スキルマップの作成は意味ないのか
スキルマップの作成には意味がないという主張する人もいます。理由としては、作成に多くの時間がかかる点や、スキルマップを作成するだけでは具体的な育成方法がわからない、といった点があげられる場合が多いです。
たしかに、スキルマップを作成したからといって、すべての問題を解決できるわけではありません。しかし、スキルマップを作成すれば、社員のスキルを明確に可視化できます。改めて社員のスキルを確認できるため、自社がもつスキルの全体像の把握が可能です。それにより、効果的な人材育成や人材配置などを実現しやすくなります。
よって、スキルマップの作成が一概に無意味だとはいえないでしょう。具体的な活用方法を理解したうえでスキルマップを作成することが重要です。
そもそもスキルマップとは
スキルマップとは、社員のスキルを数値や記号で定量化して表したものです。力量表とよばれる場合もあります。スキルマップを作成すると社員のスキルを可視化でき、環境や業務の改善などに役立てることが可能です。
スキルマップで社員の能力を可視化する|メリットや作成する際の注意点、導入例など
スキルマップが必要な理由とは
スキルマップは、なぜ必要なのでしょうか。ここでは、その理由について解説します。
時代の変化に対応する
スキルマップの作成は、時代の変化に対応するうえでも重要です。近年は著しくデジタル化が進んでいます。デジタルスキルの有無により、対応できる業務や提供できるパフォーマンスなどにも、大きな差が出るようになりました。
また、従来は一般的だった年功序列がなくなりつつあり、高いスキルをもつ人材を評価する傾向が強まっています。人材を適切に評価するには、社員のスキルを可視化して正しく把握できる体制を整えなければなりません。また、社員のスキルを可視化すると、自社に不足しているスキルについても明らかにできます。
スキルを可視化できる
すでに解説している通り、スキルマップがあるとそれぞれの社員が持っているスキルを可視化できます。そのため、スキルに応じた人材配置が可能です。適材適所の人材配置ができ、業務の効率を高められます。また、不足しているスキルも明らかになるため、それを補うための研修や採用活動なども具体的に検討しやすくなるでしょう。
社員のモチベーションが上がりやすい
スキルマップを作成すると、会社だけでなく社員自身も自分のスキルについて改めて確認できます。スキルの有無やレベルを客観的に把握できるため、スキルの習得に対するモチベーションが上がるでしょう。さらに、会社から正当な評価を受けられると、仕事に対するやる気も向上します。その結果、より自発的に業務に取り組む社員が増える可能性が高いです。
生産性の向上につながりやすい
すでに触れた通り、スキルマップの作成は社員のモチベーションを高める効果を期待できます。スキルアップにも積極的に取り組みやすくなるため、実際にスキルが上がるでしょう。それぞれの社員のスキルが高まると、企業全体の生産性も向上します。結果として、企業全体の業績拡大も期待できるでしょう。
スキルマップの作成をおすすめする業界
ここでは、スキルマップの作成が特におすすめの業界について解説します。
1.IT業界
スキルマップを作成すべき業界としては、IT業界があげられます。IT業界は特に変化が激しく、技術が進化するスピードも速いです。常に新しいスキルが生まれており、それに対応する必要があります。そのような状況で業務を進めていくには、社員のスキルセットを定期的に評価することが大切です。状況に応じて研修も行いましょう。
2.製造業
製造業もスキルマップの作成が役立つ業界です。製造業は専門性が高く、属人化せざるを得ない業務も多くあります。業務に取り組むにはスキルの習得が必須です。ただし、人の入れ替わりが激しいという側面もあります。そのような状況でスムーズにもの作りを進めるための方法として、スキルマップを活用している企業が多いです。
3.建設業
建設業は専門職が多く、同じ企業の社員でもそれぞれ身に付けているスキルには大きな違いがあります。社員のスキルについて把握するには手間がかかりますが、スキルマップを作成すれば効率的です。スキルマップを活用して教育プログラムの設定や研修を行うと、スムーズに人材を育成できるようになります。
スキルマップを作成するメリット
スキルマップを作成すると、さまざまなメリットを期待できるでしょう。具体的にどのようなメリットがあるか解説します。
人材育成に役立つ
