後継者育成に早くから取り組んでおくと、いざというときに事業の衰退や倒産の危機から企業を守れます。後継者育成を円滑に進めるには、いくつかのポイントがあります。この記事では、後継者育成の定義・後継者育成の目的や直面する課題・後継者育成の取り組み方などを解説します。企業の発展に向けてお役立てください。
人材育成に必要なスキル分析とは?最適な育成方法でパフォーマンスを最大に
後継者育成とは
後継者育成とは、現経営者の引退後に企業を任せられる人材を育成することです。同族経営の企業に限らず、後継者育成は多くの企業で実施されています。
後継者育成に必要な期間
後継者育成には、数年から10年ほどかかります。後継者候補を選抜したうえで、後継の意思を確認して多くを学んでもらうためには時間が必要です。いち早く後継者育成に取り組みましょう。
後継者育成の意義・目的
企業では、病気などで急に現経営者が不在になると、倒産する恐れもあります。後継者育成は、倒産や事業縮小、企業イメージの低下などのリスクを回避するため、経営を安心して任せられる人材をあらかじめ育成しておくことが目的です。
ゴールは事業承継
後継者育成のゴールは、スムーズな事業承継です。企業は経営者一人のものではなく、社員や取引先、株主など多くのステークホルダーの信頼に応える責務があります。特に中小企業では、経営者の交代が頻繁でないため、事業承継の影響は大きいでしょう。業務の単なる引き継ぎではなく、後継者が経営者として実力を発揮できるよう、長期的な視野に立った計画的な育成が重要となります。
後継者育成をしない企業が抱える3つのリスク
後継者育成をしなければ、現経営者がいなくなったときに対応できないかもしれません。後継者育成をしない企業が抱えるリスクを解説します。
リスク1.人材の流出
後継者が決まっていなければ、何かあったときに急遽後継者を任命することになります。しかし、新しい後継者のやり方に納得できない、働き方が変わると困る、などと後継者に対して社員は不満を抱えるかもしれません。不満を持つ社員は、離職を検討する恐れがあります。
リスク2.事業の衰退
経営者の人柄や手腕が評価されて、事業が安定している企業もあります。急に経営者が変わると、取引先との信頼関係が失われて事業が衰退する引き金になるかもしれません。また、世間に親しまれる経営者であれば、代替わりによる企業イメージの低下も問題です。
リスク3.倒産
上述した人材の流出と事業の衰退の結果、しだいに企業活動は難しくなります。急遽任命された後継者に、かつての経営者のようなノウハウや求心力があるとは限りません。しっかりした後継者がいないばかりに、倒産に至るケースもあります。
後継者育成の3つの課題
後継者育成は大切ですが、育成に悩んでいる企業も多く見られます。後継者育成で直面する3つの課題について解説します。
課題1.後継者を選べない
育成する人物像や方向性を十分に精査できていないケースがあります。企業側で後継者を選抜する基準が分からないからです。後継者候補を選ぶ前に、経営方針を振り返りながら求める人材の特徴を整理しましょう。
課題2.後継者育成の仕組みがない
教育プログラムが確立されていないために、後継者育成を進められない企業もあります。教育を担当できる人手を確保できない場合も、適切な育成ができません。また、優秀な人材は部門にとっても貴重な存在です。後継者育成よりも仕事に専念してもらいたいと考える部門も少なくありません。職場の意向によっても、後継者育成は難航します。
課題3.慢性的な人材不足
企業の慢性的な人材不足も、課題の1つです。かつては経営者の子や親族が後継者となることが一般的でしたが、近年は子が親の事業を継ぐケースが減少しています。また、転職市場が活発化した影響で、候補者として育成していた人材が転職してしまうリスクもあります。優秀な後継者候補の確保は、大きな課題です。
後継者育成の4つのポイント
安心して企業を託せる後継者を育てるには、育成の開始時期や内容が重要です。後継者育成のポイントを解説します。
1.早期に育成し始める
現経営者がいなくなるタイミングは、予測できません。急なトラブルが起きると、準備不足のまま後継者に企業を引き継がせることになります。そのため、万全の準備を整えてから後継者に企業を託したいと考える企業は多いのではないでしょうか。数々の部門や役職を経験させるなど、後継者育成には時間がかります。若手のうちから後継者育成を始めましょう。
2.厳しい環境に身を置かせる
ときに経営者には、企業のために厳しい決断を下す役割が求められます。厳しい決断の例として、事業の撤退や方針転換の決定、社員のリストラなどが挙げられます。厳しい環境で働いた経験がなければ、いざというときに決断できないかもしれません。あえて厳しい環境を経験させるために、子会社や事業所の立ち上げなどに後継者を配属する企業もあります。
3.サーバントリーダー的な明確な役割を求める
サーバントリーダーとは、社員をサポートするタイプのリーダーです。サーバントリーダーは、社員が気持ちよく、効率よく働ける環境を整えます。また、社員の意向を尊重し、密にコミュニケーションを取る役割もあります。
後継者にサーバントリーダーが求められる理由は、スムーズに事業を引き継ぐためです。支配的なワンマン型のリーダーを後継者に選んでも、社員の賛同を得られない恐れがあります。
4.後継者をサポートする人材も育成する
企業のために、後継者は厳しい立場に身を置くよう求められます。社員から反発され、孤立感を覚える後継者も少なくありません。信頼できる相談相手は、経営者の心の支えになります。
後継者育成計画(サクセッションプラン)策定が重要な理由
後継者育成計画はサクセッションプランとも言われ、企業が社員やステークホルダーの期待に応え、持続的な成長を実現するうえで欠かせない重要な施策とされています。具体的には、以下のような理由があります。
・社員のモチベーション向上
