QCサークル活動とは、10人程度のグループで、品質改善や業務効率化などに取り組む活動のことです。QCサークル活動には、製品・サービスの質向上や社員の能力開発などのメリットがある一方で、時間とコストの負担、活動の形骸化といった課題が指摘されています。QCサークル活動の導入時には、QCストーリーに沿った正しい運用が必要です。本記事を参考に活動への理解を深めましょう。
QCサークル活動(小集団改善活動)とは?
QCサークル活動は、職場の小集団による自主的な品質改善活動です。QCサークル活動の特徴や目的、歴史、労働時間との関係を解説します。
QCサークル活動(小集団改善活動)の活動内容
QCサークル活動は、現場で働く社員を10人程度の小集団に分け、製品や業務の品質向上、管理について自主的に取り組む活動です。各グループでは、メンバーが協力して問題点を抽出し、改善策を話し合い、実行します。なお、QCサークル活動の別名は「小集団改善活動」です。QCサークル活動では、効果的な運営のためにサークルリーダーや書記といった役割が設けられる場合もあります。
QCサークル活動の目的
QCサークル活動の主な目的は、以下のとおりです。
・社会に貢献する
・チームワークを育む
・働きやすい職場環境を構築する
製品や業務の品質向上・維持により顧客満足度が高まると、社会貢献につながります。グループでの活動により、社員の問題解決能力や論理的思考力が鍛えられると、チームワークの改善も図れるでしょう。さらに、職場環境や業務フローの改善に取り組むと、より働きやすい職場環境を構築できます。
QCサークル活動誕生の歴史の始まりはトヨタ
1950年代に統計学者W・エドワーズ・デミング氏が提唱し、第2次世界大戦中のアメリカの生産力を支えた「統計的品質管理」が、QCサークル活動のはじまりとされています。統計的品質管理の考え方は、日本に導入された後に独自の改良が加えられました。
日本におけるQCサークル活動は、トヨタが1961年6月に採用したTQC(Total Quality Control)が始まりとされています。トヨタは「経営管理の画期的刷新」と「良質廉価な製品の生産と開発」を目指し、QCサークル活動を展開しました。近年まで、トヨタはQCサークル活動を継続的に改善し、自社のマネジメントの重要な柱としています。
トヨタの成功例は他の企業にも広く影響を与え、多くの日本企業がQCサークル活動を導入するようになりました。
指揮命令下のQCサークル活動は労働時間に含まれる
QCサークル活動を労働時間に含めるかどうかは、実施形態によって異なります。社員に業務として命令している場合は、労働時間として扱われます。かつて名古屋地裁では、QCサークル活動を業務と判断する判決が下されました。
完全な自由参加型の場合は、基本的に労働時間には含まれません。しかし、QCサークル活動の性質上、労働時間や残業時間として扱う方が、社員の反発を招きにくいといわれています。
QCサークル活動の基本理念・基本要素
QCサークル活動の根幹となる基本理念と、活動を支える基本要素を解説します。
QCサークル活動の基本理念
日本科学技術連盟は、QCサークル活動の基本理念を明確に定義しています。QCサークル活動の基本理念は、人間の潜在能力を最大限に引き出し、無限の可能性を開花させることです。
QCサークル活動は人間性を尊重し、社員が生きがいを感じられる明るい職場環境の創出を目指しています。また、企業の体質改善と持続的発展への貢献も、QCサークル活動の重要な理念です。
QCサークル活動の基本要素
QCサークルの基本理念を実現するためには、4つの基本要素(人、グループ力、改善力、管理者の支援)によるアプローチが重要です。以下に、基本要素についてまとめました。
要素 | アプローチの詳細 |
---|---|
人 | メンバー個々の意欲、能力、知識、経験の活用 |
グループ力 | メンバー間の連携、協調性、自主性による相乗効果の創出 |
改善力 | 職場の問題点や課題の抽出と解決能力の向上 |
管理者の支援 | 管理者による適切な距離感を保った支援と環境整備 |
4つの基本要素は互いに関連し、バランスよく機能することでQCサークル活動の効果を最大化します。
企業がQCサークル活動を導入するメリット
QCサークル活動の導入は企業に多くのメリットをもたらすでしょう。顧客満足度向上、生産性改善、社員育成などのメリットを解説します。
顧客満足度が高まり業績向上につながる
