部下を持つ経営者や管理職は、部下から退職の相談を受けるケースも少なくありません。退職すると打ち明けられた際、本心では辞めてほしくないという気持ちがあるでしょう。しかし、上司としては適切な対応を求められます。本記事では部下の退職について、前兆や防止策から適切な対応方法まで解説するので、ぜひ参考にしてください。
部下の退職に関する現状
近年では若年層を中心として自身の成長のために転職を選ぶ人が増え、一昔前とは違って転職は珍しいことではなくなってきています。日本企業でも働き方のグローバル化が進んだことで、転職へのハードルは下がる傾向です。特に企業や業務への不満がなくても、自身の成長のためやキャリアアップを目指し、退職を考える人は少なくありません。
従来のような終身雇用の考え方も薄まり、さまざまな経験を積むことでキャリアを積み上げる考え方も広がってきました。そのため、部下を管理する上司には、働き方の変化にも理解を示す必要があります。
部下が退職を考えているときの前兆
では、実際に部下が退職を考えている場合、前兆は感じられるのでしょうか。以下の3点に注意してみてください。
業務に身が入らなくなった
実際に退職を検討する状況になっていると、今の会社で頑張ろう、実績を上げようと思う気持ちが低下しているかもしれません。そのため、目の前の業務に対するモチベーションが下がったり、集中できなかったりすることもあります。明らかに業務に身が入っていない様子なら、退職を考えている可能性もあるでしょう。
社内でのコミュニケーションが減った
退職を考えている場合は、社内でのコミュニケーションが減る傾向です。積極性もなくなるため、ミーティングで発言することが少なくなったり、連絡への返信が滞りがちになったりすることも増えます。退職まで考えてなくてもトラブルを抱えている可能性があるため、上司や同僚との会話が減っていないかどうか注意してみてください。
不平不満が増えた
仕事や社内の人間関係などに対する不平不満が増える部下も、退職を考えている可能性があります。あからさまに不平不満を発するということは、それだけ現状に納得していないことの現われです。不平不満や否定的な発言が増えるようなら、原因を探りましょう。抱えている不満を放置していると、そのまま退職につながる恐れがあります。
欠勤や有休消化が増えた
退職の意向がある部下には、欠勤や有休消化が増える傾向もあります。退職を考えて悩んでいると仕事への意欲が低下するだけにとどまらず、ストレスや不満が体調に影響し、休みがちになることも多いからです。すでに転職活動をしている場合は、面接で休むケースもあるでしょう。退職前に有休消化をしようと考える人もいます。
部下が退職してしまう主な理由
そもそも退職してしまうのには、どのような理由があるのでしょうか。具体的には以下で解説する5つの理由が考えられます。
待遇や評価に不満がある
業務は毎日向き合わなければならないことです。それだけに業務量や業務内容に対して待遇が見合っていないと感じたり、正当に評価されていないと感じていたりすると、退職につながる可能性があります。努力したにもかかわらず、評価に反映されていないと働きがいも生まれないでしょう。結果的に別の環境で働きたいと思ってしまう人もいます。
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業務量が見合っていない
業務量が多すぎても少なすぎても、退職につながる可能性があります。多すぎれば時間内に業務を終わらせるのが困難になり、残業になることもあるでしょう。負担が大きくなりすぎると不満につながります。一方で、少ない場合は信頼されていないと感じる可能性もあり、モチベーションが削がれて、やはり不満に感じるかもしれません。
仕事上の人間関係に問題がある
上司や同僚など、日々の仕事でかかわる人との関係に問題が生じるとストレスを感じ、結果的に退職につながることもあり得ます。ハラスメントにあっていたり、コミュニケーションがうまく取れずに孤立していたりすればなおさらです。その職場での仕事に対して嫌悪感を抱いてしまうことも考えられ、退職につながる可能性があります。
仕事に魅力を感じなくなった
