近年では、ビジネスにおいて求められる知識やスキルの変化が激しくなっています。ビジネスの場で活躍できる人材を育成するためには、レディネスを向上させ、学習効率を高めることがポイントです。本記事では、レディネスとは何か、ビジネスで重要といわれる理由、レディネスを高める方法について解説します。
レディネスとは?
そもそもレディネスとはどのような意味を指す用語なのでしょうか。レディネスの概要についてまとめました。
レディネスの定義
レディネス(Readiness)は、新しい学びや行動に対し、心身の準備が整っている状態です。心身の準備だけでなく、学習のための前提である環境・経験・知識が揃っていることも含まれます。レディネスがあることで、意欲を持って学習を進めやすくなるのも特徴の1つです。
たとえば、書き言葉を学ぶためには、すでに話し言葉が習得できている方が学習をスムーズに進められるでしょう。このような場合、話し言葉は書き言葉のレディネスといえます。
レディネステスト
レディネステストとは、レディネスを測定するためのテストです。学生の職業選びや企業の入社後の配属先決定の際にも活用されます。また、レディネステストは社会人がキャリアプランを構築する際にも有効です。
レディネスの概念が生まれた背景
レディネスは、アメリカの小児科医・心理学者のアーノルド・ゲゼルにより提唱されました。ゲゼルは、一卵性双生児に階段をのぼらせる訓練を通して、レディネスの概念を構築しています。実験内容は、双子のうちの1人を生後45周目から、もう1人を生後53周目から階段のぼりの練習をさせるというものです。
実験では、生後53周目に階段のぼりをスタートした子の方が、早く階段をのぼれるようになりました。この結果から、ゲゼルは早期教育よりも発達基礎が重要であるという「成熟優位説」を唱え、レディネスを裏付けるものとしています。
ビジネスにおけるレディネスの重要性
先述のとおり、レディネスは教育現場で生まれた概念です。しかし、近年では経済の目まぐるしい変化や企業のDX推進に伴い、ビジネスでもレディネスが重視されるようになっています。社員が常にスキルや経験を更新していくことで、状況の変化にも素早く対応できるようになるでしょう。レディネスがある状態は、企業の生産性向上や離職防止にも役立ちます。
レディネスがビジネスで注目される理由
レディネスがビジネスで注目されている理由はさまざまです。以下で4つの観点から詳しく解説します。
人材育成に生かせる
社員は与えられた業務をこなすだけでよいというわけではありません。チームや地域社会との関わり、論理的に考える力など、社会人としての基礎力が問われます。そのため、レディネスを備えておくことは、人材育成にとって重要です。レディネスが高い社員は、他の業務に取り組む際も高いパフォーマンスを発揮してくれるでしょう。
人材育成とは?人材育成の方法やポイント、成功事例を詳しく紹介
生産性を高められる
レディネスの高い社員は、能力や経験だけでなく、自主性も高い傾向にあります。社員の自主的な判断による行動は、自社の生産性向上につながるでしょう。先述したように、レディネスの高い社員は、新しい業務への対応力が高いことも特徴です。社員のレディネスを高めることは、現在だけでなく将来の生産性向上にもつながります。
企業イメージを高められる
レディネスを向上させるためには、働きやすい環境を整えたり、研修制度を充実させたりするなどの企業努力が必要です。レディネスの高い人材を育成する活動は、企業のイメージアップにもつながるでしょう。企業イメージが向上すれば、自社に合った人材を確保しやすくなるため、さらなる生産性向上や売上アップも期待できます。
ミスマッチ防止に役立つ
レディネスを考慮することで人材のミスマッチを防げることも、注目される理由の1つです。配属前に社員の適性を判断できるため、適材適所な人事が可能となるでしょう。ミスマッチによる社員のパフォーマンス低下が起こると、自社全体の生産性や効率性の低下にもつながります。人材を配属する際は、社員のスキルや志向を正確に判断することが重要です。
離職防止に役立つ
レディネスは、離職防止にも役立ちます。インターンシップや体験入社などは、レディネスを高めて離職防止につなげる有効な方法です。社員が定着することは企業のコスト削減や効率性の向上にもつながるため、レディネスを高めて離職を防止しましょう。
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ビジネスにおけるレディネスの種類
ビジネスにおけるレディネスの種類はさまざまですが、よく使用されるものを3つ解説します。
就業レディネス
就業レディネスとは、学生が社会人になるために必要な準備段階のレディネスです。就業するために必要な知識や経験、心構えなどが整った状態を指します。就業レディネスがあることで、就職活動にポジティブに取り組めることはもちろん、就職後もスムーズな成果につながるでしょう。
職業レディネス
職業レディネスとは、特定の職業に対する強い興味や関心を持ち、役割を果たす準備が整っている状態を指します。社員の興味・関心と職業適正には関連性があるといわれており、興味のある仕事に就くことで、能力を発揮できる可能性が高まるでしょう。労働者の適性は、職業レディネステストを受けることで測れます。
デジタルレディネス
デジタルレディネスとは、デジタル化に対応する準備が整っている状態です。近年ではデジタル化の流れが急速に進み、ビジネスの場でもデジタル技術が活用される場面が増えています。社員がITやデジタルスキルを身につけることは、企業全体や各部署におけるDX化をスムーズに進めるためにも、必要な観点といえるでしょう。
レディネスレベルとは?