QCサークル活動の導入は、製品やサービスの品質向上を通じて顧客満足度を高めます。市場競争力が高まると、売上と企業評判が向上し、企業全体の業績改善が見込めるでしょう。加えて、活動を通じて人材育成に成功した場合も、業務改善による業績向上が期待できます。
不良品減少や稼働率アップにより生産性向上につながる
QCサークル活動の導入は、現場の綿密な分析と可視化を促進し、問題点や課題、無駄な部分を明確に抽出します。特定された課題を解決すると、業務効率が大幅に向上し、省人化や省力化、さらには機械稼働率の向上も促進されるでしょう。
同時に、品質管理の徹底に成功すると不良品の発生を抑えられます。不良品率が低下すると、原材料やエネルギーのロスを最小限に抑えられるうえに、検品やメンテナンスにかかる人件費も削減可能です。
社員のモチベーション向上や人材育成につながる
QCサークル活動の導入は、社員のモチベーション向上に大きく貢献します。現場の作業性が向上すると、働きやすさを理由に、社員のモチベーションが自然に高まるためです。さらに、社員が積極的に活動に参加し具体的な成果を出すと、業務への意欲が一層向上します。チームの結束力や連携力が強化され、より強固な組織を形成できるでしょう。
また、QCサークル活動は人材育成にも大きく貢献します。QCサークル活動を通じて、社員は問題発見力、問題解決能力、論理的思考力、創造力、協調性などを養えるためです。
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現場の問題点の見える化を意識付けできる
QCサークル活動では、問題点の見える化(データ収集およびグラフや図による視覚化と分析)、対策案の立案・実行・検証といった作業を実行しなくてはなりません。このような作業を継続すると、一連のプロセスに関するナレッジとノウハウが企業に蓄積されます。
特に、問題点を見える化するスキルは、QCサークル活動以外の場面でも応用可能です。社員が問題点の見える化を日常的に意識し、実践することで、企業活動全体の効率化と問題解決能力の向上につながります。
企業がQCサークル活動を導入するデメリット
QCサークル活動にはデメリットも存在します。社員への負担増加や活動の形骸化など、導入時に考慮すべきデメリットを解説します。
社員のモチベーション低下を招く恐れがある
企業がQCサークル活動を導入する際のデメリットとして、社員のモチベーション低下が挙げられます。
活動を実施しても成果が上がらない場合、社員の意欲や情熱が失われるかもしれません。さらに、失敗が続くと、業務改善全般へのモチベーションが低下し、他の改善活動にも悪影響を及ぼす恐れがあります。社員のモチベーション低下を軽減するためには、目標の難易度を適度に保つことが重要です。
QCサークル活動のための時間・労力が発生する
活動に時間と労力を割かれることも、QCサークル活動を導入するデメリットの1つです。通常業務に加えてQCサークル活動を行うと、社員の負担は増加します。疲労やストレスが蓄積されやすくなるうえに、通常業務に支障をきたすリスクもあるでしょう。
一方で、業務が忙しすぎてQCサークル活動が後回しになると、活動の意義が失われかねません。QCサークル活動の導入には、時間と労力の適切な配分と管理が不可欠です。
形骸化による効果減少の懸念がある
QCサークル活動自体が目的化すると、効果的な施策を見出せなくなる危険性があるため注意が必要です。活動の実施という事実のみを追求する傾向が生まれると、実質的な改善が行われず、時間と労力が無駄になるリスクがあります。
さらに、メンバーが活動の目的や意欲を見失うと、活動そのものが停滞するかもしれません。QCサークル活動の本来の目的を常に意識し、形骸化を防ぎましょう。
成果が出ないと無駄なコストになる
目に見える成果が出なければ、時間と労力が無駄になったかのように感じる場合があります。成果を評価する基準が明確でなければ、社員のモチベーションを保ちにくく、「QCサークル活動自体が無駄ではないか」と判断されかねません。活動の意義を実感し、社員のモチベーションを維持するため、事前に具体的な評価基準を確立しておくことが重要です。
QCサークル活動が時代遅れといわれる理由
QCサークル活動は時代遅れといわれるケースも少なくありません。時代遅れとされる理由を解説します。
活動が形骸化するから
QCサークル活動が時代遅れといわれる理由は、活動が形骸化しやすいためです。以下のような状況は、活動を形骸化させやすい傾向が見られます。
・報告までのスパンが短く、社員が資料作成や発表準備に追われている
