残業100時間は基本的に「違法」
2019年4月に施行された働き方改革関連法によって、労働基準法の保護対象外である役員や管理監督者などを除き、残業および休日労働時間の合計が100時間を超える労働は基本的に違法となりました。
残業100時間は、いわゆる「過労死ライン」を超えており、心身ともに健康を損なう可能性が高いと考えられるためです。したがって、企業が社員に対して残業100時間を超える労働を求めることは、法律で非常に厳しく制限されています。
原則、上限は「月45時間」
法律で認められる残業時間は、原則として月45時間です。
月45時間の基準は、労働基準法に基づいています。労働基準法では、企業は労働者に対して月45時間を超える残業を原則として求めてはならないと定められているためです。
なお、労使間で特別な協定が結ばれている場合のみ、45時間を超えることができます。ただし、月45時間を超えることができるのは年6か月までなど、超過についての規定を厳守しなければなりません。詳細は次項をご確認ください。
特別条項付き36協定を締結すればよい?
一般的な36協定(サブロク協定)を締結しても月の残業時間は45時間が上限ですが、特別条項を付すことで一定の条件下でこの上限を緩和できます。
しかし、特別条項付き36協定でも、月100時間を超える残業は違法です。このほか、1年の残業時間は合計720時間まで、2~6か月の残業時間を平均した数値がいずれも1か月あたり80時間以内と規定されています。そして前項で触れたとおり、月45時間を超える残業が可能なのは年に6か月までです。
36協定について|基礎的な内容や残業時間の上限などの概要を紹介
残業100時間を超えた場合は何が問題になる?
1か月の残業100時間は「過労死ライン」といわれており、超えた場合は心身に過剰な負担がかかることによるさまざまな影響が懸念されます。
身体的な影響として想定しうるのが、脳血管疾患や心疾患などです。休みが少なく長時間のストレスがかかることによって、体調が急変してしまう可能性があります。また心理的には、うつ病に代表される精神障害を発症するケースが想定されるでしょう。
残業100時間を超えた場合に企業に科される罰則
残業100時間を超えた場合、企業には労働基準法119条1号、36条6項2号に基づき、「6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金」が科される可能性があります。これらの罰則は、企業そのもの、もしくは上長など労務管理の責任者に対して科されるものです。
時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間で、特別条項が適用されるのは臨時的な特殊事情のあるケースのみです。一方、先述のとおり、特別条項を付けた場合でも年720時間以内、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内、月45時間を超えるのは年6か月までという条件を守る必要があり、いずれの条件を満たせなかった場合でも罰則の対象です。
月80時間超えの時点で「かとく」が入ることも
残業が月100時間以内でも、80時間を超えている事業場については管轄都道府県労働局の過重労働特別対策班(かとく)の立入検査対象になる可能性があります。
過労死ラインは1か月100時間の残業でもありますが、1か月平均で80時間を超えてもまた過労死ラインを超えるといわれているためです。2021年にはさらに、これらに近い残業時間で、かつ連続勤務や不規則勤務などでも過重業務として認められるようになり、月100時間だけが基準ではなくなりました。
「かとく」は2016年に違法長時間労働および過重労働の撲滅を目的に設立されたものです。摘発逃れを目的とした勤怠データ改ざんに対応するため、ITに精通した労働基準監督官が配属されています。
残業100時間超えが企業に与える悪影響
残業100時間超えは、働く人だけの問題ではありません。過剰な残業が企業に与える悪影響について解説します。
過労死などの深刻な事態を引き起こす
先述のとおり、残業100時間超えは過労死ラインを超えてしまうため、実際に過労死などの深刻な事態を引き起こします。