レディネスを客観的に判断するための指標として、「能力」と「意欲」で構成された4つのレディネスレベルが存在します。それぞれのレベルについて詳しく解説します。
レディネスレベル1
レディネスレベル1は、能力と意欲の両方が低い状態です。能力が低いため、ミスが多かったり、指示通りにしか行動できなかったりするなどの特徴があります。意欲も低いため、不平不満が多く、言い訳や自己防衛的な振る舞いをすることも多くなりがちです。
レディネスレベル1の対応は、必要以上に責めたりプレッシャーをかけたりするのではなく、まずは信頼関係を築くことから始めましょう。説明するときは1つずつ丁寧に行う、1回の説明は短くするなどの工夫が必要です。
レディネスレベル2
レディネスレベル2は、能力が低く意欲が高い状態を指します。人の話をよく聞き素早く行動できる一方で、新たなスキルを身に付けるまでに時間がかかってしまう傾向があるでしょう。積極的に学ぶ姿勢があるため、適切な指導を行うことで能力の向上が期待できます。
レディネスレベル2の対応のポイントは、できないことを急かさず、見守る姿勢を持つことです。スキルを習得できるまでの期間は人によって異なるため、根気よく指導に取り組む必要があります。
レディネスレベル3
レディネスレベル3は、能力が高く意欲が低い状態を指します。自分に能力があることを認知していなかったり、仕事にストレスを感じていたりする傾向があるでしょう。仕事をやらされているという気持ちが強いため、業務に取り組むまでに時間がかかることも特徴です。
レディネスレベル3の社員には、励ましの言葉や、モチベーションを高める声かけを重点的に行いましょう。積極的なコミュニケーションを心がけ、信頼関係を構築することも大切です。
レディネスレベル4
レディネスレベル4は、能力・意欲ともに高い状態を指します。報連相をしっかり行う、積極的に新しい業務に取り組むなど、自主的な行動が見られることが特徴です。また、反省点やアドバイスを受け入れ、自身の成長につなげることができます。
レディネスレベル4の社員には、干渉せず、必要な場面のみ支援を行うことが望ましいでしょう。成果を褒め、自発的に挑戦することを促すことがポイントです。
社員のレディネスを高める方法
社員のレディネスを高めるためにはどのような方法がよいのでしょうか。以下で具体的な方法を2つ紹介します。
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社員への傾聴に取り組む
社員のレディネスレベルを高めるには、話をしっかり聞き、信頼関係を築くことが重要です。研修で知識やスキルが身に付いたからといって、社員の意欲が必ずしも増すとは限りません。社員が求めていることに耳を傾け、適切なコミュニケーションを取るよう心がけましょう。上司から部下への対応は、相手を傷つけないよう慎重に行う必要があります。
職場の信頼関係を構築する
職場の良好な人間関係は、仕事への意欲にもつながるでしょう。まずは、社員1人ひとりをよく知り、信頼感や安心感を持ってもらえるよう努力することが大切です。信頼関係があれば、失敗を恐れず新しいことに挑戦してみる気持ちもわきやすくなるでしょう。また、「上司の力になりたい」などの感情もわいてくるかもしれません。
レディネスを高めるARCSモデル
レディネスを高めるために知っておくと役立つ、ARCSモデルを紹介します。ARCSモデルは、学習意欲を向上させるための4つの要因をまとめたものです。以下に詳しく解説します。
注意喚起(Attention)
社員がどのようなことに興味や関心があるのかを知り、好奇心や探究心を刺激することで、学習に対する注意喚起を促しましょう。ARCSモデルにおける注意喚起は、知覚的喚起・探究心の喚起・変化性の3つです。社員から興味を引き出すだけでなく、学習に変化を取り入れるなど、興味を維持できるよう努めましょう。
関連性(Relevance)
関連性とは、学習内容と社員の間に関連性があることを強調することです。問題や課題を自分ごととして捉えてもらうことで、自主的な行動や意欲を促進しましょう。ARCSモデルにおける関連性は、親しみやすさ・目的志向性・動機との一致の3つです。「この学びが将来のキャリアにつながりそう」など、社員に学習のやりがいを発見してもらえるよう工夫しましょう。