・テーマ選定を間違えて成果の出ない活動ばかりしている
・QCサークル活動について、経営層が正しく理解していない
社員に負担がかかりやすい状況でQCサークル活動を行うと「とりあえず活動しているところをアピールして乗り切ろう」と、改善効果ではなく「どううまく見せるか」にフォーカスしてしまいます。上司に見せる資料の作成や発表会そのものが目的となると、効果的な改善ではなく、見栄えがよい報告につながる活動しかしなくなるでしょう。
その場しのぎのQCサークル活動が続くと、活動の本来の意義が失われ「とりあえず集まる」「何かしら資料を作成する」といった悪い習慣のみが残ってしまいます。
活動の企業貢献度を実感しづらいから
企業貢献度を実感しづらい点も、QCサークル活動が時代遅れといわれる理由の1つです。選定するテーマにもよりますが、営業活動のような直接的に業績に結びつく業務と比較すると、QCサークル活動は効果が見えにくいケースが多々あります。
効果が見えにくい状態では、社員が活動の意義を見失いかねません。特に、難易度の高いテーマや長期的な取り組みが必要な課題を設定した場合、短すぎる実行期間や不十分な効果測定では、期待される成果を得にくいでしょう。
一方で、取り組みを中途半端に終わらせて次のテーマに移ってしまうと、以前の問題点が再浮上し、「やはりQCサークル活動には意味がないのではないか」という疑念を生じさせてしまいます。
QCサークル活動を成功させる正しい進め方(QCストーリー)
QCサークル活動を効果的に進めるには、QCストーリーと呼ばれる手順がポイントです。以下では、QCストーリーを詳しく解説します。
1.QCサークルのグループを決定する
まずは職場内で6~10人程度のメンバーを選定しましょう。多すぎると発言しないメンバーが出たり、連携が取りづらくなったりします。
「共通の業務に取り組んでいる」「現場で類似する課題を抱えている」といった業務上のつながりのあるメンバーを選び、グループとしましょう。類似性のあるメンバーなら、共通の問題意識のもと議論が活発化します。
2.活動テーマを設定する
活動テーマは、成果や社員のモチベーションに影響するため、メンバー全員でしっかり話し合って慎重に選定しましょう。テーマを選定するポイントは、企業への貢献度・緊急性・見込まれる効果などを事前にまとめておくことです。
メンバーが問題視し、解消によって企業の成長や改善につながる課題は、QCサークル活動のテーマに向いています。なお、テーマは「◯◯工程における不良品の割合を減らす」「〇〇工程の機械稼働率を上げる」など、ある程度具体的なものにしてください。
3.テーマに対する現状分析と問題点を抽出する
設定したテーマを達成するために、解消すべき問題点を抽出します。どの工程や作業を対象とするかを検討したうえで、現場の現状をデータ収集・分析し、実態に沿って問題点を洗い出しましょう。
データ分析のコツは、5W1H(いつ、どこで、誰が、何が、なぜ、どのように)の視点を重視することです。特性要因図(フィッシュボーン)や散布図といったフレームワークも状況整理に役立ちます。
4.目標を設定する
目標は具体的な数値を用いて設定してください。目標値は現状のメンバーで達成可能であり、かつ十分な効果が見込める、適度に挑戦的なレベルに設定することが理想的です。また、活動が停滞しないように、明確な期限を設定しておきましょう。
5.改善策の検討と実行を進める
洗い出した問題点や目標に沿った具体的な改善案をメンバー全員で話し合って立案します。偏った施策にならないよう、メンバー全員の意見を尊重することが大切です。活動に慣れてきたら、メンバーに含まれない管理者や技術者の意見も参考にするとよいでしょう。改善案が完成したら実行に移して効果を測定します。
6.効果測定と検証・共有を行う
実施した改善案の効果を定量的に測定し、当初の予想と実際の結果の差異を詳細に確認・検証します。得られた成果をメンバー間で共有し、目標達成度や改善効果について全員で客観的に分析しましょう。
7.測定結果を基に改善を行う
QCサークル活動は、何度も実行・検証するうちに期待した効果に近づきます。PDCAサイクルのイメージで、改善を繰り返してください。ただし、綿密な分析の結果として「効果が見込めない」と客観的に判断された場合は、迅速な方向転換も賢明といえます。
8.標準化する
改善案の効果を測定して成果が出たときは、現場の標準作業として取り入れましょう。再現性が高く、持続的な効果が期待できる改善案であれば、標準化により長期的な効果を見込めるためです。また、組織全体の改善を加速させるために、成功事例を他部署や他拠点へ展開することも検討しましょう。