長期間同じ業務を続けていると、仕事自体は慣れて効率よくこなせるようにはなるでしょう。しかし、慣れてしまうと仕事そのものに魅力を感じなくなり、自分が成長しているという実感も得られなくなるかもしれません。やりがいを感じない職場では働き続けることが苦痛になり、転職を考える人も多くいます。
キャリアアップを目指している
キャリアアップを目指している人の場合、今の職場では難しいと感じれば退職を視野に入れるます。自分の目指す将来の姿とかけ離れていたり、今の環境では必要なスキルや知識が身につかないと考えたりするようなら、別の企業を探すでしょう。キャリアアップできない環境では、環境を変えたくなる人も少なくありません。
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部下から退職の相談があったときの対応方法
実際に部下から退職の相談があった際、具体的にどう対応すればよいのでしょうか。以下の3点を参考にしてください。
部下の気持ちを尊重して話を聞く
上司としては「なぜ」「辞めないでほしい」など、引き止めたい気持ちがあるかもしれませんが、自分の思いを出すのではなく、部下の気持ちや判断を優先しましょう。まずは受け入れ、話を聞く姿勢を見せることが大切です。
退職を辞めさせようとするのではなく、部下が最善の選択をできるようサポートに徹しましょう。退職という選択肢に至った経緯や気持ちを確認し、尊重することが重要です。迷いがあるのであれば一緒に原因を探り、解決できる道を見つけられるよう対応してください。
冷静に退職理由を確認する
上司としては、自分の部下から退職の相談を受けると「あれだけ育成に力を入れたのに」「相談にも親身に乗っていたのに」など、自分の感情を出してしまうケースもあります。しかし、感情的になるのは避けるようにしましょう。
辞めてほしくない感情を出しすぎると、部下の気持ちはますます離れてしまいます。退職理由を明確にしたうえで、今から対応できることはないか冷静に考えることが大事です。
最終的な判断は本人に任せる
退職するかどうかの最終判断は、部下本人に任せるべきです。理由はどうであれ、退職を辞めさせたり、逆に退職を促したりするのは上司の役目ではありません。迷っているようなら少し時間を空け、再度本人の意思確認をするようにしましょう。部下本人の決断がどちらであったとしても、上司はサポートする姿勢でいることが大事です。
部下が退職を考えているときのNG行動
部下が退職を考えている状況では、上司として取ってはいけない行動があります。以下に示すNG行動には注意してください。
無理に引き止める
退職を考えている部下のなかには、退職を明らかにした時点ですでに意思が固まっている人もいます。そのため、上司や会社の都合を押しつけ、無理に引き止めるのは避けるべきです。部下の要望を無視した行動をすれば、さらに気持ちを遠ざけることにもなりかねません。退職を引き止める前提での対応はしないように注意しましょう。
部下の話を否定する
部下が退職の相談をしてきた際、部下の考えや悩みを否定することもNGです。上から目線で「その判断は間違っている」「今退職すれば次の就職にも影響する」というような言い方をすれば、自分を正当に扱ってもらえないと感じてしまうかもしれません。わかってもらえないと感じれば企業そのものへのイメージはますます悪くなり、相談しても無駄だと思われます。
部下の気持ちより自分の意見を優先する
実際に部下が退職することになれば、退職手続きを進めなければならないだけでなく、後任の採用・育成も必要です。それらの対応に追われると、業務に影響が出る可能性もあります。
しかし、やるべきタスクが増えるからといって「業務が回らなくなる」「辞めないでほしい」など、自分の都合を優先して話すのは避けましょう。大事なのは部下の気持ちと将来であり、上司はサポート役に徹する必要があります。
部下の退職を防止する5つのポイント
では、どうすれば部下を退職させずに済むのでしょうか。退職を防止するためのポイントを解説します。
1.部下とのコミュニケーションを怠らない
