専門業務型裁量労働制とは?対象・対象外の職種やメリットなどを徹底解説


専門業務型裁量労働制とは?対象・対象外の職種やメリットなどを徹底解説

「専門業務型裁量労働制」とは、労働者が業務遂行の手段や方法、時間配分などに大幅な裁量を持つ業務について、労使で定めた時間分働いたとみなす制度です。本記事では、専門業務型裁量労働制について、その概要や対象となる職種、メリット・デメリットなどのポイントから詳しく解説していきます。ぜひ参考にしてください。

専門業務型裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制とは、労働者が業務遂行の手段や方法、時間配分などについて大幅な裁量をゆだねられる業務に就いた場合、労使で定めた時間分働いたとみなす制度です。


この制度は、「厚生労働省令」および「厚生労働大臣告示」によって定められた業務のうち、労使が定めた対象業務に適用されます。


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専門業務の意味

先述のとおり、「専門業務型裁量労働制」は、どの職業にでも適用できるわけではありません。対象業務は、厚生労働省令および大臣告示によって定められた19の業務分野に限定されています。


これら19の専門業務に該当する職業は多種多様です。たとえば、ファッションデザイナーやシステムエンジニア、番組プロデューサー、編集者、研究開発者のように、時間や方法に拘束されない働き方により業務効率が上がる職業が、専門業務に該当します。


裁量労働制の意味

裁量労働制は、労働基準法38条に定められた「みなし労働時間制」の1つです。


この制度では、実際の労働時間に関係なく、企業と労働者との間で締結される労使協定により定めた一定の時間を「労働時間」とみなし、その時間に基づいて賃金を支払います。たとえば、労使協定で定められた1日の労働時間が8時間である場合、4時間働いたとしても、8時間フルで働いたとみなされ、その分の賃金が支払われます。


裁量労働制については下記の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。


裁量労働制とは?専門業務型と企画業務型の違いや導入のメリット・デメリットを解説


2024年4月改正後の裁量労働制の内容

2024年4月に施行された裁量労働制の改正により、裁量労働制を導入あるいは継続するすべての事業場では、新たな手続きが必要となりました。まず、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の両方において、「本人同意の取得と撤回手続きを定める必要がある」という項目が加わりました。


さらに、企画業務型裁量労働制では、「労使委員会に賃金・評価制度の説明を行う」「制度の実施状況の把握と運用改善を行う」「労使委員会を6か月以内ごとに1回開催する」「定期報告の頻度を変更する」の4つに対応する必要が出てきました。


これらの要件を満たしたうえで、労働裁量権を導入または適用するまでに、労働基準監督署に協定届・決議届を提出する必要があります。


企画業務型裁量労働制との違い

企画業務型裁量労働制とは、労働基準法に基づき、一定の要件を満たす場合に、実際の労働時間に関係なく、労使協定で定めた一定の時間を労働時間とみなして賃金を支払う制度です。


この制度は、特定の事業において、経営部門の企画、財務や人事の立案・調査・分析、広報などの業務に従事する労働者に適用されます。


専門業務型裁量労働制の対象となる職種

専門業務型裁量労働制の対象となる職種は、法律で限定されています。該当するのは、以下のような専門的な業務です。


・研究者:自然科学、人文科学、社会科学などの分野で研究活動を行う者

・技術者:高度な専門技術や知識を持ち、その技術を駆使して開発や設計を行う者

・ファッションデザイナー:服飾デザインの創作を行う者

・放送作家:テレビやラジオの番組構成や脚本を作成する者

・編集者:雑誌、書籍などの編集業務を行う者

・新聞記者:記事の取材や執筆を行う者

・ディレクター:映画やテレビ番組の制作を指揮する者

・弁護士:法律に基づく専門的な業務を行う者

・建築士:建築物の設計や監理を行う者

・公認会計士:会計業務の監査や財務諸表の作成を行う者


これらの職種は、専門的な知識や技能を要し、業務の遂行において高い裁量が必要とされるため、専門業務型裁量労働制の適用対象となります。


専門業務型裁量労働制は、こうした職種が時間にとらわれずに効率的に業務を行えるように設計されています。


専門業務型裁量労働制の対象外になる業務

一見、専門性の高さから専門業務裁量制の適用対象になると考えられがちな職種・業務はいくつかあります。たとえば、プログラマーがその1つです。しかし、労使協定で定められる専門業務型裁量労働制の対象業務には、プログラマーは含まれていません。なぜなら、プログラマーはシステムの分析や設計を担うわけではなく、ソースコードの記述が主な役割とされているからです。