QCサークル活動を成功させるためのポイント
QCサークル活動の成功には、ツールの活用や効果的なコミュニケーションが欠かせません。ここでは、成功に導くためのポイントを解説します。
QC7つ道具を活用する
QC7つ道具とは、現場におけるデータ分析、問題解決に役に立つ以下の道具・分析手法のことです。
・パレート図
・特性要因図
・グラフ
・チェックシート
・ヒストグラム
・散布図
・層別
パレート図は、問題の重要度を視覚化し、優先順位付けを行う際に役立ちます。問題の潜在的な原因を体系的に整理できる特性要因図は、根本原因の特定に効果的です。グラフは、データの傾向や変化を視覚的に表現します。折れ線グラフ、棒グラフ、円グラフなどを目的に応じて使い分けましょう。
チェックシートは、データを効率的に収集し、記録するためのツールです。ヒストグラムは、データの分布を視覚化し、ばらつきや傾向を把握する際に役立ちます。散布図の場合は、2つの変数間の関係を視覚化し、相関関係を検討する際に有効です。階層別にデータを特定の特性や条件に基づいて分類すると、問題の原因をより深く理解できます。
チームメンバー同士の報告を徹底する
QCサークル活動中は、進捗状況や悩みなどを共有できる環境が不可欠です。抱えている課題を直ちにメンバーに共有できると、問題の早期発見と解決によってスムーズに活動を進められます。
ただし、毎日のミーティングや日報などを義務付けると、社員によっては負担が大きいと感じる場合もあるでしょう。コミュニケーションの円滑化には、必要に応じて外部のプラットフォームやツールの導入も検討してください。
上司による定期的なフィードバックを行う
上司は定期的なフィードバックを行い、QCサークル活動のさらなる効果アップや、方向性の修正に務めてください。問題点を指摘するだけではなく、よい点や上司が感じた効果などを共有することで、メンバーのモチベーションを維持・向上できます。
QCサークル活動に潜む問題点の解消はマネジメントが鍵
QCサークル活動の成功には、全メンバーの積極的な参加とモチベーションの維持が不可欠です。しかし、取り組みに消極的なメンバーやモチベーションが低いメンバーがいると、活動が停滞します。マネジメント側は社員を適切にサポートし、活動を盛り上げてください。
まず、社員が気持ちよく活動に打ち込めるように、活動時間を確保し、労働環境を整えましょう。活動に積極的になってもらうには、社員エンゲージメントに関するアプローチも重要です。さらに、QCサークル活動のためのツールも、導入をおすすめします。
QCサークル活動の導入事例
QCサークル活動は、幅広い業種における品質改善や業務効率化に効果的です。具体的な導入事例を解説します。
製造業の事例
製造業における、QCサークル活動のテーマを一部以下に示しました。
・製品検査合格印の押し忘れ防止および確認の容易化
・製造加工機器周辺での転倒防止や巻き込まれ防止などの安全策立案
・排水処理装置における薬品使用量低減によるコスト削減
また、ある製造業では、QCサークル活動の活性化を実現しています。この企業は、各サークルの状況を個別に分析し、チームワークの育成や、既存施策の課題改善などに取り組ませました。適切な目標を設定し、段階的に取り組ませることで、QCサークル活動の持続的な活性化に成功しています。
医療センターの事例
医療センターにおける、QCサークル活動のテーマを一部以下に示しました。
・産後のお祝い膳の改善
・病棟内処置の物品準備のスタッフの負担軽減
・病理組織標本作製における切り直しブロック数の減少
・医療機器や手術室器械の洗浄度向上
・新型コロナウイルス感染症への対策全般
サービスの質の向上から業務効率化、感染症対策まで多岐にわたるテーマが選ばれていると分かります。
まとめ
QCサークル活動とは、社員同士がグループを作り、品質改善や管理上の課題解決に取り組むことです。QC7つ道具の活用や、社員エンゲージメントに関するアプローチにより、活動を成功させましょう。
タレントパレットは、QCサークル活動の運営・管理をサポートする機能を備えたタレントマネジメントシステムです。活動記録の一元管理や効果測定のデータ分析、チーム間のコミュニケーション活性化など、QCサークル活動の成功に必要な要素を総合的に支援します。HRテック分野での豊富な導入実績とコンサルティングノウハウを活かし、御社のQCサークル活動の活性化を実現します。