残業が月100時間に達しているとなれば、社員が毎日終電帰りを余儀なくされている、心身の疲労が蓄積している、といった状況が想定されます。過労死はいつ起こるかわからない事態です。万が一にも社員の心身に異変が起きた場合は、情報が広まり、上場や資金調達などに悪影響が及ぶ可能性もあるでしょう。
離職率が高まり人手不足に陥る
残業100時間の慢性化は、社員にとって過労死ラインを超える心身の負担をもたらします。有能な社員ほど、自分自身が疲弊しきってしまう前に転職を検討し、早期に離職してしまう可能性があるでしょう。情報化社会では残業が多いといった噂もすぐに流布されるため、人材を募集しても優秀な人材が応募してくることはなくなります。
このように残業100時間は、有能な社員の疲弊や転職を招くため、企業にとっても避けなければならない深刻な問題です。
離職を検知する7つのアプローチとは?データ活用により離職防止を実現
残業代の支払いが増加する
社員の残業が増えると、それに伴う残業代の支払いも増加します。
通常、時間外労働の割増賃金率は25%以上ですが、月60時間を超えると割増率は50%以上に上がることが定められています。さらに深夜(22:00~5:00)の残業になった場合は、深夜割増賃金も加算されるため、「月60時間を超える深夜残業」では通常の賃金の175%を支払わなければならないのです。
残業が多ければ生産性が下がることも懸念され、低い生産性に対して多くの支払いが発生する悪循環に陥ります。
残業100時間超えでも違法性が認められないケースとは
一部には、残業100時間超えでも違法にならないというケースもあります。ここでは、残業100時間超えで違法性が認められないケースについて解説します。
管理監督者であるケース
労働基準法第41条によれば、管理監督者に該当する管理職には、労働基準法の労働時間の上限規制や36協定が適用されない、と規定されています。しかし、「課長」「部長」などの肩書きがついていても、人事権や採用権限、労働時間の裁量権がなく、待遇面でも明らかな優遇ではないと判断された場合は、管理監督者ではないと判断されることもあるのです。
実際に、月100時間以上の残業によって退職したケースでは、課長職にあった男性に「管理監督者ではない」として未払いの残業代が約1,500万円支払われた事例もあります。
公務員であるケース
国家公務員や一部の地方公務員は、公務の円滑な運営が求められるため、労働基準法が適用されません。したがって公務員は、残業時間が100時間を超えても労働基準法違反とはならない、というのが基本的なルールです。
ただし、公務員でも残業が著しく超過しないよう、独自の規定が設けられていることが多いでしょう。たとえば国家公務員の場合は、人事院規則のなかに残業100時間を上限とする規定があります。地方公務員の場合は各自治体によって規定が違いますが、国家公務員に準ずる条例が大半です。
残業が慢性化している職場の特徴
残業が慢性化している職場には、以下のような特徴があります。自身の職場で該当する条件が多い場合は、過剰な残業に気をつけると良いでしょう。
そもそもの業務量が多い
企業や部署において、人数・事業所の規模に対して業務量が多すぎると、残業が増えがちです。このような状況下では社員が定時内に仕事を終わらせることができず、結果的に残業が常態化することとなります。
企業では、しばしば人手不足や過度な目標設定が過剰な残業の原因となります。常に社員が残業をしているという場合は、人員や目標の見直しを行う必要があるでしょう。
職場の雰囲気などに影響されて残業せざるを得ない
職場の文化や雰囲気が残業を奨励するものであったり、上司や同僚が常に残業していたりすると、社員もそれにつきあって残業せざるを得ない状況になることがあります。「上司や先輩よりも早く帰宅するのはおかしい」というような暗黙のプレッシャーや同調圧力が存在し、早く帰ることが難しい場合も多いのです。不要な残業が発生すれば、余計な残業代を出すことにもつながるため、企業の風土を見直すのもおすすめです。
社員が残業代を稼ぎたいと考えている
