いまだに「採用」「育成」「人事管理」は担当者が別ですか?


いまだに「採用」「育成」「人事管理」は担当者が別ですか?

人事部門の中に「採用担当チーム」「人材育成担当チーム」「労務担当チーム」などがあり、職務別に担当者が異なっている。スタートアップで「人事担当者はひとりだけ」というケースでもない限り、それが一般的な体制です。しかし、それに異を唱える専門家がいます。プラスアルファ・コンサルティング取締役副社長の鈴村さんです。鈴村さんは最新のマーケティング手法に精通しており、「その手法を人材の活用に応用するべきだ」と提唱しています。その考え方に立つなら、「採用」「育成」「人事管理」がバラバラなのは弊害が大きいのだといいます。鈴村さんに人材活用のための最先端の手法を聞きました。

人事部門の中に「採用担当チーム」「人材育成担当チーム」「労務担当チーム」などがあり、職務別に担当者が異なっている。スタートアップで「人事担当者はひとりだけ」というケースでもない限り、それが一般的な体制です。しかし、それに異を唱える専門家がいます。プラスアルファ・コンサルティング取締役副社長の鈴村さんです。鈴村さんは最新のマーケティング手法に精通しており、「その手法を人材の活用に応用するべきだ」と提唱しています。その考え方に立つなら、「採用」「育成」「人事管理」がバラバラなのは弊害が大きいのだといいます。鈴村さんに人材活用のための最先端の手法を聞きました。

採用業務のゴールは採用ではない

──鈴村さんは「採用」「育成」「人事管理」がバラバラに動くのは問題だと指摘しています。職務が違うのだから、別々に動くほうが効率的ではないのですか。
いいえ。まったく非効率です。それでは、こちらから質問しましょう。企業の人材採用業務の目的はなんですか。
──採用のライバル会社に勝って、必要な人数を確保することです。
多くの企業がそこを目標にしていますが、それは間違いです。採用した人材が活躍してくれなかったり、すぐ辞めてしまったりすれば、無意味です。採用業務にさいた労力がムダになってしまうんです。採用業務の目標は、「活躍してくれる人材を確保すること」にあるはずです。
──採用した人材を、活躍してくれるようにするのが、育成担当が推進する研修だったり、人事管理担当が運用する評価制度の役割だと思うのですが。
では、育成担当が研修を実施するとき、「研修受講後、より活躍してくれるようになる」ことをKPIにして研修内容を企画しているでしょうか。人事管理担当が評価制度を運用するとき、「来期はもっと活躍してくれるようになる」ことをKPIにしているでしょうか。それぞれ、研修受講率だったり、評価フローのつつがない運用だったり、別の目的を追求していますよね。

活躍している人材の採用時のデータは?

──確かにそうですね。本来は、「より活躍してもらえるようにする」というひとつの目的に向かって、採用も育成も人事管理も動くべきだ、と。現状、バラバラなのはどうしてですか。
どんな人材が「活躍してくれる」のか、わかっていないからです。少なくとも「現在、活躍している人材は誰なのか」「その人はどんな育成プロセスを経ていまにいたっているのか」「その人は採用時にどんな評価を受けたのか」といった情報が必要です。こうした情報が蓄積されていれば、たとえば「ウチで活躍している人材は、採用時のエントリーシートにこういうことを記入し、面接のときにこういうことを発言していた人が多い」といったことがわかります。それにもとづいて採用すればいいわけです。
でも現状、そんなデータはない。だからとりあえず、採用人数をKPIにして動いているわけです。
──なるほど。育成担当者も「いま、ウチで活躍している人材は、○年目に△△研修を受け、□年目に××業務を経験している人が多い」というデータがあれば、それに沿った育成計画を立案できますね。
そういうことです。でも、そんなデータはない。それどころか、育成担当が企画立案している研修と、その結果としての人材の活躍ぶりを連関させたデータさえ、とっていない。実施した研修が本当に「より活躍してもらう」ために役立ったのかどうかわからないので、PDCAを回してよりよい研修にしていくことができない。結局、「研修後に実施した受講者アンケート調査で『ためになったと思う』が7割を超えている。だからいい研修だった」といった、本筋から外れた指標で効果検証している。
その結果、本当に意味のあるPDCAを回せない。育成担当は時間と労力を費やして研修を実施しています。でも、それが価値のある仕事になっていないわけです。

「社員のLTV」という考え方を導入しよう

──各担当者が一生懸命、業務に取り組んでいるのに、「人材が活躍している」という成果につながっていない…。
ええ。私は大手シンクタンクでエンジニアとして最先端のマーケティング技術に取り組んできた経験があります。マーケティングの世界ではLTVという概念があるんです。Life Time Value(ライフ タイム バリュー)の略語で、日本語では「顧客生涯価値」。 特定の顧客が、自社と取り引きを開始してから終了までの期間に、どれだけの利益をもたらすのかを数値化したものです。マーケティング部門もセールス部門もカスタマーサポート部門も、「顧客のLTVの最大化」という同じ目標に向かって動くのです。
マーケティング部門はLTVが大きいであろう顧客層にアプローチする。セールス部門はLTVが大きくなる提案をする。カスタマーサポート部門はLTVが減らないように、できるだけ長く取り引きできるように顧客とコミュニケーションをはかる。それによって、企業は個々の顧客からの利益を最大化させ、総体としての収益を最大にできるのです。
私は、このLTVの概念を社員に対しても取り入れるべきだと思います。特定の社員が、自社に入社してから退職するまでの期間、どれだけ活躍してくれたかを数値化。採用担当も育成担当も人事管理担当も、それを最大化するという共通目標に向かって動けばいいんです。
──なるほど。活躍している人材のデータが蓄積されていれば、それが可能になりますね。
その通りです。マーケティング分野では、データをフル活用して、顧客LTVを最大化するためのテクノロジーがどんどん開発されています。ところが、社内人材の活用という分野では、従来通りのアナログな手法、属人的な手法で業務が行われています。「そこから脱却しなければならない」という意識をまずもってほしい。そのうえで、人材データを蓄積する情報プラットフォームを整備し、採用担当も育成担当も人事管理担当も「社員により活躍してもらう」というワンゴールに向かって、まい進してほしいですね。

鈴村 賢治

中央大学理工学部を卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。 システムエンジニアとしてCRMシステムなどの開発に携わった後、営業・マーケティング責任者としてテキストマイニング事業に参画。 2007年、株式会社プラスアルファ・コンサルティングに入社 取締役副社長に就任。社員のパフォーマンスを最大化するためのタレントマネジメントの普及活動などのため、日々全国・世界を駆けめぐっている。共著に『顧客の声マネジメント』(オーム社)など