普段から部下とコミュニケーションを図れる機会を設けておけば、些細な変化にも気づきやすくなります。もし、業務や企業そのものに対して不平不満がある場合も、部下の様子から早期に気づいて対処できるでしょう。退職を検討するほどになってしまう前の段階で、部下から相談してもらえる信頼関係を構築しておくことが重要です。
2.定期的に配属や業務量を見直す
配属先の業務内容や業務量が部下の適性に合っているかどうか、定期的に見直す必要もあります。なぜなら、適切な配置や業務の割り振りは、本人の仕事に対するモチベーション維持に大きく影響するからです。働きにくそうな部下がいるならば、適性のある部署へ異動させたり、スキルに合う業務を割り振ったりすることも検討してみましょう。
3.待遇や評価基準が最適か確認する
部下の働きに対して適切な評価ができているかどうか、見合う待遇を与えているかどうかも確認しましょう。その際、主観的な視点からではなく、客観的に評価していることが重要です。もしかしたら、評価制度が適切でない場合があるかもしれません。評価制度が適切ではないのなら、評価基準から見直すことも大事になってきます。
4.部下のキャリア設計をサポートする
自社では成長が見込めないと判断した部下が、将来を考えて退職を検討しはじめるケースも少なくありません。この会社で働き続けたいと思ってもらうためには、部下の希望やスキルを考慮したうえで、最適なキャリア設計が叶うようにするのも上司の役目です。部下の適性に合ったキャリアパスを提示し、状況に応じてサポートしましょう。
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5.メンタルヘルスケアも心掛ける
精神的な負担は、退職を促しやすい原因の1つです。職場では業務へのプレッシャーや人間関係など、さまざまなストレスの要因があるため、上司は人間関係の様子やストレスの度合いを確認し、状況に応じてケアする必要があります。ストレスチェックなどを活用しつつ、適切に対応できるように環境を整えておくとよいでしょう。
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部下が退職する際に必要な手続き
部下が実際に退職することになったら、さまざまな手続きをしなければなりません。ここで退職の手順を把握しておきましょう。
1.退職スケジュールの確認
退職したい部下の意思がすでに固まっている場合は、いつ退職するのか確認し、スケジュールを立てる必要があります。退職を検討している場合、基本的には2~3か月前までに申告があるケースが多いでしょう。
ただ、法的には退職日の2週間前までに申告すれば退職は可能です。そのため、退職の申し出があったタイミングによっては、手続きを早急に進める必要があります。退職日に向け、必要な手続きや引き継ぎの計画を立てましょう。
2.引継ぎ事項の確認
退職する部下が担当していた業務について、引き継ぎの要否も確認する必要があります。業務の内容はもちろん、マニュアルがあるかどうかも確認しておくと引き継ぎがしやすいでしょう。担当していた取引先への連絡のほか、重要データや書類の保管場所・保管方法も確認し、退職後も業務がスムーズに回せるように把握する必要があります。
3.後任の選出
部下が担当していた業務を代わりに勤めてくれる、後任者選びも行わなければなりません。新たな人材を採用する、既存社員のなかから選ぶ、後任者は立てずに業務を複数人に割り振るなど、いくつか選択肢はあります。退職までに余裕があれば、後任者への引き継ぎや取引先への挨拶など、退職する部下が直接済ませられるようにスケジュールを組みましょう。
4.必要書類の準備や備品の回収
退職に必要な書類を確認し、退職日までに用意する必要があります。退職者にいくつか渡すべき書類があるため、いつ、どのような方法で渡すのかも本人に伝えておきましょう。社員証や名刺、パソコンや制服などの貸与物、重要書類や社会保険証などは回収が必要です。
【企業から退職者へ渡すもの】
・雇用保険被保険者証
・年金手帳
・源泉徴収票
・離職票など
【退職者から回収するもの】
・健康保険被保険者証
・会社支給の備品
・社員証
・社章
・名刺
・制服や作業着
・業務資料
・マニュアルなど
部下が退職する際の「退職届」について