・組織の変化対応力向上
・ステークホルダーの評価向上
・コーポレートガバナンス・コードの遵守
計画は、長期的な経営戦略に基づいて策定されるため、社員にとってはキャリアステップの道筋となります。経営戦略と人事戦略の連携が不可欠なため、事業環境の変化に強い組織を作ることにもつながるでしょう。
「コーポレートガバナンス・コード」は、東京証券取引所が定める企業統治の原則です。取締役会が後継者計画の策定・運用に主体的に関与することを求めているため、計画策定は投資家にとっても、企業の安定成長を感じさせるものとなるでしょう。
【3ステップ】後継者育成の流れ
まずは後継者候補を選定する条件を決めるところから、後継者育成を始めましょう。後継者育成のためのステップを解説します。
ステップ1.後継者候補を選定する要件を決める
後継者候補を選定する条件には、以下のようなものが挙げられます。
・組織をまとめるリーダーシップ力が備わっている
・主体性を持ち、行動に移せる
・コミュニケーション力が高い
・交渉力がある
・責任感が強い
・危機管理能力が高い
・自社や事業に対する理解が深い
・周囲から学ぶ謙虚な姿勢が備わっている
・客観的な視点を持っている
ステップ2.後継者候補を選定する
後継者候補は、親族や社内の人材から選びます。候補者の能力には差があるため、いくつかにグルーピングすると育成を進めやすくなります。人材データを集約し、これまでの経験やスキル・保有資格・人事評価などを一覧化すると、効率的で高精度なグルーピングが可能です。
ステップ3.後継者候補を育成する
後継者を育成する方法は、社内でできるものと、社外にできるものに分けられます。育成内容を決めたあとは、スケジュールも組みましょう。各過程で後継者に学ばせる内容を明確にして、後継者候補を離脱させる基準も決めておきます。準備ができたら育成を始めましょう。
【社内】後継者育成でスキルを習得させる3つの方法
後継者のスキルは、さまざまな手段で育成できます。ここでは、社内でできる方法を3つ解説します。
方法1.各部門の経験を積ませる
若いうちは、ローテーションでいくつもの部門を経験させることが大切です。各部門で専門知識やスキルを身につけさせましょう。特定の部門に長く在籍すると、思考が偏る恐れがあります。後継者には企業全体を任せるため、視野の広さが必要です。
また、多くの部門を経験すると人脈が広がります。部門を問わず顔が知られていれば、後継者として社員に認めてもらいやすいと考えられます。
方法2. 役職で責任ある立場を経験させる
主任・係長・課長・部長と段階的に役職を上げ、役職ごとの役割を理解させながらリーダーシップと責任感を養いましょう。いきなり上の役職に昇格させてしまうと、各役職の権限や役割を理解できません。将来、各役職とスムーズにやり取りするためには、自分がその役職について把握しておく必要があります。
方法3.現経営者自身が直接指導する
後継者候補と経営者が向き合い、経営理念や業界の動向、ノウハウなどを教えてもらう時間は大切です。経営者が一方的に思いを伝えるだけではなく、会話形式での指導が望まれます。後継者候補に経営に対する考えや事業の展望などを話してもらうと、企業を託される意気込みや企業の将来に関するビジョンも共有できます。
【社外】後継者育成でスキルを習得させる2つの方法
後継者のスキルを育成する手段について、社外でできる方法についても2つ解説します。
方法1.外部のスクールやセミナーへの参加
外部のスクールやセミナーを利用すると、経営戦略や財務会計など経営に役立つ知識から社内にノウハウがない情報まで幅広く効率的に学べます。外部機関を利用すると人脈の育成も可能です。孤独を感じやすい後継者であるからこそ、同じような境遇の人と知り合えると心強いと考えられます。また、豊かな人脈をビジネスに活かせると、企業の成長にもつながります。
方法2.外部会社や関係会社での経験
後継者候補の知識やスキルがある程度養われたら、外部での勤務経験を積ませましょう。知見を広げて人脈を開拓させるためには、子会社やグループ会社・他社などでの経験がおすすめです。1つの企業に勤め続けると、いつのまにか固定観念を持っているかもしれません。後継者候補が新しい価値観やノウハウに触れると、企業の躍進にもつながります。
後継者育成の成功事例3選
後継者育成の成功事例を紹介します。自社の後継者育成にお役立てください。
1.某化粧品会社の事例
某化粧品会社では、後継者候補を以下の3段階に分け育成に取り組んでいます。
・今すぐに後任となれる人材
・1~3年で後任として育成する人材
・3~5年で後任として育成する人材
段階ごとに適した育成を施し、効果的に後継者を育てます。例えば、3~5年後の活躍を想定する人材に対しては、後継者育成プログラムと業務のローテーションを並行して実施します。
2.某飲食店の事例
某飲食店では、創業者が早々に後継者に企業を譲り渡しました。「後継者育成は、経営者が真摯に仕事に取り組む姿勢を見せることが重要である」と、創業者は語っています。後継者は8年ほど経営陣の一員を務め、副社長に昇進しました。創業者と後継者は20年以上の付き合いがあり、後継者の資質はじっくり見定められています。
3.某化学メーカーの事例
某化学メーカーでは、オリジナルの経営者育成制度によって後継者を育成しています。後継者候補は、現役員に推薦させます。後継者候補の選定のポイントは、海外とのビジネス経験、交渉能力などです。
選抜された後継者候補は、年齢により3つにグルーピングされたうえで育成が進められます。
まとめ
後継者育成に取り組んでおくと、急に現経営者がいなくなったときに企業を守れる可能性があります。後継者育成は、候補となる人材を選ぶところから始まります。人材データを集約化して、後継者候補に役立てましょう。
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