スキルマップは、人材育成のために利用できます。それぞれの社員に必要なスキルを把握でき、適切な研修を実施しやすくなるからです。効率的な人材育成が可能になり、自社の成長に貢献できる人材をスムーズに育てられます。
適材適所の人材配置がしやすい
スキルマップで社員のスキルを把握すると、客観的なデータに基づいた人材配置を実現可能です。たとえば、スキルが不足している部署がある場合、必要なスキルをもつ社員を配置すれば、業務の停滞やトラブルの発生などを未然に防止できます。
適切に社員を評価できる
スキルマップでは社員のスキルを数値で表せるため、客観的なデータに基づく客観的な評価が可能です。評価する側と評価を受ける側の両方が納得しやすく、不公平感を抱きにくくなります。
ミスマッチを防止できる
採用活動においてもスキルマップを活用すれば、自社に不足しているスキルを持つ人材を見つけやすくなります。自社に不足しているスキルは人材育成で補う方法もありますが、時間がかかるでしょう。最初からスキルを持つ人材を採用すると、よりスムーズに自社のビジネスの成長を促せます。
スキルマップを作成するデメリット
スキルマップの作成にはデメリットといえる部分もあるため、以下で具体的に解説します。
スキルの設定に時間がかかる
スキルマップを作成するには、自社に必要な評価を洗い出して体系化する必要があります。達成度についても定義しなければなりません。特に、数値化が困難なスキルが多い場合、より時間がかかるため要注意です。
不満を持つ社員が出てくる可能性がある
評価基準が公平でない場合、不満を持つ社員が生じる恐れがあります。高いスキルがある社員は評価される反面、まだスキルが足りない社員は評価が下がる可能性があるでしょう。そのような状況に対して不安を抱く社員が出ると、業務に対するモチベーションも低下します。
場合によっては業務の停滞につながるリスクもあるため、注意が必要です。不満のある社員が生じた際に適切にフォローする仕組みを設けましょう。
スキルマップの基本的な作成方法
スキルマップはどのように作成するのでしょうか。ここでは、基本的な作成方法を解説します。
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作成の目的を明確にする
スキルマップを作成する際は、そもそも自社がなぜスキルマップを導入するのか改めて確認しましょう。ここでは、なるべく具体的な目的を定めることが大切です。スキルマップの作成について具体的な目的を設定すると、十分な効果を得やすくなります。
なお、スキルマップを活用して解決を目指したい課題がある場合は、それも踏まえて目的を考えるとよいです。目的はスキルマップを作成する指針となるため、よく検討しましょう。
スキルの項目を洗い出す
社員にはさまざまなスキルが備わっているため、これから作成するスキルマップで、具体的にどのスキルを対象にするか決める必要があります。自社にとって重要度の高いスキルを洗い出し、抜け漏れがないようにしましょう。社員の多くがもつスキルだとしても、自社の事業にとって重要であるとは限りません。自社の状況を踏まえ、スキルマップで管理するスキルの項目を慎重に判断してください。必要があれば、現場に対するヒアリングも行うべきです。
項目の分類を決定する
スキルマップではスキルを体系化して管理するため、洗い出したスキルの項目を分類しましょう。スキルの項目を分類すれば、それぞれのスキルの関連性も分かりやすくなるからです。その結果、スキルマップの運用もスムーズになります。項目の分類に迷う場合は、要素、技術、担当者別の業務項目などをもとにするとよいでしょう。
項目の階層を検討する
スキルマップの項目については、階層構造を設定するとさらに管理しやすくなります。単に分類するだけでなく階層も分けて管理すれば、代用可能なスキルについても把握できるようになるでしょう。また、そのスキルを身に付けた後、次にどのスキルの習得を目指すべきかが分かりやすくなります。
ただし、階層を多くし過ぎると複雑になり、スキルマップをかえって活用しにくくなるため、注意が必要です。
項目の粒度を決定する
スキルを作業レベルに分解したうえで、項目の粒度を決めましょう。とはいえ、粒度が細か過ぎれば複雑で分かりにくくなるため、注意が必要です。また、粒度が荒過ぎると、社員ごとのスキルの差が分かりにくくなるという懸念もあります。設定する粒度については、自社や社員の状況を考慮した慎重な判断が必要です。
スキルの名前を決める