部下の退職が具体的になった場合、退職届を提出してもらう必要はあるのでしょうか。退職願との違いも含めて解説します。
提出は必須ではない
退職時のトラブルを避ける意味でも、退職届の提出が必要となっている企業もあります。ただ、退職届の提出は必須ではありません。社員からの退職の申し出に企業側が同意すれば、退職届なしでも退職できます。
また、退職届は基本的に自己都合での退職の場合に提出するものです。そのため「部署移動によって働けなくなった」「給与の未払いがある」など、会社都合の理由では退職届を提出する必要がありません。ただし、手続きをするうえで退職届の提出をお願いする場合は、会社都合でも退職通知を求められるケースもあります。
退職願との違い
退職届と似た書類に「退職願」があります。基本的に退職届は退職が決定している社員が提出するものであり、退職願は退職の意思を伝えるための書類です。退職願も退職届と同様、提出をせずに口頭でも退職は成立します。
とはいえ、客観的な証拠が残すために退職願を提出することが一般的です。退職願が提出されたあと、撤回がなければ2週間で退職が成立します。
やむを得ず部下を退職させる場合
部下からの申し出ではなく、やむを得ず退職させなければならなくなった場合、どう対処すればよいのでしょうか。以下で具体的に解説します。
強制的に退職はさせられない
たとえ無断欠勤が続いたり、音信不通になってしまったりしても、簡単に強制退職にはさせられないため注意しましょう。特に原因が企業側にある場合、突然の病気や事故で連絡が取れない場合などは、懲戒処分や解雇の対象にはなりません。
まずは連絡を取り、安否や状況の確認をする必要があります。連絡を怠った結果、もし部下がトラブルに巻き込まれるようなことがあれば、法的に不利になるケースも珍しくありません。無断欠勤が続いている場合や音信不通の場合は、証拠となるものを取っておいてください。
就業規則や雇用契約をもとに手続きを進める
手紙の郵送や自宅訪問など、さまざまな手段でコンタクトを取ろうとしても連絡がつかないようなら、就業規則や雇用契約書に沿って対応を進めることになります。
就業規則や雇用契約書のなかで、懲戒処分や自然退職に関するルールが明記されていれば、その旨を説明した書類を作成し、内容証明郵便などで送付してください。未払いの給与があったり、私物が残っていたりする場合は、振り込みや私物を自宅に送付するスケジュールも合わせて通知します。
部下の円満退職をサポートする重要性
企業は部下が円満退職できるよう、サポートする必要があります。退職時の対応次第では自社へ影響を与えるため注意しましょう。
企業のイメージに影響する可能性がある
万一、無理に引き止めようとしたり、感情的になって要望を受け入れなかったりすると、ますます部下が企業に抱くイメージは悪くなってしまうでしょう。そのまま部下が同業種や取引先などの関係企業に転職すれば、悪いイメージが広まる恐れもあります。
退職者と今後も関係性が続く可能性があることを考えると、円満に退職できるようにフォローすることが重要です。円満に退職ができていれば、その後も良好な関係を保てるのはもちろん、企業のイメージも向上する可能性があります。
新たなビジネスチャンスを生む可能性がある
近年のビジネスシーンでは、退職や転職で企業を離れた人のことを「アルムナイ」と呼んで尊重する考え方が広まっています。与えられた業務や企業自体に不満があるわけではないものの、スキルアップを希望して転職を決めた人などは、特に大切にするようにしましょう。
良好な関係を築いておけば、新たなスキルを身につけ、キャリアアップした状態で戻ってきてくれる可能性もあるからです。アルムナイのネットワークを大事にすることで、新たなビジネスチャンスにつながることもあります。
まとめ
突然部下から退職したい旨を告げられたら、どう対処すればよいのか悩んでしまうこともあるでしょう。部下が退職を視野に入れるにはそれなりの理由があり、何かしらの前兆が見られるかもしれません。対応を間違えれば企業イメージが悪くなる可能性がある一方、新たなビジネスチャンスを生むこともあります。
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