こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
異動を拒否する権利は、原則として従業員にはありません。しかし、人事異動の命令を拒否できるケースもあるため、法律や規約の確認が必要です。この記事では、従業員が異動を拒否できるケースや、拒否された場合の対処法について解説します。
人事異動の種類
人事異動には、さまざまな種類があります。ここでは、代表的な人事異動である、「配置転換」「出向」「転籍」の3種類について解説します。
配置転換
配置転換とは、人材の所属を別の部署へ変更したり、担当する職務を変えたりすることです。ときには勤務地が変わることもあるため、従業員にとっては大きな負担になるケースもあるでしょう。それでも、「どのような仕事を行わせるか」「どこで働かせるか」を決める権限(人事権)は会社が持っています。
出向
出向とは、在籍している会社の雇用契約を維持した状態で、一定期間別の会社で働いてもらうことです。定められた期間が終了すれば、元の職場(雇用契約を維持している会社)へ戻ります。後述する転籍も含めて、就業規則には、出向についての条文が盛り込まれていなければなりません。
民法第625条第1項によると、出向(転籍)先の企業に権限を譲渡する場合は、労働者(従業員)の承諾が必要です。ただし、出向は現在勤めている会社(企業)での身分を保持した状態で異動するため、完全に権限を譲渡するわけではありません。
就業規則に出向についてある程度定められていれば、雇用契約時に包括的な同意を得ていることになります。そのため、従業員は原則、出向に関する異動命令を拒否できません。
転籍
転籍とは、在籍している会社と従業員の雇用契約を終了させ、別の会社と新しく雇用契約を結ぶことです。現在従業員が勤務している会社での籍が転籍先の会社へ移るため、原則的に元の会社に戻ることはありません。
出向と同じく、転籍についても就業規則に内容を記しておくと同時に、転籍の場合は必ず従業員の同意が必要になります。これは出向とは異なり、転籍では雇用契約を結ぶ相手が変わるためです。
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人事異動を拒否できるケース
就業規則や雇用契約書に配転命令権(人事権の一つ)が定められている場合は、基本的に人事異動を拒否できません。しかし、条件によっては異動命令が拒否できるケースもあります。
限定的な職種や勤務エリアの場合
職種や職場(オフィス)が労働契約内で限定されている場合は、異動を拒否できる正当な理由になることがあります。労働契約で定められている職種・職場以外への人事異動では、会社の人事権が認められないケースがあるため、注意が必要です。
従業員の不利益が大きすぎる
会社は人事権を有していますが、「権利濫用」は認められていません。昭和61年7月14日の配置命令権に関する裁判(東亜ペイント事件)では、一般的に受け入れられる程度を大きく超えた転勤命令は、配置命令権の濫用にあたると述べられています。
たとえば、家族に介護が必要になった場合は遠方への出向や転籍が困難になるため、人事異動は従業員にとって大きな不利益になるでしょう。また、特定の病気で治療できる病院が限られている場合も、大きな不利益と見なされるかもしれません。
不当な動機・目的の場合
不当な動機や目的で人事異動を行った場合も人事権の濫用と見なされるため、人事異動が拒否できる正当な理由になります。
不当な動機・目的として代表的なのは、恨みや嫌がらせ、懲罰的な意味合いを含む配置転換・出向・転籍です。また、大きな不利益とまではいえないものの、異動を命令することによって退職へ追い込もうとする場合も、人事権の濫用にあたります。
賃金の減額はできない
異動によって仕事内容が変わっても、賃金の減額はできません。これは、賃金が労働契約によって合意されたものだからです。そのため、配置転換や出向・転籍などの異動により賃金の引き下げを求められた従業員は、その人事異動を拒否できます。
異動を拒否された場合の対処法
では、従業員に人事異動を拒否されたら、どうしたらよいのでしょうか。ここでは、従業員に異動を拒否された場合の対処法について解説します。
人事権や異動の根拠について説明する
従業員が人事異動を受け入れ難い場合は、原則として配置転換の命令を拒否できない旨を丁寧に説明し、理解を得ましょう。この原則は自社だけでなく、すべての会社でも同じであることや、関連する法律についても説明をすると、納得してもらえるかもしれません。
また、配置転換に至った経緯や異動先で期待していることなども伝えて、従業員のモチベーションを維持しましょう。
待遇面を見直す
配置転換によって従業員が賃金に不利益を感じ、不満を持つこともあります。このような場合は、待遇面について話し合うために面談の機会を設けるとよいでしょう。その後、賃金面や福利厚生などで待遇を調整することで、異動を受け入れやすくなるかもしれません。
懲戒処分を検討する
ヒアリングや話し合い、条件の調整など、一定の配慮を示したにもかかわらず、従業員に拒否の姿勢を貫かれることがあるかもしれません。そのような場合は、人事権に裏付けされた業務命令への違反として、懲戒処分を検討することもできます。
ただし、懲戒処分が妥当かどうかは厳格な審査が求められるため、懲戒処分を検討する際は、労働基準法に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。
人事異動を拒否されないためのポイント
人事異動を拒否されることなく、快く頑張ってもらうためには、どのようなポイントに着目すればよいのでしょうか。ここでは、3つのポイントを解説します。
就業規則や雇用契約書の記載内容を見直す
強引な人事異動が多いと感じられないように、就業規則や雇用契約書の人事異動に関する事項を改定することも検討しましょう。従業員全員にヒアリングを行い、柔軟性のある内容に調整すれば、従業員が異動を受け入れやすくなるでしょう。
また、トラブル防止のためにも、雇用契約書の範囲を超える異動が発生する可能性があるなら、そのことについても記載しておきましょう。
各従業員の状況を把握する
働き方が頻繁に変わる中、「育児介護休業法」や「労働契約法」などが改正されることで、人事異動にも配慮が求められるようになりました。会社の都合だけでなく、従業員の業務内容や家庭の状況などにも配慮して人事異動を検討しましょう。
人事異動の理由を明確に説明する
従業員が異動の理由を知るだけでも、配置転換や出向・転籍を受け入れやすくなるでしょう。会社が中長期的に目指している組織体制や業績を説明することで、従業員のモチベーションの維持につながります。
まとめ
従業員には、基本的に人事異動を拒否する権利はありません。しかし、契約により職務や職場が限定されている場合や不利益が大きい場合は、人事異動を拒否する理由として認められることがあります。労働基準法や就業規則をよく確認し、できるだけトラブルのない人事異動を目指しましょう。
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