スキルマップで管理するスキルについて、名前を決めましょう。ここでは、誰でも簡単に内容を理解できるシンプルな名前を考える必要があります。基本的には、文章よりも単語で表現したほうがわかりやすいです。また、知識や資格などの名称をスキルの名前として定めても問題ありません。設定したスキルをイメージできる名前を意識してください。
評価基準を決める
スキルマップを基に社員を公平に評価するには、評価基準の明確化が重要です。評価基準とともに、評価の段階についても検討する必要があります。ただし、評価基準や段階を細かく設定すると管理が煩雑になるため、要注意です。適切に管理できるかどうかも考慮して評価基準や段階を決めましょう。なお、数値化しにくいスキルがある場合は、記号や色などを活用すると分かりやすくなります。
スキルマップを作成する
ここまで準備した内容を基にスキルマップを作成します。定めたスキルの項目、分類、階層、粒度、名前、評価基準を改めて確認し、スキルマップを作りましょう。
ただし、実際にスキルマップを作成する際は、自社でゼロからこれらの作業をする必要はありません。テンプレートを活用すれば、より簡単にスキルマップの作成が可能です。スキルマップのテンプレートは、たとえば厚生労働省も提供しています。
スキルマップに記載する項目の例とは
スキルマップに記載する項目は、企業や職種によってもさまざまです。厚生労働省のテンプレートにも、さまざまな業務を想定した項目が記載されています。スキルマップに記載する項目の例をあげると、以下の通りです。
・ビジネスや社会経済などの一般動向の習得
・会社の仕組みに対する理解
・ビジネスマナー
・パソコンやネットワークに対する理解
・ワープロソフトや表計算ソフトなどの活用
・情報の検索、加工、整理
・規程やルールなどの遵守
・倫理的問題の解決
・チームワーク
・周囲との良好な関係の構築
企業や職種によっては、他にもさまざまな項目を盛り込む必要があります。それぞれの企業や職種の特徴を考慮し、必要な項目を記載しましょう。
スキルマップを効果的に運用・管理する方法とは
スキルマップを効果的に運用・管理するには、どうすればよいのでしょうか。具体的な方法について解説します。
テンプレを活用する
スキルマップをゼロから自社で作る場合、多くの時間や手間がかかります。すでに触れている通り、厚生労働省などが提供しているテンプレートを活用すると、スキルマップの作成がスムーズになるでしょう。
定期的に見直しを行う
スキルマップを作成した後も、定期的な見直しが必要です。過去に作成したスキルマップを使い続けていると、状況に合わなくなる恐れがあります。ビジネスを取り巻く環境の変化は激しいため、変化に合わせてスキルマップも更新すべきです。たとえば、スキルの項目を増減させた方がよいケースもあるでしょう。場合によってはテンプレートが合わなくなり、変更が必要になる可能性もあります。
社員に意識させる
スキルマップは評価する側だけが使用するのではなく、評価される側の社員も活用すべきです。スキルマップの達成を意識づけ、自ら挑戦しようという意欲を社員に持たせる必要があります。
スキルマップとISO9001
ISO9001とは、一定のプロセスを経て提供された質の高い商品やサービスであることを、証明するための指標です。ISO9001は業種を問わず取得できます。商品やサービスを生み出すためのプロセスについて、細かく管理する必要があるため、業務効率化や組織としての体制の強化にもつなげることが可能です。
また、ISO9001の最終的な目的は、顧客満足度の向上とされています。顧客満足度を向上させるには、業務についての明確なプロセスの構築や改善が不可欠です。さらに、ISO9001では、社員それぞれのスキルに関する基準もあります。よって、ISO9001に対応するうえでも、スキルマップを役立てられるでしょう。
まとめ
スキルマップを作成して有効活用するには、社員のスキルを明らかにしたうえで、適正な評価方法や教育の仕組みを作る必要があります。まずはスキルマップを作成し、自社が保有するスキルの状況を把握しましょう。
タレントパレットは、社員のスキルを可視化して一元管理できるツールです。スキルマップのテンプレートもあり、手間や時間をかけずにスキルマップを作成できます。自己評価や上司による評価を通して、それぞれのスキルのレベルについて可視化が可能です。その結果を基にし、最適な教育を実施する仕組みもあります。詳しい情報をぜひ確認してみてください。
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