同様に、放送や映画で音響エンジニアやカメラマンも、あくまでディレクターの指示によって動くポジションのため、専門業務型裁量労働制の対象業務には含まれていません。


裁量労働制における労働時間の考え方

裁量労働制では、実際の勤務時間ではなく、労使協定で定められたみなし労働時間が、1日の労働時間としてみなされます。たとえみなし労働時間よりも短い時間で働いていた、あるいはみなし労働時間よりも長い時間にわたり勤務していたとしても、あくまでみなし労働時間の分働いたものとしてカウントされ、賃金が支払われます。


専門業務型裁量労働制の残業代

先述のとおり、専門業務型裁量労働制では、実際の稼働時間数に関わりなく、労使協定で定められたみなし労働時間に基づいて、勤務時間が決まります。


たとえば、みなし労働時間が1日8時間と定められていれば、実際の労働時間が3時間でも1日分の給与は支払われます。一方、8時間を超えてたとえば10時間以上働いたとしても、あくまでみなし労働時間分働いたものと処理され、通常は残業代が発生しません。


しかし、裁量労働制であっても労働基準法のルールが適用され、場合によっては時間外労働として扱い、残業手当を支払うこともあります。


36協定は裁量労働制にも適用される

労働基準法では、1日および1週間の労働時間、そして休日日数が定められています。社員に対し、この法定労働時間を超える労働や深夜・休日労働をさせる場合、事業者は社員代表との間で36(サブロク)協定を結び、労働基準監督署に届け出る義務があります。


裁量労働制を導入している現場でも36協定が適用されて特別条項を設ける場合は、以下の制限が課せられます。


・年間720時間以内

・1か月あたり100時間未満

・月45時間を超える月数が6か月まで


36協定について|基礎的な内容や残業時間の上限などの概要を紹介


裁量労働制のメリット

労働裁量制には、人件費の管理のしやすさや、優秀な人材の集めやすさ、社員のモチベーション・生産性向上といったメリットがあります。これら3つのポイントを詳しく見ていきましょう。


人件費の予測・管理がしやすい

裁量労働制では、実際の勤務時間の長さに関わりなく、みなし労働時間に基づいて人件費を計算するため、原則として時間外労働による残業代は発生しません。そのため、人件費の予測や管理が容易である点は、大きなメリットです。


ただし、休日出勤や深夜勤務が発生した場合は、労働基準法に基づき残業代を支払う必要が出てきます。それでもなお、ある程度の人件費の目安が付けやすいのは、経理としては大助かりでしょう。


優秀な人材が集まりやすい

裁量労働制の現場では、労働者は自分の裁量により自由に働くことができ、効率的な業務遂行が可能です。そのため、高い能力を持った優秀な人材が集まりやすくなります。


労働者は稼働時間を短縮しつつ業務の成果を上げられる一方、企業側も現場の業務効率や生産性を高められるため、双方にとって大きなメリットがあります。


社員のモチベーションや生産性が向上する

労働者は定められた労働時間に縛られず自分のペースで働けるため、仕事に対するモチベーションや生産性が向上します。


たとえ仕事を早く終わらせても給与が減らず、早めに退社できるので得をする一方、みなし労働時間よりも長時間働いた場合は原則として残業代が出ません。そのため、労働者側はできるだけ早い時間で成果を出して仕事を終わらせようと努力します。


高いモチベーションの維持は、継続的な生産性向上につながるでしょう。


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裁量労働制のデメリット

裁量労働制では、みなし労働時間により人件費の管理の手間が省ける一方で、労働者は時間に縛られず自由度の高い働き方ができるため、労働管理が複雑になりがちです。


また、労働者の自己管理能力が求められるため、実際の勤務時間がみなし労働時間よりも長くなる場合、残業代が支払われず、健康リスクも増大する可能性があります。特に長時間労働が常態化している場合はモチベーションや生産性低下につながりかねません。


個々の稼働状況がまちまちで会議の設定などが困難になるなど、スケジュール調整が難しくなる点もデメリットといえるでしょう。


まとめ

専門業務型労働裁量制では、大幅な裁量を与えられた専門性の高い業務に限定して適用され、みなし労働時間によって賃金が支払われます。残業代が出ない分、労働者は短い時間で効率的に成果を上げよう努力し、生産性が向上します。企業にとっては人件費の管理がしやすく優秀な人材を集めやすいなどのメリットがある一方、労働管理は複雑になりがちです。


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