自信(Confidence)
社員の学習意欲を高めるためには、成功体験によって自信を持ってもらうことが重要です。自信がなければ、学習を無駄だと捉えてしまい、モチベーション低下につながります。ARCSモデルにおける自信は、学習意欲・成功の機会・コントロールの個人化の3つです。小さなゴールを複数設定し、着実な成果を積み重ねることで、社員の自信を育成していきましょう。
満足感(Satisfaction)
学習の最後には、「ここまで頑張ってよかった」と思える報酬を与えることで、満足感を感じてもらいましょう。満足感や達成感を得ることで、次の業務にも自主的に取り組む意欲がわきます。ARCSモデルにおける満足感は、内発的な強化・外発的報酬・公平さの3つです。報酬や昇進による評価は、特に効果的な方法といえるでしょう。
レディネスが活用される場面
レディネスが活用される場面は、主に以下の4つが挙げられます。
インターンシップ
インターンシップとは就業体験のことで、学生が社会人になる前に、企業への理解を深めてもらうために行われるものです。インターンシップは入社前と入社後のギャップを減らす効果もあり、レディネスを高める役割も期待できるでしょう。インターンシップの経験の満足度が、レディネスに前向きな影響を与えているという見方もあります。
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企業内研修
企業内研修によって知識やスキルが向上することで、レディネスを高められるでしょう。ただし、一方的に知識を叩き込む研修では、かえって社員のモチベーションを低下させる恐れがあるため注意が必要です。どのような研修が社員の意欲的な行動や興味を引き出せるのか、十分検討したうえで研修を実施しましょう。
メンター制度
メンター制度とは、ビジネスにおける個別支援の1つです。一般的には、他部署の先輩が後輩の相談役となることが多いでしょう。直属の上司には話せない悩みを相談できたり、先輩の体験談を聞いたりできるメンター制度を活用すれば、課題解決や社員自身の成長にもつながります。
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越境学習
越境学習とは、普段の職業や学習とはまったく異なる環境に身を置くことで、新たな気づきを得る学びを指します。企業においては、勤務する職場以外で業務を行いながら、新たなスキルを習得することと考えてよいでしょう。越境学習で新しい視点や価値観が得られることは、新たなレディネスの発見にもつながります。
レディネスにおいて重要なこと
最後に、レディネスを高めるために重要なことを2つ紹介します。適切なコミュニケーションや、効果測定・フィードバックの実施が不可欠です。
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コミュニケーションを大切にする
レディネスレベルが「能力」と「意欲」の2軸で構成されているように、レディネスはスキルや知識を身につけるだけでは、向上させることはできません。レディネスにおいては、能力だけでなく意欲を引き出すことが重要です。社員のモチベーションを上げるためには、適切なコミュニケーションによって、普段から社員のやる気を維持できるよう心がけましょう。
効果測定・フィードバックを実施する
レディネスへの取り組みには、研修の効果を測定し、社員にフィードバックすることが大切です。たとえば、研修後に社員がどのくらい内容を理解できているのか、確認テストを行うことなどが挙げられます。
研修を行ったにもかかわらず、想定していた効果が得られなかった場合、施策自体を見直す必要があるでしょう。目標到達度へのフィードバックを社員全員が把握できれば、自身の改善点が明らかになり、業務に対する意欲の向上につながります。
まとめ
社員のレディネスを高めることは、自社の生産性向上や離職率の低下など、さまざまなメリットをもたらします。変化の激しい時代だからこそ、社員1人ひとりの能力と意欲を高め、企業全体の利益につなげていきましょう。
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