構造改革を担う「執行役員」と、個別の事業変革を担う「事業執行層」、将来の事業経営者「候補者」の3部構成にして、一人ひとりにあった人材育成や人材配置を実現しました。
※参考 人事戦略責任者メッセージ|パナソニック株式会社

オムロン株式会社の事例

オムロン株式会社は、制御機器や電子部品、社会システム、ヘルスケアなどの事業を展開するグローバル企業です。人材の採用や育成の見直しが必要となった背景は、2019年度に海外社員比率は70%に達したことです。
同社においては、企業理念や人材育成を一方的に行わず、社員の多種多様な強みを重視した人材採用や人材育成を計画したのが成功のポイントです。社内だけではなく、エリアや国の枠を超えた、グローバルな人材配置を実践しています。
※参考: 人財アトラクションと育成|オムロン株式会社

まとめ

人事戦略の導入により、経営状況にあった人材の採用や育成が行えます。その際には、経営戦略やビジネスモデルとの整合性が不可欠です。経営戦略と連動し、企業の成長を促進するためには、必要な人材を確保・育成し、人材のスキルや可能性を最大限に引き出すことが重要です。そのためには、人員配置や評価制度を見直し、社員1人ひとりの役割や責任を明確にする必要があります。

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