経済的な理由から社員自身が残業代を得たいと考え、意図的に残業を行うケースもあります。特に基本給が低い場合や、残業代が収入の重要な一部となっている場合に見られる状況です。
残業代が目的で残業を増やしているとしても、月100時間にも及ぶ残業は心身を壊し、収入が断たれることにつながる可能性もあります。管理者側も労働者側も、状況の改善を図る必要があるでしょう。
長時間労働を削減するために企業ができること
企業が適切な対策をとることで、長時間労働を削減できる可能性があります。ここでは企業が長時間労働を削減するためにとれる対策を紹介します。
労働の平準化を行う
部署ごとの業務量の偏りや、特定の社員に集中する長時間労働の問題を解決するため、多能工社員を増やして業務を平準化すると効果的です。多能工社員ならば、1つの部署で手が足りないとき他部署から応援に入ることができます。
多能工社員は日常的な業務ローテーションで計画的に育成するのがコツです。さらに、各部署に必要な技術や資格・能力を明確にして業務仕様書をまとめることで、育成指導がしやすくなるでしょう。
勤怠管理システムを導入する
労働時間の管理体制を見直すためには、各部署や社員の勤怠状況をリアルタイムで確認できる就業管理システムの導入が重要な鍵となります。
このシステムでは、法定労働時間の上限に近づいたときにアラートが表示されるなど、残業状況の可視化が可能です。慢性的に残業をしていると、いつの間にか残業100時間に近づき、超えてしまうこともあります。勤怠を見える化すれば、残業削減の意識を高められ、生産性向上にも役立つのです。
ノー残業デーを導入する
特定の曜日を「ノー残業デー」とルール化することで、退勤しやすい環境を整えるのも1つの手段です。
ノー残業デーを導入するのは、主に「他の社員が残っている手前、自分だけが退勤しづらい」と感じる人のため、といえます。ノー残業デーを導入することで全員が退勤しやすくなり、全体として残業が減ったり、ノー残業デー以外でも退社しやすい雰囲気ができたりすることが音リットです。
長時間労働を削減するために社員ができること
長時間労働の削減は、社員の側からも実現できることがあります。長時間労働を削減するため社員ができることをまとめました。
業務の現状を把握する
社員がまずやるべきことは、業務の現状把握です。業務プロセスを細分化し、定期的な業務と突発的な業務を1つひとつ分解して、全体像を把握しましょう。
その後、作業ごとにかかる時間をタイマーで計測し、どの作業にどれだけ時間を費やしているのかを明確にします。最も時間がかかる作業を洗い出して短縮方法を考えることで、社員1人ひとりが日々の仕事に対する問題意識を持つことができ、業務にかかる時間を少しずつ減らせる可能性があるでしょう。
業務に優先順位をつける
業務の現状把握をおこない、全体の内容・所要時間が把握できたら、業務の優先順位をつけていきます。
目の前の仕事にそのまま順番通り取り組むのは、効率を下げる原因の1つです。「重要かつ緊急度が高い」「重要ではあるが緊急度は低い」「重要ではないが緊急度が高い」「重要でもなく緊急度も低い」と業務を4つに分類しましょう。そのうえで、重要かつ緊急度が高い業務から優先的に進めると、作業時間の短縮、長時間労働の削減につながります。
上司に相談・報告する
効率的に仕事が進められない状態は、上司に相談することでも解決できる可能性があります。
自分1人で同じやり方を続けていると、非効率的になりやすいものです。仕事量についても自分1人で裁量できることは少ないため、残業が多いようであれば量の調整を上司に依頼しなければなりません。
定期的に上司と相談の機会をもち、仕事のやり方やボリュームに対してアドバイスを得たり、仕事量の調整を行ってもらったりすることも必要でしょう。
まとめ
残業100時間は心身の健康を損なう危険性があり、法的にも規制されています。実際には、残業80時間を超える状態が続くと危険だともいわれており、残業時間数が多い場合は対策をとる必要があるでしょう。
過剰な残業を減らすためには、企業と社員がともに仕事の効率化に取り組む必要があります。とりわけ機能的な人事管理システムの導入は効果的です。
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